BOSS-PAN
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ぴよぴよ
その1
-変態値-
高橋啓介 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【ノーマル】
藤原拓海 ★★★★☆☆☆☆☆☆【ほどほど】
高橋涼介 ★★★★★★★★★★【コンプリート!】
夜通し峠を攻めて、明け方自宅に帰宅した啓介の目に映ったのは、一抱えほどもある大きな卵型の白い物体だった。
その物体が、啓介いわく自分流の秩序のある部屋、他人から見たら散らかっているとしか見えない部屋の、身体の大きな高橋家の兄弟用に特注で作らせたダブルのベッドの上に鎮座している。
「…なんだ、これ?」
眠い頭でもこれが異常なことであるのは理解できる。
白い大きな卵に触れてみれば、通常の卵とは違いザラザラ感はなく、つるりとした豆腐のような滑らかでしっとりとした感触があった。
コツコツと指で卵らしきものを叩いてみる。
固さはどうやら本当の卵と同じで、叩いた感触からこれが薄い殻で覆われているもののようだと察せられた。
考え込む啓介の耳に、不意に聞こえたのは、コツコツと叩いた啓介の指の音に合わせるように返された「コツンコツン」という音。
それが意味するところはつまり。
この中には「何か」が入っていると言うことだ。
しかも「生きた」何かが。
啓介は踵を返し、自室のドアを乱暴に開け慌しく走りながら、こういった事態には頼れるはずの人物の部屋を目指した。
ドタドタと駆けて、目指す部屋のドアをバタン!と開いた。
「アニキ!!」
…だが。
中から漂ってきたのは濃厚なピンク色の空気。
「…わっ!」
慌てて兄のベッドに潜り込む人影。
そしておどろおどろしい雰囲気の兄。
「……啓介」
振り返った兄の顔に、啓介は悪魔の姿を見た。
ベッドから出てきた兄の姿は一糸纏わぬものだった。
そして兄のベッドに潜り込んだままの人物も、きっと兄と同様の姿だろう。
フーッ、と長い溜息をつき、涼介は身体を起こし、ベッドに腰掛けた。
ここで啓介が、「アニキ、股間ぐらい隠して下さい」と言おうものなら、きっとものすごい反撃が返ってくるだろうことが予想された。
仕方なく啓介は、半勃ちの兄の股間から意図的に目を逸らしながら、本題だけを簡潔に述べた。
「アニキ、俺の部屋に変な物がある!」
これでクドクドと語って長居をしようものなら、一週間は地獄を見るようなハメになるだろう。21年間の兄との付き合いの中で啓介はそれを悟っているため、無駄はない。
そして通常ならば、紋切り型の弟の口調に不満を覚えてしかるべき兄は、フッ、と口元を緩めこう言った。
「ああ。俺が置いたんだ」
「は?」
「以前、言わなかったか?アメリカのバイオテクノロジーの会社との提携で、研究チームが作られ、そこの主任を任されることになったって」
「…いや、覚えねぇけど…」
首をかしげる啓介に、兄の布団の中からボソボソと話し声が。
「…ん?ああ、そうか。拓海に言ったんだったか」
ポンポンと、やに下がったとしか表現の出来ない表情で、優しく布団の固まりを叩く涼介。啓介はうっかり兄の股間の角度が上がったのを見てしまった。
「…で、そういうことでな。あれはその研究の成果だ」
ナニがそう言うことなのかさっぱり分からない。通常ならばここで引き下がっておかないと後が怖いのだが、あまりにもあれは得体が知れなさ過ぎた。もう少し情報が欲しい。
「…アニキ、でもあれ中に何か生き物詰まってんだろ?」
「ああ。研究の内容が愛玩生物の作成だからな」
「愛玩生物?」
「そうだ。現代のペットブームの中、新たな市場の開拓として企画されたものなんだが、あまりにも研究が人道的見地から外れているとの批判を受けて頓挫したんだ」
「で?」
「元々の研究内容は、芸能人などの憧れの人物をクローニングした生物を、手軽にあの卵状のポッドで育成し、誕生後は自分の思うとおりに育て上げるという夢のような企画だったんだがな、某人権団体の横槍が入って、出資していた会社側から研究を断念することが昨日決定したんだ」
「で?」
「その頓挫した研究の成果が、今、お前の部屋にあるものだ」
「…で、何でそれをアニキがそれ育てねぇんだよ?アニキの研究なんだろう?」
フッ、と兄は厭らしい笑いを浮かべた。どうも嫌な予感がする。
「俺が育てたいのは山々だがな、…拓海が嫌がったんだ。たとえクローンとはいえ俺のそばに、他の奴がいるのがイヤだってな」
フフフ…。笑う兄の姿は犯罪者のようだった。
これは言っても無駄だと啓介は理解した。
「…んじゃ、分かった。別に変なモンじゃねぇんだったら、いいや」
「変なものなワケないだろう?!拓海のクローンだぞ!!」
…十分変なモノだと思うんですけど。
しかし既に涼介は話は終わったとばかりに、布団の中に潜む人物に手を忍ばせている。
「待たせて悪かったな、拓海…」
「ちょ、ヤ…涼介さん、まだ啓介さんが…」
「大丈夫、あれは南瓜だ…」
再び部屋中に広がる濃厚なピンクの空気。しかも今度はどうやら紫がかっている。
啓介はこれ以上のダメージを受ける前に、そっと兄の部屋の扉を閉めた。
隙間からも紫とピンクの空気が漏れているような気がする…。目張りでもしたいところだ。しかし今はそれよりも、謎の物体の確認だ。
自室に戻り、ベッドの上に置いたままになっている卵を眺めながら啓介は溜息を吐いた。
「…こん中、藤原が詰まってんのか…」
ハァ…。
自身のライバルでもある拓海と、兄との中を今さらどうと言う気も無いが、だがそれがいざ自分に関わってくるとなると話は別である。
兄が拓海を溺愛するのは別に構わない。男にしては可愛らしいところもある拓海だ。性格も一生懸命だし、頑固ではあるが素直なところもある。悪い奴ではないと啓介は思っている。
しかしそれが恋愛感情となると別だ。拓海に感じているのは良いところ友情が限界で、愛玩などと言う言葉は自分には程遠い。しかもこれの中身はどうやら拓海のクローンらしい。
…困った。
正直、啓介の感想はそれの一語に尽きる。
しかも中身は生き物。
もてあますことになるのは見るよりも明らかだった。
だがボリボリと頭を乱暴に掻き、啓介は単純な性格を体現するような行動に出た。
「…ま、いっか。起きてから考えよ」
そして手触りのいい卵を抱え、布団を被って、某アニメ「●ラえもん」に出てくる●びたよりも早く眠りに付いた。
コツンコツン。
カタカタ。パリパリ。ぺきぺき。
不思議な物音が眠る啓介の耳に届いた。
「………」
うっすら目を開くと、もう太陽は遥か頭上に昇っているらしく、カーテンの隙間から強い日差しが漏れていた。
枕元に放置してある目覚まし時計を見れば、時刻はもう12時近くになっている。
「…うー…もう昼かよ…」
呟きながら起き上がろうとした啓介の耳に、彼を目覚めさせた不思議な物音が聞こえた。
ぱりぱり。
寝ぼけた頭で、物音の出所を探ればそれは自分の傍らからしていた。
「…は??」
そしてそこには白い大きな卵。
「…何だ、コレ…って、あ、そうか…」
一瞬、眠る前の記憶を忘れ、叫びそうになったが、すぐに思い出した。
あの兄の研究の成果だとか何とか。
確か、兄の恋人である藤原拓海のクローンとやらが詰まった卵。
どうやら音の発生源はその卵のようだ。
そして昨日までは真っ白だった卵に、今は幾筋も黄色いひび割れの線が見えた。
「…もしかして…生まれんのか?」
寝ぼけが残る頭で、ぼんやりと眺めているうちに、卵のひび割れは大きくなっていく。
それだけではなく、ゆらゆらと揺れ始めたりし出した。
ぱきぱき。ぺきぺき。こつこつ。
激しく音をたて始めた卵。
そして揺れも激しくなる。
…いよいよ生まれるのか?!
その時、ポロリと剥がれた殻の固まりがベッドの上に落ちた。
その隙間から、にぎにぎと宙を掴むようにする幼児の愛らしい手が見える。
「………」
…何か、俺、今、ドキッしなかったか?
手が見え出したのを切欠に、どんどんポロポロと殻は剥がれ落ちてゆき、色素の薄いふわふわの髪の毛が見えたかと思うと、ボロリと大きな塊の剥離とともに現れたのは…。
「………」
そこにはオリジナルの拓海よりも、色素も薄く、三歳程度の幼児の姿をした拓海もどきだった。
その拓海もどきが、片手で掴めそうな小さな顔の半分を占める大きなつぶらな瞳でじっと啓介を見つめている。
…俺、今、何か「キューン」としなかったか??!
ドキドキしだす啓介。
動揺を抑えようとする彼にさらに襲い掛かった拓海もどきの攻撃。
拓海もどきは…啓介を見つめながら、嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。
啓介は拓海もどきの周りに、キラキラと輝く光の粒を見た。
そして、なぜか下半身に一気に熱が集中する。充血しだす海綿体。
「…うっ…」
啓介は股間を抑え、呻いた。
…やべぇ…。
…俺、今、アニキの気持ちがすげぇ分かった…。
拓海もどきは生まれたままの真っ白な肌を晒したままの姿で、殻を脱ぎ捨て啓介のほうへと這ってきた。
そして啓介の服を掴み、安心したようにまたも微笑んだ。
「ちゃい」
…ちゃい?ってナニ??!
いや、今はそんな事が問題ではないのだ。
朝勃ち、などと言う言葉ではごまかしきれない股間の高ぶり。
…すっげぇヤベェ…。俺、こいつ食いたいくらいにカワイイかもっ!!
これが、啓介の変態への目覚めであった……。
――啓介の変態値が1ポイント上がった…。
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