高橋涼介は変態であった。
過去形である。
では変態が改善されたのかと言うと、そうではない。
彼は、偏愛になったのだ。
彼の偏愛は、最近出来たばかりの恋人に向けられている。
高橋涼介がドヤ顔で語るには、かつて抱いていた尻フェチと言う嗜好も、全ては彼が恋人を見つけるための指針であったらしい。
実際に、現在の彼は尻だけを愛しているわけではない。
「あ、の・・・涼介さん・・・ちょっと止めて欲しいんすけど・・・」
彼は今、偏愛する恋人を膝に乗せ、背後から抱きかかえている。
手は恋人の胸だ。これが最近の定位置。
「拓海の乳首があまりにも可愛いから触らずにいれないんだ」
涼介の最近のお気に入りは乳首だ。
愛らしいピンクの二つの粒。
それが真っ白な恋人の胸に、ちまっと配置されているのだ。
弄らずにいられようか?
いや、無理だ!
舐めずにいられようか?
絶対に無理だ!!
そう言うわけで、涼介は毎日恋人の乳首を弄っている。
弄りすぎて腫れてきた可愛い乳首は、この頃では何もしていないのにTシャツの上からでも存在をアピールするかのようにポツンと浮き出ている事が多い。
それを見てしまうと、布地の上から舐めて弄って、もどかしい快感に身悶える恋人をオカズに自分の欲望を扱きたくて仕方なくなる。
だがそう毎日恋人の乳首がずっと傍にあるわけでもない。
そんなときのための最近の涼介のお気に入りは、赤城山の旧エネルギー資料館内の土産物コーナーで売っている「おっぱいチョコ」だ。
あの白さと、ピンクの粒が恋人を彷彿とさせ、代替として優秀であると涼介は評価している。
食べる時はもちろん乳首を愛撫し、溶かしてからおっぱい全部を頂く。
恋人の前でそれを披露したとき、彼は真っ赤な顔で「涼介さん、めっちゃエロい!」と怒っていたが、その夜のセックスは何故か彼が積極的で・・・非常に燃えた。
ああ、思い出しただけで勃起する。
と言うか、この指先に感じる彼の乳首の感触だけで射精しそうだった。
じんわりと、下腹部に滲みを感じ始めたころ、恋人から思いも寄らぬ事を言われた。
「あの・・・涼介さん毎日触るから・・・実は腫れて痛いんです・・・」
頬を染め、申し訳なさそうに呟く恋人の言葉に、涼介は驚愕のあまり射精寸前の欲望が収束した。
恋人に痛みなど、あってはならない事だ。
「・・・すまない、拓海。お前の乳首が可愛すぎて弄りすぎてしまったんだな」
彼は反省した。
偏愛の人は、恋人に向ける労力も、配慮も惜しまない。
恋人を愛する、それがある意味彼のアイデンティティでもあるのだ。
涼介の指が恋人の胸から離れた。
彼の恋人がホッと安堵したのも束の間。
偏愛の人は、恋人の全てを愛するのだ。
「じゃあ、・・・今度はこっちを可愛がるよ」
そう言い、彼は拓海の耳たぶをパクリと咥えた。
ああ、なんて滑らかさだ。
この適度な硬さと弾力。歯を立てると、ピクリと震える敏感さ。
一旦萎えかけた彼の欲望がまた力を取り戻し始める。
「・・・やぁ、涼介さん、・・・もぅ、だから・・・!」
彼の愛撫を嫌がり、恋人が腕の中で身悶える。
いやよいやよもすきのうち。
過去の格言を涼介は信じている。そして実際にその通りだとも思っている。
暴れる恋人は、耳の中に舌を這わせると、抵抗を止め、膝の上で身じろぎし始めた。
これは、もう恋人もまた彼を欲しがっている証拠だ。
恋人の欲求は叶えなければならない。
偏愛者としては正しい理論だ。
なので、さらなる触れ合いをするべく恋人の衣服を脱がそうと手をかけた瞬間、腕の中の恋人が彼の動きに気付き、硬直し絶叫した。
「だ、ダメですって・・・!ここ・・・人前!!」
「ア〜ニ〜キ〜・・・」
「・・・涼介・・・」
そう。
今のこの空間は、二人だけの世界などではない。
むしろ、公共の場・・・さらに言うなら屋外だ。
一年かけたプロジェクトD。
先日、その終焉を向かえ、チームのメンバーでBBQで打ち上げをしている最中であったりする。
非難の声に、涼介は舌打ちをした。
メンバーはアルコールが適度に入っているため、自分の愛情表現を見咎められないだろうとタカをくくっていたのだが、まだ意識ははっきりしていたようだ。
邪魔させないためにさらに泡盛を投下させるか。
そう考えていると、恋人が腕の中から逃げた。
涙目で涼介を見上げる姿は、まるで漁師に追い詰められた小鹿のようだ。
「もう!涼介さん、せっかく皆で集まってるのに悪戯ばかりして!ちゃんとお肉と野菜も食べなきゃダメなんすよ!!」
・・・怒る論点が違う。
そう、酩酊してても居合わせたメンバーは思っていたが・・・口には出せない。
恋人の訴えを聞いた偏愛の男は、首を傾げ不思議そうな顔をした。
「仕方ない。肉よりお前の方が美味しそうだし、食べたい」
「ダメです!俺はデザートなんです!ご飯の前にデザートはダメなんです!!」
結局、食ったらヤるのはヤるんだな・・・。
そう、メンバーは思ったが、口にはもちろん出せない・・・。
高橋涼介は過去、変態と言う称号を頂き、彼の周囲の人間に胃の痛みを与えていた。
その称号が返還された今も、彼は偏愛者として、周囲の人々に畏怖を与えている。
「アニキ〜、頼むから恥じらいを持ってくれ!!」
涙ながらに弟が訴える「羞恥心」。
そんなものは、彼は過去も現在も持ち合わせていなかった。
そして彼の偏愛が向けられる彼の恋人もまた・・・。
「お肉と野菜、いっぱい食べたら・・・ふふ、いっぱいしましょうね」
明るく笑顔で言う拓海もまた、いつの間にか羞恥心が失せてしまっていた。
高橋涼介は変態ではなくなった。
だがしかし、最愛の恋人を巻き込み、
バカップル
と言う存在に彼らは変貌していた。