FAMILY
夏のおもいで -その1-
今日はお母さんと兄といっしょにプールへいきました。
お父さんは今日はがっかいとやらでしゅっちょうでいないのです。ぼくはわざわざそこをねらったのに、お母さんは、
「涼介さんいたらもっと良かったのにね」
と言いました。てんねんなお母さんはすきですが、いいかげんぼくとお父さんがお母さんのことをとりあっていることをじかくしてほしいな、と思いました。
プールに入るまえにきがえるのに、ぼくは兄といっしょに男子こういしつに入りました。
そしたら、中にいた人たちが兄をみたとたん、顔をまっかにしてこかんをかくしました。
ぼくは、兄がそういったかんちがいをされることにはもうなれているので、
「兄さん、ここあいてるよ」
とよくきこえるように大きな声で兄をよびました。
そしたらこんどは、ちがった意味でかれらはかたまってしまったようです。きもちはわかりますが、いいかげんこんなことばかりでうっとおしいなと思いました。
水着になってでてきたら、男子こういしつの前でまっていたお母さんがナンパをされていました。
けいはくそうであたまのわるそうな大学生みたいな男が、お母さんにベタベタしながらなにかを言っているので、ぼくはとてもはらが立ちました。
「お母さん、おそくなってごめんね」
とお母さんにかけよって、うでにべったりくっつきながら、男をにらんでやると、男はとてもおどろいたような顔をしていました。
「…こ、こんな大きな息子さんがいるんですか?」
ぼくはそれをきいて、にやりとしました。なので、
「兄さん、こっちだよ!」
と、これもまた大きな声で兄をよんでみました。
そうしたら男はまっさおな顔になって、フラフラとどこかへいきました。
こちらに来た兄はお母さんに、
「さっきの人、なんだったの?」
ときいていました。
「え、と、なんか道きかれたんだけど」
「ふうん。そうなんだ」
となっとくしていました。
ぼくはおなかの中で、大きな声で「それをナンパっていうんだよ!!」とさけびたかったのですが、お母さんと兄のじゅんすいさをこわしたくなかったのでがまんしました。
それからもお母さんと兄はいろんな人たちのしせんをいっぱいうけていました。ぼくはそれをかんじるたびに、とてもかなしくなって、はらがたってしょうがなかったです。
いつもならこんなときは、お父さんがまわりの人たちにこわいしせんで相手をいあつするのですが、ざんねんながらお父さんは今日はいません。お父さんってひつようなそんざいだったんだなと今日、ぼくははじめて思いました。
それから三人でながれるプールっていうのに入って、ぼくはお母さんと兄からおよぎをおしえてもらいました。
「隆介は涼介さんと似ているから、覚えが早いね」
ぼくはほんとうはきょねんに、おじさんからおよぎを教えてもらって、もう一人でおよげるのです。でもお母さんがうれしそうにそういうので、これはうそもほうべんってやつだなとだと思って、だまっていることにしました。
そうやっておよいでいると、うっとおしいことにぼくと同じくらいの子供とかがよってきました。そしてやたらといっしょにあそぼうとさそってくるのです。なぜ見ずしらずのかのじょたちとあそばねばならないのかとふんがいしましたが、お母さんが、
「せっかく誘ってくれてるんだから、いっしょに遊んでおいで」
というので、しかたなくいっしょにあそんでいるふりをしてやりました。
お母さんと兄だけにしておくと不安なのですが、かのじょたちのお母さんたちとなかよさそうに話してるみたいなので、さっきのようなナンパのしんぱいはしないでいいようです。
でもぼくは、
「お母さん、はるみちゃん、ぜったいそこで見ていてね」
とこのごろ覚えたかわいげのあるえんぎで、お母さんたちにそばにいるようにおねがいしました。
てんねんなお母さんたちは、
「はいはい。ちゃんと見てるよ。…隆介っていつもだったら一人で平気そうなのに、知らない人ばかりだから緊張してるのかな?」
「隆ちゃん結構さびしがりやだしね」
とわらっていました。
ぜんぶえんぎなのですが、こんなことにもきづかないお母さんたちは、お父さんがあんなにもあくらつなにんげんであることに、一生きづくことはないのだろうなと思いました。それはつまりはぼくが、お父さんのようにざんぎゃくひどうであってもかまわないということです。ぼくはしょうらいのてんぼうに、きぼうの光をみたような気がしました。
でもそうやって、あそぶふりをしているだけだというのに、女の子たちというのはずうずうしく、ぼくにベタベタとなれなれしくしてくるので、お母さんの目のまえじゃなかったら泣かしていただろうぐらいむかつきました。
そしてさらにむかついたのは、ぼくよりも少し上だろう年の男子が、ぼくにいんねんをつけてきたことです。
「おまえ、女にかこまれてイイ気になってんじゃねぇよ」
いっぺんこいつにじごくを見せてやろうかとほんきで思いました。
ぼくがこんなにもうんざりしているのに、じゃがいものようなその男子は、ぼくがイイ気になっていると見たようです。かれの目はふしあなです。
お母さんの前とは言え、うられたけんかはかうのが男です。けいすけおじさんがそういっていましたし、じつはお母さんもそういったところがあるのです。
そんなかれらの血をうけついだぼくも、だからまけずきらいなわけで、じゃがいも男子のけんかをうけてしまいました。
しょうぶはプールということもあって、およぎでしょうぶすることになりました。
およそ20メーターほどのきょりを、はやくおよぎきったほうがかちだということになりました。
バトルのけっかはもちろんぼくがかちました。
思わずほんきを出しておよいでしまい、まわりにいた女の子たちはキャアキャアうるさくなったし、かのじょたちのお母さんたちまでキャアキャアいうようになってこまってしまいました。
でもそんなジャガイモたちのはんのうよりも、ぼくが気になったのはお母さんたちのはんのうです。
「…隆介、すごいおよぐの速いんだね」
そういわれたしゅんかん、ぼくはしまった!と思いました。うそがばれたかなと思ったのですが、やはりお母さんたちはてんねんで、
「ちょっと教えただけなのに、あんなにすぐ速く泳げるようになるなんて…やっぱり隆介はすごいね」
とキラキラした目でかんどうしていました。
兄を見たら、兄も、
「すごい、隆ちゃん、カッコよかったよ!」
と、こちらもキラキラしていました。
ふたりがてんねんで良かったなとしみじみ思いました。
そのあとしょうぶにかったおいわいに、なんでも好きなものをかってあげるよ、といわれましたが、ぼくはものよりも、
「お母さんといっしょにおふろに入りたい」
とおねがいをしてみました。
お母さんは、
「そんなことでいいの?」
とちょっとふまんそうでしたが、ぼくにはそれはものすごいごほうびなのです。
「だってお父さんがいたら、いつもいっしょに入れないもの」
と甘えたえんぎをしながらたのんでみたら、お母さんはちょっと顔を赤くしながら、
「そ、そうだね…そういやそっか…」
と、てれていました。
このふうふはいつもいっしょにおふろに入るので、ぼくがいっしょに入るよちがないのです。ぼくはだからいつも一人か、兄といっしょに入るのです。
ごはんをたべたあと、ぼくはお母さんといっしょにおふろに入りました。
甘えたえんぎで、「かみのけあらって?」「からだあらって?」「お母さんせなかながしてあげるよ」と、もくてきをぜんぶたっせいできたので、ぼくはひじょうにまんぞくです。
ほんとうならば、お母さんのかみのけとかもぼくがあらいたかったのですが、それはたいかくのもんだいでむりでした。
でもかみのけをあらうとき、お母さんがぼくをひざのうえにのせてあらってくれたので、ぼくはこれがしふくってやつなんだなとかんどうしました。
このことはお父さんにはひみつにするように、お母さんと兄にはいったのですが、それがまもられるかどうかはびみょうなところです。
でもそれはそれで、それをしったときのお父さんのくやしそうな顔を思いうかべただけで、たかわらいってやつがこみあげてきそうなので、ばれてもいいかなと思っています。
そしてさらに今日のよるは、お父さんたちのしんしつで、お母さんと兄とぼくと、川のじでなかよくねむるのです。
今日はお父さんがいないので、お母さんをどくせんできてしあわせだったなと思いました。
2005.8.24