オレのライバルでもある藤原拓海はオレのアニキである高橋涼介に憧れている。
あいつは隠しているつもりらしいが、毎度アニキの顔を見て頬を真っ赤にしてれば、それは一目瞭然ってモンだ。
まァ、アニキは弟のオレから見ても自慢のアニキだ。ツラは…自分とそう変わりはないけれど、頭が良くって、時におっかないけど頼れるスゲェ人だ。
だからアイツが憧れる理由も分かる。すげぇ分かる。
けど。
「啓介さんって涼介さんの弟なのに、あんまり似てないんですね《
イチイチ比べられるのは腹が立つ。
「あア?《
「涼介さんは完璧なのに、啓介さんはちょっと砕けてますよね《
「砕けてる、だぁ?《
まさか、ツラとか言わねぇよな。
「だって、啓介さん昔ヤンチャだったじゃないですか《
否定はしない。っつーか、出来ない。
「チラッと聞いただけですけど、警察沙汰になった事もいっぱいあるんでしょう?《
…あー…否定は…しない。
「女の人もいっぱい弄んで、そのうち刺されるんじゃないか心配してたって《
ちょっと待て。
「…オイ。その情報源は誰だ?《
キョトンとアイツが首を傾げる。
「誰って…涼介さんですけど《
やっぱりか!
アニキは自慢の兄だ。
一人の人間として、ドライバーとして、尊敬して止まない人物だ。
けど、最近の兄は上穏だ。この藤原拓海と言う存在に関わってから。
「…アニキの言うこと丸々信じてんじゃねぇよ!《
確かに、しょっちゅう警察沙汰になった事は事実だし、女遊びもした。
けれど!
「オレのことばかり言うけどな、アニキだって昔は悪かったんだぞ!?《
アニキはこの目の前の藤原拓海に惚れている。
鈊いアイツを相手に悪戦苦闘。
それはよく分かってる。一番身近でアニキの苦労を見ているのはオレだから。
しかし、だからと言ってオレにまで牽制することねぇじゃないか!
「まさか!涼介さんが?!…啓介さん、嘘はいけないんですよ《
ほれ、見ろ。アイツの目にはアニキしか映ってねぇっつーの。オレの悪評吹き込もうが何しようが、アイツがオレに惚れるなんて事は有り得ない。
「嘘じゃねぇよ。ほら、見ろ。これが証拠だ《
残念ながら、アイツの目に映るアニキは尊敬する人物であって、恋心じゃないってのが悲しいところだけどな。
オレはブツブツ言いながら、持ち歩いていたアニキの昔の写真を取り出す。
この写真はテッパンなネタだ。
今のアニキしか知らないヤツラで、これを見て驚かないヤツはいない。
さぞかし藤原も驚き、アニキに対する認識が変わるだろう。
ちょっと意地悪い気持ちで藤原の前に写真を差し出した。
「………《
無言で、アイツはこの写真を受け取った。そして凝視する。
「どうだ。驚いただろ?アニキの方が昔は悪かったんだぜ~?女の方は上手いことやってたらしいけど、あちこちに恨み買っててさ。オレの方こそ、いつかアニキは刺されると思ってたぜ?
だ いたい、オレがヤンチャしてたのも、アニキに酷い目に合わされたヤツが、アニキに敵わねぇからって、オレに仕返ししようとするから喧嘩が強くなっただけだしさ。
だから、アニキがいわば諸悪の根源ってヤツかな?《
さぁ、どうだ!
自信満々に差し出した写真は確かに藤原を硬直させた。
しかし、オレは侮っていたのかも知れない。
藤原拓海。
その存在の放つ無限の可能性に。
「…啓介さん《
写真を持つ藤原の手が震えている。
ヤバい。衝撃が強すぎただろうか?
「この、写真…《
「あ?…え~と、その、それは昔であって、今のアニキは違うけど…な?《
必死に、フォローするオレ。
けれど、そんなオレの焦りはアイツが顔を上げた瞬間に間違いだったのだと気付いた。
「この写真、下さい!!《
アイツはキラキラしていた。
大きな瞳がトロンと潤み、キラキラと眩しいくらいの光を放っている。
「……は?《
「すげぇ…涼介さん、カッコいい…今もカッコいいけど、すげぇ…カッコいい…《
モシモシ?フジワラさん??
「悪の魅力って言うんですか?涼介さんって、こんな面もあるんだ…《
うっとり、写真のアニキを見つめるその瞳に宿る感情。
それはオレの見間違いでなければ、「ラブ《ではないだろうか?
頬を真っ赤に染め、うっとりとした眼差しで「はふぅ…《と悩ましい溜息を吐く藤原は確かに恋をしている。
オレは…。
オレがした事は…。
「藤原?啓介?何をしているんだ。休憩は終わりだ。そろそろ始めるぞ《
その時、タイミング良くアニキが声をかけてきた。
ああ…。そうだ。オレには見えたよ。
藤原の目が、キランと獣のように輝き、そしてアニキの姿を認めた瞬間、ハート型に変わったのを。
「ふ、藤原?《
クルンと振り返った藤原に凝視され、アニキが戸惑ったように目を見開いた。
「涼介さん…《
藤原が素早い動きで、アニキの腕をがしっと掴む。
「オレ…話があるんです…《
ウルウルの瞳で見上げられたアニキは突然の事に驚いている。
そこで、戸惑いうろたえるのは凡人だ。
けれど、さすがオレの自慢の非道のアニキ。
「…フ。いいよ。何だい?《
すぐに自分を取り戻し、あまつさえ藤原の態度から今までに無い好感触を感じ取ったのだろう。
余裕綽々に艶っぽい笑みを浮かべて藤原を見つめる。
途端に、アニキの狙い通りにアイツはポ~っとした顔になった。
「あ、あの…ここじゃ…その…《
モジモジする藤原に、アニキは余裕の態度で肩を抱く。
「そう?じゃあ、二人きりになれる場所に行こうか?個室がいいかな?それとも…林の中なんてのはどうかな?《
え~と……それはつまり、アレですか?
初っ端からアオ○ンは上味くねぇか、アニキ?
「えと、オレは…どこでも…《
「そう?じゃあ、個室に行こうか《
良かった。ちゃんとベッドのあるところに行くらしい。
二人、肩を寄せ合い消えて行く。
オレはその背中を見送りながら、何となく嫌な予感を覚えていた。
もしかしなくても…オレは…最強のカップルを生み出してしまったのではないだろうか?…と。
そしてその杞憂が当っていたことを知るのは、早くも翌日の事だった。
オレは…オレはただ、アニキの方がオレなんかよりヤンチャだったんだ!
そう、言いたかっただけなのに…。
幸せそうに、傍迷惑なほどにイチャつく二人を見ながら、オレはずっと苦い思いを抱えることになった。