元気ですか?

act.8

※R-18



 ハチロクを運転するのは初めてだった。
 お互い、暗黙の了解のようなものがあり、相手の車を運転するのを躊躇った為だ。
 だが、この車がどんな車なのか、共に走っていれば分かる。
 Dをやっていたときのようなギリギリのポテンシャルに合わせたセッティングでは無いが、それでも十分に「攻め」れる車になっている。
 動かしてすぐに分かった。
 ああ、コイツは「走る」のを止めていないのだと。
 俺が藤原の道を断たせたのだと思っていたが、コイツは変わらず走り続けている。
 ふと、助手席に座る藤原を見ると、両腕で自分を守るように抱え込み、窓に貼りつくように座っている。
 その、あからさまな自分を守る体勢に多少傷付くが、これからされる事を考えると、怯える気持ちも分からないでもない。
 何より、怯えながらでも藤原が隣に座ったままでいるのが重要なのだ。
 ちらちらと藤原を横目で窺っていると、あいつの方も俺を窺っていたらしく目が合った。
 カァ、と頬が真っ赤に染まる。
「何見てんですか」
 膨れた顔を作り、俺を睨む。
 その表情がいかに男を煽るのか、藤原にはきっと一生分からないだろう。
「いや……可愛いな、って」
 ついポロリと、本音を漏らす。きっと意地っ張りの藤原はそんな事を言えば反発するだろうなと、そう察していながらも、つい出てしまった言葉だった。
 案の定、藤原の顔が羞恥ではなく真っ赤に染まる。
「…バカにしてんですか?」
 自分を守るように囲い込んでた両腕が解れ、戦闘態勢に入る。
 迂闊な言葉を発すれば、すぐさま拳が飛んできそうだ。
「してねぇし」
 交差点を右折し、ホテルが乱立している地域に向かう。
 見えてきた建物を指差し、俺は藤原に行った。
「お前、どこが良い?」
「ど、どこって…!」
 ぎょっとしたように目を見開く。
「お前、ここらへん利用したことねぇの?」
 殴られる覚悟でそう言った。
 これはカマかけだった。
 俺だって不安なのだ。
 五年と言う歳月の中で、藤原が他の男に抱かれていないか、それを知りたかった。
 案の定、藤原の平手が俺の左頬に飛んできた。
 予測していたので、減速し路肩に停車する。
 横を見ると、藤原が怒りに震えている。
「あんたは!気軽に他の奴らと出来るのかもしれないけど、俺はあんたとは違うんだ!他の男となんて…!」
 ポロリと、潤んだ瞳から涙の粒が零れる。
 最低な男だと詰ってくれても良い。
 俺はその涙を見て、漸く下らない嫉妬心の代わりに、歓喜が満ち溢れるのを感じた。
 ぐったりとシートにもたれ、嘆息する。
「……良かった」
 情けないことに、涙まで出てきやがる。
 手のひらで覆ったが、溢れる水は指の隙間から頬を伝い顎に落ちる。
 俺の涙に、怒りに染まっていた藤原の顔が驚きに変わる。
「な、何で泣いてんですか!?」
 うるせぇよ、バカ。
「……俺だってお前だけだ」
「…え?」
「俺だって、お前を抱いてから他の奴となんてヤってねぇ。お前だけだ」
「な、に言って…」
「お前としかヤりたくねぇんだよ…、もうお前にしか勃たねぇんだ。お前が好きで、好きでしょうがないんだ。…チクショウ。頼むから藤原」
 手を伸ばし、藤原の手を握った。
 涙で濡れた俺の手に、怯えたようにあいつの力が込められるのが分かった。
「お前が俺のもんだって…俺だけのもんだって…実感させてくれ」
 何言ってんだ、俺?すげぇ情けない。
 けれど、もう取り繕う余裕が一切無かった。
 俺だって飢えている。
 五年。五年だ。
 その間、恋焦がれていた身体がすぐ横にあり、俺だけのものだったのだと知ったばかりだ。
 恥ずかしい話、前はガチガチに硬直し、張り詰め痛いくらいだ。
 藤原にそこを触られたかった。
 俺の手で、藤原を触りたかった。
 ぎゅ、握る手に藤原が指を絡めてきた。
「啓介さん」
 決意を込めたように俺の名を呼ぶ。
「運転変わって」
 驚き、彼女を見ると、懐かしい表情がそこにあった。
 まるで戦闘に挑むかのような、かつてDのバトルの際に、何度も見た顔だった。
「どいて下さい」
 俺の返事を待たず、助手席のドアを開き、運転席のドアを開き、俺を無理やりのように追い出す。
 よく分からないままに、俺は促されるように助手席へと移った。
 移動の際、張り詰めた股間のせいで歩き方がおかしかったのはここだけの話。
 ドライバーズシートに収まった藤原は凛々しかった。
 グン、とアクセルを踏み、迷わず通りに面したホテルの一つの門を迷わず潜る。 
 驚き、藤原を見ると、真っ直ぐ前を見たままの藤原の頬がほんのり染まっていた。
「昔の仕返し」
 ガレージ式のその部屋の空いたスペースに、車を入れ停車する。
 シャッターは俺が下ろした。
 俺に遅れて、藤原もハチロクを降りる。
「俺だって…あんたが俺のもんだって実感したいんだ」
 あんたに任せてると、グズグズとしてそうだから、連れ込んでやったんだ。
 そう、唇を尖らせ膨れた顔を作る藤原を、襲い掛かるように抱きつき、そして尖った唇にキスをした。




 キスを重ねながら部屋のドアを開け、もつれるように中央のベッドへと二人で倒れこんだ。
 二人の間を阻む布地が煩わしかった。
 乱暴にトレーナーの裾から手を差し込み捲り上げる。
 現れた白い肌に、胸を包む白い下着。
 両手でその布地の上から胸に触れ、すぐに下へと手を潜り込ませた
 藤原が息を飲んだのが分かった。
 ささやかな膨らみの下の、小さな突起は固くなっていた。
 舐めてみたくて、下着をずらし、顔を寄せ突起を口で含んだ。
「や、ぁ」
 堪え切れなかったように、藤原の声が上がる。
 舌先で乳首を嬲り、空いた手であいつのジーンズのボタンとファスナーを外し、ずり下ろす。
 見えた下着はやはり薄ピンクだった。
 何だコイツ。狙ってんのか?
 すげぇ萌えるんだけど。
 清純そうなのが好みなわけではないが、藤原に関してはそうであって欲しかった。
 他の男の存在を感じさせられるような兆しの欠片でもあれば、俺はきっと気が狂う。
「だ、め…!」
 何かに気付いたかのように、藤原が身を捩り自分の身体を隠す。
「おい」
「だめ!」
「何だよ」
「だめ!今日、上と下バラバラだし!!」
 何を言われたのか一瞬分からず、過去の経験値から藤原の言いたい事を遅ればせながら悟った。
 ああ、下着の上下が揃ってないって意味か。
 正直、たかがパッケージじゃねぇかと思うが、女にとっては重要なのだろう。
「別に気にしねぇし。いいから見せろよ」
 手を伸ばすと、キツイ目で睨まれた。
「俺にだって夢くらいあるんです!可愛い下着とかで、その……初めての時とか」
 俺は実は記憶力が良い。
 ましてや、藤原との過去三回は、細部まで記憶の中に残っている。
「なのにこんな気の抜けた下着〜」
 めそめそと拗ねる藤原は食べたいくらい可愛い。いや、実際食ってやるのだが。
 過去の三回のときの藤原の下着。
 最初は、夜だったのと、俺に余裕が無かったため色は白色系だったのは覚えているが、上下セットだったかまでは覚えていない。
 しかし二回目以降、藤原の下着はどれも上下セットになったものだった。
 二回目は、シンプルな薄紫に白のラインが入ったのカジュアルなデザインの下着だった。
 三回目は、薄黄色にフリルの付いた可愛いもの。
 まさか…、いや、まさかだよな。
「お前…昔、俺にいつされてもいいように、下着とかずっと気合入れてた?」
 まさかなぁ。
 そんなつもりで呟いた俺の言葉は、まさかの図星だったらしい。
 カッと一気に体中を朱色に染め、そして照れ隠しのパンチが俺の腹に飛んできた。
 気配を感じ、咄嗟に腹筋を締めたから良いものを、そうでなかったらみっともなくベッドの下で悶え苦しんでいただろう。
「だって!そんなの!…俺だって女だし…」
 最初は怒鳴るように、けれど最後はモジモジと恥らいながら言うその姿は、天然と片付けるにはタチが悪すぎた。
 ああ、もう限界が切れた。
 優しくしてやりたかったが、もう無理だ。
 俺は焦れたように、シャツとジーンズを脱ぎ捨てた。
 そして最後に残ったボクサーパンツも脱ぎ捨てる。
 浅ましく上を向く性器を隠しもせず、藤原の前に晒した。
 左手で握り、上下に擦る。
 それだけで先走りの液が溢れ出る。
「お前の中に入りてぇんだ。…拓海」
 初めて、藤原の事を名前で呼んだ。
 長い時間が二人の間には横たわっていると言うのに、ずっとよそよそしく苗字でしか名前を呼んでいなかった。その距離感を縮めたかった。一刻も早く。
 剥きだしになった状態で、藤原の身体の上に圧し掛かる。
 あいつの手を取り、俺のを握らせる。
「お前の中に…これが入ってたのを覚えてるか?」
 藤原の瞳が、トロンと潤んだようになった。欲情しているのだろう。
「またお前の中に入りたいって言ってんの…分かる?」
 首筋に唇を這わせ、下着の下の茂みの中に手のひらを滑り込ませる。
 そのさらに下の、割れ目の部分に指を這わすと、ねっとりとした感触が指に絡んだ。
「お前の中も…俺のが欲しいって言ってるな」
 藤原が躊躇いがちに、けれども確かに頷いた。
 両腕を持ち上げ、俺の首に回し抱きしめる。
「…ん。啓介さん」
 藤原の身体に絡みついた衣服を引き剥がす。
 しっとりと、滑らかな肌が俺の肌に密着する。
 何もかもが愛しかった。
 この肌も、柔らかな胸も、小さな尖りも。
 慎ましく開かれた両足の、この潤んだ狭間も。
 指で狭間を何度もなぞると、どんどん滑りが激しくなった。
 狭間を嬲りながら、胸の尖りを唇で愛撫するのが、一番藤原の反応が良かった。
「気持ち良いか?」
 問うと、ハァハァと息も絶え絶えに、真っ赤な顔で藤原は頷いた。
「けぃすけさ…啓介さん…」
 うわ言のように俺の名前を呼ぶ。
 痛いくらいに張り詰めた剛直を片手で支え、藤原の両足を割り開いた。
 滑る狭間にそれを擦り付けると、「あぁ、ん」と甲高い嬌声が上がった。
「入れるぞ?」
 声をかけると、藤原は頷いた。
「…ん」
 うっとりと、快感に潤んだ表情で俺を見返す藤原は、俺の今まで見た女の中で一番きれいで、そして下世話に言うならエロかった。
 両足を抱え、突き入れると、しかしそのエロい顔が苦痛に歪んだ。
 痛いのだろうとすぐに悟るが、それで止めてやれるほど俺の欲望は軽くない。
「…痛ぇよな。ゴメン」
 謝ると、藤原が首をうっすら横に振った。
「…だいじょぅぶ」
 とても大丈夫では無さそうな顔で、そう言う。
「ゴメン。ゆっくり動くから」
 実際、溜まりに溜まった五年分の欲望は、二、三回動いただけで果てそうだった。
 さすがに何もしてないのに、ってのと、すぐにイくのは俺にだってプライドがある。
 下腹部に力を込め、意識を逸らす。
 ゆっくりと腰を引くと、ねっとりとした粘膜が俺のを離すまいと絡みつき締め付けた。
「…んぅ」
 背中を逸らせ、藤原が呻く。
 そしてまたゆっくりと押し込むと、粘液がグジュリと音を立て誘い込む。
「ぁあっ…」
 刺激に耐えかね、藤原の唇から甲高い声が漏れる。
 たった数回の刺激だけで、優しくしてやりたいとか、気遣う気持ちが俺の中から消えた。
 あるのはこの凄まじいまでに心地よい場所で欲望を満たし、精液を注ぎこみたいという征服欲だけに支配される。
 藤原の腰を掴み、スピードを上げ深く突き込む。
「や、あ、あぁ!」
 俺の激しさに耐え切れず、何度も藤原が首を横に振る。柔らかな髪が俺の頬を打つが、それでも俺の動きは止まらなかった。
「は、ぁ、拓海…!」
 ゴメンと、目だけで謝ると、うっすら藤原が俺に向かい微笑んだ。
 ぎゅ、と内壁を締め付ける。
 そして明らかに痛みだけではないものが、彼女の内側に生じ始めているのをその表情で伝えていた。
「気持ち、いいか?」
 コクリと彼女が頷く。
 俺の腰に、両足を絡め引き寄せる。
 もっと奥へと、誘い込むように。
「…けいすけ、さんは?」
 揺さぶられ、途切れがちな声で問いかけるその声に、俺は「当たり前だろ?」と答えてやった。
「気持ち良すぎて…ヤバい」
 そう吐露すると、ふふふと藤原が微かに笑った。
「好き」
 ああ、このヤロウ、チクショウ。
 笑顔と共に殺し文句を囁かれ、俺の理性が切れた。
 タイミングも何も無く、暴発と言う形で俺は藤原の中に五年ぶりに精を放った。





 もちろん五年耐えた欲望が一度で満足するはずもなく、間を置かず続いての行為となった。
 最初ほどのがっつきは無かったが、それでも性急に欲望を内部へと押し込む。
 幾度も体勢を変え、彼女の内部を探る。
 お互いがドロドロに溶け合うくらいに擦り合い、何度も何度も欲望を吐き出した。
 もう無理、との藤原の声に、さすがにそれ以上の行為は控えたが、それでも離れ難く欲望を吐き出してからも彼女の内に繋がったままでいたりした。
 背後から抱きしめ、うっすら膨らんだ胸を揉む。
「だから…もうダメだって、啓介さん」
 怒り、身を捩る藤原のうなじに顔を埋め、汗ばんだ肌を唇で楽しむ。
「分かってる。もうちょとこのまま…」
 キュウキュウと内部を締め付ける刺激は魅力的だが、さすがに立て続けに何回も出来るほどそう若くも無い。
 名残を惜しみながらも、藤原の中から俺のを抜くと、ドロリとした白濁が彼女の内からあふれ出るのが見えた。
 俺の拘束が解けた途端、慌てたように藤原がシーツを巻き付けバスルームに逃げ込もうとする。が、身体の負担は女の方が大きい。ガクリと膝が砕け、腰から下の力が抜けたのか、ペタリとベッドの下に座り込んだ。
「う〜。啓介さんのバカ!」
 真っ赤な顔でヨロヨロと、それでもバスルームに向かう藤原の、俺を詰る言葉は逆に俺を喜ばせた。
「悪ぃ。だってお前すっげカワイイんだもん」
 真っ白い藤原のうなじにまで朱色が広がる。
「ば、ばっかじゃねぇの!」
 バン!と勢い良くバスルームのドアが閉められた。
 だから、そう言う純情なところがカワイイんだって。
 にんまりと、自然と綻ぶ顔を枕に埋める。
 藤原の匂いがする。胸が歓喜に甘く締め付けられた。
 欲望を吐き尽くし、もう元気を無くした俺のムスコを手のひらで包む。
 良かったな、お前。あいつん中にいっぱい入れられて。あいつにいっぱい気持ち良くしてもらって。
 っつーか、あいつをダイレクトに感じれて、お前ばかりずるいな…。
 自分のムスコにまで嫉妬しそうになる。
 ザァザァと聞こえるシャワー音に、このままバスルームを急襲したら、藤原はどんな反応をするだろうかと考える。
 きっと、激怒するだろうな。だが、風呂場でもう一発と言う夢も捨て難い。
 のそりとベッドから起き上がり、床に足を着けたところで、脱ぎ捨てた服のポケットから覗く携帯の着信ランプが点滅している事に気が付いた。
 何気なく手に取り、着信を確認すると、兄から何度も電話がかかっていた。
 夢中で、全然気が付かなかった。
 メールも兄から来ている。
 内容は、「連絡しろ」とだけある。
 携帯を操作し、兄に電話をかけるとワンコールで繋がった。
「アニキ?電話何だったんだよ?」
 兄は俺の問いには答えず、逆に質問してきた。
『藤原は一緒か?』
「え?…あ、ああ」
 一瞬戸惑ったが、あの兄のことだ。俺の行動からそれぐらい予測していたのだろう。
『お前の息子は預かった』
「は?」
 一瞬、自分の股間を見て、いや違う。そっちのムスコじゃなく、リアルの方だと気付く。
「啓太?何でアニキが…」
『ちなみに、藤原の親父さんとも一緒だ』
「は?!」
 いったい何が起こっているんだ?さっぱり分からない。
『五年前、身勝手に藤原を孕ませたあげく、今も何の挨拶も無く藤原を連れ去る…。お兄ちゃんはお前をそんな礼儀知らずに育てた覚えが無いんだがな…』
 ザァ、と一気に血の気が引いた。
「お、親父さん怒ってんのか?!」
『いいや、親父さんは怒ってない。むしろ、娘を宜しくとおっしゃっている。明日まで帰って来なくても良いとまで』
 その言葉に、何だとホッと安堵も束の間。
『だが、俺は怒っている』
 背筋に冷たいものが走った。
 兄が、こんな言い方をする時は要注意だ。
 淡々と、怒りを述べる兄は……タチが悪い。
『ちゃんとケジメくらいつけるべきではないかな、啓介?俺はお前の兄として、非常に親父さんに対して申し訳なく思っている』
「ちゃ、ちゃんと挨拶はするつもりだったって!侘びも…ちゃんと!ただ、その……こっちのが重要って言うか…」
 バタンとバスルームのドアが開き、バスローブに包まれた藤原が現れた。
「啓介さん?」
 そのしどけない姿に欲情する余裕も無いくらい、俺はピンチに追い込まれていた。
『お前たちの気持ちは分かる。だから無粋なことは言いたくないが、さすがに外泊までは認められないな…』
 不審な俺の態度に怪訝に思ったのだろう。俺の傍に寄り、携帯の声に耳を澄ませ、そして目を見開いた。
「涼介さん?!」
 二人してつい正座してしまうのは、かつてチームリーダーとして俺たちの上に君臨していた後遺症のようなものか。
『着信に気付いたという事は、ある程度満足しきった後だと言うことだろう。再会初日としてはもう十分だと思うが…違うか?』
 違うというか、違わないというか…。
「あ、啓太ほったらかし!」
 現実が帰ってくる。さっきまで女だった藤原は、今はもう母親の顔に戻っている。
『そろそろ、帰って来い。ちゃんとケジメをつけなさい』
 ピシリと言われ、ぐぅ、と咽喉の奥から変な音が出る。
「……はい」
 五年と言う月日は俺を…俺たちを子供のままにさせてはくれない。
 ボリボリと頭をかき、気まずそうに藤原を見ると、彼女もまた気まずそうな顔をしていた。
「…帰るか」
 もう、子供ではないのだ、俺たちは。
 大人になったし、親にもなった。
「…はい。啓太、心配してるかも…」
 不安そうな藤原の顔に、思わず「しつこくてゴメン」と謝ると、ポッと頬を染め、照れくさそうに藤原が笑った。
「お互い様です。俺も…いっぱいしたかったから…」
 ああ、クソ。
 大人は辛い。
 大人になると言うことは、我慢が出来るか、出来ないかの違いなのだと思う。
 再びベッドに戻りたい衝動を、俺は奥歯を噛み締め我慢した。



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