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まどろっこしい事は嫌いだ。
だから結論から言う。
拓海は履いた。
履いたとも。
太ももも露わな、真っ白なホットパンツを。
その丈の長さは、過去体操着で着用していたものより短いが、そんなものだと思えば抵抗感は薄かった。
黒いTバックとやらも履いた。
最も躊躇していたものだったが、意外と履いてみると違和感は無かった。
宜しくは無いが、悪いわけでもない。
履いた自分の姿はあえて見ないことにした。
それらを履く事を哀願してきた啓介も、チームの良心とも言える史浩からも、
『間違いない!』
と言うわけの分からない・・・いや、理解したくないお墨付きももらった。
似合わないわけではないらしいので、まぁ、納得することにした。
拓海は可愛らしい顔をしてはいるが、女の子では無い。
度胸もあるし、たまに無謀なことも仕出かす。
なので今も、無謀な事の一つなのだ、・・・と納得させる。
やたら足はスースーするが、裸なわけではない。
だからたぶん大丈夫だ。
拓海はゆったりとした座り心地のソファの上で無心を貫いた。
現在、拓海がいるのは高橋家のリビングだ。
この場所でチームリーダーこと、峠のカリスマ、もしくは稀代の尻フェチの変態、高橋涼介を待っている。
啓介らの希望では、この格好で峠に来る涼介を出迎えて欲しかったらしい。
しかしそれは拓海が頑として拒否した。
この姿で!
この服装で!
屋外で不特定多数の人の目に晒されるようなところへ行けと言うのだろうか。
さすがにそれは無理だ。
なので屋内、しかも見せる相手が涼介一人に限定されるなら・・・まだマシかと思えたのだ。
だから今の状況は拓海が涼介の帰りを、無人の高橋家で待っているという鴨がネギを背負った・・・ひどく危険な状態なのだが、もちろん目先の羞恥心に囚われた拓海は気付いていない。
イベント好きの啓介の提案で、拓海が待っていることはサプライズだ。
その分、涼介の感動は増すだろうと言う案に、拓海も頷いた。
チームの一員として、最近の涼介の疲労に気付いていないこともないのだ。
それを何とかしてほしいと言われ、了承できないことも多かったが、何かしてあげたい気持ちは拓海も同じだった。
だから、諦めた。
ふかふかとしたソファの革の生地が、拓海の剥き出しの太ももに感じる。
しっとりとした滑らかな感触。
ふわぁ、と彼はあくびした。
涼介を待ってもう一時間が経っている。
今日は確実に帰宅すると言う日を選んで、こんな恰好で待っているわけだが、最初は落ち着かない気分でいた拓海も、時間の経過とともに慣れ始め、ふかふかのソファの感触に、だんだん眠気を誘われてきた。
ちょっとだけ、と重くなってきた瞼を閉じる。
広いソファの上で、ぽてんと横になってもみた。
涼介が帰ってきたら、あのFCのエンジン音で気付くだろう。
だから、ちょっとだけ。
拓海は目を閉じ、意識が遠くなりながらも、待ち人である涼介の事をうつらうつら考えていた。
顔は、良い。
男にしておくのが勿体ないくらいの綺麗な容貌をしている。
スタイルも良い。
平均的身長しかない拓海が憧れる、見上げる高身長に長い手足。
バランスの取れた体型は、横に並ぶのにいつも気後れがする。
その涼介が、まさかあんな変態だとは思わなかった。
けど。
そんな変態な部分が、何となくだけれど、近寄りがたかった涼介を身近にさせていた。
だからこんな恰好をしても良いと思うし・・・・・・。
正直、ちょっと触られるぐらいならいいかな、なんて事まで思っている。
ぶっちゃけ、自分の尻ごときで欲情する涼介に、ドキドキなんてしてしまってもいる。
この前は、自分が尻を触ったぐらいで射精した。
太ももなんて触ろうもんなら、あの人イキっぱなしじゃねぇの?なんて想像しながら、何故か拓海はニヤけてしまう気持ちが止められなかった。
拓海はそんな想像をしながら、夢の世界へ旅立っていった。
「藤原、・・・藤原」
肩を揺さぶられる感触で目を覚ました。
耳に心地よい低音美声が届く。
うわ、やっぱ涼介さんイイ声・・・なんて寝惚けながら目を開け、ぼんやりする視界の真ん前に涼介の顔があった。
やっぱ綺麗な顔。
まだ夢心地な思考で、目の前の綺麗な顔に手を伸ばす。
触れると、肌の感触が少しざらざらする。せっかく綺麗な顔をしているのに、肌が少し荒れているようだ。
切れ長の目の下にもくっきりと、濃い隈が浮いている。
疲れてるんだろうなぁ、なんて思いながら頬を撫でていると、その腕を強い力で掴まれ止められた。
その痛みに、寝惚けていた頭が覚醒する。
ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返し、今の自分の状況を思い出す。
慌てて起き上がり、剥き出しの自分の太ももに気付き、かぁ、と頬を赤く染める。
そんな拓海に涼介は目を眇め、拓海が起きたのを確認すると立ち上がった。
「寝ているところを悪い。だが、もう夜が遅い。帰った方が良い」
え、と拓海が顔を上げると、やけに冷静な表情の涼介がいた。
視線を時計に向けると、確かにもうすっかり日が暮れた時刻だ。だが、深夜と言うほどでもない。
「え、と、俺、その・・・」
もじもじと太ももを擦り合わせ、動かない頭でここにいた理由を告げようとするが、それより先に涼介が顔を顰め、拓海から目を逸らしため息を吐いた。
「悪いが・・・疲れてるんだ。俺に用事があったのかも知れないが、また後日にしてくれないか?」
今までの涼介とは思えない、冷淡な反応だった。
拓海は驚くより先に、ショックを受けている自分を実感していた。
胸が痛くてズキズキする。
そして同時に、とても恥ずかしくなった。
拓海は涼介が喜んでくれると思ったのだ。
自分がここにいれば。
ましてや、こんな恰好をしていれば。
なのに涼介の反応は、まるでつまらないものを見たかのような目で自分を見て、そして追い出そうとしている。
自分の傲慢さを思い知らされた気がした。
しょせん、見た目も中身も普通な自分が、なぜ涼介の欲望の対象になるのだと思いあがったのだろう。
拓海は恥ずかしさのあまり目に涙が滲んだ。
涙を浮かべた目で、涼介を見上げ謝罪を言おうと唇を震わせた。
その瞬間。
涼介が膝から崩れ落ちた。
まるで糸が切れた人形のような、そんな勢いに拓海の涙も引っ込んだ。
「え?ええ!?涼介さん、大丈夫ですか?!」
彼は片手で顔を覆い俯いている。
気分でも悪いのかと肩に手をかけようとした、その手を振り払われた。
嫌われたのだろうか?
悲しくてまた顔を歪めると、涼介が手の隙間から拓海をギラつく眼差しで見つめていた。
その目に、以前に良く見かけた欲望を露わにして。