V


 一歩踏み出したその足に、ガサリとした感触があった。
 見れば、場にそぐわないブルーシートが畳の上に広げられている。
 一瞬考え、ここで靴を脱ぐのだと気付く。
 淫靡な空気に似つかわしくない、無粋なものだが不思議と興奮は削がれなかった。
 逆にその猥雑さに煽られる。
 涼介は旅館から借りた下駄を脱ぎ捨てた。
 素足でブルーシートの向こうの畳に踏み入る。
 毛羽立った畳の感触を足の裏越しに感じる。
 涼介が近付いてくるたびに、目の前の少女の緊張が増していくのが目に見えて分かった。
 あながち、半分ほど本気にしていなかった処女と言う話も嘘ではないのかも知れない。
 少女まで後二、三歩というところで、少女が行灯の灯りを吹き消した。
 部屋の中に暗闇が侵食する。
「……おい」
 元々薄暗かったとは言え、全くの闇とは違う。
 すぐそこの少女の姿さえ見えない暗さに、思わず涼介は不満の声を上げた。
「す、すいません…あ、あの……灯り…け、消したら、だ、だめですか?」
 けれど少女の震えた声を聞いた瞬間に、怒りが消える。
「恐いのか?」
 聞くと、少女は答えず無言のままだったが、カチカチと、暗闇の中に歯の根が合わない音が聞こえた。
 涼介は溜息を吐いた。
 こんな怯える少女を前に灯りを無理やり点けさせるほど無体にもなれない。
「…いや。構わない」
 そして一歩進み、目当ての少女の身体に触れる。
 ビクリと、華奢に見えた身体が激しく震えた。
「見えなくてもここまで近付けば問題ない」
 肩に触れた手を、そのまま腕へと引き降ろす。
 触れてみると、華奢かと思えた身体は意外に骨格がしっかりしており、筋肉質である事が窺えた。
 けれど。
 その柔らかさは女性特有のもの。
 涼介は手のひらを滑らせまた肩に戻し、ぐい、と力を込め布団の上に押し倒した。
 その瞬間、ふわりと甘い香りがする。
 香水などの強い香りではない。
 石鹸のほのかな香りだ。
 それに気付いた瞬間、涼介の腰が甘く震えた。
 少女の闇でも光る白い首筋に顔を埋める。
 そして空いた片手で自身の股間を握った。
 そこはもう立派に張り詰め、先走りの液さえ漏らし始めている。
「……クソ、何でこんなに欲情してるんだ」
 呻き、涼介は微かに震える首筋に舌を這わせた。
 まず舌先で味わったその肌は、予想通り絹のように滑らかだった。
「…ぅ……」
 噛み殺した少女の声に、涼介は指先をその唇へと持っていった。案の定、唇を強く噛み締めている。
「声を殺すな」
 指先で唇をなぞると、その柔らかさに驚いた。
「…は、ぁ……」
 キスをすれば気持ち良いだろう。
 しかし涼介はその衝動を堪えた。
 キスはしない。
 惚れてもいない相手への、それは礼儀のように思えた。
「声を聞かせろ。無言のままだとやりにくい」
 声を聞きたいから。
 そんな理由を隠し、そう傲慢に言い放つと、少女が観念したように唇を綻ばせる。
 そして少し低めの吐息が聞こえ始めた。
「……それで良い」
 舌を鎖骨に滑らせ、手を襦袢の帯紐へと向かわせる。
 少女の掠れた吐息と、衣擦れの音しか響かない部屋に、シュルリと帯を解く音がやけに艶かしく聞こえた。
「あっ……!」
 襦袢の合わせを開き、生まれたままの姿を晒させる。
 少女が戦慄き、身を隠そうとするのに両腕を手で押さえ阻む。
 白い肌だと想像した。
 そして想像はその通りで、真っ白な身体が涼介の眼前にある。
 闇の中でもその白は映え、涼介の咽喉は引っ切り無しに唾を飲み込む。
「…み…ないで…」
 震えながら少女が呟いた。
「どうして?」
 囁きながら、指先をその身体に滑らせる。
「綺麗な身体じゃないか」
 太ももに手のひらを這わせ、細い腰のラインを確かめるように上へと滑らせる。
「…嘘……」
 気配で、少女が首を横に何度も振っているのが分かる。
 知らないのだろうか。
 この身体が真珠のように艶かしいものであることを。
「おとこ…みたいだし…」
 徐々に上らせた手のひらが小ぶりな胸へと渡る。
「コレのことか?」
 言いながら、一般的よりは小さめなその胸の肉を寄せ集めるように揉む。
「ひィ…ぅん…!」
 少女の腰が跳ねた。
 涼介は手のひらで乳首を刺激しながら痛いほどに揉みしだく。
「可愛い胸だ。俺はこのぐらいの大きさの方が好きだぜ」
 本音だった。
 弟である啓介は真逆の好みをしているようだが、涼介は元々、大きすぎる胸よりも小ぶりでスレンダーな体系を好む。
 その点では、目の前は涼介の好みそのままと言っても過言ではなかった。
「…ほ…んと…?」
 す、と少女の強張りが消えた。
 その反応に、処女と言うだけでなく、少女が自身の身体にコンプレックスを抱いていたのだろう事を涼介は悟る。
 だから、はっきりと答えた。
「好きだよ、お前の身体。…綺麗な造りをしている」
 耳元に注ぎ込むように囁くと、少女の身体がぶるぶると小刻みに震え、唇から甘い吐息が零れた。
 涼介は自分の声の魅力をしっている。
 処女を相手にした事は無いが、手馴れた女でも耳元で甘い言葉を囁けば、その気の無い女でも涼介の前に足を開いた。
 どうやら、それは処女にも有効であったらしい。少女の身体がさっきよりも確実に熱くなっている。
 興奮しているのだろう。
 この慎ましやかな少女を、自分の手で快楽に溺れさせたい。
 そんな衝動に、涼介は己を嘲笑った。
 面倒な処女など有り難がる年配の男たちの気が知れないと、ゲームのような恋愛しかしていなかったかつての自分へ向けて。
 唾を飲み込み、涼介は少女の小さな胸の尖りに舌を這わせた。
「あ、ァア……」
 少女の唇から先ほどよりも艶めいた嬌声が上がる。
 舌先で尖りを嘗め舐り、歯でゆるく甘噛みする。
 少女の身体が若鮎のように跳ね、涼介の劣情を煽る。
 甘い身体。甘い肌。
 今まで性交において涼介は相手に愛撫を能動的に与えることはしなかった。
 義務として行うが、決して楽しんでいたわけではない。
 けれど、今は自分が触れることで少女が反応するのに堪らない愉悦を感じる。
 触れ、弄れば少女の固かった身体が和らぎ、ほんのり冷えていた肌に温かい熱が宿る。
 涼介はハァと熱を孕んだ吐息を零し、少女の身体から身を起こし、急いた手つきで自身の浴衣の帯紐を解いた。
 荒い自分の呼吸と共に、シュルリと衣擦れの音が響く。
 バサリと、邪魔になっていた浴衣を放り投げるように脱ぎ捨て、素肌のままで少女の上に覆いかぶさると、手を少女の下腹部の下。茂みの部分に這わせる。
 髪よりは少し硬い、けれど柔らかなそれに隠された部分に侵入する。
「…ひ、ゥん……」
 スゥっと秘められた狭間を切り裂くように指を撫で下ろした。
 クチュリ。
 滑った音に、涼介はにんまりと微笑む。
「…濡れてるな」
 素直な身体。
 涼介の愛撫を受け取り、望むように返してくれる。
「…い、言わな…ぅ、く…」
 そこがどうなっているのか?
 知らしめるように、クチュクチュと音を立て入り口をなぞる。
「分かるか?」
 少女の熱い吐息が涼介の頬にかかる。
 秘部を弄りながら、空いた片方の手で嬲る胸の先端がさっきよりも固くしこっている。
「ここに」
 蜜が、どんどん溢れてくる。
 ベトベトになった指で、ひくひくと健気に震える未知の領域に指を付き立てた。
「い、た…ぁ!」
 ぎゅうぅ、と痛いくらいに指が締め付けられる。
「俺のを…挿れるんだ」
 この慣れていない少女がどんな反応をするのか、見たくてわざと自分の硬化したそこを擦りつけた。
 予想通り、少女はビクンと硬直し、パサパサと髪の毛が枕を打つ音が響く。首を振っているのだろう。
「…触ってごらん」
 嫌がる腕を無理に掴み、欲望へと導く。
「これが」
 そこに触れた少女の指が震えた。
「君のここに」
 少女の手のひらごと、自身の欲望を擦る。そしてもう片方の手で少女の狭間を愛撫した。
「…挿れられるんだ」
 淫猥な水音が清楚な少女の部分から響く。
「奥まで突き刺して…」
「……う…」
「掻き混ぜて…」
「……いや…」
「抜いて…擦り上げる。想像してごらん?」
「は、ぁア…っ!」
 キュウキュウに締め上げていた場所が、ほんの少し緩む。
 涼介は見逃さず、指をもう一本増やした。
「いた、い…やだ…抜いて!」
 増えた質量に、少女が嫌がり布団の上をずり上がる。
 暴れだした身体に、涼介は少女の腰を掴み阻んだ。
「お金が欲しいんだろう?」
 ピタリ、と少女の動きが止まった。
 自分にこんな面があるとは思わなかった。
 酷くしたい。
 少女が泣き喚き、哀願する姿が見たい。
 優しくしたい。そう思う気持ちはあるはずなのに、獣のような衝動が涼介を包む。
「だったら…大人しく出来るよね?」
「…ぅ、ふぅ…うぅ…」
 少女が泣いている。
 暗がりでも、すすり泣く声でそうと分かる。
 身体を起こし、その頬に触れれば予想通りに濡れた冷たい感触。
 手探りでその眦を拭い、キスをした。
「恐い?」
 聞くと、少女は泣きながら頷いた。
「大丈夫。ゆっくり…君が気持ち良くなれるように慣らしてあげる」
 顔中にキスを降らせた。宥めるように、鳥が啄ばむ様に。
「けど…君には俺を喜ばせる義務がある。…分かるね」
 良い人間だとは、とても言えない性格をしていると自己認識はしていたが、今の自分はまるで…。
「ここで…俺を喜ばせるんだ」
 …そう。まるで悪党だ。
 自嘲しながらも、少女の唇を指でなぞる。
 その意味に気付かず、きょとんとしたままの無垢な処女にも分かるように、はっきりと告げる。
「口で俺のを愛撫するんだ。…フェラチオだ。分かるな?」
 闇に慣れた目に、少女の顔がぼんやりと映る。
 大きな、大きな瞳が見開かれている。
 ぽかんと開いたその唇に、己の欲望が埋め込まれた瞬間を想像し涼介は甘く震えた。





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