温泉へ行こう!
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正直、ヤりたくないわけではない。
と言うか、涼介を見ていると欲情する自分はいるのだ。
ああ、あの唇でキスされてぇなぁ、とか、あの器用そうな指で触って欲しいなぁとか、色んな事を思うし、それで性的欲求を覚え、欲望を自分で解消したことも多々ある。
夢は見ていた。
女の子のように、涼介に愛される夢。
けれど、それが現実になった時、気になるのは妄想と現実の差だ。
浴衣に着替えると、部屋の中に設えてあるユニットバスに篭り、服を脱いだ拓海は自分の姿に現実を知る。
鏡に映った自分の身体は、とてもじゃないが魅力的とは言い難い。
運送業のため、筋肉が付いてゴツゴツしているし、肌は衣服の形に土方焼けしている。
おまけに、蚊に刺された跡や、汗疹の跡など、ちょっとどころじゃなく、綺麗とはとてもじゃないが言い難い。
…こんなんで涼介さん勃つかな…幻滅とか言わないかな…。
唯一の救いは、日焼けしてない真っ白な胸だろう。先端の胸の尖りは、触れることもないため、綺麗なピンク色をしている。
うん。ここなら…ちょっと可愛いかも。
そっと自分で触れてみる。
……小せぇ。こんな小せぇの、触っても楽しくねぇ…。
女の人のように柔らかくもなく、弄りやすい大きさでもない。
……俺、イイとこなしじゃん。
ショックで、パンツ一枚のままでグルグル悩んでいると、ユニットバスのドアをトントンと叩く音がした。
「藤原。まだか?」
その声に、慌てて拓海は浴衣を着込み、ドアを開ける。
「す、すみません…その、着方わかんなくって…」
帯を締めながらユニットバスから出ると、涼介がそんな拓海の姿にフッと微笑んだ。
「そうだと思ったよ。今も、ほら。左前になってる」
「左前?」
何のこと?と聞くよりも先に、涼介の腕が動いて、慌てて締めた拓海の帯を解いた。
「わぁ!」
そしてガバっと前を開かれ、慌てるよりも硬直してしまう。
「袷が左前だと、亡くなった人の着方だ。右を先に合わせて、左が手前に来るんだ」
手馴れた仕草で浴衣を着せ、そして帯まで締める。
ひゃぁ。ひゃー!
もう拓海は、ぱくぱくと口を開け閉めすることしか出来ない。
「お前…思ったよりも腰に肉がしっかり付いてるな。…良いことだ。細いと、腰にどうしても負担が来るからな」
よくわかんないけど褒められた!
「あ、あああ、ありがとうございます」
「それに…」
そして涼介が、眉を顰め、淫靡な仕草で笑う。
「…乳首も弄り甲斐のある色をしている。…可愛いな」
「あ、あああ、ありが……ふぇ?」
何か、今すごいこと言わなかったか、この人?
思わず、中腰で拓海の帯を締める涼介を上から見下ろすように凝視すると、にっこりと涼介が微笑んだ。
そして、ぽかんと開いたままの唇に、むちゅ、と温かいものが触れてくる。
すぐ目の前に涼介の顔がある。
口に触れているのは、間違いなく涼介の唇だろう。
啄ばむように何度も触れ、そして拓海の下唇を挟み込むように吸い付かれた。
ドッ!ドッ!ドッ!
激しく鳴っている音、それは自分の心臓の音だ。
キスだけでも翻弄されていると言うのに、涼介の手が浴衣の袷から入り込み、豆粒のような小さな拓海の乳首に触れる。
「ひゃぁ!」
ゾクゾクと背筋に電流のようなものが走り、よろめいたところに涼介のもう片方の手が腰を支え、そしてラインを確かめるように撫でた。
ゆったりと動く手が、腰からどんどん臀部へと回り、狭間の部分を意味ありげに触れる。
もう、ダメ。俺、ダメ。…限界。
ズルズルと崩れ落ちるように畳の上に沈みこむと、見下ろしていたはずの涼介が、今は拓海を見下ろしている。
「こう言う意味で俺は藤原が好きだから。…覚悟しておくように」
まるでDで課題を与えるかのような冷静な口調で、拓海に言い、何事も無かったように手を離し、
「お茶でも飲むか」
などと呑気に急須にお茶を入れ始める。
…この人、ずりぃ。大人って…ずりぃ…。
何だか悔しくて、ズリズリと立たない腰で這いながら、拓海はテーブルの上の茶菓子を涼介の分まで平らげた。
涼介さんなんてお茶だけ飲んでればいいんだ!
だがそんなささやかな拓海の反抗も、涼介を楽しませるだけでしかなかったのだけれど。