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ROSE-Another

ROSE 番外と言うよりパロディ
結婚式?!


 家に帰ると、何故か親父が居間のテーブルの上にチラシみたいなものをいっぱい乗せて悩んでいた。
「ただいま」
 俺がそう言っても返事もしない。いったい何を真剣に見ているのかと、テーブルの上を覗き込んで、俺は驚いた。
「…親父、結婚すんのか?」
 …親父も、お袋が亡くなってもう十年だ。もう再婚してもいい頃なのかも知れない。孫の顔を見せることも出来ない俺と涼介さんの仲を認めてくれた親父だ。俺も複雑だけど認めてやらないといけないのかな。
 そんな事を思っていたのに、親父はとんでもないことを言いやがった。
「ハァ?何言ってんだ。お前らの結婚式に決まってんだろ?」
「…はぁ?!何言ってんだよ、親父!」
「何言ってんだはこっちだろうが。お前、結婚式もあげねぇつもりか?」
「あ、あげるもクソも、俺ら男同士だし、そんなの出来るワケねぇだろ!」
「ただいま戻りました。どうしたんだ、拓海?大きな声を上げて」
「あ、涼介さん。涼介さんも言って下さいよ、親父のやつ…」
 と、文句を言おうとした俺は、だがすぐにピタリと止めた。
「お義父さん、候補の式場のを集めてきましたよ」
「お、そうか。う~ん、こっちも悪くねぇなぁ」
「ええ、ここは人前式が出来るんですよ。どうせなら、神様に誓うよりも、俺は皆に誓いたいと思ってます」
「そうか、今時はこんなのなのか…う~ん」
 …涼介さんの手の中には、親父に負けないほどの式場のパンフレットがあった。
 しかも涼介さん、いつの間に親父のこと「お義父さん」なんて呼んでるんだ?!
「俺としちゃ、やっぱり拓海にはドレス着てもらいたいんだがなぁ」
「ですがドレスはやはり男ですし、キツいとは思いますよ。俺は白無垢や内掛けでもいいんですが…」
「いや、女房のヤツがよぅ、白無垢だったからな。だからあいつ、ドレス着たがってたんだよな…」
「…そうなんですか。分かりました。じゃあ、ドレスで。大丈夫ですよ、男でも拓海のサイズなら十分色々ありますから」
「お、そうか。楽しみだな」
「ええ、俺もとても楽しみです」
 何でこんな話になってるんだよ!
 俺は怒鳴った。
「ちょ、ちょっと待てよ!何で勝手にそんな話になってるんだよ!!」
「何でって、拓海。お前、涼介君とずっと一緒に暮らしていくつもりなんだろう?」
「え?…う、うん、そうだけど」
「だったら、結婚式するのがスジじゃねぇか。それとも何か?お前は、結婚もしないでずっと一緒にいるつもりか?そりゃ、お前、うちにも世間体ってものがな…。結婚前の二人が、式もしないでずっと一緒っつぅのはなぁ…」
 …何言ってんだ、親父?
「そうだぞ、拓海。やはりケジメはちゃんと付けないと。ご両親は元より、ご近所にも顔向けできないだろう?あ、ちなみにご近所にはもう話は通してあるから。色々協力してくれるそうだ」
 …きょ、協力?!
「ん?お前、もしかして今更男同士とか気にしてんじゃねぇだろうな?」
 …気にするって言うか、常識的に男同士で結婚式なんて…。
「フッ、拓海。時代は進化してるんだよ。イギリスでは同性同士の婚姻が法律的に認められたし、その効果でイギリスには同性同士を対象とした同性カップル向けのウェディングプランニングの会社も立ち上がったんだ。日本も、まだまだその点では後進国であるとは言え、昔ほどの差別はないよ。現に、俺がホテルや結婚式場にあらかじめ同性であることを伝えたんだが、皆、快く了承してくれた」
「はぁ?!」
 …どうなってるんだ、日本!?
「だから安心しなさい。特に、式場側なんて、俺の相手として拓海の写真を見せた途端、初の同性カップルのモデルとしてパンフレットに写真を載せることを許可したら費用はロハで構わないそうだ。だからお金の心配もいらない」
 …俺、頭痛くなってきた。
「…拓海。お前、イヤなのか?」
 …イヤって言うか…。
「母ちゃん…拓海が結婚式をあげねぇって言ってやがる…何て親不孝なヤツなんだろうなぁ…」
 チーン……。
 …って、親父、何仏壇のお袋と喋ってんだよ!
「母ちゃんも見たかったよな、拓海のドレス姿」
 …なんでドレスだ!
「…なのに拓海は着てくれねぇってよ」
 ………別にイヤって言うわけじゃ…。
「母ちゃんが着れなかった分、あいつが着てくれると思ったんだけどな…」
 …そりゃ、俺はどっちかって言うとお袋似だけど。
「見たかったなぁ、母ちゃんに似た拓海のドレス姿…」
 気まずい気持ちの俺の肩に、涼介さんがポンと叩いた。
「拓海、あのお義父さんの姿を見て何も思わないのか?お義父さんの願い、叶えてやろうよ」
 …涼介さん、何か、キャラ変わってません?
「…母ちゃ~ん!!」
「…お義父さん、大丈夫です!拓海は優しいですから、きっとお義父さんの望みを叶えてくれますよ、な、拓海!」
 …脅迫ですか?
 無言の圧力ってやつが俺を責める。
 どうせ、この人たちに逆らおうなんて無理だし、正直、実は結婚式、嬉しかったりする。
 だから…。
「いいっすよ、もう。好きにしてください」
 俺は頷いた。
 だけど…。

「やはり披露宴の時にはゴンドラで…」
「いや、それよりスモークを焚いてその中から現れる演出のほうが…」
 …やけに熱のこもる二人のやる気が、何となく怖いな、と思う俺は間違ってはいないはずだ。
「ドレスは白だな」
「ええ、やはり清楚な白がいいですね」
「お?このデザインなんかいいんじゃないか?」
「ああ~、そうですね。これなら男の体でもラインがごまかせますね」
「だろ?」
「お義父さん。気が合いますね」
「まぁな。兄ちゃんこそいいセンスしてるよ」
 ハハハ、と笑いあう二人に、俺の不安は強くなる。
 こっそり、俺の相談相手にもなってくれている史裕さんに電話して、今の状況を伝えた。
 史裕さんは、あっさりとこう答えてくれた。
「諦めろ」
 …俺が結局、史裕さんのアドバイス通りにしたのは、それから一時間後のことだった。



2006年3月10日



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