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 唇が腫れ、舌が痺れるぐらいに深く、何度も何度もキスをする。
 お互いの唾液を嚥下し、飲みきれず溢れ出た滴が首筋を伝い鎖骨に留まる。
 それを追うように、涼介の舌が拓海の肌の上を滑る。
 ぺろりと滴で濡れた肌を舐め、そして浮き出た鎖骨に歯を立てた。
「…くぅ…」
 痛みと痺れが混じった感覚に、拓海はくぐもった呻き声を上げる。
 それに、涼介はクスリと笑い、そしてさらに唇を下の方へと這わせていく。
 肩を辿り、敏感な脇の部分に鼻を押し付けその匂いを嗅ぐ。
「そ、そんなとこ……!」
 驚き、拓海は涼介の頭を押しのけようとする。まさか、そんな場所の匂いを嗅がれるとは思ってもみなかった。
 羞恥に、さらにきつくなった体臭を涼介は楽しむ。
 ザラリ、と毛を舐め、脇下のくぼんだ部分に舌を這わせる。チロチロと敏感な部分を舌でくすぐられ、拓海はくすぐったさとも、快感とも言える感触に身を震わせた。
「そんなに恥ずかしがるな」
 唇を唾液で濡らし、跪いた涼介が微笑み拓海を見上げる。
「お前の匂い、好きだぜ俺は。…ゾクゾクする」
 そして、クン、と再度また鼻を押し付け匂いを嗅ぐ。
「く、くさいだけです!」
 風呂に入っていたため、汗臭いことは無いだろうが、匂うことは匂うだろう。いたたまれず、拓海は脇を固め涼介の頭を必死に押しのける。
「そうでもないぜ。脇から漂う体臭にはアポクリン汗腺が元になっているんだが、そのアポクリン汗はフェロモンの役割を果たすんだ。元来、赤ん坊は全身にこのアポクリン汗腺を有しているんだが、成長とともにそれが脇や陰部などにしか残らない。だから……」
 またも、べろりと毛ごと舐めねぶる。
「お前のここの匂いは、俺を堪らなくさせるんだよ」
 カーっと、全身が羞恥で赤く染まる。
「……変態」
 思わず、唇を尖らせ悪態を吐く。
 その拓海の言葉に、少し涼介はムッとしたようだが、すぐにまたニヤリと笑った。
「そんな変態に舐められて、ここをドロドロにしてるお前も変態だな」
 ぎゅ、っと涼介の腕が拓海の隆起した欲望を握る。その先端からは涼介の言葉通り、液が溢れ滴っている。
「…ち、違います!」
「違う?じゃ、何でこんなふうになってるんだ?」
 ぐちゅ。ぐちゅ、と涼介が欲望を上下に擦りあげる。指が立てる粘液の音が拓海の耳に響き、羞恥心を煽る。
「だって…涼介さんが…」
「触るから?」
「…好きだから」
「………」
 笑っていた涼介の笑みが強張る。
「…馬鹿が」
 舌打ちし、立ち上がる。
 そして拓海の体を反転させ、腰を突き出した状態で壁に手を付け立たせた。
 涼介の歯が、髪の生え際の項を食む。
「お前に触ってるだけで俺はいっぱいいっぱいなんだよ。それを…リミッターぶち切るような事を言いやがって…」
 拓海からは涼介の表情は見えない。
 けれど荒い呼吸と、いつにない乱暴な口調が、それが嘘ではないことを知らせている。
 そんな涼介に、拓海の心臓はこれ以上ないくらいに戦慄く。
 お尻の部分に当たる固い感触。
 それが何であるのかを、拓海はもう察している。
 湿った、熱く固いもの。
 それが、自分の中に突き入れられる。
 想像しただけで、痛いのだろうとは思う。あんな狭い場所に、彼のあんな大きなものが入るのだから。
 だけど、あの剛直を突き入れられ、呼吸のままの乱暴な感じで揺さぶられることを想像すると、拓海の体中がジワジワと疼いてくる。
 怖い。
 けど…欲しい。
「…りょう、すけ、さん…」
 欲しい、とは言えず、体で示す。腰を押し付け、固いそれを刺激する。
 また背後から舌打ちが聞こえる。
「だからお前は…クソっ!」
 今度は唸り声が聞こえ、拓海の臀部を痛いくらいの力で掴み、左右に割り広げられる。
「……っ?!」
 割り広げられ、狭間の小さな蕾の部分に指が触れる。
 窄まった襞をなぞるように、指がそこを弄った。
「いきなりは突っ込まねぇよ。まずは拡張だ。だから…まだ我慢しろ」
 自分こそが、我慢心頭の声音で涼介が命令する。
 拓海は、覚悟はしていたが実際にそんな部分を見られた羞恥で体が強張る。頭はもう沸騰しそうなほどに熱く、冷静な判断力など無く、ただ涼介の言葉にコクコクと頷いた。
 カシュ、とポンプタイプのボディソープを出す音がする。
 そして次に感じたのは、狭間に感じたヌルっとした滑り。
「息を吐いて…そうだ。深く…」
 言われた通りに息を吐く。ふっと、緊張が解けた瞬間に、ぐるぐると蕾を弄っていた指が、つるりと穴の中に入り込んだ。
「……わ、わぁっ!」
 驚き、入り込んだ指を締め付ける。
 背後で、クスッと笑った気配がした。
「頼むから食いちぎるなよ。指なんかで終わりたくはないからな」
 そして拓海の手を取り、背後へと回す。
 指先に感じたのは熱く固いもの。
「…お前のここに、俺のコレを入れたいんだよ」
 切なげな声で、囁く言葉に拓海の全てが甘く痺れる。
 手の中のこれを欲するのは自分も同じ。
 深く息を吐き、拓海は涼介の指を奥深くまで誘い込むように受け入れる。
 グジュ、と濡れた音が臀部から響く。その音に、また力が入りそうになるが必至に息を吐く。
「…熱いな」
 項に、涼介の吐息がかかる。
 それに煽られ、拓海の尾骨からゾクゾクと快感が走る。
 クスッ、と涼介が笑った。
「お前…今、潤んだぜ?気持ち良いのか?」
 指を、突き入れ、そして引きずり出す。
 気持ち悪い。
 だけど、あの涼介の指が自分の内部をかき回している。それだけで拓海は嬉しくて泣きそうだ。
 そして内部をかき回す指が、拓海の中のある一点を掠めた瞬間、頭が真っ白になってフラッシュが瞬く。
「…ひっ、あ、あぁっ…!!」
 パタパタと、手を付いた壁と床のタイルに白い斑点が散る。
 衝撃から冷め、ハァ、と溜息とともに目を開けた拓海は、自分が達したことを知る。
「そこが前立腺。聞いたことがあるか?」
 ブルブルと首を横に振る。
「膀胱の真下にあって…直腸から触れると…そう、この当たりだ」
 その一点を刺激された瞬間、達したばかりのはずの欲望が、またゆるゆると立ち上がる。
 まるで自分がミダラな生き物になってしまったようで、拓海は浅ましさから涙を浮かべる。
 すると涼介はそんな拓海の不安そうな表情から気付いたのだろう。「大丈夫だ」と囁いた。
「前立腺は尿と精液の流れを調節する働きがあるんだ。だから…ここを刺激すると健康な男性なら誰でも勃起してしまう。だから拓海のこれは…」
 と、言いながら、涼介の指が立ち上がったそこを握った。
「別に変なことじゃないんだよ」
 そして上下に擦り上げる。
「…あ、…んぁ…」
 前と、後ろとを同時に刺激され、拓海の視界がまたフラッシュに包まれる。
 ジンジンと腰を中心に痺れが広がり、どんどん上昇していくエネルギーの塊のようなものを感じる。
「…凄いな。緩んできた」
 楽しげな涼介の声とともに、狭い内部にさらに指が増やされる。
 後ろが立てる音はさらに増し、腰から下がまるでドロドロの粘液に浸かっているかのようだ。
 三本に増やされた指が、内部を弄る。
 広げられていく下部。
 涼介のために、広がっていく。
 彼を受け入れるために、彼の指が拓海を割り広げていく。
「…あ、…あ…」
 もう正常な思考は無い。
 感覚の中心が、指が穿たれた場所だけになる。
「…もうそろそろ…いいか」
 荒い息遣い。その呼吸から、涼介もまた我慢していたことを知る。
「はや、く…りょうすけさん…」
 指が抜かれていく。
 空いた隙間をいっぱいに埋めて欲しくて、拓海は腰を振り、涼介を誘った。
 ゴクリと、生唾を飲み込む音が背後で聞こえる。
「…拓海…!」
 いきなり、だった。
 ズン、と衝撃を感じ、内臓がひっくり返りそうなくらいの勢いで突き刺されたことを知る。
「……っ、ぅ…」
 お腹の中がいっぱいで苦しい。
 乱暴に挿入された敏感な内膜に痛みを感じる。
「…っ、ごめん、拓海…、っぅ…」
 荒々しい息と、そして掠れた声。
 痛いくらいの力で拓海の腰を掴み、そして余裕の無い仕草で乱暴に抜き差しする。
 苦しい。
 痛い。
 けれどさっき刺激された前立腺に、涼介の一番太い部分が掠めた瞬間、得もいわれぬ快感が走る。
 ピタピタと、二人のむき出しの肌がぶつかる音が響く。
「…んぁ…りょう、すけさ…っぁ…」
 どんな顔で自分を抱いているのか。
 見たくて、苦しい体制ながらも拓海は首だけで振り返り、涼介を見つめる。
 欲に濡れ、熱を孕んだ瞳。額からは汗が流れ、きつく引き締まった唇は、今は閉じることなく荒い呼吸を繰り返している。
 拓海が見つめていることに気付いた涼介が、ニヤリと微笑む。
「…気持ち…いいか…?」
 かき回すように、内部を抉る。
「あ、…ん…」
 女のような甲高い声が上がる。情けない、という感情が一瞬沸くが、涼介がそんな自分の声を聞き笑みが深まったことで、喜びのほうが増した。
「…言えよ…どうだ?」
 ペロリと自身の唇を舐めながら、涼介が再度問いかける。
『…すっげぇエロい顔』
 そんな顔をさせているのは自分。
 熱く固いあの剛直を受け入れ、一つになっている。
「…りょうすけ、さんは?」
「……うん…?」
「…どう、なんです、か?」
 ぐん、と拓海の内部の欲望の勢いが増す。その突然の圧迫感に、拓海は呻いた。
「…愚問だな」
 腰の動きが早くなる。
 激しい動きに付いていけず、砕けそうになる拓海の腰を涼介が支え、さらに押し込みかき回す。
「達きそうだ…」
 耳元に注ぎ込まれるように囁かれ、拓海の快楽が深まる。
「…好きだよ」
 厭らしい音を立てる結合部とは裏腹に、その囁きは真摯な祈りのようにも聞こえた。
「…好きだ」
 何度も、繰り返しながら腰を振る。
 淫猥と、純情と。
 拓海の目尻から涙が零れ落ちる。
 この人が好きだ。
 これ以上、ないくらいに。
「…好き…です…」
 泣きながら呟けば、涼介がその唇を塞ぐ。
 舌を絡め、どこまでも深く繋がり合う。
「たく、み…」
 彼が拓海の名を囁く。
 拓海もまた、彼の名を呼び返したいのに、出てきたのは甲高い嬌声だけだった。
「…ん、ふぅ…ぁあっ……」
 激しい熱でドロドロに溶かされる。
 涼介の熱。そして拓海の内から湧き出る熱。
 高まりあい、二人の間の境界線が無くなるくらいに一つになる。
 彼の体と自分の体の間の隙間が恋しい。もっと一つになりたくて、突き入れられた涼介の一部を自らの肉で包み込む。
「……っ、くっ…」
 その瞬間、奥で欲望が爆ぜるのを感じた。
『…ああ、涼介さんイったんだ』
 ビクビクと震える腰の動きを感じながら、拓海はやけに冷静な頭でそんな事を思う。
 そしてぎゅ、っと彼の欲を肉で握り、沸き起こる感情と感覚のままに、体内で高まった熱を吐き出す。
 壁のタイルに、ビシャ、と新たな滴が巻き散った。
 ゆったりと、バスルームの壁のタイルに飛び散った粘液が伝い落ちるように、上昇していたエネルギーは頂点から下降し、緩やかに弛緩していく。
 穏やかな心地の中、力の抜けた拓海の体を涼介が支え、ぴったりと密着する。
 火照り、汗で濡れた肌が吸い付くようで心地好い。
 目が合い、照れながら微笑めば、彼もまた同じ表情で微笑んだ。
 どちらからとなく、キスをする。
 さっきまでの濃厚な繋がりが嘘のような、軽いバードキス。
 腰が痺れたように痛くて、穿たれた場所は腫れたように赤く膨れている。
 体の節々も痛いし、下部はベタベタして気持ち悪い。
 だけど。
「…死にそうなぐらい…気持ち良かった…」
 べたつく体をシャワーで流してもらいながら、拓海は快楽の名残が残る頭でそんな事を呟いた。
すると涼介はらしくなく照れた表情で微笑み、
「俺もだよ」
 と答えた。






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