キスの理由
3 ※R18
彼が手馴れた仕草で硬化した自身の欲望に避妊具を装着する。
スラリとした上背から、彼の体は細いと思われがちだが、脱いでみるとその身体がしっかりと鍛えられたものだと分かる。
均等に付いた筋肉。適度に盛り上がった逞しい胸から、美しい隆起を見せる腹部まで、緩んだところは一切なく、見るたびに何かの芸術作品のように感じられいつも気圧される。
ギシリ、と彼がベッドの上に乗り上げると共にスプリングの軋む音がする。
それを合図に、ベッドの上に横たわっていた拓海は、彼を誘い込むかのようにゆっくりと両足を開いた。
その仕草は、彼に教えられたもの。
彼の汗の匂いも、肌の感触も、熱も、そして自分を穿つ欲望が与える感覚も、全て涼介が拓海に刻んだ。
夏休みの終わりに体を繋いだ。
二人で会うようになってから、三回目の時だった。
最初の秋名湖の桟橋でキスをされ、そして二回目に彼が家に迎えに来たときに体を触れられた。
彼の白い車の助手席から、引っ張られるように体を抱き寄せられ、当然のように唇を覆われた。
最初にされたキスと同じ、口内を傍若無人に這い回り、そして彼の指が頼りないTシャツの裾から潜り込み、薄い拓海の胸に触れた。
『いや、だ…』
拒絶の言葉を漏らし、服の下に潜り込んだ彼の手を掴み拒もうとするが、キスに蕩けた身体と、見た目よりも頑強な彼の力に阻まれ、手の動きを止めることができなかった。
『手触りの良い下着だな』
クス、と笑われ、怖れだけでない、羞恥に拓海は身を震わせた。
拓海が着用していたのはスポーツブラと呼ばれる類のものだった。
一般的なレース飾りの付いたものとは違う。簡素な綿素材。
Tシャツと何ら変わらぬ布地の上から、涼介の指が尖りを弄る。
生まれて初めてそんな箇所を弄られ、湧き起こる未知の感覚に拓海の目が潤む。
『…固くなってきた』
嬉しそうに彼は囁き、拓海の頬に唇を滑らせ、そして耳朶に舌を這わせ甘く噛んだ。
『や、ぁ…』
囁きと共に、指が布地を越え素肌の上を這う。
直接尖りを指で摘まれ、拓海は恐怖に涙を零した。
触れられたところが、熱い炎で炙られているようだ。
どんどん熱が広がり、痛みとも知れない感覚が湧き起こる。
『オレの指を覚えろ…オレに触れられた感触を刻むんだ…』
舌が頤を辿り、首筋を伝うように這う。
尖りを弄る指とは別に、もう片方の指が、腰骨をなぞるように下へ降り、そしてジーンズに包まれた太ももへと落ちた。
その指が、スゥと内腿へと向かい、狭間に向かいゆっくりと滑らせる。
分厚いデニム生地の上からでも、その指の動きはダイレクトに皮膚に伝わった。
『……っ…!』
思わず息を呑んだ拓海に、涼介は満足そうに微笑み、鎖骨にゆるく歯を立てた。
痛みに、ほんの少し我に返った拓海は、反射的に彼の体を押し返した。
鼓動が割れ鐘のように煩かった。
夏だというのに、身体の震えが止まらない。
涼介はそれ以上触ろうとはしなかった。
ふ、と微笑み、軽く肩を竦め、
『今日はここまでだな』
そう、何でもない調子で告げ、拓海を素直に家に帰した。
けれど彼は拓海が車から降り際、腕を取り、引き寄せ、噛み付くようなキスの合間に、こう囁いた。
『次は…止めてやらないぜ?』
全身に、電流が走ったかのようだった。
ゾクリと震え、身体の力が全て抜ける。
彼が去った後も、肌の上に彼の指の感触がずっと消えない。
寝ても、覚めても、彼のキス、熱い舌、そしてあの指が忘れられない。
だから、次に彼が迎えに来たとき、拓海は拒まなかった。
『いいだろう?』
そう囁かれ、羞恥心を感じずにはいられなかった建物の中に、彼が車を滑らせても。
内装が、普通のホテルの部屋のようだったのが拓海を安心させた。
けれど、風呂場はガラス張りだった。
『先にシャワーを浴びておいで』
年上だからと言うだけではない、物慣れた男の余裕で告げられ、拓海は戸惑いながらもガラスの中へと足を向けた。
背後から、彼の視線が自分に注がれているのが見なくとも分かった。
――見られている。
じっと、監視するような、熱を孕みながら。
緊張に震える指で、ゆっくりと服を脱いでいく。
ガラスに、うっすらと自分の姿が映る。
女らしくない、まるで男のような身体。
この身体が彼の目にどう映るのか……怖かった。
けれど、熱っぽい彼の眼差しが、拓海のそんな戸惑いを許さない。
炙られるような視線が、まるで急かされているかのように感じ、拓海は躊躇しながらも服を脱ぎ捨てた。
そして、シャワーヘッドを取ろうと一歩踏み出したとき、背後に人が立っているのに気付いた。
大きなベッドの上に腰掛けていたはずの彼が、いつの間にか拓海の後ろにいる。
驚き、振り向いた拓海の前で、見せ付けるように彼が服を脱ぎ始めた。
成熟した「雄」の身体を誇示するように、眼差しはしっかりと拓海を射抜きながら。
『あ……』
戸惑い、身を震わせる拓海の前で、同じように一糸纏わぬ姿になった涼介は微笑み、そして拓海の身体を抱き寄せた。
『一緒に…入ろう』
拒み方など…知らなかった。
流されるままに、彼の手により全身を洗われ、知らない感覚を植えつけられた。
小さな膨らみの上の尖りは、歯と指で嬲られ赤く腫れ、自分でも触れることのない狭間を彼の舌がなぞった。
未知の感覚に足が震え立っていられなくった拓海を、涼介が壊れ物のようにベッドの上に運び、そして覆いかぶさってきた。
『ここに…オレのを挿れるんだ。分かる?』
両足を左右に広げられ、むき出しになったそこに、凶器のような熱の固まりを擦り付けられた。
『恐いか?だが、オレはお前が泣き叫ぼうとも止めてはやれない。
お前がどれだけ痛がろうが、オレはお前を傷付けることを止めることは出来ないんだ』
あ、と言う間もなく、ヌルリと熱い固まりが拓海の中に浸入する。
そしてゆっくり…ゆっくりと奥へと穿っていく。
痛みに、拓海は泣き喚いた。
子供のように呻き、涼介の背中に何本も爪痕を立てた。
けれど彼の動きを阻むことは出来ず、狭い内壁を広げるように彼の熱が拓海を炙る。
『い、やぁ…!』
『ふ、じわら…もっとだ…もっと啼け…』
痛みで、また拓海は彼の背中に爪を立てる。
けれど彼は、気にした様子もなく、泣く拓海を傍若無人に穿ち続けた。
その顔は、情熱と言うよりも愉悦に満ちていた。
その様を思い出した瞬間、ぞわりと背筋に悪寒めいた感触が走る。
甘さと、怯えを混ぜ合わせた不思議な感覚。
それは涼介が拓海に教え込んだものだ。
身体を繋げるのは、それを皮切りに何度か繰り返した。
回数を重ねるごとに、拓海の身体は甘く蕩けていき、今では穿たれることに快感さえ覚えている。
欲望を吐き出し、彼の体が自分の上から降りていく。
穿たれた狭間が痛い。
ジンジンと疼き、炎で焼かれたようだ。
だが、それは苦痛では決してないのだ。
逆に、その痛みが甘い。
「シャワーを浴びてくる」
そう告げ、ベッドを降りる彼の背中を、まだ余韻の残る身体をしどけなく横たわらせながら目で追った。
拓海はハァと息を零した。
変わりたくなどなかったのに。
強制的に変えられてしまった。
あの、どこか強引で、けれど魅惑的な彼に。
もう戻る事は出来ないところまできているのに、拓海は今でも思い悩んでいた。
たぶん、自分と涼介の関係は「付き合っている」と表現しても間違いではないのだろう。
だが、拓海は頷けない。
何故なら、涼介は何も言わないからだ。
拓海に対し、「好きだ」も何も。
だから分からないのだ。
何故、涼介が拓海にあんな事をするのか?
好かれているだなんて、そんな風には思っていない。
あんな何もかも完璧な人に、好かれているなど、自惚れられるほど自信が無いのだ。
だから、分からない。
何度キスを重ねようと、身体を繋ごうと。