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D日記 番外編

最後の晩餐 拓海編


~注意!~
このお話は、2006年3月に公開されました映画のラインナップを元に作成しております。
また内容に下世話な言葉などが含まれている事がありますが、苦手な方はご遠慮下さいませ



 今度の俺の休みの日に、涼介さんが「映画に行かないか」と言ってきた。
「でも俺の休み、平日ですけど大丈夫ですか?」
 俺と涼介さんがセフレの関係になってしばらく経つけど、そんなふうに言われた事はなかった。いつもホテル直行か、涼介さんの部屋、または車の中とかでスルだけだったから。
「俺は気楽な大学生だからな。拓海のためなら幾らでも時間ぐらい空けられるさ」
 そう言う涼介さんの目の下には濃いクマが浮いていて、しかも最近ハードワークで痩せてきて頬が扱けたようにも思う。とても気楽な大学生のようには見えないんだけど、史裕さんや啓介さんから、涼介さんがどれだけ忙しいのかを聞いていた俺は、きっと涼介さんは気晴らしがしたいんだな、と思った。
 だから、
「…涼介さんが行きたいならいいですよ」
 と答えた。涼介さんはほっとした顔で笑った。
「…良かった。実はもう前売りも買ってあるんだ」
 でもそう言われた瞬間に、俺は気付いた。
 …もしかしなくても、俺はきっと本命の人に振られた、間に合わせなんだろうなって。そうじゃなきゃセフレの俺なんかをデートに誘う理由がない。
 さらに考えるなら、涼介さんの目の下のクマも、頬がこけてきたのも、実は忙しいからじゃなくて、失恋のショックなんじゃないだろうか?
 俺は最初から涼介さんの恋人になれるだなんて思っていなかったけど、こんなふうに間に合わせにされるのは悲しい。
 でも…一度でいいから涼介さんとデートしたかった。だから俺は知らない振りで頷いた。
「分かりました。いいですよ」
 本当は泣き喚きたくて仕方なかったのに、俺って結構いじらしい。
 そしてデート当日。涼介さんは俺とバトルした日と同じような、白いジャケットに白い革靴でやってきた。
 でもあの時と違うのはパンツが黒になっていることと、薄い水色のシャツの上に、赤いスカーフを巻いて、しかもジャケットの胸元には赤いハンカチが覗いていた。
 そして手には真っ赤な薔薇の花束。
 そんな姿で、うちの前にやって来た涼介さんは、当然だけどとても目立った。
「…イタリア人よ!まぁ、プロポーズにやってきたのかしら?」
「拓海ちゃん、男の子にして可愛いと思ってたけど、やっぱりねぇ」
 なんて、近所の主婦たちの囁き声が聞こえてきて、俺はいいけど、涼介さんはイタリア人のしかもホモだと思われて、気を悪くしてないかなと思った。
 でもやっぱり涼介さんはイイ人だ。
「これを。薔薇よりも可憐な君に」
 涼介さんはいつもと違う、イタリア人のキャラになって俺に薔薇の花束を渡してくれた。
 近所のオバちゃんたちの噂話に付き合ってあげるなんて、何て心の広い人だろうと俺は感動した。
 でも俺の格好は普通のシャツにジーンズで、お世辞にもイタリア人キャラの涼介さんに似合うものじゃなかった。
 だから俺は貰った薔薇に顔を埋めて、
「…すいません、俺、こんな格好で」
 と謝ったら、イタリア人ってすごいよな。チュっと涼介さんが俺の頬にキスをした。
「ん、んまぁ!!」
「奥様、見ました?!」
「ええ、バッチリ!!」
 目撃していた近所の主婦たちの声も、涼介さんと俺にはあまり関係ないみたいだった。
「拓海はどんな格好をしていても素敵だよ。こんな素敵な拓海を、エスコート出来て俺は幸せだ」
 イタリア人ってすげぇなぁ。よく口が腐らないもんだ。俺も、もしこんな事をやっているのが涼介さんじゃなかったら、ぶん殴って秋名湖に沈めてるもんな。
「さぁ、行こうか」
 涼介さんがFCの助手席のドアを開けて、俺に向かって手を出した。
 …イタリア人な涼介さん、すげぇカッコいいかも。
 FCと涼介さんの組合せがすごいキレイで、俺は思わずうっとりと見つめてしまった。
 するとそんな俺にすぐ気付いた涼介さんが、クスッとか笑って強引に俺の手を掴んできた。
「見惚れてくれるのは嬉しいけど、俺はその拓海の可愛い顔を早く独り占めにしたいな」
 …すげぇよ、イタリア人!
 俺はぽ~っとなったまま、涼介さんのFCに乗せられ、うちを後にした。



 だけど車の中で、だんだん俺は浮かれていた気持がしぼんできて、今の自分の立場を思い出す。
 きっと、涼介さんのこのイタリア人も、腐ったセリフも、失恋のショックからなんだろうな。そして俺は間に合わせだ。何か悔しい。涼介さんを振ったヤツはバカだ。そしてセフレな俺を、間に合わせにする涼介さんがだんだん憎らしくなってきた。
 複合の映画館の前に着いた時、涼介さんが用意したという前売りの映画のポスターを見た。
 何でも、2006年度のアカデミー賞の監督賞を取った作品らしい。感動作品とあった。
「…拓海と見たくて、公開前から用意していたんだ」
 嬉しそうな涼介さんの顔を、無性に困らせてやりたくなった。
「…俺、こんな感動作品とか苦手です。それに、これ洋画だし。字幕とか見てたら俺、確実に寝ますよ」
 思惑通り、涼介さんの顔が焦ったものになった。
「だ、だが、これは、その、俺たちのように男同士の恋愛を描いた作品で…」
 …恋愛?一緒じゃねぇよ。俺らセフレじゃん。そう言ってやりたかったけど、さすがにこんな公共の場でそれをするのは躊躇われた。
「一緒じゃないですよ。だって、この人たちカウボーイじゃないですか。俺も涼介さんも、カウボーイじゃないですよ?」
「は?…いや、そうじゃなくてな……」
 …けっこうシツこいな。そういうとこ涼介さんのHと一緒だよ。涼介さんはどうしてもこの映画が見たいらしく、食い下がってきた。
 そんだけ見たいなら、まぁいいかな、と俺が思い始めた時、俺はアレを見つけてしまった。
 俺の小さい頃からのアイドル…ドラ●もんだ。何でも子供の夢を叶えてくれる万能ロボット。貧乏であまり希望が適ったことのない俺には、彼が憧れの存在だったんだ。そういや、そう言うところ涼介さんにも似てるよな。何でも適えてくれるし。俺の好みって、小さい頃から一緒なんだなぁ。あ、そうだ。確か今、あの名作のリメイクの映画が公開されたんだった。
 俺は笑顔で涼介さんに向き直った。俺の表情の変化に、涼介さんがほっとした顔になった。
「良かった。じゃ、行こうか」
 涼介さんが手を差し出す。でも俺はそれを取らなかった。
「涼介さん、俺、あれ見てきます。だから涼介さんはその映画、見てくればいいですよ。じゃ」
 ちょうどもうすぐ映画時間になる。俺は慌ててチケットを買いに行き、そして暫く呆然としていたみたいだった涼介さんも、すぐに我に返って俺を追ってきた。
「待ってくれ、拓海~!!」
 何かのドラマみたいなワンシーンと、涼介さんの名演技に、その場にいた人たちがみんな振り返った。
 恥ずかしかったので知らない人のふりをした。でも結局涼介さんに捕まって抱きしめられた。
「…ゲイよ。本物。ブロー●バックマウンテンもう公開されたから、表に出てきたのね?」
「何だ、今度ホモ物のドラマでもやるのか?!」
 ひそひそと周囲の人たちの囁き声が聞こえる。恥ずかしいなぁ、と思ったけど、涼介さんと手を繋いでいるのは嬉しかったのでまぁいいかと思った。
 そして涼介さんと二人で、ドラ●えもんの「のび○の恐竜」を見た。とても面白かった。
 ウキウキしていると、涼介さんも嬉しそうな顔になった。
「拓海が楽しそうならそれで良かった…」
 その顔を見ていると、ちょっとだけ意地悪をしたのは悪かったかなと思った。でもドラ●もんの魅力には勝てなかったんだからしょうがないよな。
 そしてその後、
「レストラン、予約したんだ」
 と高級ホテルに連れて行かれ、
「個室だから大丈夫。マナーとか気にしないで食べれるよ」
 と言われ、生まれてから一度も入ったことのないような空間に連れて行かれた。
 ちゃんとした(イタリア人だけど)服装の涼介さんと違って、俺はラフな服装のまんまだ。ショーウィンドウのガラス越しに、自分と涼介さんの姿が映って、その釣り合ってない感じに、俺はドラ●もんで浮上した気持ちが、また一気に沈むのを感じた。
 本当は涼介さん、ここにこう言ったところが似合う人と来る予定だったんだろうな。なのに俺なんかで間に合わせて、涼介さんバカだよ。
 俺の腰に手を回し、本当に女の人をエスコートするみたいに涼介さんが俺を案内する。
 涼介さんの言った通り、個室の二人だけの部屋に案内された。そしてすぐにオーダーした食前酒が運ばれ、グラスを掲げた涼介さんは俺のジュースの入ったグラスにカチンと音を立てて合わせて、
「二人の夜に。…乾杯」
 と言った。
 とてもサムい気持ちになったけど、今日の涼介さんはイタリア人だったよなと思って我慢した。
 そして豪華な料理が運ばれ、俺は一気に食欲がわいてくるのを感じた。
 美味そうに食べる俺を見つめ、涼介さんも嬉しそうに笑う。
「…拓海が喜んでくれて良かった」
 その視線と表情に、俺は錯覚しそうになる。本当はセフレなのに、幸せな恋人同士みたいな気持ち。
 だけど涼介さんがこんな事をしたかった人は別の人で、俺は間に合わせでしかない。
 暗い気持ちになって、食事の手も止まり俯いてしまった俺に、涼介さんが心配そうに覗き込んできた。
「拓海?どうした?何か変なものでもあったか?」
 涼介さんは優しい。でも時々その優しさは残酷だと思う。
「…涼介さん」
「何だ?」
「…こう言うことするの、俺で何人目?」
 言った後で、バカなことを聞いてしまったと思った。でも涼介さんは俺がセフレだからって、侮らずちゃんと答えてくれた。
「…こう言うこと、か。正直、俺は拓海より5歳も年上だから、それなりに経験がある事は隠さないよ」
 …やっぱり。俺、きっと百人目ぐらいなんだろうな。
「でも、これだけは誓えるよ。俺が、自分からこうしたいと思い、そしてこんなに幸せな気持ちになれるのは、拓海が最初で、そして最後だ」
 真剣な眼差しの涼介さんに射抜かれて、俺の恋心は爆発寸前にまで高まる。
 きっとこんな事を誰にでも言うんだろうなってこと、分かってる。でも俺は今の涼介さんに騙されたい。
 だから、頷いた。
「…俺も、涼介さんが最初で最後」
「拓海……」
 テーブルを乗り越えて、俺たちはキスをした。いっぱいいっぱいキスをした。
 そして、てっきり俺は、このままこのホテルの部屋に行くもんだと思ってたのに、涼介さんは体を離して、
「さぁ、食事の続きをしようか」
 と言った。
 あのH大好きな涼介さんがシないなんて!
 俺はびっくりした。そして最悪なことに気付いてしまった。
 もしかしなくても、コレって俺との仲を清算する、最後の晩餐ってヤツなんだ!!
 ショックだ。
 俺はもう、頭がグラグラして、このまま倒れそうになってしまった。
 だけど頑張って勇気を振り絞り、聞いてみた。
「…涼介さん…H、シないんですか?」
 すると涼介さんは、気まずそうに、俺から目を逸らした。
「い、いや…体ばかりが全てじゃないだろう。あまりそればかりと言うのも、良くないと思うんだ」
 …やっぱりだ!
 涼介さんはもう、俺との体の関係が嫌になってしまったんだ!!
 悲しくて、自分が壊れそうで胸が痛かった。泣きたい気持ちを堪えながら食事をしたから、味が全部しょっぱい涙の味しかしなかった。
 たとえ涼介さんから捨てられても、せめて「あいつはイイやつだった」と悪い記憶は残したくない。
 だから惨めに縋ることはしないでおこうと思った。本当は縋って、責めて、涼介さんを監禁したいくらいだけど、そんな事をしたら涼介さんに嫌われる。そんなのはイヤだ。だから俺はぐっと我慢した。
 そして食事が終わり、涼介さんがドライブしながら俺に聞いてきた。
「拓海、今日は楽しかった?」
 何て残酷な人なんだろう、と思った。けど、俺は悲しい気持ちを堪えて、頷いた。
「…はい、楽しかったです」
「そうか。なら良かったよ。今日が、拓海の記憶に残る良い日になるといいなと思ったから」
 …ぶん殴りてぇ!…でも、涼介さんの顔の形が変わるのはイヤだから我慢する。
 そして暫く街中を走った後、FCは俺の家に到着してしまった。
 とうとう着いてしまった。これを降りたらもう終わりなんだ。
「着いたよ?」
 と、降りようとした涼介さんの体を引き止める。
「…拓海?」
 ゴメン、涼介さん。最後の我侭だから聞いてほしい。そんな願いを込めて見つめた。
「………キスして」
 最後のお願い。
 涼介さんは俺の願いを適えてくれた。今までで一番の、激しく深いキスで。
 幸せだった。こんなキスをしてくれるんなら、きっと俺のことを少しは大事に思ってくれてたはずだ。だから…だからもういいか、と思った。
 俺はボロボロと堪えていた涙を零しながら、涼介さんの胸に縋りながら言った。
「…ありがとう、涼介さん、俺、すごい幸せだったです」
「拓海……」
 涼介さんは俺の力いっぱい体を抱きしめて、そしてまた深いキスをしてくれた。
 俺が助手席から降りる時は、身を裂かれるように痛かった。
 でも、この人はもう自分のものじゃない。笑って手を離してあげないといけないんだ。
 そう思って、俺は涙を堪えて涼介さんに笑顔で手を振った。
「…涼介さん、ありがとう。さよなら」
「ああ。俺のほうこそありがとう。じゃあ、またな」
 …最後まで残酷な人だ。また、なんてあるわけないのに。
 でもそんな涼介さんの優しさに、俺はやっぱりこの人が好きだなぁと思う自分を感じた。
 今日はいっぱい泣いて、でも明日には忘れて元気になろう。
 そう思った。
 なのに――。
 涼介さんの「またな」は嘘じゃなかった。
 朝、豆腐の配達に行った帰り、見慣れた車が止まっているのに気付き、降りると、目の下を真っ黒にしてヨレヨレの服装になった涼介さんがいた。
 そしてヨレヨレの涼介さんは俺の体にガシッと抱きついてきて、
「ダメだ!やはりシないと眠れない!!」
 と叫んだ。
 そしてそのままFCのボンネットの上でシた。
 朝の光の中で、しかも外でするのは刺激的だった。とても楽しかった。
 そして俺は、涼介さんが俺の体の虜になっているのを自覚した。すげぇじゃん、俺。
 だからセフレ関係は今も継続中だ。これからも頑張って、涼介さんに飽きられないように頑張ろうと思った。



2006.3.20

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