??×京一


 赤い月が夜空を彩る。
 あの日も。
 今日も。
 禍々しい光を放つ月を見上げ、京一は紫煙を燻らせた。
 こんな月の夜は嫌な事が起きる。
 過去の恐怖を思い出し、京一はブルリと身を震わせた。
「…清次さん。来ませんね」
 ふ、と意識が過去に飛んでいた京一を今に返したのは、自身のチームのメンバーである男の声だった。
 アイドリングをする愛車のボンネットに触れ、鼓動を確かめるようにエンジンが奏でる振動を手のひらで感じ取る。
「……ああ」
 清次。…岩城清次はチームの中で自分の片腕の位置にあった男。
 彼はもうここには現れないだろう。
 僅か一週間前の出来事だった。
『お前が好きなんだ!』
 何を血迷ったのかと思った。
 ゴツく、女らしさの欠片もない自分の身体を抱きしめ、あの男の欲望は確かに隆起していた。
 京一の首筋にかかった荒い息。
『頼む…京一。お前が欲しい…』
 尻の狭間に当てられる硬い感触。
 無骨な指が腰をなぞり、小さな京一の乳首を弄る。
『やめ…ろ、清次!』
『嫌だ、京一!好きなんだ…好きなんだよ!』
 首筋にかかる、生暖かい息。
 熱い感触。
 その瞬間、京一の全身に悪寒が走った。
『止めろ!』
 京一はか弱い女ではない。
 むしろ、筋骨隆々な体型と言って過言ではない。
『俺は女じゃない!突っ込みたいなら、誰か他のヤツを相手にしろ!!』
 力ずくで振りほどき、熱に浮かされたような清次の顔面に固い拳を見舞う。
 殴り飛ばされ、地面に倒れこんだ清次は、京一の中の断固とした拒絶を感じ、その格好のままむせび泣いた。
『…京一ぃ…京一ぃ…』
 そんな清次を京一は見捨て、帰った。
 あれ以来、彼の顔は見ていない。
 そして傷つけられた清次もまた、京一の前に現れようとはしないだろう。
 片腕として自分の横にあった男を切り捨てる惜しさは確かにあるが、あの時に感じた悪寒を京一は拭うことは出来ない。
 再び夜空に紫煙をたなびかせる。
「京一さん。それじゃ、俺らはもう帰ります。もし清次さんが来たら宜しく言っといて下さい」
 頭を下げ、集っていた男たちが車に乗り込み峠を下っていく。
 言えなかった。
 もう清次は来ないだろうと。
 一気に静かになった空間の中、京一は苦い表情で煙草を落とし靴底で踏みつけた。
 そして赤い月を見上げた。
 嫌な月だ。
 あんな月の日は嫌な事が起きる。
 事故にでも合わないよう、今日は慎重に運転するかとドアを開けようとした瞬間、背後に誰かの気配を感じた。
 そして。
「…う、ぐぅ…!」
 口元に当てられた布地と、何かの薬品の匂い。
 すぅ、と呼吸をすればそれを吸い込み、意識が遠くなる。
 必死に抵抗し振りほどいた腕の中、京一は確かに三日月のような笑顔の男の顔を見た。
 けれど、意識はそこで途切れた。


『嫌だ!止めてくれ!!』
 何度も叫んだ。
『頼む…お願いだ…』
 何度も哀願した。
 最後には矜持の全てを折られ、小さな子供のように泣きじゃくった。
『いやだ…いやだ…ごめんなさい…ごめんなさ…』
 それなのに男たちはニヤニヤと下劣な笑みを浮かべ、京一の身体に暴力を刻んだ。
『もっとケツ緩めろよ、ほら!』
 ぐいぐいと血に濡れた尻を凶器で突き刺し、ついでとばかりに頬を殴る。
『お、いいぜ、吸い付いてきた。淫乱だなぁ、京一君は』
 嘲り、京一を「女」に変える。
『ホラ、口休めてんじゃねぇよ。お前ので汚れたんだから、キレイにしてもらわないとなぁ』
 ゲラゲラと嘲笑う男たちの声が身体の上で響く。
 朦朧とする意識の中、確かに京一は―――。
 ふ、と目を開いた時、視界に映ったのは赤い月だった。
 あの時の月も、あんな色をしていた。
 犯され、意思のないモノのように扱われたあの日の夜も。
「……う…」
 ガンガンと痛む頭で身を捩る。
 けれど手足が動かない事実と、そしてペチャペチャと卑猥な音が響いていることに遅ればせながら気付いた。
「な、に……」
 自由にならない体で、首だけを浮き上がらせ音の出所を探る。
 暗い。暗い夜。
 遠くで光っている街灯の明かりだけが辺りを照らす。
 闇に慣れていない目は、すぐにそれが何であるのかを理解できなかった。
 黒っぽい人影が、自身の下腹部に顔を埋めうずくまっている。
「な…!だれ、だ!」
 舌が痺れたように満足に言葉を話せない。
 抵抗の意思を示すように、身を捩れば背中が摺れて痛んだ。
 その感触と、ダイレクトに感じる野外の空気。
 裸、だった。
 一枚の服も身にまとわず、無防備なままに野外に転がされている。
「な…なに…」
 股間を嬲っていた男が顔を上げる。
 ほんの少し闇に慣れた目と、禍々しい月明かりが男が誰であるのかを判別可能にした。
「…せ、清次…?」
 あの月と同じ、禍々しい笑みを清次は浮かべた。
 嬲られ、京一の意思とは関係なく浅ましく勃ち上がった欲望に舌を這わせ、歯を立てる。
「……う…」
「ああ…堪んねぇよ、京一…お前にこんな事が出来るだなんて…」
 京一のモノを唇ですっぽり包み、顔を上下させる。
「や、止め…清次!止めろ!」
 指先に力がこもる。
 ギュっと握り締めるが、それを動かし下にいる清次を突き飛ばすことが出来ない。
「なぁ…京一…京一…お前のここに、俺のを入れていいか?なぁ、京一ィ…」
 熱に浮かされたように、清次は京一の欲望に頬ずりしながら奥の蕾を指でなぞる。
 ゾク、と全身に悪寒が走る。
「い、嫌だ!」
「ああ…京一ィ…突っ込みてぇよォ…お前ん中に俺のを入れてぇよォ…」
 言葉の通りに、まだ狭く硬いままの蕾に清次の強張りが当てられる。
 恐怖に、京一は身が竦んだ。
「止めろ…!」
 ぐ、と無理に押し込もうとする清次の動きを止めたのは、京一の拒絶の言葉ではなく、しかし第三者の制止の声だった。
「ダメですよ、岩城さん」
 状況にそぐわないほどの、静かで冷静な声音。
 声のした方に顔を向ける。
 そこには、意識を失う寸前に見たあの三日月の笑顔があった。
「ちゃんと嘗めてほぐさないと。痛くすると京一さんに嫌われますよ?」
 禍々しいほどの笑顔。
 京一は全身の血の気が引くような感覚を味わった。
 その顔には見覚えがある。その、異質な笑顔にも。
「……酒…井…」
 かつて、京一が属していた東堂塾。
 そこに新しく加わったばかりの仲間として彼は現れた。
 愛想のよい態度と、絶えない笑顔。
 すぐに塾の皆に受け入れられ、打ち解けるまでに時間はかからなかった。
 けれど、京一だけは別だった。
 彼に言いようのない得体の知れなさを感じ、敬遠していた。
 塾長である東堂に、
『お前…酒井は嫌いか?』
 そう問われた時の自分の言葉を京一は覚えている。

『あいつは…蛇ですから』

 その蛇が、今は京一を絡めここにいる。
 獲物を前にしたその顔で。
「あ、ああ、そうだった…ゴメンな、京一。俺、焦っちまって…」
 言葉の後にすぐ刺激がやってくる。
 ベロリと滑らか舌で敏感な箇所をなぞられ、そして緩んだ隙を狙い内部に侵入する。
「…う、…ぐぅ…」
 その生々しいまでの感触。
 内部を熱い舌でかき回され、ドロドロにする。
 快感などない。
 気色が悪いだけだ。
 そう思っているのに、体は裏切り浅ましく欲情を示す。
 ふ、と酒井が微笑んだ。
「感じてるんですか、京一さん?ずいぶん気持ち良さそうだ…」
 指を伸ばし、硬くなった京一のペニスの先端を指で弄る。
「ふ、ぐぅ…ぅう…」
 ブルブルと尻が痙攣する。
 中を嘗め回る清次の舌を締め付けたのが分かった。
「ハハ…感じてるんだ、京一さん。ずいぶんヤらしいなぁ。さすがウチの便所だっただけあるよ」
 嘲りの言葉が酒井の口から吐き出される。
 その言葉に、京一の全身が凍った。
「俺が何も知らないと思ってんですか?あんた、うちのOBに輪姦されて便所になったでしょ?
 みんな言ってましたよ。京一のアソコは良かった、って」
 思い出したくない記憶。
 それが京一を苛む。
 京一は良い意味でも、悪い意味でも一匹狼タイプだ。
 集団の中に溶け込むことが苦手でもある。
 つまりは、馴れ合うことが出来ない。
 そんな京一の性質を、チームワークと言うものにやたらと拘る人種は理解できない。
『あいつは生意気なやつだ』
『あいつは人を見下している』
 そんな言葉で詰り、反発する。
 そんな人間たちが固まり、あの赤い月の夜。
 京一を犯した。
 京一のプライドを壊し、男であった京一を「メス」に変えた。
 あれは…一つの事故だと京一は考えていた。
 あの事件の後、すぐに京一は塾を止め、過去を忘れることにした。
 けれど。
 あれが、事故などではなく、仕組まれたものなのだとしたら…。
 間違いなく、計画したのはこの男だ。
「お、前……」
 酒井の細い指が、京一の小さな胸の尖りを摘み、そして引きちぎるように離す。
「漸く気付きました?あんた、鈍いからつまらなかったですよ。てっきり、俺にお礼参りみたいな事をするかと思ってたんだけどな」
 何度も、何度も同じ行為を繰り返す。病的なしつこさで京一の乳首を抓り、引きちぎる。
「ハハ、ほら。赤くなって膨らんできた。淫乱のあんたにはお似合いだよ」
「き、さま…なぜ…?!」
 歯噛みし、身を捩る。
 自由にならない体は、薬のせいではなく、全身を荒縄で縛られているからだった。
 その事実に愕然とする。
 そして、闇に慣れてきた目がここがどこであるのかも理解する。
 ブランコ。
 ジャングルジム。
 子供用の遊具が並ぶここがどこであるのか?
 …公園だ。
 人気のない、小さなどこにでもある公園。
 そんな日常に溶け込んだ風景の中に、異質な京一の存在。
 自分が寝かされている固い木の感触。
 不安定に、ゆらゆらと揺れるそこがシーソーの上であることも理解する。
「ああ、緩んできましたね。もっとキツくしましょうか」
 クスクスと楽しそうに笑いながら、酒井が縄の先端を掴み引っ張った。
 するとどう這わせてあるのか、全身がキツく締め上げられ、京一は啼いた。
 胸に這わされた縄が、腫れた乳首を掠め刺激する。
 股間にぶら下がる双玉にも縄は這っている。
 膨らんだそれをさらに締め付け、頭にまで血が上った。
「ひぃ!…ぅぐ…」
 くい、くい、と酒井が縄を弄ぶ度に、全身を這う刺激が伝わる。
 体の内側から敏感な粘膜を嬲られ、全身にザラついた荒縄が擦り、締め上げ京一を刺激する。
「…ハッ…ハァ……」
 荒い呼吸が京一の口から漏れる。
 頭がおかしくなる。
 あの夜のように。
 貫かれ、ぼろぼろに壊され、子供のように泣きじゃくりたくなる。
「良い格好だよ、京一さん」
 そんな壊れそうな京一の心を支えたのは、酒井の嘲りの言葉だった。
 潤む視界で、覗き込む酒井の顔を見上げる。
「…自分がなぜこんな事をされているのか、全く分かってない顔だね」
 そうだ。分からない。なぜ酒井が自分にこんなことをするのか。
 昔から接点は無かったはずだ。
 お互い他人のように過ごし、関わらないようにしていた。
 酒井が微笑む。
 赤い月明かりに照らされ、その表情は凄絶なまでに毒々しかった。

「あんたが俺を見抜くからだ」

 意味が分からなかった。
 京一の胸に、酒井が爪を立てる。
 痛いほどの力のそれで、指を動かし皮膚を裂き、赤い血がプクリと浮いてくる。
「蛇だって、社長に言ったんだろ、俺のこと?」
 浮き出た血を、赤い舌を閃かせ酒井が嘗め取った。
 唇を京一の血で染めながら、ニンマリと酒井が笑う。
「…その通りだよ」
 赤く濡れた唇のまま、京一の胸に今度は歯を立てる。
 また血が流れる。そして当たり前のように酒井がそれを嘗めた。
「ずるいだろう?あんただけ、俺の本性暴いちゃって。だから、俺もあんたの本性を暴いてやろうかと思って」
 それだけだ、と涼しげな顔で「蛇」は笑った。
「でもまさか、俺もあんたの本性がこんなだとは思ってなかったけど…」
 そして嘲りの笑み。

「淫乱なメス豚」

「あいつらに犯されてるあんたは、正にその通りだったよ。アンアンよがって、このデカい尻を揺らしてチ○ポを強請ってたよな。口も、尻もチ○ポもいっぱいにして、あんた自分がどんな顔をしてたか分かってる?」
 ガンガンと頭が痛む。
 過ぎた事だ。
 忘れたい事だ。
 脳裏に赤い月が瞬く。
「なのに、岩城さんの求愛に答えてやらないなんて…あまりにも薄情すぎるとは思いませんか?かわいそうじゃないですか、岩城さん。こんなにチ○ポでかくして、あんたを欲しがってるのにさ」
 清次の舌が京一の内から消える。
 そして代わりに宛がわれたのは、熱くて、硬いものだ。
 咽喉が…鳴った。
「あんただって、欲しいんだろ?言わなくても分かるよ、その物欲しそうな顔。どうせ岩城さんのチ○ポも、物欲しそうに見てたんだろ?じゃなきゃ、この人がアンタみたいなゴツいのに惚れるわけないもんな」
 ぐい、と京一の内部を、清次が割り開く。
「あ…あぁ…」
 闇夜に、グチュという淫猥な音と、咽喉の奥から漏れる京一の呻きが響く。

「いい加減自覚しなよ。あんた…根っからのチ○ポ好きのメス豚なんだよ」

 忘れたはずの感覚が、京一の全身を支配する。




 仰向けにされていた体は、今は跨ぐようにうつぶせにされシーソーの金具に固定されている。
 パン、パンと尻を打つ音が聞こえる。
「ああ、ああ、京一ィ…すげぇ良い…良いよぅ…」
 うわ言のように京一の上にのしかかるように揺さぶりながら、清次が何度も何度も呟く。
 もう、何回目だろうか?
 何度も京一の内部に欲望を吐き出しながらも、清次は飽きることなく京一に何度も挑んでくる。
 中はもう清次の精液でぐちゃぐちゃで、蕾を覆うように生えた京一の毛には泡立った白い泡がびっしりとこびり付いている。
「う…うぐ…ぅう…」
 かき回すように腰を擦り付けるたびに、清次の固い毛が京一の尻を擦る。
 その感触に京一のペニスが震える。
 堪え性なく、自ら腰を揺らめかせ、硬いシーソーの板の上に自身のペニスを擦りつけ、板の上に漏れ出た白い線を残す。
 清次が腰を揺らめかせるたびに、シーソー全体を覆うように這わせた荒縄が京一を刺激する。
 脳髄が焼ききれそうな痛みを超えた刺激。
 だから、なのだと京一は自分に言い訳をする。
 痛みで、自分は頭がおかしくなっているのだと。
 かつて、あの時に思ったように。
「…ああ、本当のあんたが帰ってきた」
 京一の口に、体型に見合った細く長いペニスを突っ込み酒井が見下ろす。
「ザーメンで顔をドロドロにしたあんたは綺麗だよ」
 笑いながら、京一の顔に降り掛ける。
 頭が…おかしいんだ、自分は。
 ハァハァと犬のように呼吸を荒げ、酒井のペニスを物欲しげに見上げる。
「欲張りだなぁ。岩城さんだけじゃ物足りないんだ」
 舌を出し、それを欲する。
「俺、ね。残念ながらアンタと同じ、突っ込まれたい方だから、あんたには突っ込んであげれないけど、その分岩城さんが可愛がってくれるから…」
 いいでしょう?と耳に注ぎ込む。
 その言葉を証明するように、清次の腰の動きが激しくなる。
 シーソーの揺れごと激しく揺さぶられ、京一は縛られた体をのけぞり、快感を全身で享受した。
 赤い月が脳裏を支配する。
 赤い月は狂気を誘う。
 そして目の前に赤い月を体現したような男がいる。
 狂うには、十分すぎる理由だった。
「……て、くれ…」
「え?」
 荒縄の締め付けは心地好い。
 穿たれるアナルはすっかり性器と化し、清次の怒張をどこまでも飲み込む。
 ハァハァと犬のように喘ぎ、そしてサカリの付いたケモノのように腰を振る。
「もっと…突いて…」
 そうだ。
 あの時。
 京一は男たちに輪姦されながら…気持ち良かったのだ。
 男たちの熱い欲望に突かれ、モノのように扱われ愉悦を覚えた。
 与えられる刺激は全て快感に変わり、欲望に忠実なメスへと作り変えられた。
 清次に告白されたときに感じたあの悪寒。
 あれは不快だったからではない。
 ……あの時の悦楽を、体が思い出していたのだ。
「痛く…してくれ…もっと…もっと…」
 そんな自分を認めたくなかった。
 けれど。
 赤い月のせいだ。きっと。
 舌を出し、欲望を求める。
 ニンマリと赤く染まった三日月が笑う。
「…いい格好だ」
 口元に与えられる男の熱い欲望。
 それを喜び頬張った。
 赤い月は狂気を誘う。
 狂うには十分すぎるほどの…理由だった。






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