元気ですか?
act.2
まだ22歳の俺にとって、セックスと言うものは簡単なものだった。
単調で原始的な、肉の交わり。
ドラマや映画で持て囃されるような、神聖性は欠片も無い。
互いが己の欲求のままに動き、相手の身体を貪る。
そんなものだと思っていた。
思えば、それまでの俺の周りの女は、身勝手な女が多かった。
最初にセックスを教えた女は、兄の同級生の女だった。
兄に付き纏い、それが無理と分かると俺に擦り寄ってきた。
女は「兄」と言う下心で。
そして自分もまた「好奇心」のみでそれを覚えた。
あの女とは二度と会っていないが、どうやら兄がその事を知っているところを見ると、追い払ったと見るのが妥当だろう。
その後の女たちも皆、外見や、喧嘩の強さにおもねり、セックスを自分を繋ぎとめる手段として用いるだけだった。
そんなものだと、そう思っていたからこそ、俺はあんな事が出来たのだろう。
あの夜。
峠には誰もいなかった。
しん、と冷えた空気の中、俺は一人で夜空を見上げ煙草を吹かしていた。
あれは秋だった。
少しずつ木々の緑が色付き始め、辺りの景色を赤く染めようとし始めていた、そんな頃だ。
落ち葉が道路に降り積もり、歩くたびにカサカサと音を立てた。
だがら、そこに自分以外の誰かがいることにはすぐに気が付いた。
その日は最終決戦に向けたプラクティスの後。
メンバーは皆帰る中、俺は間近に迫った関東最速プロジェクトの名残を惜しんでいた。
兄が計画し、始めたプロジェクト。
だが掴んできたのは自分と、そして藤原だ。
もうすぐ、一年の結果が出る。
そして、危うい糸のような、藤原と自分を繋ぐ縁も。
てっきり、そこにいるのは兄だと思っていた。
兄はプラクティスに参加しなかったが、いつまでも帰ろうとしない俺を心配し、史裕あたりが呼びつけたのだろうと。
だがそこにいたのは藤原だった。
薄暗い照明の中、ぼんやりと立っている。
「帰らないんですか?」
静かな声だった。
夜の静寂の中、その声はやけに通って聞こえた。
「…帰るよ。これ吸ったらな」
ふぅ、と肺の中の煙を吐き出す。
「嘘です。俺が見てるだけで、啓介さんもうずっとそこで3本吸ってます」
いつから見ていたのだろう?
俺はこの時、ゆっくりと、そして間を置きながら吸っていたはずだから、概算してこいつは30分近く俺を見続けていたことになる。
「…ほっとけよ」
「ほっときたいんですけど…」
あいつが視線を逸らし、自分の足元を見た。
少し汚れたスニーカー。
相変わらず、藤原の服装は男のようなものばかりだった。
男ばかりの峠では、特にプロジェクトDとして活動を始め、敵を作るようになった現在、女と分かるほうが不都合だろうが、たまに、そうたまに思うのだ。
――こいつはいつ『女』になるのだろうか?
と。
自分を『俺』と呼び、女の欠片も無い服装。
こいつが女を見せるのは、兄の前に出たときだけ。
頬を少女のように染め、恥らう。
もじもじと言いよどむ藤原の様子に、遅ればせながら俺は気が付いた。
ああ、そうか。
「アニキに言われて来たのか?心配するなって言っとけよ。もう少ししたら帰るから」
きっと兄がこいつに電話でもしたのだろう。
兄は良く分かっている。
俺が何に悩み、そして何に敏感なのかを。
「…そうじゃなくて…ただ…啓介さん帰らないから…」
ブツブツと呟くような小さな声だった。
「帰るつってんだから帰れよ。お前がいると邪魔なんだ」
この心の漣は、きっと藤原がいる限り凪ぐことは無い。
ずっと荒れたままだ。
だから、邪魔なのだ。
すると藤原は俯いていた顔を上げ、頷いた。
「知ってます」
知ってる?
何を知っていると言うんだ?
俺が、自分の敗北を想像し恐がっていること?
俺が、お前に惚れていると言うことを?
「啓介さんが、俺を邪魔なこと、分かってます。けど、もうすぐなんだから…我慢してください」
藤原は何も知らない。分かっていない。
「次のバトルが終わったら、もう顔を合わせませんから、だから…」
瞬間、俺の中に生まれたのは「怒り」だった。
純粋で鈍感で、そして残酷な藤原。
俺は煙草を投げ捨てた。
藤原の目が、煙草の赤い小さな炎を追う。
その隙に、俺は藤原の腕を掴んだ。
いきなり目の前に立った俺に、あいつの身体に波のような震えが走り、そして大きな瞳がまた零れそうなほどに見開かれた。
「…ムカつくな」
俺は顔を顰めた。
「な、に…」
あいつが怯えた表情をする。
そうさせているのは自分なのに、俺はあいつがそんな表情をするのが気に食わなかった。
「荒立った感情を静めるのに、何が一番効果あるか教えてやろうか?」
露悪的な笑みを浮かべる。
一部の女には魅力的だと持て囃された表情だが、今の藤原には恐れしか抱かせないだろう。
「啓介さ…」
俺の名を紡ごうとする唇を、俺は塞いだ。
想像していたよりも柔らかな唇。
怯える舌に舌を絡め、全てを奪う激しさで吸い付いた。
まるであいつは、突然車の前に飛び出した猫のように、目を見開きピクリとも動かない。
なぜ猫は固まるのだろう?
そんな習性は、彼らにとって命取りだろうに。
だが今の俺にはその習性は有難い。さらに留めるように彼女の背中に腕を回し、抱きしめた。
思ったよりも腰が細い。
そこに繋がる臀部へのラインは、十分に俺の欲を煽るものだった。
固まったままの藤原を、俺のFDの上へと押し倒す。
あいつはまだ目を見開き、信じられないものを見た表情のまま固まっている。
藤原に触りたかった。
あいつに触れ、あいつの肉の内に入り、俺のものなのだと、刻みたかった。
動物的な欲望だ。本能なのだろう。
藤原のジップアップのパーカーの下は厚手のTシャツだった。
裾から手を伸ばし、僅かに膨らんだ丘に手を忍ばせると、藤原の顔が恐怖に歪んだ。
「い、や…」
俺は苦笑した。
今さら。
止められるわけがない。
Tシャツの下の、スポーツブラのような柔らかな布地に包まれた胸。
胸が無いと、藤原は自分をそう卑下したが、その感触は男のものとは雲泥の差だ。
恐怖のためだろうか。硬く尖った乳首を、柔らかな肉ごと撫で擦ると、藤原の背中が跳ねた。
「やだ、啓介さん…」
泣きそうに歪む。
「させろよ」
俺は藤原の首筋に吸い付いた。
またあいつの身体が跳ねる。
「したいんだ。させろよ」
身勝手な言葉。
ぶるぶると怯えた少女は、初めて見る男の欲望に逃げることも出来ない。
それを良いことに、俺は藤原の下衣にまで手を伸ばした。
デニムのジーンズの下には、女性らしい小さなショーツ。
薄い色合いのその布地の下の、濃い茂みを視覚で捉えた瞬間、俺は無意識に舌なめずりをした。
Tシャツをたくし上げ、むき出しにさせた胸の尖りを舌で嬲り、手はあいつのショーツの中へと潜り込む。
固く閉ざされ、乾いたそこは何度か指で刺激してやると、どんどん潤ってきた。
指に滑りを感じ、俺の興奮は増した。
俺の指で、こいつは濡れている。
興奮しているのだ。
「や、だ…やだ、啓介さん…やだ…」
うわ言のように、何度もあいつはその言葉ばかりを繰り返した。
けれど、興奮に脳を侵された俺の心には届かない。
何も刺激していないと言うのに、俺の前はもうパンパンだった。
布地の下で、先走りが滲み出ているのさえ感じる。
まるで童貞のガキみたいだ。
いや、童貞の頃でさえ、こんなに興奮していなかった。
慌しくベルトを外し、前を寛がせる。
ジーンズを下着ごとずり降ろし、興奮したそこを外気に晒す。
傍から見てると、間抜けな格好だ。
だが藤原には恐怖しか抱かせなかったらしい。
隆々と上を向いた男性器。
そんなものを見るのは、彼女の人生にとってこれが初めてだろう。
俺は乱暴に藤原の脚からジーンズを剥ぎ取り、ショーツを抜き去った。
「やだ、啓介さん…や、だ…」
ぶるぶるとあいつは震えている。
震えている、だけだった。
両足を持ち、左右に開かせる。
目の当たりにしたそこは、綺麗だった。
女のそこを見て、そう感じたのは初めてのことだった。
まるで初雪のような神聖で侵し難い、そんな感覚を受けた。
だが俺の本能は、畏怖ではなく、踏み荒らすことを求めた。
あいつのそこに俺のを突き入れる。
「い、やぁ…!」
あいつが泣いた。
ぽろぽろと、涙を零し、圧し掛かる俺の身体に爪を立てる。
俺は野蛮な行いの許しを求めるように、強く藤原の身体を抱きしめ、そして優しく背中を撫でた。
結合した部分から血が流れ、あいつの真っ白な太股を伝い、FDのボンネットに染みを作る。
藤原の太股を汚し、ボンネットを濡らしたあの真っ赤な色。
あれが、俺の罪の色だ。