BOSS-PAN
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act.2
act.3
act.4
act.5
act.6
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番外 馴れ初め
act.4 連動
-変態値-
高橋涼介 ★★★★★★☆☆☆☆ 【そろそろ】
朝。
涼介はベッドの中でじっと自分の股間を見つめた。
…勃っている。
成人男性の生理現象で朝勃ちと言うものは確かにある。
だが涼介の今の状態は、それによるものではなかった。
朝から股間を逞しくさせている理由。それは彼の隣に眠る存在によるものだった。
藤原拓海。
愛らしい顔で、うっすら唇を開け、幸せそうな顔で眠る少年の顔。
目覚めて、彼のそんな顔を至近距離から見た涼介は、みるみる自分の股間が固くなっていく自分を感じた。
…かなりヤバいな、俺…。
自分は拓海に対し、庇護欲しか感じていなかったはずだ。
なのに今は紛れもなく性的欲望を感じている。
あのしなやかな腰つき。そして眠る拓海の愛らしい頬、唇。それらを見ていると、どうにもこうにも、今すぐ舌で、指で、手のひらで撫で回したくて仕方がなくなってくるのだ。
自分の動きで、この安らかな寝息を喘ぎに変えさせたい。もう脳内は艶かしい紫色のオーラで多い尽くされている。
…もしかして、欲求不満なのか?
そう言えば、最近性的処理を怠っていた。きっとそのせいだ。そうに違いない。
じゃ、トイレで早速…とベッドから出ようと立ち上がった瞬間、
「…ぅん…おにいちゃん?」
ぎゅっと自分の服の端を掴み、引き止める甘やかな声。
その声と仕草にまたもや股間の高ぶりが増した。
「拓海、起きたのか?」
そう問いかけるが、まだ彼の大きな瞳は閉じられたままで、そして眠そうにぐりぐりと涼介の背中に頭を擦り付ける。
……可愛い…。
過去、涼介はどんな女相手にもこんなに誰かを「可愛い」などと思うことはなかった。弟はもちろん可愛くないし、従妹にしても可愛いとは思うが、見ているだけで嬉しくなってしまうような可愛さではなかった気がする。
初めから、拓海だけが特別だった。
弟のように扱っている頃から可愛くて仕方がなかった。だから本来なら面倒な、今の状態の拓海の世話を嬉々として引き受けたのだ。
涼介の優秀すぎる脳は、すぐに自分の変化と今の現状に対する答えを導き出していた。
俺は藤原拓海に恋をしている…。
うっすら開かれた拓海のぽってりとした愛らしい唇。
涼介は彼を起こさないよう、そっとその唇に、触れるだけのキスをした。
その瞬間。
たったそれだけの接触で、涼介は脳が痺れるほどの快感を覚えた。
今までのセックスの経験が、子供騙しの遊びに思えるほどの。
そして。
残ったパジャマのズボンの中の恥ずかしい染み。
十代の子供の頃でさえ無かった状況に、涼介は戸惑いを通り越して、ひたすら呆然とするしかなかった。
家の中に閉じこもりきりでいるのが、自分の症状を悪化させているのではないか。
パジャマのズボンを、パンツとともに洗いながら涼介は考えた。
恋心を自覚したとはいえ、相手は逆行健忘症の子供の精神を持つ拓海。
まさかこの洗濯機の中の自分のパンツと拓海のパンツのように、組んずほぐれつ絡み合うわけにもいかない。
…くそ、いいな、このパンツめが。布切れの分際で、拓海のパンツに触れやがって…って、ハッ、俺は何を考えているんだ??
涼介は自分がかなり煮詰まっていることを自覚した。
イカンイカンと首を振りながら、回る洗濯機から離れ、リビングに戻るとそこには拓海一人だけがいた。
「拓海?啓介はどうしたんだ?」
自分が洗濯をする前は、確か啓介は遅めの朝食を食べながら拓海と一緒にリビングでゲームをしていたはずだ。
放り投げられたコントローラー。ゲーム画面には拓海がプレイするキャラしか残っていない。
「んと、あのね、けいすけおにいちゃん、こんなのやってられるかって、どっかいっちゃったの」
…あの馬鹿。
涼介はこれらの情報から、きっと啓介がゲームで拓海に負け、拗ねてゲームの途中で外出してしまったのだろうことを悟った。
「仕方ないやつだな。拓海、ゴメンな」
涼介は座る拓海の頭を優しく撫でた。すると拓海は嬉しそうにその手に頭を預け、そして微笑みながら涼介を見上げた。
「おにいちゃん」
大きな瞳に真っ直ぐ見つめられ、散らしたはずの欲望の残り香がまた燃え上がりそうになる。
…ヤバい!!
慌ててまた首を振る。
…クソ、今すぐこのソファに押し倒して、服をむしり取って嘗め回してぇ…ハッ、俺は何を考えている、それじゃ犯罪だろうが!
そうだ。こんな自分を無条件に信頼している子供な拓海に俺は何を考えているんだ?!
懊悩する涼介。
そんな彼には気付かず、拓海はふわぁと大きなあくびをした。
そして涼介の服の端を掴み、
「おにいちゃーん、たくみ、おうちにいるのあきちゃった。おそといこうよー。けいすけおにいちゃん、はしりにいくっていってたよ?」
涼介はハッとした。
…そうだ。こんないつでもどこでも押し倒せるような家の中という状況は、精神衛生上良くない。外…走りか…そういや十代の頃はよくストレスや欲求不満の時など、暴走行為に耽っていたよ。今はもう懐かしい思い出だがな…って、そうか!走ればいいんだ!!
走って煩悩を紛らわせる。
それは良いアイデアに涼介は思った。
「拓海、じゃあ、走りに行ってみるか?」
「うん!」
嬉しそうに頷く拓海の姿に、涼介は自分の思いつきは悪くはなかったなと微笑んだ。もしかしたら、峠へ行くことで拓海の精神にも何らかの影響があるかも知れない。そうとも思った。
にこにこ、笑顔の拓海を微笑ましく見つめていた涼介は、だがガレージの中のFCを前にした瞬間に凍りついた。
――そう。
車の中。
それは完璧な密室空間。
外界の音も、空気も遮断され、そこは二人だけの閉ざされた世界。
涼介の顔から、どっと汗が噴出した。
…俺、マジヤバいかも。
「おにいちゃん、どうしたの?」
しかし、今更この嬉しそうな顔を曇らせるわけにもいかない。
涼介はFCのドアを開け、自分の忍耐の限界と言うものへの挑戦を目指した。
赤城の峠に、久しぶりにFCのエキスゾートが谺した。
走りに来ていた人々や、ギャラリーたちまでカリスマの出現に目を輝かせ、その貴婦人のような車体に目を釘付ける。
だが。
いつもなら優雅なドライビングを見せるかの車は、今日はやけに…荒れているように彼等の目には映った。
「…何か…今日の涼介さんの走り、鬼気迫ってないか?」
「そうだな…あんな、走り、俺、今まで見たことがないよ」
そう囁くレッドサンズの面々。
そして駐車場で缶コーヒーを飲んでいた啓介にも、兄の車の音はしっかり聞こえていた。
珍しいな、と思いつつも彼は喜んでいた。Dを始めてから自ら走ることが少なくなった兄が、久々に峠に現れて走っている。その事実は、兄の走りに魅せられこの世界に入った啓介には喜ばしいことだったのだ。
だが、駐車場に現れた白のFCの姿を見た途端、啓介の笑顔は消えた。
いつもの兄らしくない、乱暴な走り。まるでキれた時の自分のような荒々しさを感じる。
「…おい、あれ、涼介だよな?」
彼の隣にいた史裕まで、そんな疑問の声をあげるほど、その動きはいつもの彼らしくなかった。
けれど。
啓介はすぐに悟った。
駐車場のFDの横に止められたFC。
すぐに運転席のドアが開き、陰鬱な顔をした涼介が降り立ち、だが彼はすぐに助手席に向かいその扉を開けた。
そこから現れたのは…拓海だ。
拓海の姿を見た瞬間、啓介はすべてを理解した。
最近の兄の変な理由
それらには全て、あの藤原拓海が関わっているのだから。
「…あれ、藤原だよな」
「………」
「あの病気って、まだ治ってないんだろ?大丈夫なのか?こんな所に連れてきて」
啓介は嫌な予感がしていた。
兄の変な理由。それがもし、自分の予想が当たるのならば…理由は…。
仲良く手を繋ぎながら、こちらへと歩いてくる二人。史裕はまだ事態を軽く見ていたため、手を上げて「涼介、こっちだ」などと爽やかな声をかけたりしている。
だが啓介には出来なかった。
「啓介、史裕…」
やたらと暗い兄の表情。きょろきょろと不思議そうに辺りを見回す拓海の無邪気な顔。
啓介たちの前に立った涼介は、「こんばんは」でも「調子はどうだ?」などの言葉もなく、開口一番こう言った。
「頼む。俺を殴ってくれ!」
「はぁ?」
「………」
史裕は唐突な涼介の言葉に、驚きの声をあげたが、啓介は無言のままだった。そして自然と視線が兄の股間に向けられる。
兄の左手は拓海の手と繋がっている。だがもう片方の手、右手はズボンのポケットの中に突っ込まれ、やたらと腰部分に手のひらの膨らみを見せていた。
啓介は確信した。
…兄が、自分の股間をポケット越しに右手で握って…抑えていることを。
昨日から、いつかこんな日が来ることを啓介は予感していたような気がする。だがまさか、こんな早くとは予想だにしなかった啓介だ。
「頼む。俺を犯罪者にしたくないなら!」
切羽詰ったような涼介の言葉に、啓介は無言のまま頷いた。
そして生まれて初めて兄に拳を喰らわせた。
涼介の鳩尾に、キツめの一発。
手加減はしなかった。兄の表情や態度から、これはかなり限界値を超えたものなのだろうことが窺えたから。
「……っ…」
うめき声を上げ、涼介の体が崩れ落ちかける。啓介はそれを支え、兄の体を受け止めた。
兄弟間では以心伝心で伝わった一連の出来事。
史裕は突然のことに言葉もなく口を大きく開けたまま呆然としていたし、拓海に至っては…。
「お、おにいちゃん?!」
突然殴られた涼介の体に心配そうに触れ、そしてキッと啓介を睨み付けた。
「けいすけおにいちゃんのばか!きらい!」
怒鳴りつけたかと思うと、次の瞬間には、その大きな瞳からは大粒の涙がボロボロ溢れ、そして、
「おにいちゃーん…」
わあわあと、涼介の体にしがみ付き大泣きし始めた。
その声に、ただでさえ注目の的だった人々の視線が彼等に集中する。
「…あれ、泣いてるのって秋名のハチロクじゃねぇか?」
「あ、そうだよ。そんで、一緒にいるの高橋兄弟だよ。いったい何があったんだ?」
「俺、見てたぜ。高橋啓介が、高橋涼介をいきなり殴って、それに秋名のハチロクが怒って泣いたんだ」
「…へぇ。兄弟喧嘩か何かかな?」
「珍しいな。あの兄弟って仲すげぇ良かっただろ?」
「その仲の良かった兄弟が突然の喧嘩…その間に秋名のハチロク…いったい何があったんだ?」
人々は想像を逞しくさせた。皆、そこにドラマを嗅ぎつけ、各々に妄想を繰り広げられる。
そしてそんな人々の視線の中心の涼介たちに新たな動きがあった。
泣き喚く拓海に、涼介が彼等が見たこともないような優しい笑顔で微笑み、そして涙が零れる頬を指でふき取り、頭を撫でた。
「…拓海、俺は大丈夫だよ?啓介には俺から頼んだんだ。だから許してやってくれ」
「お、おにいちゃん、でも、いたそうだもん」
「フッ…痛くはないさ、こんな痛み…」
…俺の股間の痛みに比べたらな!
とはさすがに言わないが、表情には出ていた。それを見た史裕は青ざめ、啓介は確信が強まったことで、深い溜息を吐いた。
「け、啓介…もしや涼介は…」
「アニキは…遠い星にいっちまったんだ…」
夜空を見上げながら、そう呟く啓介。
だがそんな彼も、数ヵ月後、兄と同じ道を辿ることになろうとは、夢にも思わないことだろう。
「おにいちゃん、ほんとうにだいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫だ。だから…もうちょっと離れてくれないかな?」
その言葉に、ガーンとショックを受けた拓海は、再び涙の粒を瞳に盛り上げて、しゃくりあげながら涼介を見つめて言った。
「…おにいちゃん、たくみのこと、きらい?たくみ、おにいちゃん、だいすきだもん…だから、おにいちゃんにきらわれたら、たくみ…」
ボロボロと、さっきの泣き喚いた感じとは変わり、見る者全てに同情心を煽るような悲しげな様子で泣き始めた。
史裕や啓介でさえ「よしよし」と慰めたくなるほどの拓海の儚げな姿に、もちろん熱く恋する男が平気でいられるはずもなく、ブチッ、と彼のほうから何かが千切れる音を、確かに史裕も啓介も聞いた。
そして理性の糸が切れてしまった涼介は、本能と心のままに、ぎゅっと拓海の体をかき抱き、そして常の彼には有り得ない大声で叫んだ。
「馬鹿な、俺は拓海が大好きだ!!だから泣くな、拓海。俺が悪かった!」
涼介の言葉に、硬直する啓介たち。他、ギャラリー。
動いていたのは拓海だけ。
「ほんと?おにいちゃん、たくみのことすき?」
「ああ、大好きだ。食べてしまいたいくらいだな」
「うれしい。あのね、たくみもおにいちゃん、だいすき」
「拓海!!」
赤城の峠に激震が走った。
ちゅ。
ちゅー。
渦中の二人の突然のキスシーン。しかも結構長い。皆、口をあんぐり開けて見入ってしまった。
「…ぅん、おにいちゃ…くるし…」
「…拓海、口で息をするんじゃなくて、鼻で息をするんだよ?そしたら苦しくないから」
「んむー…むずかしいよ、おにいちゃーん」
「そうか。まだ拓海には大人のキスは早いかな?」
「おとなのきす?たくみ、おにいちゃんとキスしたの?」
「ああ。キスは大好きな人にするものなんだよ。だからいっぱいキスしようね?」
「うん。おにいちゃん、もっとして」
「…ああ、思う存分…フフフ…」
んちゅー。
どこからどう見ても、熱愛中のバカップルな二人の様子に、注視していた人々の視線は咳払いとともに逸らされて、凍り付いていた空気は、やがて密やかなざわめきとともに消えた。
この日を境に、群馬のみならず、関東域全ての走り屋たちの間にこんな噂が広がった。
『赤城の白い彗星は秋名のハチロクと付き合っている!』
そしてこの現場を目撃していた人々の間に、一連の出来事はこう結論付けられて、ひっそり胸の中の大切な思い出の中にしまわれた。
いわく。
『高橋涼介が何か藤原拓海を泣かせるような事をして、藤原に横恋慕していた高橋啓介に殴られた』
『けど結局、藤原は啓介ではなく涼介を選んだ』
『そして高橋涼介も反省し、藤原に赤城の中心で愛を叫んで、熱烈な二人に戻った』
めでたしめでたし。
「いやぁ、ドラマみたいだったな」
「高橋兄弟もすげぇカッコいいけど、秋名のハチロクもすげぇ可愛いもんな」
「あ、俺、あの高橋涼介に縋ってるところなんて、かなりキたよ」
「俺も。あれはクるよなー。男だって分かってても、あんだけ可愛かったらなー」
「そうだな。高橋涼介が羨ましいぜ」
「オイオイ、あの人に張り合おうってのか?」
「無理ムリ」
アハハハハ…。
こうして。
赤城を中心に、急速に高橋涼介と藤原拓海、公認カップルとして認定されていくのであった…。
その頃の二人は…。
「おにいちゃん、もうねむい」
「そうか。じゃ、おうちに帰ろうか?」
「うん。でも、もういっかいおにいちゃんがはしるのみせてね?すごいかっこいいもん」
「フッ、拓海は可愛いな」
ちゅ。
「じゃ、早速見せてやるよ。さあ、おいで」
「うん!」
仲良く二人でFCに乗り込み、何もなかったかのように優雅に立ち去って行った。
残されたのは、顔色を悪くした史裕と、やけに胃が痛くなっている啓介。
「…りょ、涼介ぇ…お、俺の知っていたあいつはもういないのか…」
「諦めろよ。まだ史裕はいいよ。俺なんか、あいつらのいる家に帰らなきゃなんねーと思ったら、すげぇ胃がいてぇよ」
「…や、やってたらどうする?」
何を?とは聞かない。ただ啓介は両耳を手で押さえて蹲った。
「うわー、想像したくねぇ…嫌だ、俺、今日、うちに帰るの。頼む、史裕!泊めてくれ!!」
同病相哀れむ。
史裕はそんな切なる啓介の願いに、仏のようなアルカイックスマイルで頷き、そして二人で遠い夜空の星を眺めて心を慰めた。
赤城の夜に、快調な音を響かせるFCのエキゾーストが谺した…。
-変態値-
高橋涼介 ★★★★★★★★☆☆ 【かなり…】
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