うちは病院をけいえいしているせいか、お中元やおせいぼなどをよくもらいます。
そしてお正月となると、お客もたくさんうちにやってこようとします。
でもお父さんが、そのほとんどのお客を、二度と来たくなくなるようにしむけて、あまり来ないようにしています。
お父さんが言うには、
「仕事とプライベートは別だ。仕事の関係者には仕事でしか会いたくない」
などと言っていますが、お父さんがお母さんたちを他の人たちに見せたくないのがバレバレです。
でもぼくは、お父さんのそのはんだんは、てきせつなそちであると思っています。
うちに、うっかりきたお客が、お母さんたちのとりこになってしまうだろうことは目に見えているからです。
そんなおそろしいことが、お父さんやぼくにゆるせるはずもありません。
だから、お正月にうちにくるお客は、たいてい、ぶんたおじいちゃんに、お父さんのほうのおじいちゃんにおばあちゃん、けいすけおじさんにつぐみちゃん。お父さんの親友だというきとくなふみひろさんぐらいです。
だから今日きた、お父さんの昔の仕事なかまだったというお客さまは、とても例外なものでした。
お客さまの名前は「鈴木」と言いました。
日本で一番ありふれている名前のかれらは、三人かぞくでうちにやってきました。
いつもは玄関先でおいかえすお父さんも、鈴木さんたちだけは、
「やあ、久しぶりだ。よく来たな。ゆっくりしていきなさい」
と、えがおで家の中に入れました。
ぼくはめずらしこともあるものだとふしぎに思いましたが、鈴木さんたちを見たらなっとくしました。
とても仲のよいかぞくだったからです。
お父さんの昔の知り合いとは思えないほど、せいじつそうな顔をした鈴木さんに、どこかうちのお母さんに似たふんいきの、きれいな奥さん。そしてその二人のよいところを集めたような、かわいらしい、ぼくよりも少し下くらいの年の女の子をつれた鈴木さんたちは、うちにはおとりますが、他には目が入らないだろうくらい仲よく見えました。
入ってきた鈴木さんたちを見て、お母さんはなつかしそうにあいさつをしていました。
そしてその会話のないようから、どうもお母さんと、鈴木さんの奥さんはとてもなかよしだったようです。
「錦希さん、相変わらずきれいでうらやましいわ」
「いいえ、そんな。拓海さんこそ、いつまでもお若くてきれいで、私のほうこそうらやましいです」
ぼくは、同世代の女性からしかられそうなことを、おせじでも何でもなく、まじめに言う二人のそんな会話をきいていて、この鈴木さんの奥さんもてんねんなんだなと思いました。
そして鈴木さんたちを見た兄も、かれらを知っていたようで、とてもなかよく話をしていました。
ぼくだけかれらを知らないので、ちょっとさびしく思いましたが、たぶんお父さんといっしょに仕事をしているときは、そのお人好しそうな性格のせいで、お父さんからむりばかりを押し付けられていただろう鈴木さんが、ぼくにこう言いました。
「隆介くんとは赤ちゃんの頃にあって以来だから、僕のことなんて覚えていないだろうね」
「そうね。あの頃はこの子もまだ生まれてなくて…」
「鈴木はあの後すぐに設置されたばかりの他県の病院の救命救急に行ってしまったからな。勿体ない。あのまま大学病院に残っていれば、今頃は助教授だったろうに」
「それは高橋先生のほうでしょう?残られていれば今頃は教授でしたでしょうに」
「俺は今でも繋がりはあるさ」
つながりと言う名の利用であるのは、ぼくは知っています。
「僕は、患者の見えない大きなところよりも、患者の見えるやりがいのある仕事がしたかったんです。だから今はとても充実していますよ。子供も生まれましたし」
「ああ。生まれた頃に見に行っただけだったから、大きくなったな。今は…五歳だったか?」
「はい。ほら、晴希。ご挨拶しなさい」
今までうつむいてはずかしそうにしていた女の子が、鈴木さんの奥さんのにしきさんに言われて顔をあげました。
ちょっと見た感じでもかわいい子だと思いましたが、真正面から見たその子はやはりかわいい子でした。
「こ、こんにちは。はるきです」
なぜか、はるきと名乗った女の子は、お父さんたちではなくて、ぼくを見てそう言いました。
そしてなぜかぼくをキラキラとした目で見てきます。
ぼくはそんな目を、よく女の子からされます。
でもだいたいは、ふかいにしか思わないので、むししているのですが、どこかお母さんのようにおっとりとしたふんいきの、かわいらしい女の子にそんな目をされるのは、ちょっとこそばゆくてうれしかったです。
なので、ぼくはよそいきの顔で笑ってあげました。
「こんにちは、はるきちゃんって言うんだ。ぼくは隆介だよ。なかよくしようね」
そう言ってあげると、はるきちゃんは真っ赤になって、ますますぼうっとしてしまいました。
でも、ぼうっとした顔が、お母さんみたいでかわいかったので、ぼくはますますニコニコしてしまいました。
「あら?隆介くんがカッコいいから、この子、恥ずかしいみたいね」
にしきさんにそう言われて、はるきちゃんはますます恥ずかしそうにしました。
ぼくは、お母さんと兄以外で、あまりだれかをかわいいと思うことはないのですが、はるきちゃんはかわいいなと思いました。
そんなぼくの気持ちを、お父さんはさっしたのでしょう。
悪党の顔でこう言いました。
「隆介。晴希ちゃんと一緒に子供だけで遊んできなさい」
お父さんの顔を見れば、ぼくが他の女の子を好きになれば、自分がお母さんをどくせんできるなと思っていることが、丸わかりです。
本来ならお父さんのそんなもくろみには、はんぱつするところなのですが、はずかしそうにしながらも、ぼくをおそるおそるうかがうはるきちゃんがかわいかったので、まぁいいかと思いました。
「はるきちゃん、何してあそぼうか?」
「あのね、ごほんよんでください」
けいすけおじさんがおいていったゲームや子供むけの絵本などをならべてそうきくと、はるきちゃんは本をゆびさしながら言いました。
今までこれらのオモチャのたぐいは、けいすけおじさんの努力むなしくぼくによってかつようされることはなかったのですが、やっとおじさんの努力はむくわれたようです。
けれど、しょせんけいすけおじさんのくれたものなので、ゲームも本も、すべて車やロボットなど、男の子むけのものばかりだったので、はるきちゃんにはむいているとは思えませんでした。
「でもはるきちゃん。これ車の本だけどいいの?」
「いいです。おねがいします」
はるきちゃんはけいごでそう答えました。ぼくの学校の女の子などは、年上、年下にかかわらずみんならんぼうなことばづかいのタメ口というやつです。ぼくは親しくもないのにタメ口で話してくるやからはこの世のあくだと思っているので、はるきちゃんのそんなひかえめなたいどにはこうかんをもちました。
なのでぼくは、よろこんではるきちゃんに「せかいのスーパーカー」なる、けいすけおじさんのしゅみ丸だしな本をよんで、ぼくのこじんてきな車にかんするけんかいなどもつけくわえて話してあげました。
はるきちゃんは車にはさっぱりきょうみがないようでしたが、どうもぼくがお話しているというのが楽しかったみたいです。とてもまんぞくそうでした。
そうやってあそんでいると、鈴木さんたちがもうかえるころになりました。
「じゃあね、はるきちゃん。またあそぼうね」
そう言ってあげると、お母さんが、
「隆介、晴希ちゃんととても仲良しになったんだね」
「うん。はるきちゃん、いい子だね」
と、ぼくはこれはうそではなく正直に答えました。
するとお父さんが、
「そうか。では将来結婚したらどうだ?」
とニヤニヤ笑いながら言いました。
その顔にはあくいがみちていました。むっとしましたが、言われたはるきちゃんが真っ赤になって、うれしそうにしていたので、むげにはんぱつするわけにもいかず、ぼくはだまりました。
鈴木さんたちも、
「いやぁ、隆介くんが晴希のお婿さんかぁ。将来が怖いなぁ」
「隆介くんが晴希のお婿さんだったら、とても楽しそうですね」
と言っていました。
そして真っ赤になっていたはるきちゃんも、思いきったように顔をあげて、そしてきっぱりとぼくを見て言いました。
「はるきはりゅうすけくんとけっこんしたいです」
ぼくはどうやらプローポーズをされたみたいです。
困ってしまいましたが、正直うれしかったです。
でもぼくが、はるきちゃんにプロポーズのへんじをする前に、いがいな人がきれてしまいました。
「ダメ!!隆ちゃんは僕と結婚するの!」
ぎゅっと兄にだきしめられて、そして兄はみんなにきこえるようにそうどなりました。
「はるみちゃん??」
ぼくはびっくりしました。
「隆ちゃんは僕のなの!だから結婚しちゃダメ!!」
と、うるんだ涙目でそういう兄は、あたまからバリバリたべてやりたいくらいにかわいかったです。
「隆ちゃんは僕じゃいや?僕のこと嫌い?」
そしてとうとう泣き出してしまいました。
ぼくは、ぎゅっと兄をだきしめかえして、そしていつものように兄にキスをしました。
「はるみちゃんがいやなわけないじゃない。ぼくははるみちゃんが大好きだよ?」
「じゃ、僕と結婚する?」
「いいよ。はるみちゃんとけっこんするよ」
そう答えると、やっと兄は笑顔になりました。
そしてすぐに、いつもおだやかな兄らしくなく、はるきちゃんをキッとにらんでこう言いました。
「隆ちゃんは僕のだから!」
そんな兄のたいどは、ぼくにはとてもうれしくて、しあわせなものだったのですが、どうもまわりの人たちにはそうではなかったようで、鈴木さんだけではなく、お父さんやお母さんまで真っ青になっていました。
その中でお母さんが真っ先に立ち直って、おどろきながらも兄をなだめようとしました。
「は、晴海、兄弟は結婚できないんだよ?諦めなさい」
「やだ!」
「そ、そうだぞ、晴海。そもそも男同士は法律上結婚が許されないんだ」
お父さんも兄をせっとくしようとしますが、いつものりろんでぶそうしたようなお父さんらしくなく、穴のあいた言葉をならべるところを見ると、どうやらまだどうようはのこっているようです。
ですがきれた兄は、きれたお母さんと同じくらいたいへんなのです。
「やだ!隆ちゃんがいいの!」
「し、しかし、法律が…」
「じゃ、法律変える!!」
ありえそうでこわいです。
兄のいきおいは止まらず、とうとうお父さんたちは、十年たってもきもちが変わらなかったらみとめるという結論にたっしました。
どうやらぼくらは「公認の仲」というやつになったようです。
もうぼくでも、兄を止められません。
けれど、まわりの大人たちがぼうぜんとする中、だれも止められないようだった兄に、あの大人しそうだったはるきちゃんが、かみつきました。
「はるきはりゅうすけくんがすきです、だからあきらめません!」
きっぱりと、兄にそう言いきるはるきちゃんのすがたは、とてもつよいものでした。
「隆ちゃんは絶対に渡さないから!」
バチバチと火花は二人の間にちってしました。
とうじ者なはずのぼくは、大人たちよりもとおいところからそれらの光景を見ていました。
ぼくはほんのりと、いつも他の男たちにいかくするお父さんとけっこんしたお母さんのきぶんをあじわっていました。
しっとふかい恋人をもつのはたいへんですが、とてもうれしいものです。
なぜなら、それだけ自分のことが好きだというしょうこなのですから。
わぁわぁと言い合う兄と、はるきちゃん。
なぜかおちこんでいるお父さんと、もうすでに「まぁ、いいか」とあきらめているお母さん。
そして、ぼうぜんとしたままのお客さまの鈴木さんは、さいごにこの言葉だけをのこしてかえりました。
「晴海ちゃんって、お母さん似だと思ってたんですけど、お父さんにもしっかり似てますね」
ぼくは親子なのだからとうぜんだろうと思っていたのですが、だれもそれにコメントできないようでした。
そして、
「隆ちゃん、一緒にお風呂入ろう」
「だ、ダメだ!結婚前にそんなふしだらな事は許さんぞ!!」
「涼介さん、もういいじゃないですか…」
「しかしだな、いや、やはり許されん…。いいか、結婚前は一緒にお風呂に入るのも、一緒にベッドで寝るのも、キスもダメだ!分かったな!!」
ぼくらのいつものスキンシップがすべてお父さんにより禁止されてしまいました。
ぼくもふまんでしたが、兄はもっとふまんだったようです。
「そんなこと言う父さんとはもう口きかない!!」
と、またもばくはつしてしまいました。
ぼくは、お父さんが兄によわいことを知っているので、きっとこの禁止は一週間ももたないだろうなと思いました。
それまではしばらくがまんのようですが、きっとがまんしたあとは、いつものスキンシップがもっと楽しくなるんだろうなと思いました。
2006.1.1
画像提供 ぱんぷKING様