BOSS-PAN
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ぴよぴよ
その2
-変態値-
高橋啓介 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆【ほんのり】
藤原拓海 ★★★★☆☆☆☆☆☆【ほどほど】
高橋涼介 ★★★★★★★★★★【コンプリート!】
とりあえず充血する股間を、色即是空の心で何とか宥め、啓介は拓海もどきを連れて一階にあるリビングへと降りた。
拓海もどきには裸ではまずかろうと、啓介のシャツを着せたが、それがさらに何とも言えない風情で、またも啓介の欲望を煽ったが、心の中で般若心経を唱えながら啓介は、ぴったりとくっついて離れない拓海もどきを抱っこしたままリビングのドアを開けた。
そこには兄と拓海の姿があった。
しかも拓海はソファに座る涼介の膝の上に座っていたりなんかしている。
「おはよう啓介」
啓介の姿を認め慌てて膝から降りようとする拓海は、涼介の手により阻まれて、結局彼の膝の上に座ったままで、ほんのり頬を赤く染めながら、
「…お、おはようございます…」
と消え入りそうな声で呟いた。
昨日まではそんな兄の行動に、溜息しか出なかった啓介だが、今はそんな兄を笑えない。その姿を見た瞬間、この拓海もどきが自分の膝の上に座る妄想をし、またも股間が熱くなりかけたからだ。
涼介たちはすぐに啓介の腕の中の小さな物体に気が付いた。
驚く拓海に反し、涼介は嬉しそうな顔をする。
「ああ、生まれたのか」
そして立ち上がり、啓介のそばまで寄ってきて、彼の腕の中の拓海もどきを観察した。
「…やはり…愛らしいな。…拓海よりも色素は薄いが、この愛らしさはオリジナルそのままだったな」
うっとりとした表情で、涼介が拓海もどきの頬に指で触れようとしたとき、拓海もどきは、
「やっ!」
と顔を背けて、啓介の腕の中で縮こまるように身体を隠すようにした。
その瞬間。再び啓介の胸に「キューン」が広がった。
「あ、涼介さん、嫌われた」
拓海もどきを見つめる涼介に、不機嫌そうだった拓海は、拓海もどきから避けられた途端、嬉しそうに顔を緩めた。
そんな拓海に、涼介はフッと笑いながら傍らの拓海の腰を抱いた。
「この生物は卵から孵った時に一番最初に見たものに懐くようにセッティングしてあるんだ。今はまだ啓介以外が怖いんだろうな」
そして拓海の耳元に口を寄せ、
「…馬鹿だな、嫉妬したのか?俺にとっての一番はお前だけだって、いつも言ってるだろう?」
「…お、俺は別にそんなこと…」
「違うのか?」
「…だって、涼介さん、あの子のこと、すごい優しい目で見た…」
「当たり前だろう?拓海にそっくりなんだから。お前だって、俺のクローンがいたなら、どういう顔をする?」
「………ごめんなさい…」
「フッ、いいよ。嬉しかったから」
…まただよ、このバカップルは…。
呆れながらもぼんやりと見つめる啓介は、ぐいぐいと自分の腕を引っ張る存在に気付き目をやれば、自分の腕の中の拓海もどきが何か言いたそうに、じっと啓介を見ていた。
「あ、どうした?」
バカップルの毒気に当てられたか?
「…うー、ちゃい!」
また、ちゃい…。どう言う意味があるのか?
悩む啓介に、拓海もどきは、バンバンと啓介の腕を叩いたかと思うと、今度は自分を指差した。それを何度も何度も繰り返す。
「…お前、マジにどうした??」
不可思議な行動を繰り返す拓海もどきに、慌てる啓介に救いをかけたのはオリジナルである拓海だ。
「…啓介さん、もしかしてその子、啓介さんの名前が知りたいんじゃないですか?」
拓海がそう言った瞬間、拓海もどきは、パアッと花が咲くような笑顔になり、またも、
「ちゃい!」
その愛らしさに一瞬、意識を失いかける啓介と、余波を受けた涼介。
「やっぱ、そうらしいっすね。えーと……あ、この子、名前まだ無いんだっけ?何て呼びかければいいんだ??ええと、この人はね、啓介さん、けいすけ、だよ?分かる?」
拓海がもどきを覗き込みながらそう言うと、もどきはしっかりと頷き、呆然としている啓介を見上げた。
「けーちゅけ」
…可愛い…。
啓介は本気で今死んでも悔いは無いと思った。
「俺は涼介だ、ほら、言ってごらん?」
「ちょ、アニキ、何教え込もうとしてんだよ!」
「いいじゃないか。俺がこの子の生みの親だぞ?名前ぐらい呼ばれたって…」
「…涼介さん、やっぱりその子のほうが…」
「い、いや、違うぞ、拓海!俺はこの子がお前に似ているから、だから…」
あたふたと言い訳をする涼介と悲しげに顔を背ける拓海の様子をじっと観察し、もどきはこっくりと頷き、二人を指差しながらこう言った。
「あにき」
ぴたり、と指差された涼介の動きが止まる。
「たきゅみ」
こちらも、指差された拓海は驚きの顔でもどきを凝視している。
「…お前、もしかしてすげぇ頭いいのか?」
啓介は腕の中のもどきを見つめた。もどきは啓介に見つめられて、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
…すげぇ可愛いんだけど!!
煩悩と戦う啓介。
そしてこちらにも、その愛らしさに瞠目した人物たちが。
「…はぁ。可愛いっすねー」
「ああ。拓海にそっくりだ」
「…え、俺、あんなに可愛くないですよ?」
「そうか?俺には拓海が一番可愛い」
「りょ、涼介さん…」
「…なあ、拓海。あの子は拓海の遺伝子から俺が生み出した生物だ。言うなればあれは俺たちの子供、そう言っていいんじゃないかな?」
「…涼介さん」
「俺たちは同性同士だ。もちろん表向き結婚など出来ないし、どんなに愛し合おうと子供は出来ない。だがそんな形式よりも俺は実質を大事にしたい。結婚は出来ないが、養子縁組で籍は入れられる。子供は…あの子だ。…拓海、俺とずっと一緒にいてくれないか?」
「涼介さん…俺…嬉しい…」
リビングに広がるピンクな空気。
また始まったよ、このバカップルは。
呆れる啓介を尻目に、二人の熱はヒートアップ。そんな二人を興味深そうに見つめるもどき。
啓介はそれに気付き、もどきの目をふさいだ。
「けーちゅけ?」
「…あれは…教育上参考にならない気がする…」
そして彼等は人目を気にしない熱い口付けを交わす。
それを啓介の指の隙間から見ていたもどきは、啓介の指をバリッと剥がし、うるうるする瞳で啓介を見上げた。
「どうした?」
「けーちゅけ…」
もの言いたげに、啓介と、濃厚なキスを交わす二人を交互に見つめるもどき。
その視線が意味するところはつまり…。
…いやいや。それは俺の勝手な妄想だろ、きっと。
首を振り、煩悩と妄想を振り払おうとする啓介に、さらにもどきは問題発言。
「けーちゅけ…だいちゅき」
どこで覚えた、そんな言葉!!
驚く啓介の耳に聞こえてきたのは…。
「…言って、拓海。俺のこと、好きだって」
「や…涼介さん、恥ずかしい」
「どうして?俺は言って欲しいよ。俺のこと、どう思っているのか」
「…涼介さん…大好き」
…お前等か!!
じっと見つめてくるもどきの目。
コホンコホンと咳払いをし、啓介はもどきの頭をぐりぐりと撫でた。
だがもどきは不満そうな顔で、
「もっちょ…」
……!!
固まる啓介の耳に飛び込んできたのは、やはりバカップルの会話。
「や、やだ、そんな…」
「言って、拓海、どうして欲しい?」
「…涼介さん…もっと…」
…も、もう止めてくれ!!
錯乱し始めた啓介が取った行動は…。
「ハハハ、そうだ!お前に名前付けてやんないとなー、ハハハハ…」
もどきを高い高いしながら、わざとらしい大声で兄たちの注意を引き、そしてさらなる大声でこう言った。
「そうだ!アニキ、こいつに名前付けてやってくれよ?いわばアニキの子供なんだろう?!」
啓介の言葉に、二人の世界を作り上げていた涼介たちが振り向いた。
「…そうだな、名前か。やはり名前は親が付けるものだな。拓海、何か考えているものがあるか?」
「え、え…と、そうですね、よく分かんないですけど…」
「二人で決めよう」
「は、はい。…じゃあ…えと、涼介さんは何か考えてますか?」
「そうだな…。卵から孵るなどヒヨコのようだから、それを踏まえて………チャボ」
「………(涼介さんのセンスって…)」
「………(アニキのセンスって…)」
もどきは嫌そうに首をぷるぷると横に振り続けた。
「そそそ、そうですね、ヒヨコみたいですからね…ええと、ぴよぴよしてるし…えーと…ぴよ?」
目を逸らしながら拓海は言った。後で自己嫌悪に陥りそうな事を言ってしまった!と後悔するより先に、目をキラキラさせた涼介が拓海の身体を抱きしめた。
「すごいな…。拓海は外見や中身だけでなく、発想まで可愛いな」
うっとりと囁く涼介に、拓海は「そそそ、そうですか?」と答えるしかなく、啓介も、
「………(アニキよりはまだマシ!)」
と思い、
もどきことぴよも、とんでもない名前を付けられるよりも先に、この辺で手を打っておこうと判断した。はっきりと縦に首を振ったぴよに、啓介もまた頷いた。
「アニキー、ぴよでいいってさー!」
「そうか。じゃ、ぴよ拓だな」
…拓はいらねェ!!
拓海もどきは「ぴよ」と命名され、涼介と拓海の二人は事実婚とやらをしたらしい…。
「けーちゅけ。きちゅちて」
「…ままま、まだ早い!!」
悪影響を与える二人から、なるべく離すようにしようと誓う、理性が怪しくなってきている啓介21歳だった。
――啓介の変態値が1ポイント上がった…。
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