FAMILY

夏のおもいで -その2-


 今日は花火たいかいがありました。
 かぞくみんなで花火を見にいきました。
 そのときに、ぼくらはお母さんがつくってくれたゆかたをきていきました。
 お母さんは今、せんぎょうしゅふってやつなので、ひまをもてあましているのだそうです。
 ほんとうはお母さんは、ぼくが小学校に入ったのをきっかけに、前のようにしごとをしようと思っていたそうです。
 でもお父さんがもんくをいってやめさせました。
「今までお前が家を空けるのは我慢できた。俺と、お前の夢のためだったからな。けど、今はそうじゃないだろう?せっかくお前を独占できるようになったんだ。頼むからずっと俺のそばにいてくれ!」
 ぼくはお父さんもたまにはいいことをするなとそのとき思いました。
 なので、めずらしくお父さんにきょうりょくしてやりました。
「お母さん、ぼく家にかえってだれもいないのってさびしいよ。だからおねがいだからお母さん、ずっと家にいて?」
 泣きながらそういうと、お母さんは、こまった顔で「わかった」といってくれました。
 ぼくとお父さんはお母さんに見えないところで、かたくあくしゅをかわしました。
 でも元がびんぼうしょうだというお母さんは、家のなかでじっとしていられない人らしく、ぶんたおじいちゃんのお手つだいをしたり、お父さんのいとこのつぐみちゃんだとか、おばあちゃんといっしょにりょうりきょうしつにいったり、サークルなんかにも行っているみたいでした。
 お母さんがこの前いったのが、わさいきょうしつ。そのときのたんきこうしゅうで、ゆかたのぬいかたをならったので、かぞくみんなのぶんをつくることにしたのだそうです。
 お母さんのうでまえは、ほれたよくめではなく、すごいものだと思います。
 りょうりもうまいし、おそうじもせんたくもかるがるとしてしまいます。ほんとうはお父さんはかせいふさんをやとうつもりでいたのに、お母さんはもったいないからとぜんぶ自分でしてしまいます。
 お母さんはかわいいだけではないのです。スーパーしゅふでもあるのです。
 そしてこのゆかたも、さすがにかってきたものといっしょというわけではありませんが、お母さんのあいじょうがそこかしこにあふれていて、どんなこうきゅうひんよりもりっぱなものだとぼくらは思いました。
 お母さんのあいじょうのつまったゆかたをきて、ぼくらは花火を見にいったのですが、ひとごみがすごくて、まだしんちょうのひくいぼくにはたいへんなものでした。
 兄の手につながっていたのですが、あまりの人のおおさにはぐれそうになったため、お父さんがイヤミで、
「肩車してやろうか?」
 とあくまの顔でいいました。
 ぼくはくつじょくだとかんじました。
 けれどお母さんが、
「そうだね。そうしてもらいなよ、隆介」
 とわらうので、しょうがなくかたぐるまをしてもらいました。
 お父さんのかたぐるまははじめてではありません。
 そういえばおととしにもこうしてもらったおぼえがありました。
 ふつうよりもしんちょうのたかめなお父さんにかたぐるましてもらうと、しかいがすごくたかくなるので、とてもきぶんがよくて、ぼくもむかしはよくせがんでいたのを思いだしました。
 あのころのぼくはこどもだったのです。
 でも今でもほんの少し、むかしみたいにきぶんが良かったことはないしょです。
 ぼくをかたぐるましたお父さんは、ニコニコとじょうきげんでお母さんと手をつないでいました。
 兄はお父さんのうしろから、ぼくがおちないようにたまにささえたりしながら、いっしょにあるいていました。
 花火がドンとあがって、まわりが「わあ」とかんせいをあげました。ぼくはお父さんにかたぐるまをしてもらっていたので、花火がとてもよく見えました。
 ぼくがうれしそうな顔をしていたのにお母さんはきづいたのでしょう。
「隆介、良かったね」
 ときれいな顔で笑ってくれました。
「うん」
 ぼくも、むかしみたいにすなおにそういってわらいました。
 なのにお父さんが、そんなきれいな顔でわらうお母さんに、顔をちかづけてキスをしてしまいました。
 ぼくのあしもとで二人でなかよくしているのです。
 あまりにもくやしかったので、ぼくはお父さんのかみのけをひっぱってやりました。
 そうしたらお父さんは「いたい」と言ってはなれました。ざまあみろと思いました。
「涼介さん、いたずらがすぎますよ」
 とお母さんにもわらわれていました。
 兄もたのしそうにわらいました。
 おこられたはずのお父さんまで、しあわせそうにわらいます。
 そしてぼくもたぶん、お父さんみたいな顔でわらっているのでしょう。
 こんなふうなのも、わるくないなとぼくは思いました。
 でもお父さんのかみのけをひっぱることはやめませんでした。
 このきちくなお父さんは、気をぬくと、またお母さんにベタベタしだすのです。
 さいごまでぼくらのこうぼうはおわりませんでした。
 お父さんがぼくを肩からおろしたあと、ぼくに、
「覚えてろよ」
 と言いましたが、ぼくはフンとはなでわらってやりました。
 そしてお母さんに、
「お母さん、お父さんがいじめる〜」
 と、うそなきでだきついたら、
「もう、涼介さん、大人気ないですよ」
 とおこられました。そのときのぼくのわらいは、お父さんのとくいのあくまわらいだったと思います。
 けどそのあと、お父さんはおふろあがりのお母さんをらちして、しんしつにとじこもってしまったので、ぼくらのたたかいは引きわけになったようです。
 ちょっとはらは立ちましたが、今日はかたぐるまのかりがあるので、みのがしてやろうと思いました。
「今日はみんなで花火が見れて楽しかったね」
 と兄がいいました。
 ぼくもおなじきもちだったので、そうだねとこたえました。
 お父さんのことはきらいではありません。
 ただ、お母さんをすぐに一人じめしてしまうので、お母さんのなかにぼくがいなくなってしまうようなきぶんになるのがいやなのです。
「また来年もいっしょに行けたらいいね」
 と兄は言いました。
 ぼくは「うん」とこたえましたが、もうかたぐるまはされないようにしようと思いました。



2005.8.24


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