ガムテープは取らないでおきましょう。
穏やかな表情で、松本は京一に酷な事を強いる。
口にべったりと張り付いたガムテープは、呼吸がし辛く息苦しい。
苦痛が大きいほど、この人は感じそうですからね。
淡々と、まるでマシンの状態を確認するように、松本は京一の体に触れていく。
ボタンの飛んだジーンズを下着ごと膝の辺りまでずりおろし、四肢を拘束させたまま、中途半端に京一を剥いた。
「綺麗な体ですね」
がさついた指が、京一の肌を辿る。
「荒事をしていそうなのに、喧嘩の傷も残っていない。…強いんですか?」
スゥ、と胸を這う指が、京一の尖った小さな飾りを摘む。
「そう聞いているが、どうかな?コイツも俺と同じで、単純に暴力沙汰で片付けるより、頭を使って相手を嵌める方が好きそうだからな。見た目よりも、荒事を経験していないんじゃないか?」
ふぅん、と興味なさそうに涼介の言葉に返事しながら、松本は京一の乳首を強く摘み、そして噛んだ。
「…じゃあ、これが初めての荒事ってヤツですかね?」
「そうなるかもな」
フン、と侮蔑の笑みが落ち、胸を辿る指が京一の肌に傷を付ける。
「綺麗なものを見ると…傷つけたくなるのは本能でしょうか?」
ぷつりと、強く噛まれた乳首から真っ赤な血の球が生まれる。松本はそれにペロリと舌を這わせた。
美味そうに、零れる血を嘗める。
「お前の性質がそうなんだろう。無垢なものを憎み壊さずにいられない。破壊衝動がある」
京一には呻くしかない。
自分の体の上で、京一を無視し交わされる言葉。
与えられる痛み。そして屈辱と……渇望。
「涼介さんは反対ですね。無垢なものに惹かれ、守り大事にしたい。藤原拓海のように」
腹の上を彷徨っていた指が、京一の茂みに触れる。
撫で下ろすように降りてきた指は、京一の硬化した部分を握り、強く引っ張った。
「……ぅ…!」
痛みに、京一は思わず四肢を拘束されていると言うのに、手足をばたつかせた。
縛られた手首と足首が痛み、ギリギリと絞られるように痛んだ。
「…チッ。うるせぇな。早く大人しくさせろよ」
非情な恋うる相手の言葉に、物質的な痛みだけではない、京一の眦に涙が浮かぶ。
「全く。可愛そうですね。彼の人権は無視ですか?彼も無垢だとは思うんですがねぇ」
ヨシヨシと、宥めるように松本の指が、痛みに震えるペニスを撫でる。ゆっくりとまた勃ち上がったところで、爪を立て痛みを与える。
「うー。うー」
眦に溜まっていた涙が零れ落ちる。
屈辱だ。
だが、何より屈辱なのは、涼介の非情な言葉に傷付きながらも、ゾクゾクと震えるほどの快楽の熾火を感じてしまう自分がいる事だ。
痛みと、甘さを交互に与えてくる男の指にも。
「そいつが無垢?フン。たとえ無垢だとしても、その見かけでは俺の感情は動かねぇよ。気色悪ぃ」
フフフ、と自分の体の上で楽しそうに松本が笑う。
「酷い言葉を投げかけられて、こんなに恥ずかしい汁を垂らしてる。あなた本当にマゾなんですね」
京一の肉厚な両の太ももに手をかけ持ち上げ、まるで幼児がおむつを替えるような体勢を取らされる。
タラタラと、浅ましい欲望から先走りの液が漏れ、京一の腹を、そしてさらに抱え上げられ、顔までも塗らす。
「さぁ。淫乱なメスブタちゃん。強欲な穴を見せて下さい。思い切り…虐めてあげますから」
松本の卑猥な言葉に、自然と尻穴がパクパクと震える。
そこを…慰めたことはある。
自身の指で。
頭の中に、細く、長い白い指を妄想して。
尻穴に指を突っ込み、オナニーする自身を嫌悪しながら、それでもそれは止められない悪癖となっていた。
その尻に、今日は他人の指が突っ込まれるのだろうか?
ピクンと、期待に京一のペニスが跳ねる。
「涼介さん。お願いします」
「汚ねぇから、嫌なんだがな」
ハァ、と溜息を零しながら、涼介はベッドサイドに置いたメスを再び手に取る。
またあれで切られるのだろうか?
京一は恐怖に身を竦める。
しかし、涼介は刃先の部分を持ち、柄の部分を唇に寄せ、そして薄く開いたそこに柄を潜り込ませた。
涼介がメスの柄部分を嘗めている。
まるでフェラチオをするように、じっくりと舌先で嘗め上げ、柄に唾液を塗していく。
京一は魅入られたように、その光景を凝視した。
ハァハァと呼吸が荒くなり、ダラダラと壊れた蛇口のようにペニスから恥ずかしい汁があふれ出していく。
プチュ、と音を立て、涼介はメスを唇から引き離す。そしてそれを松本に手渡した。
「ほら」
「ありがとうございます」
自分を嬲る男の手に渡された銀色の無機物。
京一は自分の予想が当たることを祈った。
自然と尻が振られる。
浅ましく求める尻を、松本が手のひらで強く叩いた。
「がっつかないで下さい。そんなに欲しがられると上げたくなくなりますよ?」
ニコリと微笑み、銀色の光が遠ざけられる。
京一は必死に首を横に振った。
「うー!うぅー!!」
頭の中は、ずっと隠してきた浅ましい欲情でいっぱいだ。
「そんなに欲しいですか?」
首を、何度も縦に動かす。
「しょうがないメスブタだ。ほら、あなたの淫乱な尻に、涼介さんの唾液が塗られますよ?」
ああ。
ああ。
京一は何度も呻いた。
心臓が戦慄き、全身で彼の唾液を欲する。
ズブリと、乱暴に狭い穴をこじ開けるように異物が入り込む。
痛みに、京一は顔を顰めるが、素直なペニスは喜びに打ち震えていた。
「嬉しいですか?初めてだろうに、美味しそうにしゃぶってる…」
ぎゅうぎゅうにそこを締め付けているのが分かる。
松本がメスの部分を掴み、ぐるりと内部をかき回した。
「健気ですね。そんなに涼介さんが好きですか?唾液で、こんなに浅ましく乱れるほど?」
好き、なのだろうか。
ただ、涼介に認められたかった。
あの男の怜悧な眼差しの前に立つと、まるで自分が素裸のようになった心地さえする。
「気色悪い事を言うな、松本。鳥肌が立つぜ」
心底、嫌そうに涼介が吐き捨てる。
涼介に愛されることを望んでいない。
そんな事、最初から考えもしなかった。
この男に惹かれるのは、自分には決して手に入らないと、そう知っているからかもしれない。
グチュグチュと内部の異物の動きが激しくなる。
縦横に動き、京一の内部を攪拌する。
痛みはある。
だが、京一には、その痛みこそが快楽だった。
「…ああ。良い具合に緩んできましたね。そろそろ突っ込めそうですか?」
自分を嬲る男の言葉に、京一の総身に怖気が走る。
内部に男を受け入れる。
それは京一にとって想像することをずっと拒んでいた渇望だった。
自分が女のように男を受け入れ、浅ましく身悶える。
拒みながらも、京一はそれを欲する傾向にある自分を薄々感じていた。
だからこそ、京一は強い男であろうとした。
威圧的で、何者にも揺るがない。非常に男性的な「雄」に。
だが、それを崩したのはあの男だ。
京一はベッドの傍らで、自分に冷たい眼差しを見せる男を見つめる。
秀麗な容貌と、上品な物腰。そしてその容姿に似つかわしい、悪魔的なほどの優秀な頭脳。
高橋涼介。
この男の前では、京一は薄皮を剥く様に、自分に被せた虚勢が剥がされる。
そして現れるのは、貪欲で醜悪な「雌」の自分。
「突っ込んで欲しいんですか?途端にここがヒクヒクしてますよ?」
クス、と松本が嘲笑い、自身の欲望を京一に見せ付けるように扱く。
ゼリーか何かを塗ったのだろう。
動かす手からニチャニチャと卑猥な音が響き、硬化し出したそこはテラテラと淫靡に輝いていた。
ゴクリと、京一は唾を飲み込む。
駄目だ。
京一は心の中で叫ぶ。
堕ちる。
堕とされる。
浅ましく男のペニスを欲する、醜いモノに。
だが同時に、あれを突っ込み、掻き回されたいとも欲する。
京一は全てを拒むように目を閉じた。
けれど、そんな京一の葛藤を察したように、涼介の無情な声が命令する。
「目を開けろ」
従う理由は無い。
けれど、京一の本能が涼介の命令を無視できない。
まるで、飼い主と従順な犬のように、京一は目を開ける。
「自分がどれだけ淫乱か、己の目で確かめるんだ」
その言葉と同時に、松本のペニスが京一のアナルを割り開いた。
メリメリと皮膚を裂く音がする。
「…う、ぅぁ…む、ぐぅ…」
痛みに京一は呻き、そして眦から涙を零す。
けれど、目は逸らさなかった。
男の欲望が自分の中に埋められるのを、恋する相手の言葉を忠実に守り、直視する。
「…ああ、狭い。大臀筋が発達してるからかな?キュウキュウ絞られるように締まる…」
痛い。
痛い。
だが……。
「…けど、やはりあなた淫乱ですね。ここを…」
フッ、と微笑み、松本が京一のペニスを嬲る。
「…こう、弄ってあげるだけで、ほら」
「…ふ、んぅ…」
「途端に中が潤む」
ぐいぐいと松本が腰を進めてくる。
熱くて硬いものに、奥まで割り広げられる。
「まるで熟れた果実だ…。俺のに絡み付いてきますよ…ハハ」
ぐるりと内部で回転され、そして前後に揺すられる。
体の内側をぐちゃぐちゃに掻き回され、京一は自分の内部で何かが壊れる音を聞いた。
まるでガラスのように繊細な何かが壊れ、中に閉じ込められていたドロリとした液が全身に広がり、熱を持つ。
「…んぅ―――っ」
硬い先端がゴリゴリと内壁を擦る。
松本の歯が、京一の乳首を噛む。
壊れる――。
いや、壊れた――。
腰が勝手に揺らめき、圧し掛かる男の動きをさらに求めるように動く。
「…物足りないんですか?貪欲な人だ」
クスリと、松本は楽しげな笑みを浮かべ、京一の足をさらに大きく割り広げた。
そして強く、激しく…突く。
「…ふ、ぅ―、ん、んぅぅ―」
パンパンと互いの肌がぶつかる音がする。
激しくベッドが揺れ、京一の体も大きく揺さぶられる。
腹部を圧迫され、内臓を刺激する中で、下腹部に溜まった何かが溢れ出しそうな感覚が沸き起こり、京一は身悶えた。
だが激しい動きに翻弄され、抵抗も出来ず、その感覚は堪えることが出来ずに溢れ出す。
その瞬間、頬に生暖かい水滴を感じた。
目の前で男が信じられないものを見たかのように驚き、けれどすぐに楽しそうに笑った。
「…かわいい人だ。おもらししちゃったんですか?」
京一のペニスの先端から、ショボショボと液体が溢れている。
それは先走りなどではなく、尿だった。
内腹を押され、溜まっていたそれが溢れたのだろう。
まるで子供のような現象に、京一は絶望に目の前が真っ暗になった。
壊された。
粉々に。
微塵に。
京一の矜持も、誇りも、何もかも。
自分をオスの顔で攻め立てる男は、そんな京一をさらに揺さぶり、そして楽しげな笑みを浮かべている。
それは好意的な笑みではなかった。
浅ましい下劣な、とても下等な生き物として、哀れみで笑っているのだ。
京一は惨めだった。
『これは罰だよ』
そう囁き、京一を貶めた男の言葉が蘇る。
ああ、確かにこれは罰なのだろう。
京一は見るだけで、触れることが叶わない恋しい男を見た。
涼介は笑っていた。
とても楽しそうに。
晴れやかに。
「良い様だな、京一」
これは罰なのだ。
京一は理解した。
この男が自分に与えた、これは罰なのだ。
子供のように、京一の目から涙が溢れる。
揺さぶられ、その涙はベッドのシーツの上に散る。
「――今度はお前が泣く番なんだよ」
そう嘲笑う涼介は、京一には悪魔のように見えた。
けれど。
京一が今まで見た涼介の中で、一番魅惑的な姿だった。
そしてその笑みを受けた瞬間、京一は射精した。