空の色は陰気です 時は不穏な五月です

act.6


 涼介の携帯に突然かかってきた電話。
着信の相手は目に入れても痛くないどころか入れたくて仕方が無い…いや、入れてしまったら見えなくなる。どうせ入れるなら俺が拓海の違う場所で…なんて思わず不埒な妄想をしてしまう愛しの恋人。
忙しかろうが何だろうが、すべてを投げ捨てて喜び勇んで電話に出れば、なぜか相手は恋人ではなく違う女。
一瞬不機嫌になりかけた涼介だが、すぐに気付く。
『ハッ!もしや拓海の緊急事態?!』
 涼介の予想は当った。
 しかも最悪な方向で。
 電話の相手は拓海が言っていた今日会うとかいう友人。そしてその友人こと茂木なつきの語るところによれば、他に集まった女性の友人の一人が、何を思ったか彼氏+男どもを連れてきて、なぜか飲み会は合コンに様変わり。
 何とか拓海を守ろうとしたが守りきれず、しかも話の中で涼介のモテ話を聞いてショックを受けたらしく深酒をしてしまったらしいとのこと。
 涼介の脳内で、なつきの説明はこんな風に解釈された。
『俺の拓海がクソな女の陰謀にハマって、むくつけき飢えた獣たちの群れの中に放置されてしまっただと?しかも拓海は衝撃から深酒をしてしまった状態だ?あんな色っぽい拓海が…獣たちの前に……許せん』
 どうやら涼介は以前に拓海が深酒をした状態を知っているようだ。それだけに彼の焦燥は深い。
 待っていろ、拓海!いますぐ行くぞ!!
 やる気満タンな涼介。しかし現在の彼は大学構内にて実習の最中。
 出て行こうとする涼介に、同じグループの級友たちが慌てて「待ってくれ、高橋!」と引き止めるが、振り返った彼の顔を見た瞬間、皆、黙り込んだ。
「…今の俺を止めるな…殺すぞ」
 紛れもなく本気の顔と声。
 彼らは人生で初めて、混じりけの無い「殺気」と言うものに出くわした。
 後日、彼らの頭髪に、いっせいに白髪が混じりだすのだがそれは別の話。
 飛び出す、という表現が正しいぐらいの状態で車に乗り込んだ涼介。しかしふとわが身を省みた時、気が付いた。
『こんな、髪も服もボロボロの状態で、拓海の前には出れん!!』
 いつだって彼女の前では「カッコいい」自分でいたい。それは涼介の切ない男心だ。
 急遽行き先を自宅に変更。
 鬼気迫る走りで自宅に戻り、リビングで寛ぎながらゲームをしていた啓介に、
「うわ!アニキ、どうしたんだよ?!今日、泊まりじゃなかったっけ?」
 と言われながらも飛び込んだ自室で、自分のワードロープの中で唯一拓海が褒めたポール・スミスの一式。しかもシャツは拓海が初任給でプレゼントしてくれたと言う涙なくしては語れない一品を身にまとい、髪を整え、寝不足気味の目元を隠すためブルーグレイのサングラスをかけていざ出陣。と思いきや、ふと目に付いた黄色い物体。
「何だよ、アニキ出かけるんか?」
 ……これは使える…。
 優れた頭脳で浮かんだのは、「有効的な弟の使い方」。涼介は否を許さぬ迫力で、啓介に向かいこう言った。
「緊急事態だ。啓介、お前も来い。嫌と言ったら…殺す」
 真顔で、しかも真剣な声音で兄に殺すといわれた弟は、普段の兄の性格を知り尽くしているだけに、「これはマジだ!」と気が付いた。そしてもう一つ気が付いたのは、
『ぜってー藤原関係だ!!』
 大正解。
 魅惑の高橋兄弟を乗せた白のFCは、光速を超えたスピードで獣たちから恋人を救出すべく飛び出した。




2005.7.31

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