大人の恋は厄介だ。
感情だけではセーブできない、欲望と言う果てが待っている。
想いがしっかりと通じ合い、互いの体を抱きしめ深いキスを交わす。
すると現象として次に現れるのは下腹部に溜まる熱。
目の前にうっすら上昇した体温を持つ滑らかな恋人の肌があれば、もうダメだ。
「ちょ…涼介さ…」
唇が首筋に移動する。
舌で敏感な箇所を舐め、耳の付け根に音を立ててキスをする。
怠け者だった手と指は、今は働き者に変貌し、シャツの裾から拓海の腰の部分を撫で上げ、上へと目指す。
そして目当てであった胸部の小さな突起に行き当たると、大喜びでそれを嬲る。
女のそれとは違う、小さな豆粒のような可愛らしいその部分を、指の腹で撫で、摘み捏ねる。
「…ひ…うっ…」
眉をしかめ、走った快感を押し殺す拓海の表情に唾を飲み込む。
息が荒くなり、指先に感じる感触を舌でも味わいたくなる。
身を屈め、拓海のシャツを胸の部分まではだけさせた。
「…や、そんな…ダメ…」
聞けない。
薄明かりの中でも桜のようにピンク色に火照るそこに舌を伸ばし、擽るように舐める。
「ひゃ、ぁ…」
…堪らない。
まるでご馳走を目の前にした獣の気分だった。
舌なめずりをしながら、美味そうな肌に口付け味見する。
「だ、ダメです…こんなとこで…人が来ます…」
「…止まんねぇよ」
拒もうとする拓海の抵抗をものともせず、執拗に乳首を嬲り、そしてビクビクと震えだした腰の部分を指で擽る。
「りょ……もう!!」
すると思わぬ反撃に遭った。
「痛っ!」
髪を掴まれ、思い切り後ろに引っ張られる。
痛みに顔を歪めながら拓海の顔を見上げれば、「何をするんだ」と抗議の声を上げかけていた口は驚きに閉じた。
さっきまでうっとりと自分を見つめていたその顔には、怒りのみ。
じっと、炎のように涼介を睨み見下ろしている。
「人が来るって…嫌だって言ってるじゃないですか!」
犬のように、涼介に耳と尻尾を付いていたならさぞかし見事に萎れていた事だろう。
「だいたい強引なんだよ!何ですぐにそっち行こうとするかな…だから大人って…」
ブツブツと不愉快そうに呟かれれば、「ハイ、大人ですみません」と無言で謝罪するしかない。
「…あんた、本当はヤりたいだけじゃねぇの?」
これは心外。
だから強く抗議した。
「違う!拓海だから、つい…止まらなくて…」
大人は大変なのだ。
目の前に、うっとりと微笑む美味しそうな恋人がいれば、欲情しないはずが無い。
それをセーブできるか出来ないかは、経験云々ではなく、もはや「好き」の度合いによるだろう。
好きだから我慢できないのだ。
涼介の言葉に、パァとまた拓海の頬が朱色に染まった。
恥ずかしげに目を逸らし、唇を尖らせボソリと呟く。
「……初めてだから…」
「え?」
「俺……誰かと、その…すんのとかって…初めてだから…」
ボソボソと、顔を赤くし恥じらいながら言う拓海の姿に、また理性が飛びそうになる。
けれど。
「だから……あんまり急だと…怖い」
好きだから我慢できない。
でも大好きだから我慢する。
「ごめん」
心から謝罪した。
そしてそっぽを向いたままの拓海の手をそっと握る。
「ゆっくり…する」
「き、キスだってそんな慣れてねぇのに…」
「うん。ごめん」
「……ま、待ってて…欲しい」
「分かってる。俺が急ぎすぎたんだ。本当にごめん」
心から謝罪すると、拓海が弾かれたように涼介を見上げた。
「涼介さんが悪いんじゃなくて!俺が、その…臆病だから…」
本当にどうしてくれようか、この恋人は。
ぎゅ、っと腕に縋るようにしがみ付いてくるその手のひらを引き寄せ、耳元に囁く。
「…あんまり俺を煽るなよ。我慢できなくなるだろ?」
途端、パッと体が離れ、真っ赤な顔で涼介を凝視する。
その可愛らしさに溜まらず、声を上げ笑うと、今度は一転怒りに顔を赤くさせて涼介を睨んだ。
「からかうなよ!」
ハハハと笑いながら、涼介は拓海に手を差し出した。
「からかってないよ。いつだって俺はお前の前だと理性なんてあってないようなもんだ。けど今は我慢して手を繋ぐところから始めるよ」
そう言うと、おそるおそる拓海も手を伸ばし、涼介の指先を掴む。
「ゆっくり…だからな」
「ああ。ゆっくり」
涼介は笑った。
美味しいものほど、ゆっくり味わい食べるべきなのだろうと、そう思いながら。
真っ赤に染まった項に目を留めながら、涼介はその先の未来に目を馳せ、にんまりと微笑んだ。
2007.5.2
★special thanks
写真提供M様
…やっと完結。長くじれったいお話にお付き合い下さりありがとうございます。
そして何より、このお話を生み出す根源となった萌えを提供して下さった
M様に深く感謝いたします。