FAMILY

節分の鬼


 今日は節分だとかで、学校の給食で節分の豆がでてきました。
 自分の年のぶんだけ、豆を食べるのだと先生が言っていましたが、どう見ても出された豆の入ったパックの中には、ぼくたちの年よりもはるかにたくさんの豆が入っていました。
 なのでぼくは、家で兄やお母さんといっしょに食べようと、持ってかえることにました。
 そしたら先生が、
「高橋くん。給食は全部食べないとダメじゃないか!」
 と怒りました。
 ぼくはつねづね、先生という人たちは、むじゅんにみちたりろんをてんかいする人々だと思っています。
 さっき、「年の数だけ食べろ」と言っていながら、今は「全部食べろ」と言うのです。
 ぼくは、先生にそれはおかしいのではないですか?と言うと、先生はもっとふきげんな顔になりました。
 大人といえども、子供のような人々はたくさんいます。どうやらぼくの先生もその一人であるようです。
 なので、ぼくはそんな大人子供用の顔で、
「ごめんなさい、先生。でもね、ぼく、これ一緒にママとお兄ちゃんと食べたいの」
 と泣きまねをしてやりました。
 すると、先生はとたんに困った顔になって、
「別に高橋くんを責めたわけじゃないんだよ。そうか、お母さんとお兄さんと食べるのか。じゃあ、持って帰ってもいいよ」
 と言いました。
 ぼくは、おなかの中で、「ケッ」と鼻で笑いながら、豆をランドセルの中にしまいました。
 給食を食べ終えて、お昼休みの時間に、同じクラスの頭の悪そうな男子のグループがいるのですが、そいつらがぼくに向かって豆を投げつけてきました。
「たかはし、おまえ、なまいきなんだよ!だからおまえ、きょう、おにだからな!まめなげられても、もんくいえねーんだぞ!」
 すべてひらがなでしかしゃべれないような低知能なかれらは、ぼくには理解不能なりろんでそんなことを言いました。
「たかはしくんに何するのよ!バカ、ブサイク、短足!」
 と、女子はそんな男子に向かって、これまた意味不明なはんろんの仕方で文句を言いました。
 ぎゃあぎゃあとさわぎ始めた男子と女子をながめながら、ぼくはこう言いました。
「うるさい」
 するとぴたりとかれらのさわぎが止まりました。
 そしてぼくは、女子にはにっこりと笑顔を見せてこう言いました。
「味方してくれるのはうれしいけど、これはぼくの問題だから。それと、いくら相手がその通りだからと言って、悪口をあからさまに言うのは、君たちの人間性がうたがわれてしまうよ?」
 そして男子にはこう言いました。
「ぼくにケンカを売ろうなんて、いい度胸だな…」
 ニヤリとお父さんの真似で笑って、かれらをにらんでやると、男子は真っ青になってうつむいてしまいました。
 そしてきまずそうにどこかへ行こうとしていたので、さらにぼくは言いました。
「これは君たちの豆だろう?拾わないでいいのかな?」
 ぼくは足元に落ちている豆をゆびさしました。
 かれらは、泣きそうな顔で豆を拾いました。
「ちゃんと、全部食べるんだよ。さもないと……フッ…」
 そう言うと、かれらは泣きながら豆を全部食べました。
 これで、すべて丸くおさまりました。
 子供というのは本当にめんどうなものだなと思いました。
 そして家に帰って、さっそく豆をお母さんといっしょに食べようと思い、お母さんをさがしましたが、どこにもいませんでした。
 ぼくが家に帰ってきて、お母さんが出迎えてくれないことは初めてのことです。
 ぼくはこれは緊急事態だと思い、お父さんに電話しました。
 すると、
『ああ、拓海なら大丈夫だよ。今、病院で検査中なんだ』
 電話の向こうのお父さんの声は、やけにウキウキしています。
「お母さん、病気なの?」
 病院で検査中だというのに、明るいお父さんの声がやけにシャクにさわりました。
 なのにお父さんは、またも浮かれた声で、
『いや、病気じゃない。もうすぐ検査が終わるから、帰ったらちゃんと話すよ』
 と言いました。
 いったい何なんだ、と思いながらも、ぼくは大人しく待ちました。
 するとしばらくして、兄が家に帰ってきました。
「母さん、どうしたの?」
 と聞いてきたので、ぼくはお父さんとの電話の内容を言いました。
「父さんが母さんに関することで、大丈夫だって言うんだったら心配ないよ」
 兄の言葉はもっともです。
 ぼくらがさらに待っていると、
「ただいま〜」
 と聞いたことがないような、頭がおかしくなったんじゃないかと言うくらい、浮かれまくったお父さんの声がしました。
「お帰りなさい」
 とぼくらが出迎えると、声の通りにニヤけた気持ち悪いお父さんと、恥ずかしそうに顔を赤くしたお母さんがいました。
「どうしたの?」
 とぼくが聞くと、お父さんはニヤけた顔でぼくに、
「何だと思う?」
 と答えました。
 ぼくは、この人、なぐってやろうか、と思いました。
「あのね、隆介。もうすぐ隆介にね、弟か妹ができるの」
 でもすぐに、ちゃんとお母さんが教えてくれました。
 ぼくはそう言われてもピンとこなかったのですが、兄が、
「母さん、赤ちゃんができたの!?」
 と言いました。
 赤ちゃん!
 ぼくは驚きました。
「そうなんだ。今、五週目なんだよ〜」
 と相変わらずニヤけ顔のお父さんが言いました。
「五週目か〜。じゃ、クリスマスだね」
 でも兄がそう言ったしゅんかん、二人の動きがぴたりと止まりました。
「父さんと母さん、クリスマスに二人で仲良くしてたもんね。だからその時の赤ちゃんなんだ〜」
 うれしそうな兄とは正反対に、お父さんとお母さんは気まずそうにしています。
 ぼくは不思議に思いました。
「はるみちゃん、なかよくすると赤ちゃんができるの?」
「うん。そうだよ。お布団の中で仲良くしてるとね、赤ちゃんができるの」
 兄の言葉に、お父さんはゴホゴホとむせて、お母さんは、あんぐりと口を開けて固まっていました。
「そうなんだ。じゃ、ぼくとはるみちゃんも赤ちゃんできる?」
「う〜ん?隆ちゃんはまだ子供だから、もうちょっと大きくなったらね」
「え〜、そうなの?ぼく、早くお布団の中で仲良ししたいな〜」
 そう言ったとたん、ぼくはお母さんにいきなり怒られてしまいました。
「隆介!そう言うのは子供が言ったり、したがってはいけません!!」
 …よく分からないのですが、お母さんに怒られるのは悲しいので、ぼくは「はい」とうなずきました。
「晴海、いいか、そもそも男同士でセッ…ウン、アア、ウン!…な、仲良くしてても子供はできない。いやその前に、お前ら兄弟だろうが!」
 と兄もお父さんに怒られていました。
 ぼくらは何か悪いことを言ってしまったのでしょうか?
 よくわからないことだらけです。
「ねぇ、お母さん」
「何?」
「赤ちゃんってどうやったらできるの?具体的に教えて?」
 わからなかったのでお母さんに聞いてみました。
 お母さんは真っ赤な顔になって、お父さんのほうを困った顔で見つめました。お父さんも、何となく気まずそうな顔でお母さんを見返しています。
「お、大人になったら分かる!」
「そ、そうだよ。今すぐ知る必要なんてないんだよ」
 と慌てた二人が言いました。
 でも後からこっそり兄が教えてくれました。
「…父さんたちの寝室にこっそり行けば、どうやったら子供が出来るのかわかるよ」
 イタズラっぽく笑う兄は、何だか小悪魔ってやつみたいだな、と思いました。
 ぼくはいつか、その兄の教えを実行しようかと思います。
 でも今日は、ニヤけたお父さんがむかついたので、お父さんをオニにしたてて豆をなげつけました。
 クラスの男子が、ぼくに豆をなげつけた理由は、もしかしてこんな気持ちからだったんだろうかと、ちょっとだけ思いました。


2006.2.3


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