勘違い狂想曲

act.7(※R18)


※大人表現有。18歳未満の閲覧禁止※


 口淫を彼にさせた事はなかった。
 どころか、彼に自分がする事も無かった。
 その行為に嫌悪していたわけではなく、まだ不慣れな拓海をこれ以上怯えさせたくなかったからだ。
 本当は、手で、指で、そして舌で、自分の知らないところが無いくらいに、彼の全てを喰らい尽くしたかったのだ。
 今、その願いが叶っている。
 そこを舌で解す。ゴクリと生唾を飲み込みながらも、躊躇いが残り出来なかったそれをしている。
 かつての性交渉の相手に対し、涼介は余り能動的ではなかった。
 口淫させることはあっても、自分が相手に対ししたいと思ったことは一度も無い。
 むしろ、嫌悪感さえ抱いていたのに、どうして拓海のときにはこんなにも興奮し、幸せさえ感じるのだろう。
 羞恥に肌を真っ赤に染め、恥ずかしそうに顔を背けたその瞳には涙の粒がびっしり浮いている。時おり、刺激でポロリと頬を伝う様が艶かしい。
 薄く開いた唇から留め止めもなく荒い息と、掠れた声。
 エプロンの薄い布地の中の肢体。ハァハァと荒い呼吸と連動するように上下する胸の先端の突起が固く膨らみ、布地の下からでもその存在感を示している。
 そして何より、拓海が男であることを象徴する男性器。
 そこは先ほど欲を吐き出したばかりだというのに、またも膨らみ、薄い布地では隠しきれないくらいに大きくなっている。
「…や、です…見ないで…」
 じっと見つめるその視線に気付いたのか、拓海が己の股間を両の手のひらで隠す。
 だが、隠される方が興奮するとは、物慣れない彼は知らないのだろう。
「隠さないで」
 顔を蕾から離し、代わりに指を突き入れる。十分に湿ったそこは、涼介の指を難なく飲み込んだ。
 熱く、きつく閉まる内部。密かに扇動しているそこに、涼介の欲望が増す。
 早く突き入れたいと、鎖を引きちぎらんばかりの獣性が暴れだす。
 ゴクリと、唾を飲み込むことでそれを誤魔化す。呼吸が、拓海に負けないくらいに荒くなっている自覚がある。
 まるで、本当の獣だ。
 美味そうな餌を前にして、堪えきれず浅ましく涎を垂らす。
「さっきイったばかりなのに、また大きくしたのか?」
 意地悪く囁きながら、彼の指の上から欲望の大きさをなぞるように舌を這わせた。指の上からでも、下にある彼の欲望が戦慄いたのが分かった。
 ポロリと、また拓海の目尻の涙が零れ落ちる。
「だ、だって、涼介さんが…そんなとこ…」
 言いづらそうに口ごもる。それにまたゾクゾクとする気持ちを抑えられない。
 どうしようもない。もう、病気だ。
 喰らい尽くしても足りないくらいに、拓海にハマっている。
 彼の何もかもが涼介を煽るし、そして可愛くて仕方がない。
 内部をうごめかす指を、二本に増やす。
「…あ、ぁあ…ぅ」
 拓海の弱い部分を指で掠めるように擦ると、どろりと内部が濡れ、蛇のように身体をくねらせた。
 ドクン、と心臓が激しく太鼓のような音を響かせる。
 指を三本に増やす。
 限界なくらいに広げられた狭いそこ。
 けれど傷つけることなく指を飲み込み、もっと、と煽るように内部が扇動している。
 ゆっくりと慎重に、上下にそれを揺らめかす。
「…はぁ、ん…ぅう…」
 頬を、真っ赤に染め、首を何度も振りながら身体をくねらせる。
 だが、嫌なわけではないのは、誘い込むように扇動する内部と、膨らんだ性器が教えてくれている。
 もう、限界だった。
 忙しなく二三度自身の欲を手で擦り、切っ先を割り広げた拓海の内部に向ける。
「…挿れるぞ」
 言うと同時に、高々と腰を持ち上げ、上から突き刺すように沈み込ませた。
「ふ、あぁ…!」
 衝撃に、弓なりに反った背中に腕を回し、思いの丈を込めて抱きしめる。
 止まらない欲望が、最初に丸め込み手を出した時と同じ、いやそれよりも激しく拓海を求める。
 乱暴なくらいに腰を動かし、拓海のペースも考えずに己の欲望だけに目を捉われる。
「…好きだ」
 そう囁くと内部が締まった。
「愛してるんだ」
 ぎゅう、と絞り込んだ。
「ずっと…一緒にいてくれ」
 胸の中に秘めた願い。それが口から溢れる。
 無理に関係を持っていると思っていたため、封じられていた言葉。
 だが、封じていたものは封じられたままにしておけば良かったのかも知れない。
 その言葉を囁いた途端、ビクリと激しく拓海の身体が震え、そして涼介を痛いくらいに締め付けた。
「…っくぅ…拓海?」
 ひっく、としゃくり上げる声に彼を見つめれば、快感に無き濡れたものとは違う、迷子の子供のように泣きじゃくる彼がいた。
「た、拓海?!」
 彼の内部に入ったまま、慌てる。
 ドン、と拓海が拳で涼介の胸を叩いた。
「…うそつき」
 また、涼介の胸をドンと叩く。
 なのに、内に迎え入れた涼介は、離さないくらいの強い力で締め付ける。
「涼介さん…嘘ばっかりだ…」
 悲しげな泣き声を上げながら、涼介を叩きながら、しかし拓海の足は涼介の腰に絡まり、離そうとしない。
「…拓海、いったい…」
「涼介さんの嘘吐き!!」
 ドン、と両手で胸を叩かれる。強い力に、咽て咳き込めば振動が拓海にも伝わったらしく、
「……ん、ぁ…」
 と腰を捩った。
 …どうすれば良いのか?
 痛いわ、困るやら、気持ちいいやら。
 困惑し、何も言葉を返せないでいると、そんな涼介の様子を窺った拓海が、またも悲しそうな顔で涙を零す。
 まるで萎れた花のように項垂れ、涙を流しながら叫ぶ。
「…涼介さんなんて…大っ嫌いだ…」
 そう言いながらも、涼介の身体を抱きしめ、胸に顔を埋めて…泣く。
「…嫌いだ…大っ嫌い…」
 何度も、呟きながら離されないようにしがみ付く。
 じんわりと、胸の中に熱いものが込み上げる。
 自然と緩んできた口元を手のひらで覆い隠し、赤くなった頬を隠すように背ける。
 …もしかして。いや、もしかしなくても。
 さすがに、どんな鈍感にだって分かる。

 …もの凄く好かれてないか、俺?

 嬉しくて、幸せで、感情と直結した欲望が膨らんだ。
「…っや、何で?!…おっきくなった」
 信じられないとばかりに、泣き濡れた眼差しで涼介を見上げる。
 もう、ニヤける顔は誤魔化せない。
「拓海があんまり可愛いから」
 そう言うと、唇を尖らせ、そっぽを向いた。
「…悪趣味だ」
「俺が嫌いか?」
「………嫌いだ」
「それは残念だ。俺は拓海をこんなにも愛してるのに」
 囁きながら、腰を揺らめかせれば拓海が喘いだ。
「…ぅん、あぁ………ぅぅ、うそつきぃ」
「何が嘘?」
「……俺のことなんて好きじゃないくせにぃ…」
 漸く、涼介にも気が付いた。
 これは何かとんでもない勘違いをしている事に。
「好きだよ。どうして嘘だなんて思うんだ?」
 ぷい、とまた拗ねたように顔を背けた。
「…好きなのは俺じゃなくて…」
「拓海じゃなくて?」
「…裸エプロンでしょ?」

「……はぁ??!」

 驚きすぎて。
 あまりにもびっくりしすぎて涼介は…。

「……あ」
「……あ」
 イってしまった。


2007.3.4

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