こねた

Mask of Yoroshiku!!



 高橋涼介の趣味は変わっていると、信頼できる情報筋である彼の親友である史裕と、一番身近な弟である啓介から聞いてはいた。
 実際に、拓海のような普通の男を恋人にした時点で分かってはいたが、その認識が甘かった事を、拓海は今実感していた。
 いつものドライブなどでは基本、FCでは無音だ。
 独特のロータリーの排気音に消され、オーディオ関係は聞こえなかったりするのもあるが、だから拓海は涼介がそんなに音楽を聴かないタイプなのだと思っていた。
 けれど、それは間違いだったのだ。
「…涼介さん…この歌何ですか?」
 それは涼介のパソコンを弄っていて見つけたものだった。
 不思議なタイトルのファイル。
 それ開いた瞬間流れ出した音楽に拓海の動きは止まった。
 いきなり、だ。
 特撮系のOPテーマ曲らしくイントロが流れ出したと思ったら、突然。

『ハンケツまでOK!ケツ!ケツ!!ケツ!!!』

「ああ、いいだろう、その曲。ヨロシク仮面のテーマと言うんだ」
「ヨロ…シク…」
「俺も良くは知らないが、少年誌で連載していた漫画に出てくる正義の味方のテーマ曲らしいな」
「は、ハァ…」
「この曲を聴いた時は感銘を受けたよ。ブリーフの舞を踊ることで、空気中のブリフィッシュエネルギーを吸収してよりエレガントな男になるんだぜ?」
「ブリフィッシュエネルギー…ですか」
「ここもいいんだ」

『モリモリ、ウォウォウォウォ』

「そして決めセリフだな」

『親御さんにヨロシク』

 その瞬間にピンと来た。
「涼介さん、もしかしていつも別れ際に俺に、『親御さんにヨロシク』って言っているのは…」
 拓海の問いに、涼介が照れ笑いを浮かべた。
 非常に眩しいくらいの爽やかさで。
「ああ。子供っぽいかな。ヨロシク仮面の真似をしたかったんだ」
 子供っぽい…と言うより…。
「さすがに、あのビジュアルの真似は出来ないからね」
 …マニアっぽい。
「涼介さんって…」
「何だ?」
「変わってるって、言われませんか?」
「いや、無いな。ただ、周囲の人間と時間軸にズレを感じる時はある」
「時間って言うより…次元?」
「ああ。上手いことを言うな、藤原」
 チラリと見た画像で、拓海はヨロシク仮面がどんな姿をしているのかを知った。
 それは正にブリーフ姿の変態。
「…涼介さん」
「何?」
「…そのままでいいから…お願いだから…それ以上行かないで下さい…」
「ハハハ、藤原は面白いことを言うな。俺がどこに行くんだ?」
 遠いとこだよ。
「ああ、ヨロシク仮面の最大の特徴であるこれは俺も出来るからな、真似しているんだ」
 おもむろにベルトを外し、ズボンを脱ぐ。
 現れたのは白いブリーフ。
 ゴム部分に「京介」と、涼介でも、啓介でも無い人物の名前が油性マジックで書かれている。
 ニコリと微笑み、涼介は言った。

「親父のブリーフ」



ブログより再録

ヨっくん気さく〜!
…って果たして、ヨロシク仮面の認知度は如何なものか。
説明しよう。ヨロシク仮面とは、うすた京介氏の「すごいよマサルさん」に登場してきた、主人公である花中島マサル氏が尊敬するヒーローの名である。
親父のブリーフ一枚の変態的な姿で悪を懲らしめる、何ともショッパいヒーローだ。
彼への掛け言葉は「よっくん気さく〜!」だ。
そして口癖は「ダッツーノ!」である。
…って、確か、こんなんだったハズ。