妄想SS ※変態注意報!!!
それは何気ない会話だった。
少なくとも拓海はそう記憶している…。
「猫の時の涼介さんって、すごい可愛かったですよね?もう猫にはなれないんですか?」
涼介に貰った猫のぬいぐるみを抱きしめながら、そう言うと涼介は困った顔になった。
「…あれは俺にも想定外だった事だったから。期待に添えなくて申し訳ないが、たぶんもう無理じゃないかな」
「そうですか。俺、猫の涼介さん、好きだったな〜」
そう笑うと、彼がショックを受けたような表情になったのを覚えている。
そして、
「…分かった。何とかする」
と言いはしたが、まさかこんな形で返ってくるとは、拓海には夢にも思っていなかった。
拓海としては、あの猫だった姿が可愛かったので、懐かしむ意味で言っただけだった。だから本当に涼介に猫になって欲しかったわけではない。いや、あの時の猫に似た姿の猫がいたならば、それだけで拓海は満足だったのだ。ちょっと触らせてもらって、「かわいいですね」なんて言えたらそれだけで良かったのだ。
だが、何事にも完璧を目指す男は、こんな恋人の戯言にも完璧を望むらしい。
彼に呼び出され、訪れた部屋で、拓海は思わぬものを見た。
一瞬、これは夢かと思い、目を擦ったが、その物体は「クスッ」なんて笑って、優雅に足を組んでいた。
「ほら。見てご覧?拓海の望んだ通りの姿だよ?」
そこには、白い猫の着包みを着た、かつて峠のカリスマと呼ばれた人物の姿だった。
黒髪の頭には白いフワフワの耳。服も同様の素材のフワフワのファー生地の服を着て、お尻からは立派なフサフサの尻尾が優雅にクルンと弧を描き、床にぶら下がっている。
「さあ。思う存分スリスリしてやってくれ」
両手を広げて拓海を誘う、猫になってしまった恋人の処遇をどうすべきか、真剣に拓海は悩んだ。
その1。…殴る?
その2。…怒る?
その3。…喜ぶ?
その4。…無視する?
個人的な希望としては、1か4を選びたいところだったが、だが結局、拓海は恋人への愛情に負けた。
どんなにキテレツな格好をしていようとも、目の前の人物は拓海の大好きな人で、あげく彼のあんなイカれた格好は、拓海を喜ばすためのものなのだ。
だから拓海は、おずおずと近寄り、そのフワフワの耳のある頭を撫でた。
完璧な恋人は完璧な猫を演出する。「ゴロゴロゴロ…」と猫のように咽喉を鳴らした。
そして間近で見ると、思ったよりもそのコスプレの完成度は高いらしい。フワフワそうだった毛皮は、手触りも本物のようで、拓海の手に馴染み、心地好い感触を与えた。
「…気持ち好い……」
「ああ。ご主人様に触られて、俺もとても気持ち好い」
涼介が甘えるように頬を摺り寄せてくる。何となく、フワフワの毛皮の生き物に摺り寄せられると、動物好きの本能が刺激されてくる。
…何か、ライオンとかトラとか、大型の猫科の生き物みてぇ…。
錯覚とは恐ろしい。
拓海は次第にそう思うようになり、涼介の顎をくすぐった。
「ここ、気持ち好い?」
「…最高だ、ご主人様」
ペロリと涼介がグルーミングのお返しとばかりに、拓海の頬を舐める。
「こら、涼介!」
…何度も言うようだが、錯覚とはげに恐ろしいものである。
すでに拓海の脳内では、これは人間ではなく大型の猫科の生き物だ。
ペロペロと涼介の舌が首筋を這い、あげくシャツの上から舌を這わせているのにも、通常なら恥ずかしがり嫌がるシチュエーションであるのに、今日は笑いながら逆に涼介の頭を撫でてさえいる。
「ダメだって。イタズラしちゃ」
だがこの猫は、猫は猫でも大型猫科の動物。そしてそれらの生き物は概ね、「肉食」である。
「…お腹すいた、ご主人様」
「え?…じゃ、今からご飯を…」
「これがいい」
「えっ?!」
そして野生の本能を露出させた大型猫科の肉食獣に、拓海は襲われ抵抗の甲斐も無く食べられた。
こっそり、そんな二人の様子を垣間見ていた猛烈な犬猫オタクな弟は、あやしい展開になってきた兄の部屋の扉をパタリと閉め、こう呟いた。
「………プレイじゃん…」
…と。
そして今後も、彼は何度か兄のその「猫スーツ」(啓介命名)を見かける度に啓介は思った。
「…アニキたち、刺激が欲しいんだな…」
いつか拓海の「猫スーツ」を見かける日が近いのではないだろうか?
そう思った啓介の予想は、それから間を置かない某日に実現した。
2006.3.5