奇跡が起きるまで
ERECTRICL STORM番外 act.5
夢の中で。
俺は泣いている拓海の姿を見る。
あの五年前の、俺が死んだばかりのあの姿。
泣いている拓海の涙を止めたくて、俺は手を伸ばすが彼には触れない。
『ここにいるんだ!』
何度叫んでも、拓海の耳に俺の声は届かない。
悔しくて、情けなくて。
けど…どうしようもなくて。
ただ、拓海が心配で仕方がなかった。
けれど、その感情に変化が現れたのは…拓海の傍に兄が現れた時だった。
妙な感覚だった。
兄が、拓海に惚れてるってのはすぐに分かった。
けれど、俺に遠慮して一歩も踏み出せずにいたことも。
そして拓海もまた、兄の中に俺を探しているようで、兄に惹かれているのだということもすぐに分かった。
嫉妬して、泣き喚き恨んでも良い状況なのに、なぜかそれを知ったとき、俺は安堵したんだ。
ああ、これで拓海は泣かなくて済むんだ…。
そう、思った。
これがもし、それこそ秋山とか他の男だったら、俺は許さなかっただろう。
だけど、小さい頃から俺を愛し、慈しみ、誰よりも近い場所から俺を見守ってきた兄だからこそ許せた。
何に於いても適わないと、畏怖と憧れの気持ちを抱き続けていた兄だから。
色々擦れ違いはあったが、今の二人は幸せだ。
もう、心配することも、思い残すこともないはずだ。
なのに、何故俺はここにいる?
夢の中で、成長した今の二人が、笑いながら俺に背を向ける。省みることもなく。
置いていかれる。
二人の歩く道に、もう俺は必要ない。
俺は…もう生きてはいないから。
だが、俺は……。
俺は……。
2006.12.19