幸せな結末
act.2
泣き顔のままリビングにいる涼介に頭を下げた。
「すみません。もう終わりましたから、心配しなくていいです」
「心配って、あのな、藤原…」
涼介には珍しく、心底困ったような表情で、苛立たしげに頭を掻く。
「どう説明すればいいんだ、こんなの…。本当に、啓介のあの馬鹿が…」
「啓介さんを責めないで下さい。たぶん、全部俺が悪いんです」
「そうじゃない!」
バンっと、感情的に涼介がテーブルを叩く。
驚き、拓海が顔を上げると真剣な涼介の表情と出会った。
「…あのな、藤原。俺は啓介とはそれこそ生まれた時からの付き合いだ。だからあいつを良く分かっている。たぶん、あいつ以上にな」
わけが分からないながらも、拓海は黙って頷いた。
「だったら、俺を信用しろ。いいな」
「は、はぁ…」
「いいか。この先行ったところに、うちの病院があるのは知っているだろう?」
「はい」
「今から家を出ていくふりをして、そこに車を止めて戻って来い。たぶん、お前らの望む結末が見れるはずだから」
「は、はぁ…」
頷きながらも、まだ戸惑っている拓海に、涼介の眇めた視線が当てられる。
「…藤原。今から三十秒後には開始しろ」
「は、はい!」
Dのリーダーの声音で命令されると、無意識に丸まっていた背中が伸びて、従わなければならないような気がしてしまう。例え、それが理解不能な命令であったとしても。
拓海は言われた通り、病院に車を止めて歩いて高橋邸に戻ってきた。
「来たな」
涼介に静かに入るよう示され、そっとドアを閉めて物音がしないように上がり、「ついて来い」と言う指図のままに涼介の後を静かに付いていった。
涼介が向かった先は、さっき拓海が出てきたばかりの啓介の部屋。拓海は竦みあがるが、涼介に大丈夫だと頷かれて諦めた。
こうなったら、もうどうなろうと一緒だ。そんな覚悟が生まれる。
コンコン、とノックの後に、涼介が啓介の部屋のドアを開く。
「啓介、入るぞ」
涼介は指だけで、啓介から見えない位置に立っているよう拓海に指示する。
「…うっせぇよ、アニキ…入ってくんなよ…」
拓海の位置から、啓介の姿は見えない。声だけだ。だが今聞こえた声は、本当にあの啓介のものかと思えるほど、情けなく弱々しいものだった。
「藤原、出てったぞ。いいのか、追いかけなくて」
「…追いかけれるわけねぇじゃん…あいつ、俺のこと、もう嫌いだって言ったんだぜ」
…何だよ、今の声?今のセリフ??
「あいつ、泣いてたぞ?お前が泣かしたのか?」
「…知らねぇよ、そんなの…。何であいつが泣いたのか俺が知りてぇよ…」
…はぁ?何言ってんだ、あの人?何でも何も、全部あんたのせいだろ?
「どうせ嫉妬したお前が、あいつに酷いこと言ったんだろう?
昔からそうだよな。自分の好きな子に意地悪して、俺に泣きついてきたらもっと怒る。それでいつも嫌われてるんだから、いい加減学習しろよ」
…えっ?どう言うこと?
「…うっせぇよ…しょうがねぇだろ。あいつ、アニキの前だとすげぇ可愛い顔見せるのに、俺の前だといつも緊張した固い顔しか見せねぇんだぜ…本当はあいつ、俺よりもアニキが好きだったんだ…」
…バカじゃねぇか。そんなワケねぇじゃん。
「馬鹿か、お前は…好きな奴だから緊張するんじゃないか」
ハァっと涼介の吐く溜息の音が聞こえる。
…そうだよ。何で分からないんだよ。
「どっちにしろ、あいつはもう俺が嫌いなんだ…」
…マじかよ。鼻すすってないか、あの人?
「みっともねぇなぁ。藤原はお前のそんなところ、見たことないんだろうな」
…はい。全然。
「どうせなら、そんなところ全部晒して、藤原に好きだってことを伝えてやればいいのに」
「…こんなカッコ悪ぃとこ見せらんねぇよ…」
信じられないような言葉が、啓介の声で発せられていく。これは本当に現実なのかな?拓海はこっそり自分の頬を抓ってみた。…痛い。
「もう嫌われたんだから一緒だろ?」
「俺は藤原の中ではカッコいい男でいたいんだよ!」
…バカだ、あの人…本当に。
拓海の目が潤んでくる。さっきとは違う涙。
「フン!見栄張って、イイ男ぶって藤原を振り回すのもいいけどな。それであいつを泣かせたら意味がないだろうが」
「俺は藤原を振り回してなんてねぇよ!」
…してたよ、バカ。
「してるだろうが!…お前、本当に藤原の何を見てるんだ?あいつ、いつも寂しそうな顔ばかりしてたぜ。お前の背中ばかり見て、溜息ばかりついて諦めた顔して。そんな顔させたのは、お前のそっけない態度のせいだろうが!」
「…そ、そうなのか?」
…そうだよ、バカ。
「…お前、ちゃんと藤原に好きだって言った事が無いんだろう。あいつ、お前が同情で無理して付き合ってくれてるもんだと思ってたぞ?」
「ハァ?何だよ、それ!そんなわけねーじゃん!何言ってんだよ、あいつ…」
……何言ってんだはアンタだよ。
「藤原に告白される前から好きだったんだろ?俺に、本当は二部屋とる予定だった部屋を、一つにするよう言って協力するよう頼み込んだのは、お前だろ?」
「……う、だって…」
…嘘…マジ…???
「しょうがねぇだろ、好きだったんだし…。あいつ、俺が仲良くしようとしても、遠慮してばかりで、全然近寄ってこねぇし…一緒の部屋なら少しは仲良くなれるかなと思ったんだよ…べ、別にそんな変な事しようとか思ってなかったぞ!…あの時は…」
……本当かよ。…それにしては…。
「…そうだったな。浮かれまくった顔しやがって。お前はやけに上機嫌だし、藤原は疲れた顔してるし…あれでバトルに負けてたら、チーム全員に袋叩きに合ってるぜ」
「か、勝ったんだし、いいだろ!」
「そう言う問題じゃない!」
「………」
「全く…お前の浮かれたバカ面見て、藤原が幻滅しねぇかと期待したんだがな。あいつ、本当に天然だよな。みんな知ってるぜ?お前が藤原のことを好きなことなんてな。チームに誘う前から、あんな熱っぽい視線向けやがって。露骨なんだよ、お前は!」
…熱っぽい?え?何のこと?み、みんな知ってるって……ええっ!?
「そ、そんな事ねぇよ。俺、ちゃんと藤原の前だとカッコいい男やってるしよ…」
「そのお前いわくカッコいい男が原因で、藤原が泣いたんじゃないか?」
「え、そうなのか?!」
…そうなんだよ、バカ。
ハァ、と涼介の呆れ果てた溜息が聞こえる。
「…本当にバカだバカだと思ってたがな…ここまでバカだと思ってなかったぜ。それで、藤原には一回でもちゃんと好きだと言ってやったのか?」
「…言ってねぇ…」
「じゃ、今から言ってこい。追いかけろ」
「…だ、だってあいつ、俺のこと嫌いだって言ったんだぜ…もう無理だよ…」
「お前はたったそれぐらいの事で藤原を諦めるのか?そんな軽いものだったのか、お前の藤原への気持ちは?!」
「そんな事ねぇよ、すっげぇ好きだ!」
…どうしよう…すげぇ転げ回りたい気分。
「だったら、早く行け!いい加減にしないと俺が取るぞ!」
「それはダメだ!アニキにはちゃんと言ったろ!?藤原は俺のモンだから手ぇ出すなって!!」
「ああ。言った。約束もした。だがな、いい加減、お前みたいなバカに任せておいたら藤原が可哀想だからな。俺が貰ってやってもいいんだぜ?あいつも、俺のことを嫌いじゃないみたいだしな」
「ダメだ!藤原は俺のだ!」
「だったらさっさと行って来い!」
「行くよ!行ってやるさ!!」
ドン!と激しく立ち上がる音がして、バタバタと駆けてくる音がする。
…あ、マズい。隠れなきゃ…ん?でも隠れる必要ないのか?ど、どうしよう??
拓海が戸惑っている間に、足音はすぐ近くに聞こえ、ドン!と衝撃が起こって飛ばされた。
「痛っ!」
「いってぇ!!」
ドアの脇に蹲っていた拓海は、思い切り飛び出てきた啓介の足に蹴飛ばされる。
「何だよ、じゃま…って…」
弾かれ、呆然と廊下に座り込む拓海に、啓介の熱い視線が注がれる。
…そうだ、何で俺、気付かなかったんだろう?
この目は自分が嫌いだったからじゃない。いつも、いつも、拓海に向けて真っ直ぐに向けられた視線。
『俺を見ろ!』
そう語りかけるような彼の目に、拓海は思わずぼわっと顔を赤くする。
「…ふ、ふじ…わら…?」
つられたかのように、啓介の顔も赤く染まる。耳も、首筋まで赤い。
強い眼差しがうろうろと彷徨い、そして気弱になった目が拓海を見つめる。
「…お、お前、もしかして今の……」
こくん、と拓海は真っ赤な顔のまま頷いた。
途端、啓介が「うわ〜っ!」と叫びながら顔を手で覆い、蹲った。
「…何やってんだ、俺!すっげぇ情けねぇ…」
確かに、情けない。けれど…。
「あ、あの、啓介さ…」
「…ああ、もう、クソッ!こうなったらヤケだ!」
拓海の言葉も待たず、顔を覆っていた啓介が手を外し顔を上げる。
「俺は!お前が俺に惚れる前からずっと好きだった!だから、お前と仲良くなりたかったし、なのにそれにいつまで経っても気付かないお前にムカついて意地悪もした!」
真っ赤な顔の啓介。眼差しはギラギラと、チームに入る前の頃のように拓海を射る。
「お前に告られて、すっげぇ嬉しかった!けど…何か、俺ばっかり好きだと思ってたから、信じられなくて酷いこと言った。付き合えた後も、俺には笑わないくせに他の奴らには笑うのとか見てたらムカつくし、アニキには赤くなるし、イラついて、ムカついて、お前に優しくしてやれなかった!」
だけどその目が、急に弱くなる。小さな、叱られる前の子供のように。
「けど……俺は…」
…ああ、好きだな、と拓海は思った。
どんな事をされても、どんなに情けない顔を見ても、拓海の気持ちは変わらない。逆に、自分の知らない彼の姿に、ますます愛しさが募っていく。
「…俺は…お前が好きなんだ…」
いつも強気な、彼に似つかわしくない弱々しい声。だけど深く染み入る声だった。
目を伏せ、花がしおれるように徐々に小さくなっていった啓介は、ぺたりと床に座り込み、そして頭を深々と下げた。
「ごめん!」
…どうしてやろうか、この人。この大バカ。
でも…これだけあってもまだ彼を好きな、自分もきっと大バカだ。
拓海は土下座したまま動かない啓介に擦り寄り、そして言った。
「…啓介さん、顔上げて下さい」
恐々と啓介の頭が上がる。その瞬間に、
「…っ!!」
バシンと音を立てて啓介の顔を殴った。
「何でそのこともっと早く言わないんだよ!」
そして怒鳴った。
「俺、泣き損だよ!両思いなのに、何でこんな気持ち味合わされたんだよ!啓介さんのバカ!!」
「ふ、藤原?」
「俺は!鈍い方だし、はっきり言ってくれなきゃ分かんねーんだよ!俺は、あんたの気持ちなんて全然わかんねーから、遊ばれてんのかなとか思って、すぐに捨てられるんだろうなとか思って、悲しくて、辛くて、でも…でも、それでも好きで…好きで…少しでもいいから、あんたと一緒にいたかったから…だから我慢して……」
堪えようと思ったのに、目からボロボロ涙が溢れてくる。
鼻が詰まって、呼吸もしゃくりあげてきて苦しくなる。
「うぅ〜…啓介さんのバカ〜…」
啓介を睨みつけたまま泣き喚く。物心ついてから、こんなふうに声を上げて泣くのは久しぶりだ。
だけど。
「…ごめん、藤原」
また啓介が頭を下げる。けれど拓海はそんな事をして欲しいわけじゃない。またパシンと啓介の頭を叩き、「痛ぇ」と顔を上げた彼の体に手を伸ばし、しがみ付いた。
「…バカだけど…俺はあんたが好きなんだ」
しがみついた、啓介の体がビクリと震えた。
「…だから、離すなよ…追いかけて来いよ、バカ…」
背中に回された啓介の腕。最初はおそるおそるだったその力が、徐々にきつく、強いものになっていく。
「…バカでもいいか?」
こくん、と拓海は啓介の腕の中で頷いた。
「…いいっす…啓介さんなら何でも…」
ぎゅうぎゅうと啓介が拓海を抱きしめる。鼻先に感じる、啓介の髪と彼の匂い。こんなに近くにいれるなんて、ほんの少し前までは想像もしなかった。
「…もう離さねぇから」
「…絶対っすよ」
「マジ。約束する」
「…当てになんねぇ」
「信じろよ!」
「じゃ、信じさせろよ!」
「…どうやって?」
「どうやってって…そんなの自分で考えろよ」
「お前がして欲しいこと俺にちゃんと言わねぇから悪いんだろ!俺はアニキみたいに気が利く方じゃないんだ!」
「そんな事は知ってますよ!でも、そんなの俺のこと好きでも何でもない人に、言えるわけないじゃないですか!」
「好きだって言ったろ!」
「…さっき、やっとじゃないですか」
「それ言うならお前も、一回言ったきりで俺に好きとか全然言わなかったじゃねぇか!俺だってなぁ、お前のあれが間違いだったんじゃないかって、不安なんだよ!だから何回も言えよ!」
「…よくもヌケヌケとそんなこと言えますね。遊ばれてる相手に、何回も好き好き言えってんですか?」
「そうだよ」
「惨めじゃないっすか!」
「惨めじゃないだろ!俺はちゃんとお前が好きなんだから!」
「…はぁ?…本当にあんたって人は…」
「好きか?」
「…好きっすよ。あんたは?」
「好きに決まってんだろ?大を付けてやるぜ」
「…ああ。それはどうも」
「お前も大を付けろよ!」
「…大バカだとは思いますけど」
「ナマイキな口だな」
「じゃ、塞いで下さいよ」
「……マジ?」
「マジっすよ」
自分で言った言葉に照れて、そっぽを向く拓海の肩を啓介が掴む。
そろそろと近付いてきた緊張に奮える唇が、拓海の乾いた唇に触れ合うその瞬間…。啓介の咽喉がごくりと鳴る。拓海も、ピリピリとした緊張感に、伏せた瞼が痙攣する。
だが。
パチパチパチ…。
いきなり響いた拍手の音。
突然我に返り音の出所を見た二人は、そこに呆れた表情で拍手をする涼介の姿を見た。
「とても美しい光景だ。お兄ちゃんは感動だよ」
しかし言葉とは裏腹に、その声音は覚めている。
「…だがな。いい加減、俺がここにいる事を思い出せ。お前らにそこでラブシーンなんてやられようもんなら、俺には逃げ場所が無いんだよ」
啓介と拓海がいるのは啓介の部屋の前の廊下。彼らがいる所を通らねば、涼介の部屋にも、階下に降りることも適わない。
「悪いが、俺は啓介のあんな汚い部屋に居座りたくはない」
だからそこをどけ、と涼介の笑顔の、笑っていない目がそう言っている。
気まずそうに、二人は体を離し、廊下の隅に立たされた子供のように並んで座った。
その隣を、悠々と涼介が通り抜けていく。
そして擦れ違う際に、
「後は好きにしろ。あまり藤原を泣かすなよ」
啓介にそう言い、拓海には、
「藤原」
「は、はいっ!」
「俺が信じて良かっただろう?」
拓海の頭を子供にするように撫でて、作り物ではない、優しい微笑でそう言った。
『俺を信じろ。…たぶん、お前らの望む結末が見れるはずだから』
そう言った彼の言葉を拓海は思い出す。
頬を染め、笑みを浮かべながら拓海は頷いた。
「…はい」
だがその瞬間、ぐいっと体を引き寄せられ、気がつけば啓介の腕の中にいた。
耳元に響いたのは、苛立った啓介の尖った声音。
「藤原は俺のだからな…」
…もしかしなくても、啓介さん、あの時も涼介さんに嫉妬してたのかな?
それを考えると嬉しくなる。
さっきまで、拓海はとても悲しくて辛くて、苦しくて堪らなかった。
けれど今は…。
「お前な、嫉妬もいい加減にしないと、本当に嫌われるぞ?」
「し、しょうがねぇだろ、好きなんだし…」
とても嬉しくて、幸せで。
「…藤原。こんなヤツで本当にいいのか?また啓介はきっとお前を泣かすぞ?」
そう否定の言葉を投げながらも、拓海の反応を予測したように、悪戯っぽい表情の涼介に、拓海もまた、悪戯の共犯者となってにっこりと微笑んだ。
「はい。こんな人ですけど、俺、啓介さん好きですから」
抱きしめてくる啓介の体に、自分からも腕を絡めてしがみついた。
拓海の言葉に、驚き、ぽかんとしかた啓介の表情。
そんな顔も好きだと言ったら、啓介は今度はどんな表情を見せてくれるだろうか?
そう考えると楽しくて、そして嬉しくて幸せで。
拓海は、幸せすぎても苦しくて、堪らない気持ちになるんだなと、先ほどとは対極の幸福の中で思った。
それから以後、啓介の態度は変わった。
涼介いわく、
「今までそうだったが、単に藤原が気付いていなかっただけだろう?」
と言われてしまったが、拓海はそうでは無いと思っている。
相変わらず横暴で、我が侭で、些細なことで癇癪を起こしたりするが、今はもうそれは拓海を傷つけない。子供のような啓介のそんな部分にムカつきはするが、今はもうその理由が分かるから。
横暴なのは不安から。
気が付けば、彼がワガママを言う時はいつも拓海が誰かと喋っていたりする。そして拓海の腕をぐいっと引っ張って、
『お前は俺といればいいんだよ!』
と怒る。
それらはとても恥ずかしくて、「何、言ってんだよ」と膨れた顔をして見せるが、心の中では嬉しさが溢れている。
「啓介は今まで年上としか付き合った事が無いからな。年上の女なら許される態度も、年下の、ましてや藤原のような男にはそれがどう受け取られるか判ってない。途中から、藤原が笑わなくなった事に気付いたらしいが、その頃になるとどう付き合っていいかさらに判らなくなって混乱してたんだろう」
「そうなんですか?」
「ああ。言ったろう、子供だって。よく見てれば判る。あいつは単純だからな。だから、藤原の方が大人になって、これからもあいつを見捨てないでいてやってくれると嬉しい」
「…涼介さんは、俺たちのこと、反対じゃないんですか?」
「ああ。どちらかと言えば賛成だ」
「でも…男同士ですよ?」
「だが好きなんだろう?」
「…はい」
「じゃあそれは些細な事だ。俺は気にしない。
それに、今までのあいつの彼女を俺は知っているが…こう言っては何だが、あいつは女の趣味が悪い。自信過剰な礼儀知らずの馬鹿ばかりだ。
あいつは、そう言う女の表向きの外面に騙されて、裏の性格の悪さに全く気がつかない。将来、馬鹿な女に騙されて、ひどい目に合うのではないかと心配して、色々裏で世話を焼いたものだが…」
「…裏でって…もしかして…」
「それがどうやら藤原に惚れて、しかも本気のようで、俺は安心したよ。
藤原は鈍感なところはあるが、礼儀正しいし、しかも啓介より強い。ああ、これはメンタルに於いての強さだ。さらに言うなら、お前はとても俺好みだ」
「はぁ??」
「俺はな、ずっと可愛い妹が欲しかった。だがいるのは弟だけだ。まだそれが可愛げのある弟なら我慢のしようもあるが、これが可愛いとは言い難い。そして将来的にも、こいつが可愛い義妹を作る可能性も、女の趣味から窺えず、諦めていたところに、藤原、お前だ」
「…は、はぁ」
「お前は理想の俺の可愛い弟だ」
「………ありがとうございます…?」
「俺は新しい弟を歓迎する」
「………」
そう言い、にっこりと微笑む涼介の笑顔に晒されながら、拓海は救いを求めるように傍らの啓介を見た。
…それでいいのか??と。
仏頂面のまま、兄の言葉を聞いていた啓介は、仏頂面のまま頷いた。
「…歓迎されてるんだからいいんじゃねぇの」
「…まぁ、反対されても困りますけど」
「じゃ、いいじゃねぇか」
ぶすっとふてくされた顔の啓介が、内心、兄に認められて喜んでいるのが拓海にはもう分かる。
涼介の言うとおり、確かに啓介の内面は分かりやすい。隠しているようで、それは良く見れば明らかだ。
けれど、これからも些細なことからすれ違うことも多いだろう。以前のように。
だから、
「俺も努力しますけど、啓介さんも努力して下さいね」
「ああ?俺が、どこを?」
「ちゃんと気持ちを言葉にして下さい。俺、鈍いから言われないと分からないことあるし」
「…面倒くせぇな」
口調とは裏腹に、拓海のその言葉を噛み締めるように顔が引き締まり、繋いだ指先に力がこもる。
これからも色々不安になることも、喧嘩もきっと多くするだろう。
だけど。
それらが過ぎた後、残るのはきっと幸せな結末だ。
拓海はうっすら微笑み、そして握る手のひらに啓介と同じように力を込めた。
2006.2.1
END