頑張れ啓介くん!

act.1


 高橋啓介くんは、ちょっとお金持ちのおうちに生まれた21歳の男の子。
 顔も端整で運動神経もいいけど、勉強だけが泣き所。
 でもそのさっぱりとした気質と侠気で同性からも異性からも大人気。
 そんな啓介くんも成人式を過ぎた立派な成人男子です。
 幼稚園のエリカ先生から始まって、小学校の頃のミサキちゃん。中学校の頃のリエちゃん。高校生の頃のアイちゃんに続いて、4回目の恋をしました。
 その相手の名前は藤原拓海ちゃん。
 啓介くんよりも三歳年下のまだ高校生です。
 でもこの恋は今までの恋と違う点が一つありました。
 それは拓海ちゃんが啓介くんと同じ男の子だと言うことです。
「どうしよう、俺、ホモになっちまったかのなぁ?」
 啓介くんは悩みました。
 ですが夢の中で啓介くんは拓海ちゃんとHをしてる夢を見ました。
 朝、起きて、元気になりすぎてしまった分身を確認しながら啓介くんは思いました。
「イける!!」
 啓介くんは拓海ちゃんが男の子でも大丈夫だ。そう確信したのでした。
 次の日から、啓介くんは拓海ちゃんに恋のアピールをしました。
 拓海ちゃんは早朝、おうちのお手伝いで豆腐の配達をしているのですが、早起きの苦手な啓介くんが、早起きをして待ち伏せをしたり、色々話しかけたりするのですが、どうも拓海ちゃんの反応はイマイチです。
 あげく出てきた言葉は、
「…啓介さんって…ヒマなんすか?」
 でした。
 啓介くんは平気なふりで強がっていましたが、その帰り道、啓介くんは愛車の真っ黄色のFDの中で悲しくて大泣きをしました。
『もう藤原なんて好きじゃない』
 そう思うのですが、でも結局それは嘘なのです。やっぱり啓介くんは拓海ちゃんが好きで好きで仕方がないのです。
 なので啓介くんは頑張りました。
 よく晴れた日の午後のことです。
 啓介くんは学校帰りの拓海ちゃんを待ち伏せしました。
 校門の前で待つ啓介くんと黄色いFDを見た瞬間、拓海ちゃんはとてもイヤそうな顔をしました。
 啓介くんはそれにズキリと胸が痛みましたが、でも見ないふりで明るく拓海ちゃんに笑いかけました。
「なんスか?バトルの申し込みとかだったら、俺、今テスト中だし忙しいんスけど…」
 その冷たい言葉に、啓介くんの決意は揺らぎそうになります。
 ですが啓介くんはへこたれませんでした。
「…藤原」
「ハァ」
「あのさ、実は…」
「ハァ」
「その…、いきなりで驚くかもしんねーけど…」
「……ハァ?」
 ごくり。啓介くんは唾を飲み込みます。
「その…」
 ですが啓介くんが勇気を振り絞る前に、ブチリと何かが切れた音がしました。
「うざってぇなぁ!!」
 見れば、目の前のいつも眠そうなぽやんとした拓海ちゃんの目つきがとんがっています。そして足は激しく貧乏揺すり。啓介くんはギョッとしてしまいました。
「はっきりしろよ、はっきり!いったいアンタ、何が言いてぇんだよ!!」
「は?あ、いや、その…」
「アア?何だって?もっとデケー声で言えよ!」
「お、おおお俺はその、藤原が…」
「オレが何だよ」
「……好きです」
 啓介くんは自分の恋は終わったと思いました。
 この後、拓海ちゃんの握り締められた拳の洗礼を受けるのだろうと、固く目を瞑りましたが、いつまで経ってもパンチはきません。
『バーカ、立てよ』
 の言葉もありません。
 おそるおそる、啓介くんは目を開けてみました。
 うっすら開けた細い視界に映ったのは、拓海ちゃん。
 ですがさっきまでのバイオレンスな拓海ちゃんではありません。
 真っ赤に頬から目元までを染めて、恥ずかしそうに視線を彷徨わせる乙女な拓海ちゃんです。
 啓介くんはびっくりしてしまいました。
「あ、あんた…何言って…」
 チラチラとこちらを窺う視線には、さっきまで無かった恋の色が見えているような気がしました。
 啓介くんはいつもバトルの時など、全て頭でコントロールするお兄さんの涼介さんと違い、いつも本能で行動するいわば火の玉ボーイです。
 だからこのときも、深く考えるよりも先に行動してしまいました。
「俺は藤原が好きだ」
 啓介くんはアスファルトの地べたに座り、手をついてそして土下座をしました。
「だから付き合ってください!!」
 弟気質から生まれた啓介くんの必殺技。「泣き落とし」です。
 もうお兄さんの涼介さんには絶対に通用しない手ではありますが、初めて使った拓海ちゃんには有効だったようです。
「ちょ、止めろよ!…わ、分かった、分かったから」
 啓介くんが顔を上げると、真っ赤な顔の拓海ちゃんが拗ねた顔でそっぽを向きます。
 嬉しさににっこり笑えば、視線を合わせていないはずの拓海ちゃんの頬の色の赤みがさらに増します。
「本当か?!」
「…だ、だからいい加減立って下さいって!あんた、せっかくカッコいいのに、何でそんなみっともないこと…」
 どうやら拓海ちゃんの目には、啓介くんはカッコよく映っているみたいです。良かったね、啓介くん!
「なぁ、本当にホントーに付き合ってくれんの?」
「…しょ、しょうがないっスから」
「なぁ、藤原」
「…なんスか?」
 啓介くんは頑張りやさんだし、顔も男前だし運動神経も抜群です。
 人柄もよく同性異性に大人気な彼ですが、唯一の欠点が「単純」だということです。
 だからこのときもやってしまいました。
「俺のこと、好きか?」
 そう聞いた次の瞬間、啓介くんの内臓に衝撃が走りました。きっと翌朝のトイレで、啓介くんは血色の尿が出ることでしょう。
「…がはっ…!」
 脂汗を流して、啓介くんは蹲ります。そして見上げた拓海ちゃんの顔は、もう恥ずかしがりの乙女なものではありませんでした。
 例えるなら大魔神。それが降臨したかのようです。
「…フザけてんじゃねぇよ、アンタ…」
 その顔を見た瞬間、啓介くんは自分の言葉を後悔しました。また、土下座して謝らなければならないのかと、ちょっと悲しくなりました。
 けれど、
「…まずは…友達からでいいっスよね」
 そう言いながら、また照れた顔でそっぽを向いた拓海ちゃんに、啓介くんの痛むお腹がスゥっと楽になりました。
 そして蹲りながら、啓介は笑顔で拓海ちゃんに手を差し出しました。
「じゃ、オトモダチから宜しく」
 そう言うと、拓海ちゃんも拗ねた顔のままその手を握り締めました。
 前途多難な啓介くんの恋。
 ですが啓介くんの頑張りで、今第一歩を踏み出せたようです。
 頑張れ、啓介くん!
 当サイトは、お兄さんの涼介さんの不興を買わない限り、頑張る啓介くんを応援します。



2006.8.4

1