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 ギシギシ、とベッドが軋む。
 目の前で、薄桃色に肌を染め、汗と艶を纏った肢体がくねる。
 真ん中にある小さな赤い二つの突起。
 最初は小さなピンク色だったそれは、弄りすぎて真っ赤に膨れ腫れている。
 小さなそれに舌を這わせ、乳輪ごと舐めねぶると、肌がざわめき下腹に当たる欲望が跳ねた。
「…ん、…はぁ、ぅう…」
 抑えようも無く、溢れ出る艶を帯びた声。
 真っ赤な突起を舐めながら、もう片方のそれを指で摘み、体の最奥の部分にむき出しの欲望を捻るように突き入れる。
「ひっ…!…あ、はぁ…」
 悲鳴に似た掠れた声をあげ、組み敷く彼の欲望が爆ぜる。
 涼介の腹に撒き散らすようにかけられた生温かい粘液と堪らない締め付けに、煽られるようにグイグイと腰の動きを早める。
「……っ、拓海!」
 名を呼びながら、涼介もまた拓海の中に昂ぶった欲望を吐き出す。
 脱力し、挿入したまま彼の体に倒れこめば、下から満足そうな吐息を吐きながら抱きしめ返してくる。
「……涼介さん…」
 オーガニズムは、小さな死だと誰かが表現していたのを覚えている。
 絶頂を迎えるたびに、その度に小さな死を繰り返しているのだと。
 ならば、死にそうなほどに好き、と言う表現は正しくない。
「…何度死んでも…好き、だな」
 あのバスルームから移動して、何度死を繰り返したことか。
 医者を目指す人間として、乱暴で性急な自分の行為のせいで赤く腫れた蕾に、これ以上はするまいと抑制していた心は、拓海の体を洗っているだけで脆くも崩れた。
 内部の、吐き出してしまった欲望を掻き出す指に。
 必死に、感じまいと堪える拓海の表情に。
 浅ましくもまた欲望が勃ち上がり、どうしようもなく涼介の情動を煽る。
 そしてそれでも堪えようとする涼介だったが、隆起したそれに気付いた拓海が潤んだ眼差しで訴えかけたのにやられた。
 じ、っとそこを見つめ、舌なめずりをする。
『…涼介さん、あの…辛くないですか?…イヤじゃなかったら、その…しましょうか?』
 誘惑に…負けた。
 そして本当は拓海は手でするつもりだったのかも知れないが、そ知らぬ振りで彼の顔を掴み、下部に寄せた。
 素直に、拓海は跪き涼介の欲望を口に咥えた。
 妄想した通りの状況。
 慣れていないせいで、すぐにえづき、苦しそうに咽たり、ぎこちない舌遣いで必死に愛撫をする拓海。妄想通りの、いやそれ以上にそそる姿に、涼介の内で加虐心と愛しさが募る。
 そして最低なことに、顔射までして彼のまだ幼さの残る顔を汚した。
 さすがに、欲望を吐き出した後は自己嫌悪に陥った。
 …が。
 ベタつく顔を指で拭い、手に付いた粘液を赤い舌でぺろりと舐め、無意識だろう仕草で焦れたように腰を振る。
 その媚態に…またやられた。
 思い切り突き上げ、組み敷き、壊れるほどに犯したい。
 そんな衝動に駆られ、拓海を抱き上げ、濡れたままの体でバスルームを飛び出し自室のベッドの上で拓海を組み敷いた。
 もうすっかり膨れ上がった欲望を、緩んだままの拓海の蕾に突き刺す。
 そして何度も揺さぶり…今に至る。
 あれから、何度したのかなんて涼介に分からない。
 こんなにも理性が切れた状態になるのも、こんなにも我を忘れるまでセックスにのめりこんだのも初めてだ。
 何度貪っても、足りない。
 そんな感覚もまた初めてだ。
 折り重なった体を起こし、内部に突き刺さったままの自身の欲を抜き出す。抜くと同時に、溢れるほどに注いだ涼介の欲望がドロドロと零れ落ちる。
 シーツの上に、まるで粗相のように広がっていくそれを涼介は思わずまじまじと見た。
 そしてまた下腹を中心にざわめき始めるが、さすがにぷっくりと腫れあがった拓海のそこに、なけなしの理性を総動員させる。
 暫く放心していた拓海は、だがすぐに自身から零れ落ちていく粘液のことに気付いたのだろう。そしてそれを凝視する涼介にも。
 カァ、と一気に全身を赤く染め、クシャクシャになっている布団の端っこを引っ張り、慌てて股間を隠す。
「……やだ…見ないで下さい…」
 喘ぎすぎ、少し掠れた声。そして媚態とは裏腹の羞恥する姿。
 …何で、まぁ…コイツは俺を煽るのが上手いかな?
 感心するほどだ。
「見せろよ。いいだろう?」
 今の自分の顔は、きっとやに下がったオヤジのようなみっともない顔になっているはずだ。
「や、やだって、涼介さん!」
 無理やりその手から布団を剥がし、あげく足に手をかけ割り広げる。
 自分の精液で、ドロドロに汚れた場所。ゴクリと唾を飲み込む。
 だが、羞恥に耐えられず身を捩った拓海が、思わず上げた声に我に返る。
「……いってぇ…」
 赤かった顔が、一転青く変化している。
 欲望が消え、沸き起こったのは労わりの気持ち。
「大丈夫か?!」
 考えれば、そんな器官では無い場所を、自身の大きなもので散々かき回し、しかも乱暴な動きで痛めつけたのだ。拓海に負担がかかっていないはずが無い。
「…だい、じょうぶです。ちょっとビリビリするだけ」
 そうは言うが、その痛さを押し殺した表情を見ていれば、大丈夫ではないのは火を見るより明らかだ。
「…悪かった。つい、我を忘れて……乱暴にしたな」
 どうやら出血など、切れてはいないようなのが幸いだ。
 涼介は下半身にのみ服を纏い、薬を取りに行こうと立ち上がる。
「涼介さん?どこに行くの?!」
 だが、慌てた様子で拓海がベッドから身を起こす。だが無理な動きだったのだろう。また呻いてシーツの中に戻った。
「拓海!」
 涼介は呻く拓海の頭を撫で、安心させるように微笑んだ。
「無理するな。薬を取ってくるだけだから、すぐに戻る」
 コクンと小さく頷きながらも、けれど拓海の手は涼介の手を掴む。
「…涼介さん…」
 不安そうな表情。何がそんなに心配させているのだろう。
『…まさか…初めてでこんなにヤられると思っていなかったから…嫌気が差したとか言うのでは…』
 ドキドキと嫌な予感が頭に浮かぶ。
 だが、
「あの……良かったですか?」
「…………え?」
「…俺、と、その…やって…」
「…………は?」
「俺…ヘタだし、初めてだし、あと…男だし…」
『やはり初めてか!』
 と、思わず緩む顔をまた引き締める。今重要なのはそこではない。
「拓海?」
「なのに…俺、すげぇヤらしいこととか、いっぱいしたし…」
 枕に顔を埋めて恥らう拓海。
 今度からその枕を見るたびに、その拓海の姿態を思い出し、幾らでも勃起できそうだ。
「だから…涼介さん、イヤになりませんでしたか?」

 …倒れそうだ。

 食べたいほど可愛い、とか。
 目に入れても痛くない、など。
 そんな表現は多々あるが、こんなにも何度も自分を殺す存在を涼介は知らない。
「…あのな、拓海」
「……はい」
 おそるおそる、と言った風情で拓海が枕から顔を上げる。不安に濡れた瞳。それだけでまた理性が焼切れそうだ。
「俺はな、元来性欲に関しては淡白なんだ」
「……はぁ」
「恋人、と言う存在を欲した事もないし、執着したことも無い。それは…かつてはそんな関係を結んだことも無いわけではないが、だがあまりにも俺が素っ気ないんですぐに別れたぞ」
「………はい…」
 涼介のかつての恋愛遍歴に拓海の顔が曇る。そんな顔に、涼介の焦りは増す。
「別れても、どうでも良かった。元々、好きとかそんな感情で付き合ったわけではなく、断るのが面倒だからそうしたというのもあって……」
 言えば言うほど、拓海の陰りは深くなる。
 ああ、そうじゃない、と心の中で叫ぶ。
 拓海に関すると、涼介の計算は狂いっぱなしだ。
 満足に働かない頭にイライラする。
「……分かってます」
 だから、拓海のその諦めたような表情と言葉にブチ切れた。
「何がだ?!」
 いきなり、腕を掴み睨む涼介に、拓海の大きな瞳が零れ落ちんばかりに見開く。
 だが、もう止まらない。
「もう俺が嫌になったか?!」
「…あの…涼介さん?」
「がっついたからか?脇の匂いで欲情したからか?顔射もさせたからか?イくのが早すぎたからか?それとも……下手だったか?」
 最後の言葉は漸く聞き取れるくらいに小さく。
 ガックリ項垂れ、拓海の胸に顔を埋める。
「…ちくしょう…絶対に別れねぇからな。もし別れても…絶対にストーカーしてやる。…いや、どこかに監禁して閉じ込めると言うのも…」
 ブツブツと、物騒なことを呟きだした涼介の頭上から、クスクスと笑う声が降る。
 頭を撫でる手に励まされ、顔を上げれば拓海がこれ以上はないくらいに幸せそうに笑っている。
「涼介さんってもっとクールだと思ってた」
 ふんわりと、涼介の心に温かいものが広がる。それが、幸せだと感じる心なのだと、後に涼介は悟る。
「…幻滅したか?」
 笑顔のまま、拓海が首を横に振る。
「いいえ。変態で、エロくて、ちょっとおかしくても涼介さんが好きですよ」
 拓海と同じ表情で、涼介もまた笑う。
「俺も、拓海がイヤらしくて可愛くて、頭がおかしくなるくらいに好きだな」
「…イヤじゃありません?俺…男だけど…」
「俺は早漏じゃない」
 グリグリとその胸に頭を擦り付ける。甘えた仕草だ。だが心地好い。
「その俺が、お前に関しては堪えきれずさっさとイっちまうんだ。答えにならないか?」
「…わかんないですよ、そんなの。俺、涼介さんとしかシタことねぇし…」
 唇を尖らせ、拗ねる拓海の表情を見ながらまた涼介の顔が緩む。
 可愛い。
 どうしてこんなにも、何もかもが涼介の好みなのだろうか?
 まるで自分のために、生まれてきたような存在だ。
「…分かった」
「え?」
「てっとり早く、俺の愛情を見せてやるよ」
 そう言いながら体を起こし、拓海の足を掴む。
「え、あの…」
 体を下へずらし、狭間の濡れた部分に顔を寄せる。
「薬なんて使わねぇ。…俺が舐める」
 一瞬、何を言われたのか分からなかったのだろう。
 きょとん、と自分を見つめていた拓海の顔が、どんどん上記し、頭から湯気が立ちそうなくらいに真っ赤になる。
「…な、な、な、な……」
「舐めて治してやるよ」
 舌なめずりをしながら、腫れた箇所に顔を寄せ、息を吹きかける。
 バタバタと暴れそうになる足を、強い力で抑え込む。
 緊張のためだろう。パクパクとそこは何度も収縮を繰り返す。そのたび、中の液が溢れ、何とも言えずに艶かしい。
「…や、やだ、涼介さん!」
「もうお前が不安にならないように、教えてやるよ」
 舌を伸ばし、そこに触れる。
 つん、と突き、そしてベロリと舐め上げる。

「俺がそれだけ、お前に惚れてるかってのをな…」







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