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夢見る男

act.4



 それはうららかな休日。
 俺は書斎で論文に耽り、ハニーは衣替えの季節と言うことで朝からクローゼットの中身を入れ替えている。
 ゴトゴト、バタンと物音を立てながら作業するハニーの存在を感じながら、俺はうっすら笑みを履き頭の中で論文を組み立てている。
 新婚の俺たちはいつでも真夏の太陽。
 熱く、激しく、燃え盛る。
 けれど時には自分たちの時間も大切だ。
 離れている時間が愛を育む。常にべったりは…していたいが、そればかりではハニーに飽きられるかも知れない。
『今、涼介さん何してるんだろ?…寂しいな…』
 マーベラス!!
 きっとそう思いながら、俺のいない時間を寂しく思い…、
『涼介さん、早く帰ってきて…じゃないと…俺…俺…身体…熱いよ…』
 一人寂しく自身を慰め…そして俺が登場したときのあの喜び。
『……涼介さん…早く来て…』
 乱れ咲き誇る艶やかなハニーに俺のハートも下半身もバーニング。
 ああああ…!今すぐハニーに会いたい!!
 堪えきれず、書斎のドアを蹴破りハニーの元へ駆けつけそうな衝動を、けれど俺は首を振り堪える。
 それをして先日はハニーにとても怒られたのだ。
『涼介さんはちょっと辛抱足りなさすぎです!…い、いやなワケじゃないけど…そんなしょっちゅうだったら…俺にすぐに飽きてしまうでしょ?』
 飽きるものかベイビィ。
 そんな可愛い事を言うお口を塞ぎたい。
『それに…正直…ちょっとヒリヒリしてて痛いし…』
 愛。
 それは時には苦痛をもたらす。
 そして俺よりもハニーの方がそれが勝ってしまうのは、いわゆる役割分担のせいであるのか。
「…なら俺にするか、と聞いたらまた怒るしな…」
 俺は唇を緩め首を横に振った。
『お、俺が涼介さんに?!そんな!無理です!!それに俺……されるのが嫌なわけじゃなくて…』
 ああ、ハニー。どうして君はそんなに愛らしいのだろう?
 俺の心にビッグバン。
 いつでも君の為に新たな宇宙を作り上げるよ。
 ハニーとのめくるめく思い出を振り返っていた俺ではあるが、ふと気付くと隣室からの物音が止んでいた。
 もう整理は終わってしまったのだろうか?
 それとも荷物の下敷きになり、「助けて…涼介さん…」助けを求めている?!
 待っていてくれ、ハニー!
 俺は書斎を飛び出し、けれどまた怒られるのを怖れ控えめにクローゼットのある寝室の扉をノックした。
「…拓海?開けてもいいか?」
 しかしハニーの返事は、
「…え?涼介さん??…だ、ダメ!!」
 何だ、今の切羽詰った声は?
 それに、「いや」だの「ダメ…」は男の心を煽るだけなのだ。
「入るよ」
 俺はドアノブを捻り、扉を開けた。
「いったいどうしたんだ、たく……」
 そして禁断のドアを開け見た光景に、俺は絶句する。
「わぁ!涼介さん、見ないで!!」
 そこにいたのは写真でしか拝めたことがないハニーの姿。
 まるで出会った頃の一年前にタイムスリップしたかのようだ。
「ふ、服の整理してたら…こんなの出てきて…懐かしいなって思ってちょっと着てみたんですけど…」
「………拓海!」
 感無量!
 密かにずっと願っていたのだ。
 彼が当時、まだ高校生だと知ったときに。
 けれどあの頃の俺たちはまだそんな関係ではなく、言う機会もないままに見逃した。
 ハニーの学ラン姿と言うのを!
 真っ黒な中に光る金ボタン。
 ストイックに堅固な装いの中、ほんの少し寛げた襟元。それが何故こうも堪らない色気を放つものか。
 その絶妙さに俺は眩暈がした。
「…変…ですよね…すみません、妙なものを見せて。すぐに脱ぎますから!」
「い、いや、待て待て!」
 俺は焦った。
 これは千載一遇の大チャンス。
 この機会を逃せば俺はただの愚か者だ。
「え?」
「…よく見せてくれ、拓海の姿」
「涼介さん?」
 俺はハニーに近寄り、そしてきょとんとするその頬に触れた。
「俺たちが初めて出会ったとき…拓海はまだこれを着てたんだよな…」
 頬を指先でゆったりとなぞると、ハニーの頬が染まり恥ずかしそうに俯いた。
「うん。一年…前ですね」
「ああ。願うなら、これを着てた頃のお前の傍にずっといたかったな…」
「ずっと、って…そんな…」
「もっと早くに出会いたかったよ。俺の知らないお前の世界を、全部見たかった」
「涼介さん…」
 頬に触れる俺の手の上に、ハニーの手が重なる。うっとりとハニーが俺の手のひらに頬を預ける。
「俺も…涼介さんの世界、いっぱい見たかった…」
「もしも俺が後五年早くに生まれていたら、迷わずお前の学校の校医に赴任していたな」
「白衣を着て?保健室にいるんですか??」
「そうだ」
「涼介さんが保健室の先生になってたら、きっと俺なんか相手になんてしてませんよ。だって可愛い子いっぱいいるし…」
 可愛いハニー。拗ねないで。
 俺はその愛らしい鼻先にキスをした。
「拓海が誰より一番可愛いだろ?絶対に惚れてるよ。そして職権を乱用して手に入れているだろうな」
「……悪い先生だ」
 俺を詰るハニーの言葉。それが照れ隠しだと俺には分かっている。
「ああ、悪い先生だ。だから今日は藤原君に意地悪しちゃおうかな」
 ニコリと微笑み、俺はクローゼットの奥から白衣を取り出した。
 いつか…。
 そう、いつか…。
 ハニーとお医者さんごっこが出来ないか。そんな野望を胸に隠していたこいつが今、日の目を見る。
 バサリと白衣を羽織り、そしてベッドに腰掛けハニーを見上げる。
「それで?」
「…え?」
 ぼうっと、俺を見下ろすハニー。その頬は真っ赤だ。俺の白衣姿に見惚れているのだろうか?…いや、参ったな、ハニー。理性がブチ切れ寸前じゃないか。
「藤原君は今日はどこが悪いのかな?」
「え、え…って、あの…、その…」
 戸惑っていたハニーは、けれど俺の意図に気付いたのだろう。顔中を真っ赤にして、けれどちゃんと拙い声ではあるが答えた。
「…あ、の…胸…胸が痛くて…」
「胸?どんな風に?」
 ハニーは自分の胸を手で抑える。
 そして今にもあふれ出しそうだとばかりに唇をぎゅっと噛み、そしてまた開いた。
「ど、ドキドキして…でも時々キュウってして…」
「不整脈か。じゃあ、診察するから前を開いて」
「え?」
「前を開かないと診察できないだろう?さ、服を脱いで」
 ここでニヤけたりしては、ハニーを警戒させるだけ。
 俺は平静であるよう努力した。
 ハニーが俺が平然とそう答えるので、羞恥に真っ赤になりながらも、震える指でボタンに手をかける。
 黒い学ランのボタンが一つ、また一つと外され、内から純白の穢れなき色が覗く。
 バサリと学ランを脱ぎ、白いカッターシャツ一枚になったハニーに俺の方が不整脈。
「……おかしいな?」
「え?」
 俺は「おかしい」と表現した部分を指差した。
「ここだよ。もしかして寒気とかしている?」
「い、いえ、熱いくらいです」
「だったら…」
 そして「おかしな」部分を指で引っかく。
「ここ。どうしてこんなに尖っているの?」
 見られているだけで立ち上がってしまったハニーの小さなチェリーのような乳首。
 それはシャツの上からでも存在感を表すように尖っていた。
「……や!」
 ハニーが恥じらい、両手で尖った小さなチェリーを隠す。
「隠さない。診察が出来ないだろう?」
 そう咎めると、ハニーが渋々と両手を下ろす。
「ほら、早く脱ぎなさい。それとも…脱がせてあげないとダメなのかな?」
 溜息とともに囁くとハニーが慌ててシャツのボタンを外す。
 ああ、ハニー…何て可愛らしいんだ。脱がせるのも勿論楽しいが、目の前でこうやって恥らいつつ脱いでくれる姿はどんなものよりも俺の素敵な夜のご馳走。脳内に焼付け、永遠に保存しておこう。
 上半身裸になったハニーの艶やかなバージンスノーの肌の上の小さなチェリーはやはり固く尖っている。
「尖っているね?」
 摘みながらさらに、
「わ、わぁ!!」
 舐める。
「別に変な味はしないな」
 当然だ。俺のハニーから妙な味などするわけがない。甘く俺をとろかせる媚薬は出ているが。
 言うまでもないが、わざとである。
「へ、変なことしないで下さい!」
「変なこと?心外だな…診察だよ」
「な、何するんですか?!」
 ベッドの上に押し倒され、圧し掛かる俺にハニーが不安そうに叫んだ。
「診察だよ。不整脈を確かめないとね?」
 そしてハニーの胸に頬ずり。
「っちょっ!何でそんな…聴診器とかは?!」
「生憎持ち合わせてなくてね…原始的な方法ではあるが、ちゃんと藤原君の鼓動は聞こえているよ。…ああ、鼓動が早くなったね。これは大変だ」
「って、涼介さん!何するんですか!!」
「何って…」
 俺は爽やかに微笑んで見せた。
 自身のズボンを寛がせながら。
「注射だよ。早急に君には特効薬が必要のようだ」
 ハニーの視線が俺の下腹部に向く。
 あまり見ないでくれ…フッ。堪えきれなくなるだろう?
「お、ちゅうしゃ…?」
 ゴクリとハニーが唾を飲み込んだ。
 分かっているよ、ハニー。
 君が何を望んでいるのか。だって俺たちは夫婦だからね。しかも心も体も、これ以上ないくらいに結びついた夫婦だ。
 君が何を欲しいのかなんて、手に取るように分かるんだ。
「ああ。欲しいだろう?お注射」
 ハニーが躊躇いながらも、けれど確かに頷く。
「…うん…お注射…して?」
 そしてハニーは俺の注射に触れ、自ら誘い込むようにうつ伏せになった。
「せんせぇ…おちゅうしゃ、ください…」
 ハニ―――!!!!!!!!!!!!



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夜空には眩い星空。
 それを横切るように真っ白の煙がたなびく。
 フゥ、と京一は肺の奥から煙草の煙を吐き出し、目を閉じた。
 愛車にもたれながら、さっき見た物をかき消そうとするが、成功しない。

 ……涼介の…極秘ファイルだと思ったのだ。

 ある意味、確かにあれは極秘ではあった。
 しかし京一の望むような関東最速プロジェクトに関するものではなく……。
 再度京一は煙を吐く。
「……俺は…あんな奴をライバルだと思っていたのか…」
 敬意は持っていたのだ。
 自分の上を行く男。
 ムカつくところばかりしか無いが、その実力は評価していた。
 まさか…。
 まさか……!!
 それがあんな男だったとは!!!
 例えて言うならこの心境はアースクェイク。
 満タンだったHPはたった一発の攻撃で0になっている。
「おちゅうしゃ、か……」
 眉間に、クッキリと皺。
「せんせぇ…か……」
 苦虫を潰したように、奥歯はずっとギリギリと歯軋りの音を立てている。
「けれど……俺なら学ランには保健室ではなく生徒指導室を選ぶ!」
 京一は涼介をライバルと見ていた。
 ずっと見ていたのだ。
 だからだろうか?
 涼介の妄想に対抗する妄想が生まれてしまうのは。
 ギリギリと歯軋りの音を立て、白い煙を夜空にたなびかせ、京一は目を閉じる。
「注射ではなく…俺なら竹刀だ」
 すっかり毒されていることに京一が気付くのは……もう暫くの時間を必要とした。
 妄想は続く……感染しながら。





2007.6.3
久々にマトモ(?)な京一を書いてみました。
類は友…ではなく、類はライバルを呼ぶ、で。
と言うか今思ったんだけど、絶対に兄は京一をライバルとか思ってなさそうだなぁ…。
けど私は京一、好きです。
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