舌の上のピアスで、涼介は拓海を嬲る。
冷たい金属が肌の上を伝う感触に、拓海は身を震わせ喜んだ。
昂ぶった欲望は、自らの手で解放することを求められ、彼の目の前で自慰を晒した。
浅ましく、自分の手に放った欲望。
それを舐めて綺麗にすることを命じられ、素直に自分の指に舌を這わせた。
時おり、チラリと窺う彼の顔からは満足気な表情を見つけ、拓海はまた喜びを感じる。
綺麗にし、命令を守った褒美を期待し、彼を見上げる拓海に、けれど労いも褒め言葉も無かった。
「早く出せ」
たったそれだけ。
悲しくて、捨てられた犬のように拓海は涼介を縋るように見つめた。
「…帰るぞ」
だが、彼は苛ただしげに眉根を寄せただけで、拓海を労わってはくれない。
まだ、彼に喰われてはいない。
ただほんの少し、歯を立てたれただけ。
物足りなくて、拓海は涼介の太ももに手をかけた。
その瞬間、
パン、と乾いた音が車内に響いた。
ジンジンと痛む頬と、見下ろす怒りを湛えた彼の眼差し。
叩かれたのだ、と一呼吸遅れて気付く。
「誰が俺に触って良いと言った…」
低く、暗い声音に、彼の不興を買った事を知る。
視線を俯かせ、恐怖に拓海は震えた。
「ご、ごめんなさい……」
怖くて、本当に怖くて仕方がなかった。
嫌われたくないのだと、全身で訴え、彼の慈悲を乞うた。
「少しの時間も待てないのか。まるで盛りの付いた雌だな」
嬲る言葉が、さっきまでは快感だったのに今は恐ろしさしか感じない。
「ごめんなさ…」
謝罪の言葉が、けれど途中で止まる。
「…焦るなと言っているんだ。お前が欲しいのはコレだろう?」
手を握られ、欲望の兆しを見せるそこへ触れさせられる。
初めて触れる熱いそこに、ゴクリと拓海の咽喉が鳴った。
「嫌ってほどくれてやるよ。だから……」
涼介の唇が拓海の口を覆う。
ピアスの付いた舌で、口内を蹂躙され、痛いぐらいに舌を吸われる。
「…家へ帰るんだ」
つぅ、と唇から零れた唾液。それを指で拭いながら涼介が微笑んだ。
「たっぷり…躾てやるよ。俺にもう逆らえないように」
拓海もまた微笑んだ。
踏みつけ、這い蹲る夢をずっと見ていた。
これは夢の実現。
拓海はずっと、彼にこうされたかったのだ。
それを自覚し、そして秘められた願いを解放した。
高崎の高橋家に着いても、涼介は拓海に何も言わなかった。
ただ無言で車を降り、それを追うように拓海もエンジンを止め、歩いていく彼の後へと付いていった。
家の中に入っても同じ。
出てけ、とも、帰れ、とも言わず、拓海を振り返ることすらせず歩いていく。
だが拓海は、まるで魔法でもかけられたかのように彼の後を追う。
是か否か。
それは分からないながらも、主人の姿を見失わないように、ひたむきに彼を追う。
そして涼介が自室の扉を開き、初めてそこで拓海を振り返った。
「おいで」
冷たく、暗い声。
でも拓海は喜び、飛び込むように彼の部屋の中に入った。
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しながら涼介が拓海にベッドに座るよう促す。
「脱げ」
命令に、拓海は素直に従う。
多少もたつきながらも、一糸纏わぬ姿でベッドに腰掛ける。
彼の前に裸体を晒すのは恥ずかしかったが、下手に隠して不興を買うことの方が怖かった。
裸になった拓海の頭からつま先まで検分するように眺めた涼介は、軽く頷き、今度はベッドに寝転ぶよう言いつける。
それにも拓海は素直に従った。
けれど。
いきなり頭上高くに両腕を上げられ、そして彼の締めていたズボンのベルトで拘束されたときには戸惑い、身じろいだ。
「りょ、涼介さん…あの…」
「五月蝿い。大人しくしてろ」
不機嫌な声に、拓海は黙りじっと我慢する。
拘束し、そして両足を広げさせ、狭間の自分でも見たことがない秘められた箇所を検分される。
羞恥に、肌が薄い赤色に染まった。
広げさせた足が震える。だが、閉じることは許されない。
顔を近づけ、観察するように指で触れたり、突いたりする涼介に、拓海の眦に涙が浮かぶ。
まるで永遠のような羞恥に満ちた時間の終わりは、乱暴に秘所に突き入れられた指によってだった。
「い、痛っ!」
痛みに、堪えきれず呻き身を捩れば、チッ、と涼介の舌打ちが聞こえた。
「色も薄いし狭い。…初めてか?」
「…は、はい」
まだ痛みに震える拓海が、おずおずと答えるとまた涼介が舌打ちした。
「…面倒だな」
大声で、泣きそうだった。
恐怖と悲しみに覆われる一方で、彼に哀願するように見つめる。
心の中で「お願い」と何度も叫ぶ。
その願いが通じたように、涼介が「まぁ、良い」と呟いた。
「初めてなら初めてなりの楽しみ方もあるしな」
涼介の言葉に、喜び拓海は微笑んだ。
けれどそのすぐ後。
拓海はそれを後悔することとなる。