FAMILY
勉強の秋
今日は兄の友人たちが家にやってきました。
かれらの目的は、来週からおこなわれるテストのべんきょうなのだと言っていましたが、どこからどう見ても、兄とお母さんがもくてきんなのは、子供のぼくの目から見てもまるわかりでした。
この前、お父さんもぼくもいないときに、その友人たちはかぜで休んでしまった兄のおみまいに来たことがあったのです。
そのときにたぶん、お母さんにあって、とりこになってしまったのでしょう。
もともとかれらは兄のとりこであるようなので、おなじ顔で、大人のみりょくにあふれたお母さんのとりこになるのはとうぜんとも言えます。
かれらはきけんだとはんだんしたぼくは、リビングでべんきょうをしているかれらの中にまざってかんしすることにしました。
ぼくがいっしょにいることに、かれらはいやそうでしたが、かんじんの兄が、
「うん、いいよ。隆ちゃんもいっしょに勉強しようか?」
と、てんねんパワーさくれつでうなずいてしまったので、かれらももんくは言えないようでした。
ぼくは兄やお母さんのまえではかわいいふりで、兄のひざにのったり、おやつを食べさせてもらったり、かれらの前でみせつけるように甘えてみせました。
かれらはとてもくやしそうな顔になっていました。
とてもきぶんが良かったです。
そして兄が、
「隆ちゃん、ここ付いてる」
と、わざと口のはしにつけておいておやつのかけらを、兄がしたでなめとったとき、かれらは顔をまっかにして、こかんをおさえてうつむいてしまいました。
兄はきづかずニコニコしています。
ようすを見にきたお母さんも、「どうしよう?おなか痛いのかな?」としんぱいしています。
ぼくはこえを大にして言いたかったです。
かれらはみんな、よくぼうがぼうそうしそうなのだ!と。
でも言いませんでした。
そのかわりに、かれらにむかって、お父さんゆずりのあくまわらいをしてやりました。
かれらの目のおくに、にくしみのいろが見えましたが、そんなもの、まいにちお父さんとこうぼうをつづけるぼくにとっては、かわいらしいものでしかないのです。
そうしているうちに、お父さんがかえってきました。
かれらが来たじてんで、ぼくがお父さんにでんわをしていたのです。てきのてきはみかたです。そしてみかたは多ければ多いほど良いのです。
「涼介さん、どうしたんですか?ずいぶん早いですけど」
びっくりするお母さんに、お父さんはにっこりとわらい、
「ああ、ちょっと忘れ物があってね。取りに来たんだよ」
「そうなんですか、忘れ物って…」
「それより、晴海の友人が来ているんだって?」
「あ、はい。一緒に勉強してるんですよ」
「そうか。じゃあ、挨拶をしておこうかな」
にやり、とわらったお父さんにぜんぜんきづかず、お母さんは「そうですね」とこたえました。
お母さんはほんとうにてんねんなんだなと、ぼくはじっかんしました。
「やあ、晴海の友人だって?晴海の父です。こんにちは」
しらじらしくも、えがおでそう言うお父さんは、いつものあくまぶりとは大ちがいのお父さんでした。
ぼくは、えんぎと言うのは人をゆだんさせるための、ひつよう悪なのだと学びました。
「あ、父さん。どうしたの?」
「ああ、忘れ物を取りにね」
にやりと、ほくそえむお父さん。そしてかれらの目のまえで、お父さんと兄は、ただいまのキスをしました。
そうなのです。
ぼくらの家ではおはようのキスとおやすみのキス、いってらっしゃいのキスとおかえりのキスなど、キスするのがにちじょうになっているのです。
もちろんそれはぼくらはほっぺたにキスするものなのですが、お父さんはずるくて、お母さんにかぎり、いつも口にキスするのです。ぼくがそれにもんくを言ったら、
「お母さんはお父さんのお嫁さんだから口にキスをしていいんだ!」
とえらそうにせんげんされてしまいました。
あまりにもくやしがるぼくに、兄が、
「じゃ、僕が隆ちゃんと口でキスしてあげる」
と言い、じつはぼくはまいにち兄と、お母さんたちのように口でキスをしているのです。
そしてお父さんが今したキスは、いつものほっぺたのやつではなく、口へのキスでした。
かたまるかれらをしり目に、兄はお父さんに口でキスをしてもらってうれしそうでした。
「どうしたの、父さん。口にキスしてくれるのってめずらしいね?」
「フッ…たまにはな」
かれらは兄とお父さんの会話をきいて、さらにあおざめかたまっています。
そしておいうちをかけるように、ぼくもこうげきをかいししました。
「ずるいよ、お父さんとはるみちゃんばっかり!ぼくもはるみちゃんとキスする!!」
そしてぼくも兄とキスをしました。しかも1回だけではなく、目やはなや口など、顔中にいっぱいキスをしました。兄もまたおかえしにぼくにおなじだけキスをします。
はたから見たらバカップルなぼくらのこうどうに、かれらはようやくはんげきにてんじたようです。
「…た、高橋!お前等…きょ、兄弟で仲良すぎないか?!!」
「そ、そうだぞ!!お、おかしい…んじゃない…か?」
ちんぷなセリフだと思いました。
ぼくらがこうげきをするよりも早く、兄がかれらにてんねんパワーをさくれつさせました。
「変じゃないもん。僕、父さんも隆ちゃんも大好きだもん」
ぷう、と、こうこうせい男子にあるまじき、かわいらしいしぐさでほほをふくらませ、兄はかれらに言いました。
またもやかたまるかれらに、さらにあくまなお父さんがこうげきをくわえます。
「…あれ、どうしたの?」
おかしなふんいきに、しんぱいになったお母さんをつかまえて、
「そうだ、忘れ物を取りに来たんだった…拓海、くれるかい?」
「…え、あ、はい。でも、忘れ…」
…物って何ですか?そうつづけることばをのみこませて、お父さんはお母さんに、いわゆるディープなキスってやつをしました。
ぼくらはもう見なれているので、なんとも思いませんが、見なれていない人たちには、目のどくをとおりこして、はんざいこういでしかありません。
予想とおり、かれらはこかんをおさえながら、はなから血をながしていました。
ほくそ笑むぼくらの目のはしに、灰のようにまっ白になってしまった彼らのすがたが見えました。きっとかれらの来週のテストのけっかはひさんなものになるでしょう。
ふらふらになってしまった彼らは、その後すぐに帰ったのですが、帰りぎわにお父さんに、
「今度くる時はさらにもてなしてあげよう。覚悟して来なさい」
と、いてつくあくまのまなざしでと口調で言われていました。
あれはさすがのぼくでもこわいな、と思いました。
あれだけされれば、きっともう彼らはうちにはこないことでしょう。
ぼくはまだまだお父さんのあくまぶりにはかなわないと思いました。
そして、
「そうだね。また来てね」
とお父さんのあくまぶりにまったく気付かず、にこにこと笑顔で彼らを見送ったお母さんのてんねんは世界一だなと思いました。
2005.10.16