BOSS-PAN
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ぴよぴよ
その4
-変態値-
高橋啓介 ★★★★★☆☆☆☆☆【なかなか】
藤原拓海 ★★★★☆☆☆☆☆☆【ほどほど】
高橋涼介 ★★★★★★★★★★【コンプリート!】
その日、高橋家のリビングでは騒動が起きていた。
「いくっ!」
「ダメだ!」
「やっ!いくもん!!」
言い争っているのは啓介と愛玩生物ぴよ。
そこに涼介がリビングの扉を開き入ってきた。
「おいおい、どうした?ベッドの中では色気のある会話なんだろうが、ここではただの喧嘩だぞ」
「………」
入ってきた兄のセリフに、啓介は激昂していたのが一気に冷めるのを感じた。
「あ、あにきー、ねー、おれもいってもいいでしょ?」
「ん、どこにだ?天国なら俺じゃなくて啓介に連れてってもらいなさい」
大人の変態会話に、もちろんぴよは気付くはずもなく…。
「ちがうもん。えんせいにいきたいの」
「遠征って…Dのか?」
こっくりとぴよが頷いた。
愛玩生物ぴよが誕生してから早や四ヶ月。
現在のぴよの見かけは十歳程度の少年にまで成長していた。
「うん。おれもでぃーのえんせいにつれてって?」
「だからダメだって!遊びじゃねぇんだぞ!」
「うー、いくもん!!」
またも「ダメだ!」「いく!」の会話を繰り返す二人を、涼介は温かな目で見つめていた。
…一ヶ月の拓海のお預けは厳しかった…こいつらも少しはモメやがれ…フフフ…。
涼介はぴよに悪戯したことが拓海に見られ、何とか謝り倒して許してもらえたが、なんと一ヶ月ラブ行為禁止と言う、涼介にとっては死ねと言わんばかりのお仕置きを頂き、それを楽しげに見ていた啓介への恨みがまだ残っているらしかった。
「いいじゃないか、ぴよも遠征に行くか?」
「うん!」
「アニキ!!」
…俺は今、啓介が困るためなら何でもするな…フフフ…。
「でもいきなりどうしたんだ?いつもはちゃんと留守番していたじゃないか?」
涼介の疑問に、ぴよはその愛らしい顔をゆがめ、ぷいとそっぽを向いた。
「…だってけーすけ、うわきするもん…」
「ハァ?!!」
「……浮気…」
…こいつにそんな甲斐性があったか?
そう思う涼介であったが、すぐに思い出した。
そう言えば先日、啓介への「艱難辛苦大作戦」の中で最後の仕置きとして行った或る事を。
「…ああ、アレの事か…」
「ハァ、ちょっと待てよ、アニキ、俺ぁ知らねえぞっ!」
「うそっ!あにきもたくみも、ふみひろだっていってたもん!!」
「ハァ?どんな事だよ?」
「えーと…たくみはねー、けーすけがおんなじえふでぃーにのってるおんなのひとにしんせつにしてたって」
「…ああ、何だ、アレのことか」
「そんで、ふみひろはー、そのおんなのひとがけーすけにほれたみたいだって」
「…や、それはな、だから…」
「そんで、あにきはー、このまえのえんせいで、けーすけがそのおんなのひとのくるまにのっていっしょにねてたっていった!そんで、えふでぃーのゆれがあんまりはげしいから、ひるまからあまりいかがわしいことしないように、けーすけにちゅういしとけっていった!!」
…そういや言ったな、そんな事。
しらっとしている涼介に、啓介が噛み付いた。
「…アニキ、こいつに嘘教えんじゃねぇよ!!」
だがそんな啓介の反応など涼介にとっては予想済みなこと。フッ、とほくそ笑み、涼介はこう言った。
「心外だな、俺が嘘を吐いているとでも?」
「…う、嘘じゃねぇか」
「俺は真実のみを口にしたつもりだぜ?実際にお前はあの黒のFDの女に親切にしたし、あの女もお前に惚れただろうことは事実だ。そして…」
ごそごそ。
涼介が取り出した、拓海とおそろいの携帯。
そのフリップをパカリと開き、出てきた映像に、啓介は口を開けたまま呆然としてしまった。
「見ろ。これが証拠だ」
そこには黒のFDの助手席で眠る啓介。そして運転席には見知らぬ女。さらにその映像の二人は…裸だった…。
「…なんじゃ、こりゃあ!!」
見に覚えの無い映像に、思わず故●田優作の某ドラマでの名セリフを絶叫する啓介。
慌てて飛びついた兄の携帯を引ったくり、まじまじと見れば…うっすらと見える画像処理の後…合成だ。
「…アニキ…あんたって人は…」
思わず兄の非道さに言葉を失ってしまった啓介は、ぶるぶると涙目で震えるぴよへの反応が遅れてしまった。
「…けーすけ…やっぱうわきしてたんだ…やっぱおれみたいのより、ちちのおおきなおんなのほうがいいんだ…おれ、ちちおおきくなんないし…」
「…ぴ、ぴよっ?!ち、違う、これはアニキが…」
「…いいわけはおとこらしくなんだよ、けーすけ…このまえあにきにそういってたじゃん…」
「………!!」
啓介は気が付いた。
これは兄の自分への復讐なのだと。
「…ぴよ。啓介も男だからね。欲望が暴走することもたまにはあるんだ。至らない弟ですまないな。俺から兄として啓介の分まで謝っておくよ。だが、どうか啓介を見捨てないでやってくれ。ぴよは、まだ啓介が好きだろう?だからこれからは、啓介が浮気しないように、ずっと股間を見張っていなさい」
「はい。あにきー」
「…………」
啓介にもう反論の言葉はない。
…こうして、ぴよは初めてDの遠征へ行くことになったのだ。
メンバーとの待ち合わせの場所に現れた啓介を見た瞬間、メンバー皆は驚いた。
なぜなら。
彼のFDの横には見慣れない物体がいたせいだ。
「…あれ、もしかして…ぴよ?」
「あ、たくみー」
FDの助手席から飛び降りるように出てきたぴよに、拓海は驚いた。が、あまり顔には出ていない。
「あのねー、おれ、こんどのえんせいにいっしょにいくのー」
「え?そうなの?涼介さんはいいって言ったの?」
「うん。あにきねー、けーすけのこかんをみはってろって」
「…そうか、こかんをみは…えっ?!!」
可憐な少年の口から出た言葉に、その場にいたメンバー皆が頬を赤らめそっぽを向いた。
「りょ、涼介さん…何てことを…」
密かに怒りに震える拓海。その時史裕が、
「みんな集まったようだな。じゃ、出発するか」
の号令。それを見たぴよは史裕を指差し言った。
「あ、ふみひろー」
「あれ、もしかして…ぴよか?」
Dのメンバーの中でぴよを知っているのは史裕一人だけだった。
高橋家に出入りすることの多い彼は、自然とぴよと親しくなった。最初、ぴよの存在に驚きを隠せない史裕であったが、何しろあの涼介のすることと納得し、他の高橋家の人間同様、愛らしいぴよを可愛がっている。
「どうしたんだ、今日は?一緒に来るのか?」
「うん。あのねー、けーすけがうわきしないようにみはるのー」
「そうか。じゃ、俺も一緒に見張ってやるよ」
「ありがとー。ふみひろいいやつー」
大多数の人々は可愛らしい者の味方だ。しかも史裕は密かに小動物系の生き物に弱いタイプだった。動物物のドキュメンタリーに、号泣するような人柄であったため、このぴよが愛らしくて仕方ない。
「どうしたんですか、その子?うわー、藤原そっくりですね。藤原の弟か何か?」
「あ、本当だ、可愛いー、すげぇ小さい、目とかクリクリだ」
「え、藤原の弟?」
史裕とぴよが親しげに話しているのを見て、様子を窺っていた他のメンバーたちも皆、ぴよに話しかけてきた。
「あのねー、おれ、きょうはねー、けーすけがうわきしないようにみはりにきたの。だからよろしくー」
Dメンバーは皆、車と小動物を愛する気のいい人々ばかりであったらしく、そのぴよの愛らしい仕草にもう心を奪われてしまっていた。うるうるする大きなその瞳でそんなふうに頼まれてしまうと、皆デレデレの笑顔で頷いた。
「ああ、任せろ。啓介さんが浮気しないように、見張っててやるぞ!」
「俺もだ!」
「俺も!!」
「ありがとー。みんなすげぇいいやつー。すきー」
ぴよの好きをもらった彼等は、「おお…」と感動のどよめきを漏らした。
「フッ、すっかり仲良くなったようだな」
「あ、涼介さん」
ぴよを囲む彼等の姿を遠巻きに見つめていた拓海の隣に、いつの間にか涼介が立っていた。そして慣れた仕草で拓海の腰を抱く。
拓海はその腕をピシリと叩いて外させた。
「…涼介さん、あまりぴよに変な言葉ばかり教えないで下さい」
「変な言葉?」
「はい。その…Hな言葉とか…やらしい言葉とか…」
「…ふふ、まるで子供を心配する母親みたいになってるぞ、拓海」
涼介の言葉に、頬を一気に赤く染め、恥じらい拓海は俯いた。
「…だ、だって、涼介さんが言ったんじゃないですか。ぴよは、俺たちの子供だって」
涼介は真っ赤な顔で俯く拓海の身体を抱き寄せた。
「ああ。言った。だから拓海は正しいな」
「じゃ、あんまりそういうこと、言わないで下さいね」
「そうだな…でもな、拓海はあまりそう言う言葉、言ってくれないだろ?だからつい、ぴよに代わりに言わせたくなるんだよ。何しろぴよは、お前にそっくりだからな」
「…だからって、涼介さん!」
「ぴよの代わりに拓海が言って。そうしたら止めてやるよ」
「…え?」
「………とか、………とかな」
ボソボソとその低音美声を拓海の耳元に注ぎ込む。声音の甘さとその内容に、拓海の腰は抜けそうになり、涼介の腕に全身の力を預けた。
「ダメか?拓海?」
にっこりと、口元に笑みを履いた涼介の表情は色気に溢れ、その切れ長の眼差しからは拓海を魅了する毒が溢れているようだった。
「…ダメ…じゃ…ないです…」
フッ、と涼介がほくそ笑む。
すっかり力の抜けてしまった拓海を、姫抱きで抱え上げ、ハチロクへと向かう二人。
そしてそんな二人に気付かず、ワイワイとまだぴよを相手に盛り上がるDメンバー。
啓介はそんな彼等を、一人冷静な目で見続け、ハアと深く大きく溜息を吐いた。
…アニキたちはいつも通りな上に、やけにパワーアップしてるし、あいつらも少しはぴよの存在や言動に疑問を持つとかしねぇのか?
…今回のバトルは…波乱ずくめになるかもな…。
そう思考する啓介の耳と目に、飛び込んできたぴよの姿。
「わー、ぴよちゃん、カワイイなー」
「おれ、かわいいー?」
「おう、すっげぇカワイイー」
「ありがとー!」
褒められたぴよが、調子に乗って、メンバーの一人のほっぺにチュ。
それを見た啓介は、一瞬で髪の毛を逆立たせ、眉間にしわを刻んで、半径一キロは響くだろう大怒声でこう言った。
「ぴよ!俺以外にチュウは禁止っつったろー!!!」
…所詮、啓介もぴよバカ。
この後――。
『波乱になるかもしれない』
そう予想した啓介の不安は、図らずも当たる事になる――。
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