奇跡が起きるまで
ERECTRICL STORM番外 act.3
それから二時間後。兄が帰宅する。
近付いてくる足音だけで、俺は帰ってきたのを察知し、扉が開く前に玄関まで出迎える。
ガチャリとセキュリティのしっかりした扉が開き、疲れた表情の兄が入ってきた。
「にゃぁ」
鳴くと、兄の表情が少しだけ緩んだ。
「…ただいま」
そして身を屈め、俺の頭を撫でる。
俺に遅れて、パタパタと拓海が玄関に駆けてくる。
「お帰りなさい、涼介さん」
出迎えた拓海の顔を見た瞬間、兄の顔から疲れが消える。幸せそうにうっすらと微笑み、そして手を伸ばし首を掴み寄せ、
「…ただいま、拓海」
その唇にキスをする。
今まさに新婚真っ盛りなこの二人は、「いってらっしゃい」のキスと、「ただいま」のキスを欠かさない。
特に昨晩……シタ時の朝のキスなんて、そのままベッドにもつれ込みそうなほどの濃厚さで、正直俺の目のやり場がないくらいだ。
「ご飯、できてますよ。今用意しますね」
身を離し、拓海がまた慌しくキッチンに戻る。
兄は嬉しそうにその後姿を見つめながら頷いた。
「ああ。じゃあ、着替えて手を洗ってくるよ」
「はい。すぐ用意しますから!」
ネクタイを緩めながら、寝室へと歩いていく兄の後を俺も付いていく。
そして寝室のクローゼットから部屋着を取り出し着替える兄を、ベッドの上からぼんやりと眺める。
その俺の視線に気付き、兄が笑う。
「本当に拓海は出来た嫁さんだよな。俺は幸せ者だ」
なに猫を相手にノロケてんだよ。
「ほら、早く行かないとな。拓海が待ってる」
そして俺の体を抱き上げ、兄は鼻歌なんて歌いながら、寝室を出てキッチンへ向かう。
そこには、二人分の食事だけでなく、俺の餌まで用意した拓海が待っていた。
「涼介さん、手ェ洗ってきてくださいね。啓介もご飯だよ」
兄が笑いながら、頷き俺を床の上に降ろす。
そして兄が手を洗っている間に、俺はトテトテと歩いて拓海の傍まで行く。目の前に餌の乗った器とミルクが用意された。
拓海がしゃがみ、俺の頭を撫でる。
「はい、ご飯。ゆっくり食べるんだよ」
拓海が笑う。
「にゃぁ」
と俺は鳴き、そして目の前のご飯を口に含んだ。
2006.12.17