〜注意!〜
このお話は、2006年3月に公開されました映画のラインナップを元に作成しております。
また内容に下世話な言葉などが含まれている事がありますが、苦手な方はご遠慮下さいませ
啓介がとても興味深い発言をした。
「…アニキ、藤原とデートとかしたことないのか?」
言われて、俺は気がついた。そう言えば拓海とはそんな事をしていない。何しろ、自身の大学の事もあるが、休みは全てDで使用している。とてもではないが、デートを捻出する時間は無い。
「…ああ、そう言えば無いな。いきなりどうした?」
「いや、だってさ、藤原のヤツ…アニキとはセフレだって言ってたし…」
「な、何だと?!!」
俺は驚愕した。何て事だ…いや、確かにそう思われても仕方ない。まともにデートらしいデートもせず、セックスだけの関係なんて、そう思われても当然ではないか!
これは由々しき問題だ。拓海は俺があまりセックスばかりなので、そんな事を言い出したに違いない。恋人の発する愛の救難信号に、気付いてやれなくて何が恋人だ!
早速、俺は拓海のために、最高のデートプランを練り、そしてその時間を捻出するべく、フル稼働で前倒しでスケジュールを進行させていった。
そのため、三日徹夜などがザラになってしまったが、これも愛のため。拓海の笑顔を見るためなら容易いものだ。
そして拓海とデートの約束を取り付け、自慢の服で迎えに行こうとしたら啓介に止められた。
「…アニキ。マジでソレで行くのか?」
「うん?変か?」
「いや、まぁ、なんつーか、変…と言うか…」
歯切れの悪い奴だ。言いたい事があるならはっきり言えばいいものを。
「…あ、そうだ。なぁ、緒美にアドバイスしてもらったら?もうすぐ来るって言ってたしさ」
「何で緒美のアドバイスが必要なんだ?」
「い、いや…だってさ、その…ああ、そうだ!だってアニキたち、初のデートなんだろ?やっぱ俺らから見た視点と、藤原と同じ年の緒美じゃ感覚も違うだろうしさ」
…ふむ。啓介にしてはマトモな事を言うな。確かに拓海との間の五歳と言う年齢差はキツい。俺が高校三年の時、やっと藤原は中学一年なのだ。正直、ジェネレーションギャップと言うのは多少なりともある。
「…そうだな。じゃあ緒美に少し見てもらうか」
「そ、そうか、良かった……」
やけに冷や汗ダラダラだった啓介は、俺の言葉に安堵したようだった。あいつなりに、俺と藤原の仲を応援しているのだろう。いつも苛めているが、弟を鍛えるため、心を鬼にしてますますこれからも苛めることにしよう。
啓介の言うとおりすぐに緒美は来て、これから俺が藤原とデートなのだと告げると、目をキラキラと輝かせた。
「十九歳の男の子と初デート?じゃ、涼兄。こんな格好じゃダメよ。せっかくの初デートなんだから、やっぱり大人の魅力で迫らないとね!」
そう言って緒美がチョイスしたのは、俺が今着ていた全身白と言うコーディネートの中の白ジャケットと白革靴だけを残し、パンツは黒。シャツは淡い水色に、真っ赤なスカーフを合わせたものだった。
「…完璧よ!名付けて…ミラノ風伊達男!!これなら、年上の男に憧れる男の子はイチコロよ?」
なるほど。さすが五歳下の感覚は違うな。
何故か奥のほうで啓介が泣いている。どうやら感涙しているようだ。
「…さすが従妹…俺の判断は間違ってた……」
どうやら自分が愚かである事を悟ったらしい。どんな切欠であれ、愚かである自覚が出るのは良いことだ。
俺はそのまま家を出て、用意した花束とともに愛しい恋人が待つ藤原豆腐店に向かった。
店先に降り立ち、現れた俺を見つめる恋人の目は、緒美の言った通りイチコロの目をしていた。
「…すいません、俺、こんな格好で」
恥ずかしそうに頬を染め、薔薇よりも美しい顔をその中に隠すように俯いた拓海に、俺は愛しさが込み上げ、その頬にキスをした。
「拓海はどんな格好をしていても素敵だよ。こんな素敵な拓海を、エスコート出来て俺は幸せだ」
そう言ってやると、彼の目がぽうっと俺を見つめ、このままベッドに押し倒して貪ってやりたいぐらいの表情をする。…おっと、いかん。今日はそんな事はタブーだ。体よりも心を優先させないと。
「見惚れてくれるのは嬉しいけど、俺はその拓海の可愛い顔を早く独り占めにしたいな」
彼の手を取り、囁くとますます彼の顔は赤くなった。もう薔薇より赤い。
そしてうっとりと俺を見つめたまま、上気した頬の何とも美味しそう…いや、魅力的な恋人をFCに乗せ、俺はデートコースの定番とも言える映画館へ向かった。
タイムリーな事に、俺たちのためと言っても過言ではないゲイを題材にした映画が公開された。二十年越しの愛だと?フッ、俺たちは永遠に続けるつもりだがな。
しっかりと前売りまで購入しておいた券を差し出し、彼に映画のポスターを示し、
「…拓海と見たくて、公開前から用意していたんだ」
と言った。我ながら完璧だ。この映画を観て、感動した拓海の俺への反応を想像しただけで勃…いや、いかん。そうではない。…うむ、嬉しくなる。これだな。
しかし映画のポスターを見た拓海は、愛らしくも拗ねた顔でそっぽを向いた。
「…俺、こんな感動作品とか苦手です。それに、これ洋画だし。字幕とか見てたら俺、確実に寝ますよ」
…困った。拓海は映画を嫌だと言う。
しかし俺としては二人で愛を誓い合うためのチョイスなのだが…。
しつこく食い下がっていると、拓海が突然笑顔になった。幸せそうな顔になり、ニコニコと嬉しそうに俺に微笑んだ。
…ああ、小悪魔。俺を翻弄し、そして魅了するこの存在に、何度俺は心臓を射抜かれたことか。そして気がついた。いつも俺は、拓海にこんな思いをさせていた事に。忙しい俺のために我侭一つ言わず、ずっと耐えていてくれた恋人。そんな恋人が今日は俺に拗ねてくれた…。今日は拗ねちゃった記念日(ネーミングセンスゼロ)だな。
そして小悪魔な恋人は言った。
「涼介さん、俺、あれ見てきます。だから涼介さんはその映画、見てくればいいですよ。じゃ」
拓海が示したのは青い物体。二頭身の愛嬌のある容貌。ド○えもんだ。
…待ってくれ、俺の小悪魔ちゃん!!
俺は拓海に追い縋り、俺の愛情を試す恋人を抱きしめた。
「涼介さん、あっち見てくればいいじゃないですか。無理することないですよ?」
そんなふうに俺を試しながら、握った俺の手を離さない恋人に、俺の心は甘く綻んだ。
「俺は拓海と一緒ならたとえ地獄でも一緒にいる」
そしてある意味、映画館の中は地獄ではあった。
暗い密室に、拓海と隣り合わせに座るのだ。これがいつもなら、太ももに手を這わせ、悪戯したり、暗がりに誤魔化してキスの一つや二つや三つや…エンドレス…をするところではあるが、さすがに俺も、親子連れや子供たちが集うあの場所で、そんな不純な真似は出来なかった。
そして何より辛かったのは…拓海の顔が、あのドラ○もんを見つめる時、まるで俺を見るかのようにキラキラ輝くことだった。
…おのれ、ドラ○もん…俺の拓海のハートを奪いやがって。
悔しくなり、上映中はずっと拓海の手を握ったままでいた。
本当ならこの手を俺の……に誘い込んで……を握ってもらいたいところだが、ド○えもんが危機になるたびに、ぎゅっと強く握られるこの力に、俺は握ってもらわなくて良かったと、ほんのり思った。
そして忍耐力を試された映画が終わり、色っぽく頬を染めた拓海が恥ずかしそうにこう言った。
「…ドラ○もんって…何でも叶えてくれるところ、涼介さんに似てて…俺、好きなんです…」
恥ずかしがりやの恋人の最大級の愛の賛辞。
このままトイレに連れ込んで……したいところだが、ぐっと我慢。それではいつもと同じだ。
今日の俺には拓海に忘れられないデートをする事と、「セフレ」発言への反省があるのだ。
そして夕刻。俺は予定通りに拓海を某ホテルの中のレストランへと案内した。
こんな場所に慣れない拓海のために、個室を用意したと言いながら、本当はこの俺がこんな愛らしくも色っぽい拓海を、他の奴等に見せたくないだけなんだがな。フッ。
「二人の夜に。…乾杯」
グラスをカチンと合わせながら、拓海にそう言うと、彼の頬はまたユデ蛸のように真っ赤に染まった。少々震えてもいるようだ。可愛いな。緊張しているのか。
最初はオドオドしていた拓海も、料理が運ばれてくると、途端に目の色を輝かせた。
美味しそうに、だが啓介たちのように下品ではなく、丁寧にしっかりと料理を片付けていくあの拓海の唇…。ああ、見ているだけで目の毒だ。俺は食事も忘れ、拓海の唇に見入った。
だからあの唇の動きが緩まり、止まった事に俺はすぐに気付いた。
「拓海?どうした?何か変なものでもあったか?」
俺がそう問いかけると、拓海は目を涙で潤ませて俺を見つめた。
「…涼介さん」
「何だ?」
「…こう言うことするの、俺で何人目?」
…ハニー!!
どうやら俺の完璧デートプランは恋人を嫉妬させ不安にさせてしまったようだ。
だが天地神明にかけて誓えるが、今までの俺に性欲はあっても愛情はなかった。誰かとデートしようなどと言う感覚は、拓海が初めてで、そして最後だ。
それを伝えると、俺を魅了して止まない恋人の大きめの瞳からホロリと涙が零れる。
ズキューン、と俺の胸に刺さった恋の弾丸。いや、もう何発も喰らって、今刺さったのは大砲だ。
自戒していたはずの理性を恋の大砲が壊し、テーブルを乗り越え、俺はあの美味しそうな唇に吸い付いた。
舌を入れ、吸い、相手の口の中を蹂躙する。
…気持ちいい。こうしているだけで自分の中にもちろん性欲も激しく湧いてくるが、何より愛しくて、切なくて、このままどこまでも一緒にいたいと言う切なる願いが湧いてくる。彼に出会うまで俺が知らなかった幸せだ。
「…涼介さん……」
うっとりと、唇を離した彼の唇から俺の名前が零れ落ちる。それがどんなに俺に喜びを与えるかも、俺は知らずに過ごしていた。
今となっては、彼のいない生活など俺には考えられない。
…だから。
「さぁ、食事の続きをしようか」
そんな大切な恋人を失わないためにも、俺は心を鬼にして体を離した。
なのに。小悪魔ハニーは俺に試練を与える。
「…涼介さん…H、シないんですか?」
…してぇよ!そりゃしたいさ!!
「い、いや…体ばかりが全てじゃないだろう。あまりそればかりと言うのも、良くないと思うんだ」
そうだ、そうなんだ、俺!いつも体ばかりだから、たまには心も優先させないと。だから、静まれ俺の股間よ!!
そう言うと、心なしか拓海がしょんぼりしてしまったような気がした。…ヤっちまえば良かったか?
いやいや、それでは拓海にまた俺が体目当てだと思われてしまう。
我慢だ。我慢だ、俺!
ギリギリと、歯噛みしたい気持ちを笑顔で押し殺し、暴れだしたい股間をテーブルの下に隠れながら手で抑える。
…ああ、イテぇなぁ。愛って辛いぜ。
必死に理性で欲望を留めさせ、このままスィートになだれ込みたい気持ちを隠し、FCに拓海を乗せ走る。後は送るだけ。これぞ健全なデートではないか!もうこれで拓海も自分が「セフレ」などとは思わないだろう。
だがFCに乗り込んでから、拓海はずっと俯き口数が減った。
もしや、今日はつまらなかったのか??
「拓海、今日は楽しかった?」
そう問いかけてしまったのは、俺の臆病さだ。
「…はい、楽しかったです」
拓海が頷いたのを俺は確認し、ほっと安堵の息を吐く。
「そうか。なら良かったよ。今日が、拓海の記憶に残る良い日になるといいなと思ったから」
だがそう言いながらも、まだ拓海の顔が悲しそうななのが気になった。
何故だ。どうしたって言うんだ、ハニー?
しかしその答えはすぐに分かった。
店の前に着き、「着いたよ?」と促した瞬間、瞳を潤ませた拓海が、縋るように俺を見つめてきた。
「………キスして」
…ああ、訪れる別れを恐がっていたんだね、ダーリン!!しかし、安心しろ。これは一時の別れ、すぐに俺は会いに来る。拓海のためならば!
「…ありがとう、涼介さん、俺、すごい幸せだったです」
「拓海……」
俺は拓海の体を離したくないと願いを込めて力いっぱい抱きしめた。そして名残を惜しむようにまたキスをする。
彼が助手席から降りる時は、身を裂かれるように痛かった。
社会人とは言え、まだ未成年の拓海。
そして成人したとは言え、まだ学生である身分の俺。
まだ足場の不安定な俺たちは、ずっと一緒にいたいと願いながらも、まだそれを行うには困難がある。
だから、ハニー。
今は一時の別れ。
だから泣かないでおくれ。
泣き出しそうな表情で、拓海が俺に笑顔を作り手を振った。いじらしい恋人の仕草に、俺は彼の涙に気付かない振りをする。
「…涼介さん、ありがとう。さよなら」
このままどこかに攫ってしまえればいいのに。
「ああ。俺のほうこそありがとう。じゃあ、またな」
そう思いながらも、俺もまた悲しさを堪え彼に手を振った。
未練を断ち切るようにFCを走らせる。
バックミラーに、いつまでも映る拓海の姿に、俺は俺たちの愛情を再確認したような気がした。
そしてそんな名残を抱えながら、家に帰ると何故か青ざめた啓介が俺を待っていた。
「……アニキ、どうだった?」
俺は顔を手で抑え涙を堪えた。
「…や、やっぱダメだったのか。そうだよな、そんなキテレツな格好じゃ…」
何を言ってるんだ、こいつは?
「デートは上手く行った」
「…じゃ、何でアニキ、そんなヘコんでるんだよ?」
この脳ミソ筋肉が!
「…お前は、離れて夜を過ごすことになってしまった恋人同士のこの切ない感情を理解できないのか?いや、そうなんだな。お前にセンシティブな事を理解してもらおうだなんて、俺が間違ってたよ。例えて言うならアルパカに脱毛症になれと言うぐらい愚かだった…」
等々と語る俺に、啓介は最初驚いた顔で見ていたが、だがすぐに冷めた表情になる。何だ、啓介のくせに。この俺にそんな顔をしやがって。
「アニキ」
「何だ!」
「………勃ってる」
おっと、いかん。
「抑えていた衝動が、拓海がいない事でどうやら解放されてしまったようだ。啓介、これは生理現象だから気にするな」
「…気にするよ」
ガクッと項垂れた啓介を横目に、俺はさっさと眠ることにした。
今日の幸せな思い出を胸に、夢の中でも拓海とイチャイチャをするのだ。
…ところが。
俺にも誤算はある。
ベッドに入り、目を閉じた瞬間、思い浮かぶのは今日見た拓海の色っぽくも美味しそうな表情や仕草。
それらが耳に残った声とともに蘇るのだ。
『涼介さんみたいで…好きなんです…』
ぬお!
『…涼介さん…H、シないんですか?』
したい!!
『………キスして』
はい、喜んで!!!
頭の中を巡るのは拓海の事ばかり。
眠ろうにも張り詰めた股間が痛く、とてもじゃないが眠れない。
そして中毒患者のようになってしまった俺は、フラフラと夜明け前の早朝、秋名で拓海を待ち伏せし、本能のままに行動した。
振り返ると、あの時の俺は本当にケモノであったと反省する。
だがいつもより拓海の反応も……であったし、いつもよりも激しく……であるようだったので良しとする。
そして何より、拓海の言葉が俺のケモノを増長させたのだ。
「涼介さん。俺とのH、好き?」
「…ああ、大好きだ」
「俺、これからも涼介さんに飽きられないように頑張りますから、だから…捨てないで下さい」
「捨てるもんか!拓海ィィ!!」
俺の心も体も、全て拓海のものだとこれから一生かけて教えていこう。
そして俺は思った。
「心は大事だ。だが…体はもっと大事だ」
と。
それを言った瞬間、拓海が嬉しそうに微笑みながら俺にのしかかってきた。
そしてそのまま俺の上で………した。
俺は一生このまま拓海にのしかかられたままでいたいなと思い、そして願った。
心だけでなく、体までしっかりと結びついた俺たちは、正にパーフェクトラヴァー。
それを確認した今日は、「拓海にのしかかられちゃった記念日」と名付け、昨日の「拗ねちゃった記念日」兼「二人のラブMAXデート記念日」と合わせ、これからも祝っていこうと俺は思った。
2006.3.20