FAMILY

母の日バトル


 母の日。
 それはぼくとお父さんの戦いの日です。
 母の日というのは、子供がお母さんにかんしゃする日なのに、心のせまいお父さんはそんな日でもお母さんをどくせんさせるのがいやみたいです。
 去年はぼくはお母さんに「おてつだいけん」というのを十枚つづりにしてカーネーションといっしょにあげました。
 お母さんはとてもよろこんでくれました。
『これで隆介にいっぱいお手伝いしてもらおうかな?』
 ぼくももちろんおおよろこびです。
『うん!お母さん、ぼく何でもするからいっぱい使ってね』
 お手伝いと称して、お母さんといっぱい一緒にいられるのです。ぼくのこのもくろみは成功したように思いました。ですが狡猾なお父さんにぼくの野望は阻止されてしまいました。
『…ごめんね、隆介。お母さん、お手伝い券なくしちゃったみたいなんだ』
 母の日の翌日。もうしわけなさそうに謝るお母さんに笑顔で『いいよ、気にしないで』といいながら、ぼくはお母さんの背後にニヤリと笑うお父さんに、おんねんをこめてにらみました。
 ぜったいにお父さんがお手伝い券を捨てたにちがいありません。だけどぼくだって負けませんでした。
『お手伝い券、なくてもいっぱいぼく、お母さんのお手伝いするからね。何でも言ってね?』
 そう言うと、お母さんはとてもやさしい顔で笑って、ぼくをぎゅっとだきしめてくれました。
『…隆介…いい子だね。お母さんすごい幸せ』
 涙目のお母さんと密着できて、ぼくこそすごい幸せでした。
 お父さんはそんなぼくらを歯噛みして見ていました。
 なので今年の妨害工作は念入りに行われるにちがいないとぼくは思いました。
 そんな時に有効なのは「せんてひっしょう」です。
 この日のためにぼくは、お父さんお得意の「うらこうさく」と言うのにはげんできたのです。
 ぼくはさっそく母の日の前にお父さんのいる病院の院長室へ向かいました。
 そこで「珍しいな、何の用だ?」と不審そうな顔をしているお父さんにあれを見せました。
 それはお父さんがひそかに隠し持っている「お母さんコレクション」です。
 お母さんや兄は天然なので気付いていませんが、お父さんは自分のしょさいのパソコンや本棚の奥に、お母さんの写真やアイテムなんかを集めて隠しているのです。
「お、お前、これをどこで…」
「甘いよ、お父さん。ぼくは悲しいことに、お母さんにはにてないみたいだからね。お父さんのやることなんてお見通しだよ」
「…何が目的だ」
「わかってるくせに聞かないでよ」
「…クッ…しかしこれをバラしても拓海の愛は俺から消えないぞ!」
「…フッ、それはどうかな?」
 お父さんはぼくを子供だと思ってあなどっているようです。なのでぼくは思い知らせてあげました。
 ぼくは前に、携帯で録音したお母さんとの会話の内容をお父さんに聞かせてあげました。

『ねぇ、お母さん』
『何、隆介?』
『もしお父さんがお母さんのひみつの写真とか隠しどりしてたらどうする?』
『え?何言ってるの、隆介?』
『あのね、ニュースでストーカーって人がそうしてたんだって』
『……隆介、涼介さんはストーカーじゃないよ…』
『え、でもストーカーって、好きで好きで暴走しちゃう人のことなんでしょう?そのまんま、お父さんのことじゃない?』
『………え、えーと、でも涼介さんの場合は…その、私も好きだから…』
『…ふ〜ん。でももしお父さんがお母さんのこと隠しどりとか、盗聴とかしてたら?』
『そんなことするわけないじゃない』
『もしもだよ』
『…う〜ん…軽蔑するかも。で、ちょっと信じられなくなるから、実家に帰るかな?』
『そうだよね。やっぱりそういうことする人、最低だよね』
『そうだね。そういうの、許せないから。だから隆介もそういうのしたらだめだよ?』
『しないよ〜、ぼくは』
『うん。犯罪だからね。したらお母さん、すごい怒るからね』
『うん!』

 聞き終わったあと、お父さんは顔面蒼白になっていました。
 身に覚えのあるどころか、もっとひどいことをしていたのですから、予想以上のお母さんの反応にこわくなってしまったのでしょう。
「…お父さん?わかってるよね。ぼくが一言いっただけで、今のぼくらの家庭はこなごなだよ」
「……クッ…貴様…」
「身からでたサビでしょう?じごうじとくだよ。ぼくだって、こうはしたくなかったけど、でもお父さんじゃまするからね。じゃまなものは実力でけちらせ…そう教えてくれたのはお父さんだし」
 ぼくはお父さんそっくりのニヤリと悪魔の笑いをしました。くやしそうなお父さんの顔は、見ているだけでとてもゆかいでした。
「母の日はお母さんはぼくもの。いいよね、お父さん?」
 ぼくがそう言うと、お父さんはぼくをものすごい目でにらみましたが、けれどぼくをひるますどころか、ますますゆかいにさせました。
「…覚えてろよ」
 お父さんが最後にぼくに捨てゼリフをはきましたが、負け犬のとおぼえは聞いててとても小気味よいものだなとぼくは思いました。
 そしてぼくはお父さんから、お母さんへのプレゼント資金としてしっかりお金をまきあげて、お母さんのためにフリルのついたかわいい真っ白なエプロンと、カーネーションとかすみそうの花束もつけました。
 かんぺきなプレゼントを用意して、ぼくは家にかえりました。
 ですがかんじんのお母さんがどこにもいません。
 携帯に電話をしてもつながりません。
 ぼくはこれは一大事かも、と日ごろの敵対かんけいを解消して、お父さんに連絡して共同戦線をはりました。
 お父さんも心配して合法から非合法まであらゆる手をつくします。
 そしてお母さんたちは見つかりました。
「ゴメンね、ちょっと調子に乗りすぎちゃって、ガス欠になっちゃって」
 お母さんは兄といっしょにいました。
 そして聞けば、兄の買ったばかりの車で二人でとうげをせめていたそうです。
 お母さんが見つかって、家に帰ってきたころには時間はもう夜の十時ちかくになっていました。
 ぼくのカーネーションの花束もすっかりしおれ、しかもプレゼントをわたすひまもなく、お母さんはぼくにこう言いました。
「もうこんな時間!隆介、夜更かししてたらダメだよ。明日は学校があるんだから!」
 …怒られました。
 せっかくお父さんからまきあげた母の日のどくせんけんだったのに、それを使うひまもなく母の日は終わってしまいました。
 ぼくはちょっとだけ兄をうらめしく思いました。
 けれど悲しくてなかなか寝付けないでいるぼくのベッドに、兄がもぐりこんできてぎゅっと抱きしめてくれたとき、ぼくはそんなうらみをわすれました。
「ゴメンね、隆ちゃん。お母さん、今日は独占しちゃって…」
 ぼくがこの日を楽しみにしていたのを兄は知っているので、とてもすまなそうな声であやまる兄に、ぼくはこう言ってあげました。
「…いいよ。また来年もあるし」
「…隆ちゃんはいい子だね」
 兄がぼくのほっぺたにキスをしました。とても気持ちよかったです。
 ぼくは兄のうでのなかで、父の日なんていらないから、兄の日があればいいのになと思いました。
 その翌朝。ぼくが起きるとお母さんはぼくのプレゼントしたエプロンをつけていました。
 とてもかわいかったです。
 ぼくがじっと見ていると、朝の光の中でもまばゆいお母さんは、はずかしそうにほっぺたを赤くして照れていました。
「…隆介、これ、ありがとう」
 とても二児の母とは思えないかわいさに、ぼくはちょっとめまいがしてしまいました。
 朝からこんなかわいいお母さんが見れて、ぼくはとても幸せだなと思いました。
 今年はお父さんににえゆを飲ませただけで、よしとします。
 でも気に食わなかったことは、ぼくと同じようにお母さんのエプロン姿を見てしまったお父さんまでよろこばせてしまったことです。
 来年こそは、かんぺきな母の日をめざしてがんばろうと思いました。


2006.5.14


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