嘆きの聖女
act.9
とても幸せな夢を見た気がして、拓海は久しぶりに満足な気持ちで目が覚めた。
だが、う〜ん、と身体を起こそうとして、ジン…と痺れたあらぬところの痛みに気付く。
「…った…!」
そしてバタンと、またベッドに逆戻り。
何で痛いんだ?
股の間が痛い。と言うか、違和感がある。
何かが挟まっているような…。
と思い返したところで、眠る前にしたことを思い出す。
ブワァ、と一気に全身が朱に染まった。
「お、俺……」
そうなのだ。
とうとう、涼介とシテしまったのだ。
言葉通りに全身を舐めるように拓海を愛してくれた。
あんなに大事にされた記憶は未だかつてない。
小さな幼子の頃にはあったのかも知れないが、成長してしまった今、あんなに愛しいとばかりに見つめられ、抱き締められるという行為がどれだけ幸せな気持ちになるのか、拓海は初めて知った。
そして同時に、
『涼介さんも同じように幸せな気持ちになったかな?』
それが心配にもなる。
けれど、その涼介がぐるりと部屋を見渡してもいなかった。
ほんのり、薄暗くなった白い部屋。
時計を見れば時刻は4の数字を指している。
朝方なのだろうか?
なのに何故涼介はいないのだろう?
もしや、自分があまりにもつまらなかったから嫌気が指してしまったのだろうか?
不安になって、自然と目に涙が浮かぶ。
涼介を好きになってから、すぐに泣いてしまうようになった。
女々しいなと思うが、言葉通りに女の部分も生まれてしまったのだから間違いではないのかもしれない。
けれど、涼介はそんなところが嫌になってしまったのかも…。
不安は最悪の考えばかりを引き起こし、怖くて居てもたってもいられなくなる。
しかし、そこでじっと泣いて嘆いていられるほど、拓海の男の部分は小さくなかった。
「…探しにいこう」
涼介を信じている。
それは揺ぎ無いのだ。
いないと言う事は、いないなりの理由があるのだ。
だったら待っていないで自分から向かう。
病室を出れば、誰かいるだろう。
そうすれば誰かに涼介がどこへ行ったのかを聞けば良いのだ。
思い立ち、拓海は起き上がった。
まだ痛みと違和感は取れないけれど、それは幸せな痛みだ。だから心地良くさえ感じる。
服は涼介がしっかりパジャマに着替えさせてくれていた。
あの袷の簡易着ではない。
着せにくかっただろうに、涼介がわざわざ着せてくれたんだ、と嬉しく思うと同時に、裸を見られたことに純粋に恥ずかしく思う。
だがそれと同時に、不思議にも思う。
「別にあの服でも良かったのに…」
見たことの無いパジャマ。またわざわざ買ってきたのだろう。
涼介さんって面倒見がいいんだな、と考えてる拓海は、涼介が単に露出の多い簡易着を嫌っただけの事を知らない。
ともあれ、パジャマのまま病室のドアを開き外に出る。
朝方かと思った時刻は、どうやら外の気配などから夕方らしい。
さてどこへ行こうかと考えた時、拓海が知っている場所はひとつ。
啓介の病室だ。
きっと啓介なら知っているだろう。
そう思い、急いた気持ちでノックも無しに啓介の病室のドアに手をかけた瞬間、中から怒鳴り声が聞こえた。
「ふざけんなよ!」
大きな声だった。
まるで泣き叫んでいるかのような声に、拓海の手が止まる。
「落ち着け、啓介」
そしてそれを宥めているのは、拓海が探していた人だった。
涼介もいるんだ、そう思いドアに手をかけた拓海の手がまた止まる。
「アニキはムカつかないのかよ!こいつら…アニキを消そうとしてんだぞ!?」
消す?
「…消すとは人聞きの悪い」
啓介でもない。涼介でもない第三者の声。
拓海の身体がビクリと跳ねる。
何だろう?
聞き覚えのある…だけど…知らない声だ。
「私はただ、無理やり繋いだ涼介と聖女の絆を無に帰せと言ってるだけだ」
心臓がドキドキと嫌な感じに動き出す。
じっとりと、手のひらに汗が滲む。
「それがアニキを消すって事だろ?!」
「元々、聖女は涼介のものではない。それを正しい方向へ直すだけだ。何が悪い?」
また新たな声。
それに、拓海の不安は増す。
「異端が聖女を手に入れることは許さない。私は間違っているか?涼介」
キィンと、耳鳴りのような音がする。
さっきまで幸せだった。
まるで温かなブランケットに包まれているかのような幸福感。
なのに今は、冷水を浴びたように心が冷えてきている。
「親父!」
啓介の怒鳴り声が聞こえる。
けれど、拓海にとって重要だったのは、あの人の声だけだった。
「いいえ」
きっぱりと、断言する涼介の声が聞こえた瞬間、拓海の目の前が真っ暗になった。
「間違っていません」
何を言っているの、涼介さん?
自然と、ポロリと目の端から涙が零れた。
悲しい、の後に、悔しいがやって来たのは、拓海の性に男の部分がしっかりと根付いていたからなのだろうか。
ぐ、と拳を握り締め、怒りのままにドアをガラリと勢いよく開く。
そして見えたのは涼介と啓介だろう金の獣。そして彼らに良く似た年配の男が二人いた。
啓介は驚き唖然とした顔で。
年配の男の一人は同じように驚いていたが、涼介と、そして涼介に面差しが良く似た年配の男は片眉を上げただけだった。
「…拓海」
涼介は驚いていなかった。
しかも、悠然と拓海を見つめ、目が合った瞬間に微笑みさえした。
カッと、怒りに目の前が真っ赤に染まる。
勢いのままに、涼介の前に立ち、そして。
「……っ!」
固めた拳をそのまま涼介に向かい振り下ろした。
頬を打ち、グラリと涼介の身体が揺れるが、倒れはしなかった。
拓海の拳がジンジン痛む。
涙に濡れた瞳を怒りで滾らせ、拓海は涼介だけを見つめていた。
「あんたが……」
愛してるって、言った。
大事にする、って言った。
俺のものだって、言ってくれたのに…。
「あんたが…何て言おうとあんたは俺のもんだからな!」
そうだ。涼介は拓海のものなのだ。
だから、絶対に負けない。
「誰にも、カケラだってやらねぇから!あんたは俺のもんなんだ!」
ギラギラと、挑むように涼介を睨むと、目の前の涼介は満足そうに微笑んだ。
「ああ、そうだ。俺は拓海のものだし…お前は俺のものだ」
拓海が望んでいた答え。
だが、それは怒りを静めるどころか煽りさえした。
今度はドン、と涼介の胸を叩く。
「だったら!何で間違ってないとか言うんだよ!!」
「間違ってないからさ」
こんなに言っても分からないのか、とキッと目を吊り上げ睨むと、涼介の指がその拓海のつりあがった眦を撫でる。
「異端が聖女を手に入れることは許されない。それは間違いではない。だが、許されなくとも俺は拓海が欲しかった。
ただ、それだけの事だよ」
宥めるようなその指に、拓海の釣り上がっていた眦はストンと落ちる。
怒りに滾っていた感情が、一気にふわんと浮上し、自然と唇が拗ねたように尖った。
「……何だよ。それ」
心配して損した。
何だ、涼介はやっぱり自分が好きじゃないか。
それを感じ取って、拓海は一気に安心する。
目の前の逞しい身体に身を預け、甘えるようにその肩に頬を摺り寄せる。
「泣かせたな。すまない」
涙の跡を優しく拭われ、自然と顰め面に笑顔が戻る。
「……いいっすよ。俺も殴ったから」
真っ赤に腫れた頬が痛々しい。力いっぱいなぐったのだから当然だ。
悪いことをしたな、と思うけど、お互い様なのでいいのだ。
にんまりと笑みを浮かべ、さらに涼介に擦り寄ると、しかし背後から気まずそうな咳払いが聞こえた。
あれ、と思い振り返ると、複雑そうな顔をした男と、興味深そうに見ている男。
そしてうんざりしたような金の獣がいた。
そんな彼らに、涼介はにっこりと微笑み、「このように」と告げる。
「切り離す、云々ではないのです。俺と拓海は深く繋がっている。これを無理やり引き離そうと思っても、拓海が承知しないでしょう。彼は、俺以外はいらないのですから」
涼介の言葉に、涼介と面差しの似た方の男が皮肉気な笑みを浮かべた。
それを見た瞬間、拓海は悟った。
――この人、涼介さんのお父さんなんだ。
直感のようなものだった。仕草や表情、それらが涼介にあまりにも似通っていた。
「全てお前の計算通りと言うわけか?」
「いいえ、拓海は計算では図れません」
「なるほど」
双方を見比べてみれば、それがよくわかる。
紛れも無く、この二人は親子なのだと。
「それで?揺ぎ無い絆を見せつけ、私たちに認めろと言うのか?」
「認めようと認めまいと。拓海は俺のものですから」
パチリ、と父と涼介の間に火花が散った。
けれど、その火花はすぐに消え、父の凍てついた眼差しが緩み、視線が拓海へ向けられる。
悪戯そうなその瞳。
涼介にも似ているが、啓介にも似ている。
そして、拓海はどこかでその瞳を見ているような気がした。
いつだったろうか?昔ではない。
「なるほど。型外れの異端には、異端の聖女が付くか…」
そう言われた瞬間、頭の中に閃くものがあった。
以前にもそう言われた。
つい、最近に…そうだ。
夢の中で。
思わず、拓海は「あ!」と叫び、思いっきり父親に向かい指を刺した。
「あんた!」
指差された父は、気分を害することもなく、ニヤリと拓海に微笑み、そして頷いた。
「言ったろう?次に会う時には、お前の傍らには涼介がいるだろうと」
涼介は、そんな拓海と父に胡乱気な目を向ける。
だが拓海は混乱して、説明しようにもパクパクと口を開閉させるだけ。
「また会えたな。聖女よ」
拓海の脳裏に浮かぶのは、一昨日の夜に見た夢の中に現れた金の獣の姿だった。
拓海は本来、夢の中の出来事などをしっかり記憶している方ではない。
しかし、あの白い獣の夢…涼介の夢などは、はっきりと記憶している。
それは、他の夢と違い異質であったからだ。
まるで現実の出来事のように、しっかりと感覚もあるし、意識もしっかりしている。
だから、あの夢の時には分かる。
あの、涼介ではない金の獣の夢の時もそうだった。
おなじ異質感を感じた。
だから、分かる。
涼介の夢が、夢ではないのなら、の金の獣の夢も夢ではないのだ。
そして、その金の獣は、どうやら目の前の年配の男性であったらしい。
パチパチと瞬きを繰り返し、拓海はまじまじと涼介にどこか似ている男を見つめる。
そんな拓海を、面白そうに片眉を上げ笑みを刻む表情は、やはり涼介に似ている。
「涼介さんの…お父さん?」
質問は目の前の男に。
けれど縋るように見上げたのは傍らの涼介だった。
そして答えたのは、目の前の男。涼介の父だった。
「そうだ。私が当代の麒麟の当主だ」
灯台の投手?
難しい言葉をよく使う。
やはり涼介の父なのだなと、拓海は何より実感する。
そんな拓海の肩を、傍らの涼介が掴んだ。痛いくらいに力が込められる。
「……どう言う事です?」
詰問の口調。その瞳は険しく、睨みつけるように眼前の父に向けられている。
そんな涼介の緊張とは裏腹に、父は楽しげに顔を綻ばせ、「いや、何ね」と、涼介に向かい笑みを向ける。
「ちょっとその聖女の確認をしただけだ」
ギリ、と涼介の拓海の肩を掴む力がさらに込められる。
「なかなかに面白い聖女だ。異端には異端の聖女が良く似合う」
言葉の不穏さとは裏腹に、その口調は優しげだ。
拓海は首を傾げる。
まるで…そう。
あの夢の時と同じ。
最初は敵かと思わせながら、けれど本当は…。
チッ、と涼介の舌打ちが拓海の耳に届く。
そして拓海を庇うように父の前に立ちはだかる。
「……何が言いたいんです。あなたは…何がしたいんだ…!」
目の前の父親の考えが読めず、苛立つ涼介に、拓海は背後からヒョコリと顔を出し、父親の顔を見る。
その瞳にあるのは紛れも無い「親」の感情だ。
うん、と頷き、拓海は口を開いた。
「涼介さんが心配だったんですか?」
そう尋ねると、涼介は驚きの顔で振り向いたが、父は満足そうに頷いた。
「そうだ」
「涼介さんが心配だから、俺がどんな奴か、わざわざ夢の中まで来たんですか?」
「ああ」
「俺、涼介さんのハンリョで大丈夫だったですか?」
「まぁ…面白いなとは思ったよ。後は…涼介の覚悟だけが知りたかったけれどね」
ああ、そうか。
それが今の茶番なのだ。
ウン、と納得して頷いた拓海に、遅ればせながら涼介も気付いたらしい。
「まさか……」
しかし、けれどどこか信じ難い様子で父親と、拓海の顔を交互に見つめる。
「涼介は異端だ。最初この子が白い麒麟として生まれたとき、私は驚きよりも不安があった。
麒麟だろうと人間だろうと、自分とは違う異質な存在を怖れと同時に嫌悪する。
この子は、間違いなく一族から迫害され辛い目に遭うだろうと」
涼介の目が眇められる。
「だから私は涼介を厳しく扱った。
甘えを許さず、常に己が異端である事を思い知らすように、何度も涼介の色を貶した」
初めて、強かった父親の瞳に陰りが見える。
涼介は目を眇めたまま、そんな父親を凝視していた。
「それが…正しかったとは思わない。だが私に出来たのはそれだけだ。迫害に負けず、自身の境遇に負けない精神を育てる方法など…それだけしか考えつかなかったのだよ」
涼介の唇が震えた。
「それで……心が折れ、俺が崩壊するとは思わなかったんですか?」
戦慄く唇から漏れた言葉の苦渋さが、涼介が味わった辛酸を物語っているようで、拓海は涼介の腕をかき抱く。
俺がいるからね。
そう、伝えるように。
「迫害は避けられない。それに耐えられなければそれまでだと考えた。
しかし同時に、お前の強さを信じてもいた。
そしてそれは…私の信じていた通りでもあった」
噛み締めるような父親の言葉に、初めて涼介の顔が綻んだ。
そして、
「ええ。その通りです」
しっかりと、真正面から見返す瞳に陰りの欠片も無かった。
「お前なら、迫害を恐れない誰よりも強い当主となるだろう」
父親の言葉に、息を飲んだのは涼介ではなく、静観していた啓介だった。
「それって…」
呆然としたように呟かれた言葉。
意味が分からず、涼介を見上げると、優しい瞳が拓海に注がれる。
「俺が……次代の当主だということだよ」
やはり意味がわからない。
けれど、涼介はとてもホッとした顔をしていた。
そして感極まったように、拓海の体を抱き締める。
「……俺の聖女」
よく意味がわからないけど、涼介に抱き締められるのは好きだ。
大事だ、好きだと体中で伝えられているようで。
「俺の伴侶」
掻き抱く腕に身を預け、肩に頬を預ける。
「お前が俺に勇気をくれた。お前が俺を強くした。そして俺に覚悟を決めさせた。お前の為ならどこまでも俺は強くなれるだろう。だから…」
強い人。
綺麗な人。
そして、どこか脆い人。
そんな涼介が大好きだ。
だから、
「だから…ずっと一緒にいてくれ」
その願いは、拓海の願いでもある。
ずっと涼介の傍で、涼介を支えたいのだ。
だから拓海は頷いた。
きゅぅ、とまず真っ先に生まれたばかりの子宮が疼いて返事する。
その感覚にむずがゆさを覚えながら、拓海は涼介の手のひらを自分のお腹に当て、彼の目を見つめた。
「責任…取って下さいね?」
何しろ男として生きてきた自分に、女の部分が出来てしまったのだ。後から放り出されても困る。
にっこり見上げて微笑むと、涼介は照れたように微笑んだ。
「愛してるよ。拓海」
またお腹がキュゥと疼いた。
今まで知らなかった感覚。
ああ、自分は変わってしまったのだなと感じながら、けれど嬉しさを覚え、拓海もまた喜びに顔を綻ばせた。
両思い。
周囲からの祝福。
あとは本人次第…と言うわけにはいかないのが一族と言うものらしい。
拓海としては、涼介といつでも一緒にいたかったのだが、それこそ即結婚と言うわけにはいかず、拓海には聖女修行のようなものがあるらしい。
これがまた面倒で、一族相関図から、礼儀作法など。
就職が決まっていた運送会社を断り、卒業後は涼介の母の元で少しずつ学ぶ事が決まった。
元より、女性を併せ持った性別になった為、体調が不安定で、また労務作業の多い運送業は体力的に無理だろうと言う医師の診断もあるにはあったのだが。
非常に面倒で、拓海にとっては苦手分野なのだが、それでも涼介のためだと思うと頑張れるのだから不思議だ。
「正式な結婚式は涼介の卒業と同時になるからな」
涼介と啓介の母だと言う先代の聖女は、拓海の想像を超えた驚くべき人だった。
何と言うか…。
啓介にそっくりなのだ。
見かけがでは無い。性格がだ。
一見、小柄な童顔の青年に見せかけ、性別不明な色気も有しながら、しかし中身はさっくりとしたざっくばらん。口調も啓介に良く似ている。
散々涼介の父に「異端の聖女」だの言われてきた拓海だけど、聖女ってそもそも結構変わった人多いんじゃねぇの?なんて、不満は無きにしもあらず。
高橋家で同居しながら、涼介との結婚の日を待ちつつ、涼介が立ち上げたプロジェクトDのドライバーとして活躍する。
中々に充実して忙しい日々だ。
一年前の自分は、ただ無為に時間を過ごす怠惰な高校生だった。
それが涼介に出会ったことで、運命どころか性別さえ激変した。
正直、後悔しないかと言われると、言葉に詰まる。
変わってしまった運命に恐ろしくもあるし、未だ自分の体とは思えないほどの不思議さには戸惑ってばかりだ。
けれど。
「ただいま」
FCの音が聞こえた頃から、玄関で待っていた。
今か今かと扉が開くのを待ち、そしてお目当ての人の顔が見えた途端、拓海の不安そうだった顔に笑みが生まれる。
「お帰りなさい。涼介さん」
そして、拓海の何より大好きな伴侶の顔にも安心したような笑みが零れた。
「ただいま。拓海」
不安も怖れも何もかも。
この涼介の前では吹き飛んでしまう。
にっこり微笑み、そして拓海は聖女修行の第一歩として、教えられた伴侶への正しい出迎えの方法を実践する。
ぎゅっと抱きつき愛情表現。
さらに…キス。
涼介たち麒麟の食べ物は、普通の食品も食べるが、何よりのごちそうは伴侶の「気」らしい。
なので、ちゃんと肌を触れ合わせ、涼介たちに気を分け与えるのが重要なのだそうだ。
拓海のキスを味わった涼介は、満足そうに微笑み、拓海の頬を撫でた。
「ああ…今日も甘いな」
そしてスルリと頬を撫でた指が、拓海の耳朶に向かい、口を寄せ囁いた。
「もっと…たくさんいっぱい味わっていい?」
艶を帯びた囁きに、拓海の顔が真っ赤に染まる。
セックスに慣れない頃は痛かったり、怖さもあったけれど。
「…はい。いっぱい…食べて下さいね」
今では考えただけでお腹が疼いて仕方が無い。
拓海の返事に、にっこり微笑んだ涼介が、拓海の体を抱き上げ、そのまま部屋へと移動する。
そんな二人に彼らの周囲の人々の目下の心配は、
『結婚式より前に子供が出来てしまうのではないか…』
で、ある事を、幸せな二人は知る由も無い。
そして甘く和やかに、二人は今日も、明日も、ずっと。幸せに暮らし続ける。
-------END