頑張れ啓介くん!

act.2


 高橋啓介くんは去年成人式を過ぎた21歳の男の子。
 もちろん若い成人男子ですから、セーヨクと言うのはあります。
 そんな啓介くんのセーヨクの中心となっているのは、啓介くんが泣き落としで恋人になってもらった藤原拓海ちゃんです。
 拓海ちゃんは今年高校を卒業したばかりの、啓介くんより3歳年下の18歳。
 交際してもう半年。
 普通の恋人同士なら、若気の至りで今頃失敗して出来ちゃった婚をしていてもおかしくないぐらいですが、半年経った今も啓介くんと拓海ちゃんの仲は清らかなままです。
 と言うのも、拓海ちゃんは啓介くんと同じ男の子。
 しかも拓海ちゃんは、そのかわいらしい見かけとは正反対に、ちょっと喧嘩っぱやい男の子なのです。
 ちょっと拓海ちゃんの気に障ることをすれば、容赦なく固めた拳が飛んできます。啓介くんも何度殴られたことか。しかも拓海ちゃんは決して啓介くんの顔は殴らないのです。きっと啓介くんの顔が好きなんでしょうね。でもその分、ボディに喰らう拳は、いつも啓介くんに血色の小便を流させました。
 ですから、あの時もやられたのです。
 付き合って1ヵ月のときに、啓介くんは拓海ちゃんにキスをしました。
 唇に触れるだけの、軽いキスでした。
 でもその後が大変です。
 思い切り胃に激しい拳を貰い、啓介くんは黄色い胃液を履きました。こんなところまで黄色つながり…、そう溢れ出た胃液を見ながら、そう啓介くんは切なくなったそうです。
 それから、啓介くんは拓海ちゃんに手を出せません。
 拓海ちゃんのパンチは、さすがハチロクの重ステを操る腕です。重くて固いのです。
 啓介くんは拓海ちゃんに触りたくて触りたくて仕方ないのですが、でもあのパンチが来るかも…と思うと条件反射でビクついてしまうのです。
 だから啓介くんたちは半年も経った今でも手を繋ぐのがやっとの清らかさんたちなのでした。
 もちろん拓海ちゃんと手を繋ぐ関係も楽しいです。にっこり笑えば、拓海ちゃんもちょっと照れながらにっこり笑い返してくれるのです。
 ですが啓介くんも、それなりに経験を重ねた21歳の男の子。セーヨクが暴走してもおかしくはない年なのです。
 初々しい中学生のような交際をしながら、頭の中身は18歳未満は閲覧禁止の妄想魔人です。
 そしてそんな啓介くんに、救いの手を伸ばしたのは何と、啓介くんのお兄さんの涼介さんでした。
「お前は気付いてないだろうが、毎晩毎晩、お前の部屋から奇妙な叫び声が聞こえる。気になり覗いてみれば、丸まったシーツを相手に、腰を押し付け揺するお前がいた。
 自慰にしてはあまりにも大胆だし、それに『タクミィ…』などと呂律も怪しい。よく観察をしてみたら、お前はどうやら夢の中で見ている妄想をそのまま、眠りながら現実にしているらしい。
 これが他人なら、発情期のサルめと馬鹿にして終わりだが、さすがに実の弟がこんな空しい行為を延々と続けるのは兄としてあまりにも哀れで情けない。よって、俺はお前に協力してやろう」
 涼介さんは性格はあまりよろしくはありませんが、啓介くんと違って頭がとてもよく、ずるがしこさとふてぶてしさは天下一品。G県一です。
 なのでそんな涼介さんが協力してくれると聞いて、啓介くんは嬉しくなりました。
 そして啓介くんは拓海ちゃんとHできない理由を涼介さんに説明しました。
 ふんふん、と涼介さんは啓介くんの話を親身に聞きながら、お腹の中でこっそり「フフフ…」と笑っていました。
 そして悩める弟に、外面はとても宜しいのですが、内面が恐ろしいお兄さんは、啓介くんにこう言いました。
「分かった。啓介、俺に任せろ」
 啓介くんは信用してはいけない人を信用してしまいました。
「頼むぜ、アニキ!」
 そして啓介くんは頼んではいけない人にお願いをしてしまいました。
 結果。
 涼介さんが「任せろ」と言った翌日です。
 啓介くんはいきなり拉致されてしまいました。
 いきなり鳩尾パンチです。その固い拳から、啓介くんは薄れる意識の中で、このパンチは拓海だな…と思いました。
 そして次に気付いたのは、ハチロクのリアシートにいる自分でした。
 しかも何と啓介くん。両腕両足、縛られています。身動きもできず、さらに猿轡。
 いったい何が起こっているのでしょうか?
 啓介くんはびっくりしながらも、運転席にいるだろう拓海くんをバックミラー越しに窺いました。
 そしてチラリと見えた恋人の顔は、見紛うことない、大魔神の顔でした。
 どうやら、いつの間にか啓介くんは拓海ちゃんの逆鱗に触れてしまったようです。
 啓介くんは本気で、このまま崖下にでも転がされるのではないかと、心の中でお念仏を唱えていました。
 けれど予想に反し、ハチロクは怪しげなホテルの駐車場に入り込んでいきます。
 啓介くんはまたびっくり。
 もしかして…といけない妄想に欲望が暴走しそうになりました。
 けれど、事態がそんなに甘いもののはずがありません。世の中…いえいえ、高橋涼介と言うお兄さんはとても弟には厳しい人なのです。
 たとえ平穏でも、波風にして弟に送り返すぐらいへっちゃらです。良心のカケラも痛みません。
 簀巻きのままの啓介さんは、拓海ちゃんの肩に担がれ、荷物よろしくホテルの一室に運ばれます。
 そしてとてもレトロな丸型ベッドの上にボスンと置かれ、あやしげなピンクのライトの下、暴れだしたい股間とは裏腹に、とても恐ろしい形相の拓海ちゃんが立ちはだかっていたのです。
「涼介さんに聞きましたよ」
 拓海ちゃんは言いました。その言葉に、涼介さんを信じている啓介くんは、「アニキが何か言ってくれたおかげで、拓海が俺をホテルに連れ込んだんだ!」と嬉しくなりました。拓海ちゃんの形相に萎えていた股間も臨戦態勢です。
 けれどそれはまたすぐに撓りと萎れました。
「あんた、毎晩毎晩部屋に誰か連れ込んで、Hしてるんですって?」
「む?!むぐぅぅ、むがが…」
 反論したくても猿轡で喋れません。必死に首を横に振りますが、拓海ちゃんは凶悪に笑うだけです。
「ずいぶん激しいらしいじゃないですか。涼介さん、言ってましたよ。うるさくて勉強が出来やしない、って」
 啓介くんは涼介さんに対し、心の中で罵詈雑言です。この瞬間、啓介くんはやっと気付いたのでした。「アニキにしてやられた!」のだと。
 けれどもう遅いのです。
 策略は進行され、事態は進んでいるのです。
「あんた…俺のこと好きだなんて、ウソでしょう?」
「むがっ!むがう〜!!(ちがっ!違う!!)」
「いつまで経っても手ェ出してこねぇし…」
「…むがぅ、むがぐぐぐぅ…(だって、殴るし…)」
「そりゃ、俺も最初キスされたときに、殴ったのは悪いと思ってますよ。でも、恥ずかしかったし…つい、出ちまったんだよ。分れよ、そんぐらい」
「…む、むが〜(や、ちょい分かんねぇよ、それ)」
「その後、俺に全然手ェ出してこないってことは、もう俺に触りたくねぇってことだろ?」
「むが〜!むぐぅうぅぅ!!(ちげーって。触りてぇんだって!!)」
「でも、いまさら無かったことになんて…もう、出来ねぇし…」
「…む、むぐぐぅあ?(ふ、藤原?)」
 ちょっと悲しげに俯いてしまった拓海ちゃん。啓介くんは心配になりました。
 そしてそんな不安そうな拓海ちゃんを慰めてあげたい。そしてそれは杞憂なのだと教えてあげたい。
 啓介くんは思いました。
『ここでヤらなきゃ、男じゃねぇ!』
 啓介くんは頑張りました。
 拓海ちゃんのパンチに耐えるため、密かにジム通いして肉体改造の上、筋力増強をした成果を今発揮するときなのです。
「む、むぐぅぅぅ……」
「…啓介さん?」
 いきなり力み始めた啓介くん。拓海ちゃんも悲しみを忘れ、思わず不思議そうに見返します。
「むぅぅ…むぐわっ!!!」
 そして奇跡は起こりました。
 ブチィィ…と縄が切れる音がして、啓介くんを縛る腕のロープが切れたのです。
 そして啓介くんは続いて足のロープも絶ち切りました。
「け、啓介さん??!」
 拓海ちゃんもまさか啓介くんがそこまでするとは思っていなかったのでしょう。びっくりした顔のまま硬直してしまいました。
 その隙に、啓介くんは口を塞いでいた猿轡も剥ぎ取りました。
「ちげーって、藤原!!」
 そしてまだ痺れの残る足と手で硬直する拓海ちゃんを抱きしめました。
「俺は他の誰かなんて連れ込んでない!毎晩ヤってたのは、夢の中のお前だ!!」
「ハァ?嘘つけよ」
「マジだって。夢の中で、お前とHする夢ばっか見てさぁ。そしたら俺、寝ながらその通りに動いてるみたいでで、アニキに気持ち悪いって言われたんだぜ?アニキ、たぶん俺のそん時の声がうるさくてレポートが進まなかったもんだから、お前に嘘吹き込んで俺に仕返ししてんだよ!」
 啓介くんにしては冴えてます。必死な人間というものは、未知の領域にまで脳を活性させるものなのでしょうか?いわば、火事場の馬鹿力と言うものなのでしょう。
「だから、藤原…」
「啓介さん?」
 啓介くんは拓海ちゃんを抱きしめる腕から力を抜きました。そして後ろに一歩下がり、決意の表情で拓海ちゃんを見つめます。
 そして、出ました!伝家の宝刀!!
「お願いですから…ヤらせて下さい!!」
 啓介くんは、安っぽいカーペットの上に座り込み、手を突き土下座をしました。
 啓介くんには土下座が似合います。
 そしてそんな啓介くんに、拓海ちゃんはクスリと笑いました。
 そうなのです。拓海ちゃんのようなバイオレンスな相手に、カッコつけて押せ押せで行ってはいけないのです。
 泣き落としで同情を買い、そして「させて」いただくのが正しいのです。
 啓介くんは本能で、そのことを察したのでしょうか?土下座する啓介くんに、拓海ちゃんもしゃがみます。
 そして言いました。
「顔、上げてください、啓介さん」
 クスクス笑う可愛い顔の拓海ちゃんに、啓介くんの股間は爆発寸前です。
「あんた、本当にカッコいいのに、何でそんなことばかりするんですか?みっともないですよ」
 悪態を吐きながらも、拓海ちゃんがそんな啓介くんに喜んでいるのは明白です。
 だからとどめの一押し。
 啓介くんは頑張りました。
「藤原のこと、すっげー好きだから、何でも平気だぜ」
 土下座なのに男前。カッコいい言葉にさすがの拓海ちゃんも陥落です。
 二人はレトロなラブホテルで目くるめく愛の交歓を致しました。
 とても幸せな喜びの時間。
 最初は色々痛がっていた拓海ちゃんも、最後は大喜びでブレイクです。
 もちろん啓介くんも大満足。妄想のあるだけを拓海ちゃんのカラダにぶつけました…が。
 そんな啓介くんにも予想外のことがあったのです。
 それは、拓海ちゃんの愛情表現が激しすぎたことでした。
「ああっ!」
 ドスッ…。
「…ぐふぅ…」
「んぅっ!」
 ギリギリ…。
「…痛ってぇ!」
「ひぁぁ!」
 ゴキボキ…。
「…ゴ、ゴフゴフ…」
 愛の交歓が終わった後の拓海ちゃんは満足してツヤツヤ。
 悩ましい裸体を晒しながら、
「ねぇ、啓介さん、またしませんか?」
 なんて誘惑をしてくるのですが、肝心の啓介くんは半死半生です。
 あまりにも激しい愛情表現に、啓介くんの体は傷だらけの青痣だらけです。
 啓介くんは拓海ちゃんが大好きです。
 ですが啓介くんも生身の普通の人間。鉄板の体を持っているわけではないのです。
 今度アレやられたら、死ぬかも…。
 そんな思いに、啓介くんは返事を躊躇ってしまいました。
「…啓介さん、一回やったらもういいんだ。やっぱり俺のことなんて…」
 啓介くんは昨夜、頑張って一回どころではない回数をやったはずですが、どうも拓海ちゃんの頭の中では一晩を一回と数えてしまうようです。徹夜で三日間くらいぶっ通しでしなければ、どうやら拓海ちゃんの中では「抜かずの三発」などの認識はないようです。
「そ、そんな事ねぇよ!」
 と啓介くんは、ゴキボキ言う体を起こし、拓海ちゃんを抱きしめました。
「…啓介さん…嬉しい…ねぇ、早く…」
 頑張れ、啓介くん!
 当サイトは、涼介さんの陰謀にも負けず、体の痛みを押し殺し恋人のために絶倫を目指す啓介くんをこれからも応援します。



2006.8.4

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