なりきり拓海のD日記
act.5
今度のバトルは大変だった。
トドさんたちが、プロを出してきたらしい。
それで、今回のバトルはそのプロとワンマッチだとかで、俺か啓介さんか、どちらかだけが走ることになるそうだ。
ハチロクを整備に出した時に松本さんが、
「たぶん啓介さんが走ることになるだろう」
と言っていた。ちょっと残念かなと思ったけど、正直良かったと思った。
「…ああ、最近、藤原は腰の調子が悪いみただからな」
それをポロっと言ったら、松本さんにそう言われて微笑まれてしまった。
あれはきっとバレてるんだろうな。
ハチロクのボンネットをカーボンに変えた理由も分かってたみたいだし。って言うか、ボンネット、やり過ぎてヘコんだの丸分かりだしなー。
前、松本さんが言ってた「アオカン」もちゃんと涼介さんが実践して教えてくれた。
少し俺は大人になったみたいだ。
あれはあれですごい楽しかったんだけど、後がすごく大変だった。やっぱりせめて風呂が使えるところか、柔らかいベッドの上とかじゃないと、腰に負担が激しい。大人になるって大変だ。
そう言われていたので、安心して遠征に行ったら、なぜかバトルは俺が走ることになってしまった。
啓介さんは拗ねてFDから出て来なくなるし、涼介さんは、いつものエロい顔じゃなくて、真面目な顔のままだし、これは本当にものすごい大変な事になるんじゃないかと実感した。
そして涼介さんは俺をFCに乗せて、コースの説明に行った。
涼介さんは何も言わなかった。ただ俺を乗せて、涼介さんの走りを見せてくれるだけ。
…すっげぇカッコ良かった…。
やっぱこの人のことが好きだなぁと本当に心から思った。
涼介さんが俺の前ではなかなか見せてくれない厳しい顔で、ステアリングを握る。あの長い指でシフトチェンジするように、俺のもして欲しいな、なんて思いながらじっと見ていたら、ものすごくエロい気分になってきて困った。
涼介さんは真面目に俺に教えてくれてるのに、こんなエロいこと考えてたらダメだ、そう思って気を逸らそうとするんだけど、頑張れば頑張るほど、何だか体が熱くなってくるみたいだった。
思わず涙目になって、腰をモジモジとし始めたら、厳しい表情だった涼介さんが、いつものあの「フッ」って笑みを零した。
「…我慢できない?拓海?」
そして最近になって俺がよく見る、エロモードの涼介さんにいきなりシフトチェンジしていた。
俺は慌てて首を横に振って俯いたけど、涼介さんにはバレバレだったみたいで、涼介さんはあるポイントで車を止めた。
「…ここは他から見えない、死角なんだ」
と言っていた。しかく?四角?よく分からないけど、俺には目の前に迫る涼介さんの顔しか見えていなかった。
前は俺のハチロクが揺れたけど、今度は涼介さんのFCが揺れた。
でもソ●ニューは無かった。
「バトル前だからな」
と言われた。
「そんなもの欲しげな顔をするなよ」
と笑われた。
「…拓海が勝ったら、すごいことしてやるよ」
…すごいこと…。俺はお腹の中からメラメラとやる気がいっぱい出てきた。涼介さんのすごいことは、本当にスゴイんだ。
そして涼介さんは俺に勝つための方法としてあることを教えてくれた。
「…啓介では駄目な理由は…コレなんだ。あいつは、真っ正直すぎるところがあるからな。けれど拓海は、俺のためなら出来るだろう?」
うーん…。俺も微妙に頷けないところだけど、でも涼介さんのスゴイことのためなら平気だ。
「…はい。でも絶対スゴイことして下さいね」
「ああ。がんばれよ」
肩をポンって叩かれた。これは涼介さんのDのリーダーモードの印だ。尻を撫でたらエロモードなんだけどな。俺はでもどっちの涼介さんも嫌いじゃない。だからつい、松本さんいわく「ふぇろもん全開」な顔で涼介さんを見てしまったらしく、涼介さんは苦笑いしながら俺の尻を触った。
「…あまり俺を誘惑するなよ」
涼介さんはそれ以上触ってくれなかったけど、でもきっとバトルが無かったら、そこの木の陰でスゴイことが起こっていただろうな。涼介さんとセフレになれてから、俺はしょっちゅうエロいことを考えるみたいだ。
前に「ハシが転がっても●つ年頃だからな」と涼介さんには慰められたけど、本当は俺がエロいだけなんじゃないかな?
そう思って、俯いていると涼介さんが俺の尻を撫でながら、
「どうした、拓海?」
優しい顔で心配してくれた。…エロくてもいいか。涼介さん、前に俺がエロい方が好きだって言ってたもんな。
バトルの前に涼介さんに尻を触られるとすごく落ち着く。しかも今回は、この後ごほうびも待っているんだ。
俺は今までのバトルの中で、一番やる気を出していた。
そしてバトル…。
…実は涼介さんには言わなかったけど、トド塾のジュクチョーとか言う人は子供の頃の俺に、『五千円でいいから握ってくれないか?』と言ってきていた人だった。向こうは俺に気付かなかったみたいだった。よく見ていたら何となく分かった。
俺は涼介さんのセフレってやつになってから、そういった方面のセンサーみたいのが発達したみたいで、変態の人だとかホモな人だとかの見分けが付くようになっていた。
あのジュクチョーとプロの人たちはどうも恋人同士みたいだな、って思った。しかもたぶんだけど、ジュクチョーが俺の側の役目みたいだ。だからもう俺に五千円で握ってもらわなくても良くなったんだろう。
それを俺は松本さんに言った。
松本さんはそれを聞いてすごく残念そうな顔をした。
「…そうか、あの舘って人は名前の通りタチなのか…」
松本さんのダジャレだ。やっぱり松本さんのギャグセンスは冴えている。
「どうせならタチを俺がネコにしたかったんだけどな…」
捨て身のギャグだ。俺はバトル前だってのに、大笑いをしてしまって、ケンタさんに睨まれた。けれど俺の隣にいた松本さんを見た途端、青い顔になってお尻を押さえて逃げて行った。
「さっき松本といる時に笑っていたみたいだけど、何を話してたんだ?」
と聞かれたので、舘がタチとか、捨て身のギャグだとかケンタさんの話だとかをした。
そしたら涼介さんは、「フッ」って笑って、
「松本は自分よりゴツいのが好きなんだ。ケンタは、前にうるさすぎるって言うんで、松本に少しお仕置きをされた事があるんだよ。だからじゃないかな?」
松本さんはどうやら「まにあ」ってやつらしい。ケンタさんはお仕置きされたのか。松本さんのお仕置きはどうなんだろう?涼介さんのお仕置きはすごい気持ち良かったけど。
そんなふうにぼんやりしていたら、涼介さんに鼻をつままれた。
「俺以外の男の事なんて思っているんじゃない」
…バトル。がんばって、スゴイことをしてもらおうと、もう一度心に誓った。
迎えたバトルで俺はそんな気持ちがあったから、精一杯がんばった。けど、やっぱりプロの人はシビアで、やっとの思いで抜いたと思っても、あっさり抜かれ返されたり、今までのバトルの中で一番ヤバかった。
そして迎えたあのポイント。
俺をFCに乗せた涼介さんが教えてくれたところに差し掛かった。
あの時、涼介さんは、
『…たぶん、このポイントで、相手のほうが藤原よりも先行しているだろう。だがここで向こうの車は一瞬減速して蛇行する。そのチャンスを逃すな』
こう言ったのだ。
『何があるんですか、ここ?』
『…フッ、俺も知らないが、何かが起こることだけは確かだ。だからここまで相手と離れず、食いついて来いよ』
そしてあのポイントに差し掛かった時、涼介さんの言ったとおり相手の車が減速して、しかも蛇行した。
相手の車を抜き去る時に、俺が横目で林の中で見たのは、親指を立てて、俺に「がんばれ」とサインを送る、迷彩服と顔中にカモフラージュペイントを塗りつけた松本さんの姿だった。
…どうやら松本さんはマニアなだけではなく、奥が深い人みたいだ。
まさかの逆転勝利で俺が勝った。
あのポイントで、何があったのか俺は知りたくて、プロの人に聞いてみた。
「何かが横切ったんだ。たぶんイタチか何かだろう…」
と言っていた。
イタチ。何だ。じゃ、松本さんって関係ないのかな?
でもバトルが終わった後、出迎えてくれた松本さんのポケットには、マギー●司がよくマジック何かで使っているイタチの人形がのぞいていた。
じっと俺がそれを見ていると、松本さんはそれを使ってマギーさんのように、ホンモノみたいに動かして見せた。かくし芸だ。やっぱり松本さんって奥が深いんだなと思った。
そういや後で、啓介さんたちから、俺がバトル中に車のライトを消して走っていたことを聞かれた。
なので答えた。
「前に、俺が涼介さんに目隠しでされたときすごい恐かったんで、車でもそれやったら恐いかな、って思ったんです」
啓介さんや史裕さんは、風邪なのだろうか、コホコホと咳き込んで、そしてまた聞いてきた。
「…つかぬ事を聞くが…それは…何をされたのかなぁ?」
「何って…」
俺は思わず顔が真っ赤になってしまった。そんな事、とてもじゃないけど言えない。あの駐車場のトイレで涼介さんに目隠しされながら、ものすっごいエロい事されただなんて!!
と心の中で思っていたら、どうも全部言葉になって出ていたみたいで、Dのメンバーたちだけじゃなく、ギャラリーやトドさんたちも真っ白になって固まっていた。
涼介さんだけが笑顔で、
「拓海の吸収力は俺の予想を超えているな…」
と言ってくれた。涼介さんがあんな笑顔で笑ってくれるのは滅多にないことだ。
どうやら俺はいい仕事が出来たらしい。
そして涼介さんは、約束どおり、あとでいっぱいご褒美をくれた。
スゴかった…。
そしてさらに涼介さんは、
「俺にもブラインドアタックをしてみろよ」
とからかって言うので、本当にやってみた。
すごい楽しかった。
何だかいまだに興奮が収まらないでいる。
「今度はもっとスゴイことをしような」
と目隠しを外した涼介さんが言った。
本当に大人ってすげえなって思った。
けど、そんな俺も少しずつ大人の仲間入りをしている。
…とりあえず、イツキには内緒だなって思った。
2005.8.11