片恋列伝〜愛は体重を超える?!〜


 …藤原拓海から告白された。
「お、俺…その…ずっと涼介さんのこと、好きでした!」
 頬を染め、恥じらいながら叫ぶ彼の姿は、その見目のこともあり、そこらの女どもよりは遥かに愛らしい。
 だが、俺はその告白には首を横に振らざるを得ない。
「藤原…悪いが俺はお前の気持ちには答えられない」
 涙目の藤原が、けれど気丈にも俺を見つめる。
「…やっぱり…俺が男だから…」
「いや、そうじゃない。どちらかと言えば、俺の好みは男の方が合う。俺にとって性別は問題ではないんだ」
「じゃ、俺の何がいけないんですか!」
 ふう、と俺は溜息を零す。
「……体重だ」
 藤原は、俺の答えに一瞬ポカンとしたようだが、すぐに気を取り直し言い募る。
「そ、そりゃ俺最近体つきがしっかりしてきたから、体重は増えましたけど…」
 チッ、と俺は舌打ちをする。日本人ってやつは、どいつもこいつも痩せればいいと思っているのか?
 俺はその常識とされる根底から変えたい。
「違う。藤原、俺が言いたいのは……お前の体重が少なすぎるって事だ」
「…少なすぎるって…あの…」
 分かりにくかったか?では判り易く端的に説明するか。
「藤原」
「…はい」
「俺は…啓介が言うには…一般的で言うところの…デブ専と言われるものらしい」
「…で、でぶ専?!!」
「そうだ。俺は豊満な肉体にしか欲情しない。お前のような一般的青年男子の平均身長と体重では…とてもではないがそれに値しない。分かるか?」
 悔しそうに藤原が歯を食いしばる。暫く俯き、項垂れていたのだがすぐに顔を上げ、また俺を睨む。
「じゃ、じゃあ、俺が太ったら…涼介さんは俺と付き合ってくれますか?」
 フン、と俺は鼻で笑う。
 医学部のデブマニアと呼ばれた、この俺をあまり舐めないで欲しい。
「お前…太らない体質だろう?」
 言うと、ギクリと藤原の体が震える。
「その骨格、体つき…女どもから卑怯と罵られる…どれだけ食べても太らない体質だ。違うか?」
「そ、そうだけど、でも頑張れば…」
「無理だな」
「そんなの、やってみないと…!」
「100キロ以下は男じゃない。お前、100キロ、越えられるか?」
 軽く、今の体重の二倍だ。それだけの増加は、その体質では不可能に近いだろう。
 そして何より、一番問題なのはそこではない。
「それに…お前の顔だ」
「顔?」
「ああ。お前のその顔、たとえ太ったとしても愛らしい、可愛い顔のままだろう?」
 藤原の頬が染まる。いや、別に褒めたわけではないのだが…。
「俺の好みは、いわゆるブサイクだけど、どこか憎めない…そんなブサカワの100キロ超えたデブだ。今のお前のような、可愛いだけの顔じゃ俺は…萌えないんだよ」
 俺の言葉に、藤原はショックを受け崩れ落ちた。
「じゃ、じゃあ…俺がどれだけ努力しても……無駄だってことですね…」
「ああ。俺の理想はグルメ番組で「まいう〜」と言うあの男だ。なれるか?あれに?」
「…無理です。俺の目…細くないですもんね」
「ああ。あの肉に埋まった細い目、頬に溜まった肉…本当に堪らねぇよな…」
「涼介さんって…本当にマニアなんだ…」
 項垂れていた藤原の顔が上がる。
 その瞳にはキラキラと光る涙。
「俺…辛いけど…諦めます。でも…涼介さんのこと、好きでいるのだけは許してもらえますか?」
 涙目で、けれど気丈に俺を見つめ微笑む藤原。
 なぜか、デブにしか反応しないはずの俺の心の琴線に触れる。
「…あの…ダメですか?」
 動揺し、返事をすることも忘れた俺に、藤原が不安そうにもう一度問いかける。
 …おかしい。
 目の前にいるのは、痩せっぽちの可愛い顔をした男なのに、なぜか100キロ超えの愛らしいブサカワ君を目の前にしたときのような気分でいる。
 全然好みのはずではないのに…何故だ?!
「…すみません、もう言いません。ごめんなさい…」
 泣きながら、踵を返そうとする藤原の腕を衝動的に掴む。
 振り返った涙で濡れたその瞳に射抜かれ、俺の心は激しく震える。
 …間違いない。
 これは…恋だ!
 好みのタイプではないのに…いや、タイプではないからこそ、これは真実の恋と言えるのかも知れない。
「…待て」
「あ、の…」
「今わかった。俺の最上の好みは…健気な奴だ」
「健気…?じゃ、あの…俺も…なれますか?」
「ああ。なっている」
「デブじゃないし、ブサカワでもないけど…」
「ああ。だが…どうやら俺はお前が好きらしい」
 ポロリと、藤原の瞳から大粒の涙が零れる。
「涼介さぁん!」
 泣きながら俺の胸に飛び込んでくる。その体には余分な肉もなく、すっきりとした抱き心地だ。けれど何故か気持ちよかった。
 肉のない締まった頬に頬を寄せ、囁く。
「…これからも、好みのデブがいたらつい目が行ってしまうかも知れないが…お前が好きだ」
「お、俺、俺…頑張って涼介さんのために太ります!他の奴なんかに、目がいかないように」
「フッ、可愛いことを言う…」
 藤原の太った姿は愛らしいものだろう。
 だが、今の痩せっぽちな姿も、健気感を煽ってとても愛らしいものだ。
「俺は藤原だったら、どっちでも良いらしい。だから…あまり無理をしなくて良いよ」
 藤原が俺の言葉に微笑み、そして頷いた。
「はい」
 その笑顔の眩しさに、俺は衝動的にキスをした。
 藤原の肉体には余計な肉もなく、あの夢のような「ふかぁ」とした感触がない。
 けれど、その唇だけは俺の好み通りの、プニプニした極上の唇だった。
 なるほど。好みのタイプではないと思ったが、十分好みの箇所はあるのだな。
 俺は微笑み、そして藤原のたまらない感触の唇を摘んだ。
「好きだよ」
 そう言うと、俺の気に入りの唇は、キュウっと横に伸び、半月型の円を描いた。



2006.12.7
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