結婚準備


 兄の結婚が決まった。
 相手はもちろん、俺のライバルであり、何もかもが規格外の存在。
 秋名のハチロクこと藤原拓海だ。
 あ?
 性別?
 藤原は男じゃねぇのかって?
 それが驚くことに、藤原の性別は女だった。
 何度かおかしいなと思う事は、正直あった。
 けれど最初から性別を知っていた兄による完璧な偽装と隠蔽により、チームの皆は全然気づいていなかった。
 いや、一人だけハチロクメカニックの松本は知っていたようだが、あの兄サイドで藤原贔屓の男が、藤原に不利になるような情報を漏らすはずも無い。
 バラされたのは、プロジェクトDの終焉と共にだった。
 おまけに。
「ああ、そうだ。俺たち結婚するから」
 実は藤原は女だったんだ。えー!!と驚愕する俺たちに、しれっとさらに仰天の一言を満面の笑みで告げた。
 その隣で頬を染める藤原は確かに可愛かった。言われてみれば、男にしちゃぁ可愛い。可愛すぎた。
 あのタッパに騙された・・・。胸ねぇし尻も小せぇし、男体型だよな。
 けど、腰のラインはエロい。いや・・・こんな事考えただけで兄に殺されそうだ。そうか・・・俺が気づかなかったのは、本能的に兄の殺気を感じ取り、藤原に注視することを避けていたためか・・・。
 何となく謎も解けたところで話題を戻す。
 兄が結婚する。
 もちろん相手は藤原拓海。
 うちの親はだいぶ前から紹介されていたらしく、家族で知らなかったのは俺だけだった。
 一般的に、うちは金持ちだし、由緒正しい家柄っつーのもあるんで、敷居が高いように思えるが、結構うちの親は単純だ。
 学歴だの家柄だのに左右されない。要はそいつがイイ奴かってことが重要で、父子家庭のしがない豆腐屋の娘である藤原も速攻気に入ったらしい。
 ・・・何となく想像はつく。
 藤原って奴は、うちの血筋の人間の庇護欲をなんかそそる・・・。
 めっちゃ構いたいもんな〜。俺も。兄が恐いからやれないけど。
 ま。そんなわけで、兄の結婚はあっさり決まったわけだ。
 そんで今は、盛大にやるって言う話の結婚式の打ち合わせとやらで、二人とも忙しい。
 うちで顔を合わせれば、いつも何かパンフレットみたいのを広げて相談している。
 んでもって、そんな二人は俺の目に毒なほど仲が良いのは・・・言うまでもないか。
 けれどそんな二人が何故か今日は言い合いをしていた。
「絶対イヤです!」
「・・・ダメか」
「イーヤーでーすー!」
 強行に何かを嫌がる藤原に、しょんぼりとする兄。
 珍しい光景だ。
 いつもは、兄が率先して決めて「涼介さんにお任せします」ってぽけーっとしてるのが藤原なのにな。
「じゃあ第二案は・・・」
「それもイヤ!」
 本当に珍しい光景だ。
 あまりの珍しさに、思わず好奇心が勝る。
「・・・何モメてんだ?」
 いつもはちょっかいなんてかけない。
 たいていケガをするからだ・・・心の。
 けど、俺って迂闊なんだよなぁ。・・・わかっちゃいるんだけどさぁ。
 俺の質問に、藤原が難しい顔のままで答えてくれた。
「披露宴のテーブル名です」
「は?」
「招待客のテーブルに名前を付けれるサービスがあるんだ」
「・・・ああ」
 披露宴の招待客席に、ネーミングできるってやつか。
「それで何でモメてんだよ」
「涼介さんのセンスが嫌なんです!」
 ・・・アニキのセンスを今更言うか。
「だって、テーブル名に心臓とか、腎臓とか、イヤです!」
「・・・は?」
「テーブル名を、どうせなら臓器名にしようかと思ったんだ。配置も、人体内の臓器の配置図にすれば分かりやすいだろう?」
 ・・・わかりやすく、ねぇよ。
 っつーか、肝臓テーブルで、フォアグラ食べたり、酒飲むのは抵抗アリマス・・・。
「そ、それはちょっとアニキがどうかと思うなぁ。アニキみたく、皆が医療関係なわけじゃねぇし」
「そうですよ!俺、そんなの昔の生物の授業みたいでイヤです!」
 ・・・そっちかよ!それが嫌な理由かよ!!
 せめて不気味だから嫌とか・・・言うわけねぇよな。藤原だもんな。あのアニキの嫁になるやつだもんな。
「で、第二案として、拓海の家の家業である豆腐の名前にしようかと思ったんだが・・・」
 それはテーブルに、「厚揚げ」だの、「木綿」だの、「絹ごし」だのが付くわけですか・・・。
 正直、「がんもどき」テーブルは座りたくねぇな・・・。何かの罰だよな・・・。
「だからそれも嫌ですって!テーブルの数と、うちで売ってる品数が違いすぎますもん!テーブル数のが多いじゃないですか!」
 ・・・そうか。お前が嫌がる理由はそれだけか。
 ネーミングセンスとか、関係ねぇんだろうな・・・。純粋に数が合わないからってだけなんだろうな・・・。
「じゃあ、どうすれば良いと思う?拓海は良い案があるのか?」
 とうとう兄が音を上げた。
「え?!」
 それに藤原が戸惑った。
 そして困った藤原は、殺人的なパスを俺によこした。
「啓介さん、考えてください」
 ・・・俺かよ。何で俺?っつーか、俺?!まじ俺かよ・・・。これで気に食わなかったら、双方から袋叩きに合うんだろうなぁ・・・心の。
 じっと、エキセントリックカップルに見つめられ、追い詰められた俺は引き攣りながら、二人に共通してるもんで、思い出に残るものを考える。
 そして、
「あ〜・・・車の名前とかでいいんじゃね?ほら、アニキのFCとかさ、藤原のハチロクとかさ」
 うわ、俺って適当。
 言った瞬間、却下を考えたが、意外とこの案は二人には妙案だったようだ。
「いいな、それ」
「いいですね、それ」
 ニコニコ。笑顔になった二人に、俺はほっとする。
 そしてこれ以上いると火傷する可能性を感じ、俺は「じゃあ、俺出かけるなー」と逃げた。
 どうもテーブル名は車名で統一されるらしい。
 俺は予想する。
 きっと、俺が座るテーブルの名前は「GTR」だろう。そんな気がした。
 願わくば、何故か呼ばれるっつー、須藤京一と、北条兄弟の座る席が「FD3S」である事を祈るだけだ。
 兄の結婚式まではあとわずか。
 波乱の予感に俺は身震いをした。




2012.6.15


1