片恋列伝〜愛は年齢を超える?!〜?


 涼介さんから告白された。
「藤原。お前が好きだ」
 あのカリスマと呼ばれた人からの思いもかけない告白。
 けれど俺の返事は申し訳ないけど、「すみません」だ。
 涼介さんの形の良い眉毛がピンと跳ね上がる。
「何故だ?理由を言ってくれないか?俺は自慢じゃないが、家柄も容姿も、おまけに頭脳も優秀だ。人に劣る要素はおよそ一点も無い。何が不満だ?」
 すげぇな。よく自分のことをそこまで言えるよ。
「不満って言うか、あの……」
「何だ?はっきり言ってくれ」
 …はっきり。じゃ、いいかな?
「…涼介さん、今23歳ですよね?」
「ん?年齢が問題か?そりゃ、俺はお前より5歳も年上になるわけだが…」
「いえ、そうじゃなくて…」
「なくて?」
「…若すぎるんですよねぇ。23歳なんて」
 ふぅ、と溜息とともに俺がそう言うと、カッコいいと評判の目の前の人が固まった。
「俺、イツキとかが言うにはどうもフケ専みたいで。うちの親父くらいの年齢じゃないと、ちょっと好きになれないんです」
「…老け…専?」
「髪の毛も、ちょっと白髪交じりくらいがいいんですよね…。涼介さん、真っ黒だし」
 いつも冷静沈着と噂される人が、俺の目の前で挙動不審に悶えている。
 はぁ、ふぅと深呼吸を繰り返し、そして涙目で俺を見た。
「そ、それはあれか?つまり…俺がオヤジ
ではないから…ダメだと?」
「そうです。涼介さん、まだ若いですから、俺の好みと外れるんですよ。あと、できたら俺、ハゲてる方が好きなんです。涼介さん、それ本物ですもんねぇ…」
 じゃあ、ダメだ。と俺が呟くと、涼介さんの目がギラリと光った。
 そして俺の肩をガシッと掴む。
「安心しろ」
「…はい?」
「俺はハゲる」
「……え?」
「俺の家は武家の出だ。先祖伝来の習い性か、家系的に月代型にハゲる傾向にある」
 サカヤキ型?って何だ??
 キョトンとしている俺に気づき、涼介さんが判り易く説明してくれた。
「つまり、侍が頭頂部を剃っているのがあるだろう?ずっと剃っていると、あの形に髪の毛が薄くなってくるんだ。それが遺伝子情報となって残り、子孫の俺に伝わっている。だから俺は断言できるよ。
 俺はカッパハゲになる!
 …カッパハゲ!あの頭の天辺だけハゲるあれだ。
「…すげぇ…カッコいい…」
 普通の人は、あのハゲ方をすると、姑息にもカツラとかでごまかしてしまう人が多い。けれど涼介さんは堂々とカッパハゲを晒すんだ…。
 言われてみれば、確かに頭頂部だけ薄いかも…。
「それに、これだ。見てくれ」
 そう言って、涼介さんはシャツを捲った。
 そこに見えたのは…目に眩い黄土色の腹巻。伝統的オッサンの腹巻だ。
「フッ、峠は冷えるからな。いつも常備してるんだ」
 俺の心臓がドキドキと戦慄きだす。
「ちなみに、これもちゃんと履いているよ」
 そう言って、ズボンの裾をチラリと持ち上げ見せてくれたのは…サルマタ。
 ぽおっと俺の頬が赤くなる。
 でも…ダメだ。涼介さんがいくらオヤジくさくても実年齢は23歳。まだ若いんだ。
「…まだダメか?年齢がそんなに気になる?だが…忘れてないか、藤原。俺たちは年を取るんだ。俺も、今のまま23歳で留まってはいない。すぐに五年、十年と経ち、お前の好みの立派なオヤジになる自信が、俺にはある!」
 …ガ〜ンと来た。
 そうだ。
 今はまだ若くても、すぐに涼介さんもオヤジになる。
 今でさえこんなにオヤジくさいんだ。十年後なんて、オヤジキングみたいになってるんじゃないのか?
 顔も良くて、お金持ちで頭も良くて…そしてカッパハゲで、サルマタ、腹巻愛用するオヤジ。
 俺の理想のオヤジじゃないか?
「あ、あの…」
「うん?なんだい?」
 涼介さんが微笑む。
 俺の脳内では、その涼介さんは将来のカッパハゲの姿に映る。
「す、座るときに…」
「ああ、もちろん『ゥエ〜イ、ヨッコラセ』だ」
 キュ〜ンと胸が高鳴った。
「お、オッサンくさいのは…」
「ああ。加齢臭のことか?それなら既に出ているよ。ほら…」
 と、俺の体を抱きしめ、首筋に顔を埋めさせる。
 その首本から匂ったのは…紛れもないあのオッサンの匂いだ。
「いつもはコロンでごまかしているんだけどね。密着するとどうしてもごまかしきれないよ」
 俺にとって、加齢臭は魅惑のフェロモン。
 当てられ、俺の頭がぼうっとしてくる。
「…りょ、涼介さん…」
「うん?何?」
「…好き…かも」
 フッ、と涼介さんが笑った。
「俺ほど藤原好みのオヤジになる奴はいないだろう。藤原、先行投資だ。俺に賭けてみないか?」
 先行投資…。将来を見据えて先にってやつだと涼介さんが補足する。
 そっか。そういう考えもあるんだ。
「先行投資…します」
「そうか。期待していいよ」
 俺たちは抱き合った。
 寄せた涼介さんの体から、ますます臭う加齢臭。
 瞼を閉じると、思い浮かぶのはカッパハゲ。
 それを夢見ながら、俺は涼介さんの唇を受け止めた。
 漏れる息からも、ほんの少し加齢臭が漂った。


2006.12.7
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