キスの理由

番外2



 ゲームのような感覚だった仕掛け事。
 それがいつしか本気になったのは、彼女を抱いてすぐの事だった。
 常に飢えを感じている。
 あの子の肌に触れたい。キスをしたい。
 甘い声で啼かせ、柔らかな肉を食み、熱い肉壁に自分の欲望を包まれたい。
 彼女と会うたびに、欲望が抑えられず、彼女の体から邪魔な衣服を引き剥がし、白い肌に唾を飲み込み食らいつく。
 言葉通り、正に飢えた獣のようだった。
 激しく彼女を突いている時だけが安心できた。
 彼女の傍にいない時間はいつも不安で仕方ない。
 彼女の周りに、不埒な輩はいないのだろうか?
 彼女が、自分の知らない相手とバトルをすると聞けば、不安で居ても立ってもいられず、追いかけ観戦と言う名の見張りをし、バトルを終えたばかりの彼女を浚うように連れ出し、ホテルで自分のものだと教え込むように貪り抱いた。
 嵌っている。
 そんな言葉では生易しく感じるほど、涼介は彼女に溺れていた。
 涼介は自惚れてもいたのだ。
 今まで、女性から好意は過剰なまで寄せられる方だった。
 自分から告白したことも、振られたことなど一度もない。
 好かれていて当然。
 傲慢にもそう思ってさえいた。
 だから、涼介は今まで彼女の気持ちを確認したことがない。
 だから、気付かなかった。
 彼女の顔が、どんどん曇っていった事も。
 あの時、拒絶されるまで欠片とも思っていなかったのだ。

 彼女が、自分を好きではない…だなどと。

 涼介は彼女の困った顔や、泣きそうな顔が好きだった。
 無理な自分の要望に、涙目になりながら叶えてくれる彼女が好きだった。
 恥ずかしい、と全身で訴えながらも、微かに震えながら涼介のために痴態を晒す。
 それは今から考えると、彼女の愛情を確認する行為だったのかも知れない。
 そんな彼女を見るたびに、涼介の中の飢えが満たされるところをみるとそうなのだろう。
「い、や…」
 小さな声で拒まれ、涼介の心に不安が宿る。
 けど、傲慢さがそれをすぐに打ち消す。
 自分が望めば、彼女はすぐに承諾するはずだ。
 強引に手を伸ばし、卑猥な言葉で彼女を嬲り、衣服を寛がせる。
 それでも微かな抵抗を見せる彼女に、ほんの少しの苛立ちと嗜虐心が煽られた。
 足をもつれさせ、床に跪いた彼女の不安気な表情。
 そして衣服を乱れさせ、ほんのり目元を朱に染め見上げてくる彼女の姿に、涼介の下腹部は一気に熱を持った。
 無垢な少女。
 それを穢したいと思うのは、罪だろうか?
 彼女に口淫をさせたことはなかった。
 だが、させたいとは思っていた。
 あの少し厚みのある唇で己の欲望を奉仕させ、苦しそうに顔を歪める姿を見たいと、ずっと思っていた。
 だから。
「…舐めて」
 傲慢にもあの時、涼介は拒まれるなどと露とも思っていなかった。
 彼女は素直に、自分の欲望に唇を寄せるだろうと、そう思い込んでいた。
 だが。
「いやっ!!」
 ドン、と突き飛ばされ驚きに彼女を見ると、その顔にはいっぱいに嫌悪と恐怖が現れていた。
 その瞬間、漸く涼介は気付いたのだ。
 彼女から好かれていないかも知れないという可能性。
 嫌われたかも知れないと言う事実。
 初めて、涼介は他者との関係で恐怖を覚えた。



 嫌われるのが怖くて彼女にそれから連絡できなかった。
 理知的な大人部分が、彼女にフォローを入れるべきだと告げる。
 けれどあの時に見た嫌悪と恐怖の表情。
 あの姿が、涼介を臆病にさせた。
 鬱々とし、焦る気持ちが涼介にプライドを捨てさせた。
「えー?!涼兄、サイテー!!」
 声高に叫ぶ従妹の様子に、やはりそうかと涼介は落ち込んだ。
 恥を忍んで、相談した相手は彼女と同じ年齢の従妹だった。
 五歳も年下の少女の思考回路など、涼介には予想は出来ない。
 同じ年の同性の従妹なら理解できるだろうかと相談したのだが、結果は涼介にとってあまり芳しいものではなかった。
「会うたびにHばっかりで、おまけに無理やりしようとしたって…それ、絶対涼兄嫌われちゃってるよ?」
 従妹には、口淫を強要したとは明言してはいないが、涼介の表情とニュアンスから、無体を働いたのだと言う事は察したのだろう。
 純粋に尊敬できる従兄として自分を見ていた少女の瞳に、それまでの信頼を覆す軽蔑の色が見える。
「そう…だよな…」
 がっくりと、項垂れ深く落ち込む涼介に、軽蔑していた従妹も同情を感じたのだろう。項垂れる涼介の頭を子供にするように撫でた。
「涼兄。その子のこと本当に好きなんだね〜」
 しみじみと語られ、好きなどと言うカテゴリーに当てはまるのだろうかとさえ感じる。
 飢えているのだ、彼女の存在に。
 従妹に頭を撫でられる手を鬱陶しいと感じるが、もしもこの手が彼女なら…と、考えた瞬間、全身が粟立った。
 下世話な話だが、想像した瞬間にイきそうになった。
 ――俺はサルかよ…。
 自己嫌悪に視界が真っ暗になった。
 こんな風では、彼女に嫌われるのも無理はない。
 涼介の頭を撫でる従妹の手が止まない。
 どんどん落ち込んでいく涼介に、従妹が感心したように呟いた。
「涼兄……恋しちゃってるんだ…」
 ああ、確かに。
 恋、している。
 狂おしいほどに、彼女に焦がれているのだ。





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