[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


 突然目の前に現れた拓海を、涼介は焦がれ続けたせいで見た幻と思った。
 現実感のない感覚の中、拓海は昔から変わらない瞳で自分を見つめる。
 優しく背を撫で、自分を甘やかす。
 涼介は嬉しかった。
 このまま傍にいてくれと、そう願うよりも先に拓海が口を開いた。笑顔のままで。
「…別れましょうか」
 予感はしていながら、聞きたくなかった言葉を。
 涼介の目に涙が滲む。
 みっともないと思う余裕は既にない。
 ただ、感情のままに目の前の体に縋りつき、線の細かった昔よりも丈夫になった腰に抱きついた。
「…嫌だ」
 子供の我侭のようにそう言い、拓海の背中に回した腕に力を込める。
 拓海の腕が、そんな自分を宥めるように何度も何度も背を撫でた。
「…もう、いいんです。涼介さんがこんなふうになってるの…俺のせいでしょう?本当は最初から間違ってたんです。俺がちゃんと涼介さんを拒んでいれば、そうならなかった…」
 そうだ。拓海はあの時、レイプする涼介の体を抱きしめた。受け入れるように。
「俺は涼介さんが好きだったから…だから拒めなかった。俺が、どんな形でもいいから、涼介さんと一緒にいたかったから…」
「拓海…」
 なぜ彼はそんなふうに自分だけが悪いかのように言うのだろう。むしろ、悪いのはそんな彼の感情と優しさに付け込んだ自分にあるのに。
「だから…今度は間違えません。俺はあの時よりも、涼介さんが好きで…大事だから」
 拓海の腕が、自分の肩を掴み引き剥がす。
 離れた体。温もりが消える。
「別れましょう」
 呆然と見つめる自分の目に、宗教画のように慈愛のこもった表情で微笑む拓海の顔があった。
 その決意は、もう覆せないのだろうか。強い意志に溢れ、涼介を見ながら涼介を見ていない。
「拓海…」
 彼に向かい手を伸ばす。だがもう彼はその手を掴んでくれず、やんわりと涼介へと押し戻す。
「俺のことは忘れてください。俺も…忘れますから」
 …忘れる?
 拓海が、自分を?
 一気に、脳裏に闇が広がる。
 体は戦慄き、耳はもう拓海の言葉を理解することを拒否し、激しく鳴り続ける自分の鼓動しか聞かない。
「…さよなら」
 微笑み、穏やかな表情でそう言う彼が憎かった。
 どうして自分を置いていくのだろう?
 好きだと言ったのに?
 自分がこんなに好きなのに?
 告げられた別れの言葉に、涼介の罅だらけだった感情のダムが決壊し、溢れ出す。本能のままに。
 去ろうとする腕をものすごい力で掴み、自分に引き寄せる。
 拓海の表情が驚愕に強張っている。それが今はやけに嬉しかった。
「涼介さん?!」
 拓海の目の中の自分は、笑っていた。虚ろな表情で、ぞっとするほど酷薄な目で。
「…許さない」
 その体を床の上に押し倒し、上からのしかかるように組み敷いた。
 涼介は医者だ。人の体のどこを押さえれば、身動きできなくなるのかを知っている。
 拓海が驚愕の表情でもがくが、上に乗った涼介の体は動かない。
 暴れる両手を、自分のどこにこんな力があったのかと思うほどの強い力で拘束し、床に放り投げたままになっていた自分のシャツで両腕を拘束した。
「涼介さん!」
 拓海の声のトーンが高くなる。悲鳴のように。
「…逃がさない」
 うっとりと、涼介はその頬に舌を這わせる。
 耳朶をかじり、なぞる様に首筋を舐めると、敏感なところを知り尽くした拓海の体はビクビクと震えだした。
 フッと笑い、張りのあるその肌に歯を立てる。ぎゅっと、跡が残るように。
「…い、痛っ!」
 血が滲み、舌の上に鉄分の味が広がる。
 …食らい尽くしたい。
 このまま全部を貪り、自分だけのものにしたい。
 肌の上の血を綺麗に舐めとりながら、涼介は拓海の下肢を露にさせる。
 彼の股間のペニスは異常な事態に脅え縮こまっている。それに指を絡め、強く握り締めた。
「…や、痛い、涼介さん…」
 もっと自分の名を呼んで欲しい。
 掴んだそこの指の力を緩め、上下に動かした。
 ピクリ、と素直なそこはすぐに強張り、涼介の手の中で大きさを増した。
「…イヤらしいな、拓海」
 揶揄する自分の声が、どこか遠くに感じる。
「いつもお前はそうだった。どんなに酷く扱っても、ここを硬くして、腰を振るんだ」
 片手でペニスを嬲りながら、もう空いた手でその奥の蕾を探る。小さく窄まったそこに、乾いた指を無理やり突きいれた。
「う…いた……」
 うめく拓海に、涼介の笑みが深くなる。
 …そうだ。そうやってお前は俺の下で啼いていればいいんだ。
「嘘吐け。イイんだろ?ここをこんなふうにされると」
 解されもしなかった蕾を無理に割り広げる。ずっとそこを使う性交をしていなかったのだろう。そこはまるで最初犯した時のように硬く狭かった。メリメリと裂ける音がする。それに構わず指を二本にすると、ヌルッとした感触が広がり繊細なそこから出血したのを知った。指を血で滲ませ、それを潤滑剤代わりに、本数をさらに増やし奥を探る。
「ひ、い、いや…だ…」
 暴れる腰を、ペニスを強く握ることで押さえ込む。
 乱暴に奥を探り、ますます血を溢れさせたそこを指でかき回す。
 握ったペニスはもう痛みに勢いを失わせ、哀れなほどに萎れている。
「…ほら、俺が欲しいんだろ?欲しいって、言えよ…なぁ?」
 自分の下肢を寛がせ、興奮に昂ぶりきったペニスを取り出した。
 血で濡れる狭間に擦り付けるようにし、拓海の顔を窺うと、彼は目を硬く閉じ、ぎゅっと唇を噛み締めていた。
 その自分を拒む彼の様子に、涼介はたまらなくなる。
 血に濡れた指で拓海の顔を両手で掴み、その閉ざされた唇に、自分の唇を寄せる。
 唇を噛み、舌で舐め、無理やりこじ開けた隙間から舌を突き入れ、奥まで蹂躙するように嬲る。
「う…はぁ…やぁ、涼介さ…」
 切れ切れに漏れる拓海の声が愛しい。
 彼の顔は、涼介の指に付いていた血が移り汚れ、その上を唾液と涙が筋を伝い流れ落ちていた。
「…傍にいてくれ」
 搾り出すような声は自分の紛れも無く本音だ。
「どこにも行くな」
 キスを繰り返しながら、血まみれになっている拓海の蕾に自分の欲望を突き入れる。
 狭く、女とは比べ物にならないくらいの圧迫感。奥へ行けば行くほど、その中は痛いほどにきつく締まり、涼介の眉間に皺を生む。
 だが、これが欲しかった。
 欲しくて、気が狂いそうなほどに。
「りょ…すけさん?」
 ふと目を開けると、血で汚れた顔の拓海が、涼介を見つめていた。
 あの眼差しだ。
 涼介を苛立たせ、狂わせる澄んだ瞳。
 どんなに汚しても、堕ちることの無い瞳が柔らかに揺らぐ。
 蹂躙されていると言うのにその表情は穏やかで、涼介を堪らなくさせる。
「拓海…」
 その体をかき抱いた。
 このまま一つに溶けてしまいたいと願いながら。
 いや、いっそこの瞬間に殺して欲しい。
 そんな涼介を、拓海が優しく微笑み見つめる。
 優しく。
 嬉しそうに。
 それに合わせ、きついばかりだった拓海の内部が潤む。
 誘いこむように涼介を収縮し、暴れるばかりだった腰が快感に揺れ始める。
「…俺は涼介さんのものだよ」
 拘束されたままの両手が、涼介の頭を抱く。抱き締められ、涼介は拓海の首筋に顔を埋めたまま涙を流した。
「そしてあんたは…」
 拓海の腕の力が強まる。内部のうねりも激しくなる。
 腰の動きが激しくなる。限界が近い。
 汗と涙で汚れながら、涼介は拓海の顔を見つめた。
 嬉しそうに、微笑むその表情を。
 自身の血で汚れた、その顔を。
「拓海…」
 名を呼ぶと、うっとりとした表情で艶やかに笑う。
「…あんたは俺のものだ」
 涼介は、自分が彼を抱きながら、まるで自分が抱かれているかのような感覚をおぼえた。



 激しく揺さぶられる体。
 服はもうボロボロに破られ、元の形を残していない。
 拘束された両腕が痛み、無理な体勢に体がギシギシときしむ。
 フローリングの床の上に、押し倒された背中が揺さぶられることで擦れて痛い。皮が剥けてしまっているかも知れない。
 無理に突き入れられた後腔は裂け、太ももからは流れ出る血と、何度も注ぎこまれた涼介の精液が溢れ出している。
 淫靡な光景に、拓海は微笑み頭上を見上げた。
 汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにした涼介。
 その表情には余裕も何も無い。
 ただ必死に、溺れた人のように自分に縋りつく。
 薄暗い部屋。
 倒れた丈の長いスタンドライトの明かりだけが二人を照らしている。
「うっ、く……」
 涼介の顔がしかめられる。体が痙攣し、拓海の内部に熱いものが注ぎ込まれる。彼が自分の中に欲望を解放したのはもう何度目だろう。納まりきれない液が、ぐぷぐぷと拓海の奥から溢れ、涼介の硬度を失ったペニスが達した後も攪拌するようにかき回す。
「ひぁ、あぁ……!」
 その刺激に拓海も何度目かの精を解放する。
 体は色んな体液に塗れて、もうドロドロだ。
 ハァハァと荒い息を吐きながら、涼介が自分の体の上に覆いかぶさってくる。拓海は汗の浮いた背中に腕を回したいと思ったが、拘束された腕はそれを叶えさせてくれない。
 どうしようもなく、頭上にだらんと伸ばした腕に、涼介の視線が向けられる。飢えた獣のような獰猛な眼差しで。
 二の腕の柔らかい部分に涼介が歯を立てる。ギリッと激しく噛まれた場所からは血が滲む。涼介は拓海の血を舐め、そして不規則な呼吸で拓海の名を呼び続ける。
 それに無言でいると、苛立ったように涼介が拓海の顎を取り、激しく唇を貪る。
 かと思うと、いきなり体を持ち上げられ、ベッドの上にうつ伏せに放り投げられ、腰だけを高く掲げた姿勢で後ろからまた犯された。
 すっかり緩んでしまったそこは、涼介をすんなり受け入れる。
「…拓海、…拓海」
「…ん、あ、…あぁ…」
 姿勢が変わったことで、拓海もまた快楽の淵に沈む。腰を揺らし、締め付け涼介を欲しがる。
 縋るように伸ばされた指が、ベッド脇の窓のカーテンに伸びる。体重をかけられ、ブチブチと引きちぎられたカーテンの隙間から、外の光景が見えた。
 暗い夜空に、ぼんやりと浮かぶ欠けた真白の月。
 あの日。
 あの頃。
 見続けていたのと同じ色の月だ。
 焦がれ、涙し、欲したあの月は、今は拓海の手の中にある。
 うっとりと、拓海は微笑む。
 かつて、あの月に願ったこと。

 ―――涼介さんが俺だけのものになりますように。

 …涼介さんが狂えばいい。
 狂って、俺だけのものになればいい…。
 願いは叶った。
 拓海は背後を振り返る。
「涼介さん…」
 もの言いたげに見つめれば、思い通りに涼介は顔を寄せ唇を貪った。
 肌を噛み、自分の血を啜り、泣きながら自分を欲する男に、拓海は歓喜の笑みと涙を流す。
「………やっとあんたが俺のものになった」
 幸せだった。
 たとえ他人から謗られようとも。
 それが、たとえ狂気に近い領域のものであったとしても。




back

next