オレの好きな人はとっても格好いい。
そして、ちゃんと俺だけを好きでいてくれる誠実な人だ。
暖かな布団の中からそろそろと伸ばされた手がスルスルと障子に細い隙間を作る。
途端。
明るい光が拓海の顔を掠めた。
「眩し・・・」
既に太陽は昇りきっているらしいが、今日はそんな事は無視とばかりに拓海は布団に再び潜り込んだ。
今日は仕事も配達も休みだ。
ここは自宅でも涼介のマンションでも無い。
ご飯の支度だってしなくていいし、寝坊し放題だ。
露天風呂が付いている超豪華な温泉宿なのだ。
拓海はにんまりと笑ってもう一度大好きな眠りの世界に入るべく目を瞑った。
もぞもぞ・・・
隣の温かい気配には気付かれない様に寝返りを打つ。
もぞもぞもぞもぞ・・・
秋ももう終わりだな・・・
そんな惚けた事を考えながら、拓海は同じすぐ近くにある恋人の表情を眺めた。
ほんの少し。
何だか悔しくなった。
同じ人間だとは思えないその美麗さ。
決して自分は顔に惚れた訳じゃないと思っているけど・・・
あれ、俺って。
涼介さんのどこが一番好きなんかな・・・
単純に思いついた疑問・・・と言うよりは。
明らかな愚問であることに拓海は気付かない。
じ、と涼介の表情を見つめる。
この綺麗な顔かな。
涼しい顔してるけど・・・暑くないのかな。
この部屋、ちょっと暑いよな・・・暖房効きすぎだよ。
そう言えば涼介さんて夏でもあんまり汗かいてなかったような気がする。
今年の夏はすさまじき暑さだった。
俺と啓介さんが旅館に泊まったこともあったっけかな・・・あの時だって、次の日他の皆がダルそうにしていたのに、涼介さんは平気そうだった。いつもと同じ表情で。
・・・
あんまり好きじゃないかな。
だって、皆見てるし、俺だけのものじゃないもんな。
えっと・・・
緩く閉じられている瞼をじっと見つめる。
その瞼がゆっくりと開かれたら・・・
そうか、目か!
いつもドキドキするんだよな・・・って。
・・・あの目は反則っぽいけど。
他の人に向けられるものとは違う事はいくら鈍感な拓海でも分かるのだ。
啓介さんはいつも怖いって言ってるけど、絶対そんな事無いよ。
優しい視線。安心していいんだと伝わってくるあの柔らかな視線。
多分、それは自分だけのものなのだ。
そうだ、きっと俺はこの目に惚れているんだ。
うん、そうだよな・・・あ、でも・・・
このスッキリした頬の感じもいいよな・・・
直線に近い頬のライン。思わず手を伸ばしかけて慌ててじっとする。
格好いいよなー。
でも、もう少し肉付けたほうがいいよ、少し痩せすぎ。
疲れてるからかな、ゆっくり休んで貰わないとな。
大学も忙しそうだしDもあるし。
色んな事いっぱい抱えて、それでも俺の事はちゃんと一番に考えてくれてるんだ。
きっとどんなことでも一瞬で脳から伝達されるんだろうな。
頭いいしな、涼介さん。
・・・そうか、頭いいから・・・?
・・・違うだろ。
俺は涼介さんが頭悪くたって好きだと思うぞ?
うん、そうだよ。
ふと自分の首の下に敷かれた腕に目をやる。
あちゃー、また腕枕してもらっちゃてるよ俺。
腕痛くなるからいいですって言ってるのにな・・・いつも朝起きたらこうなってるんだよな。
ツイッと、腕の先にある男にしては少々繊細な指先が目に入った。
指も、ちょっと捨てがたいかな・・・
綺麗な指だし・・・
俺、涼介さんがパソコンのキーボードをカタカタと規則正しく叩いているその音が大好きだ。
こっそり録音して携帯の着メロにしたいくらいなんだ。
俺には到底出来ないし、尊敬しちゃうよな。
あの指で・・・
・・・
何考えてんだよ俺。
一瞬で頬が赤く染まったのが自分でも分かった。
昨日の夜・・・正確にはついさっきまでだけど、目の前にいる涼介との情事がぐるぐると頭の中を駆け巡った。
なんだか意味は分からないけど、婚約したお祝いだって言ってたっけ。
スゲー嬉しそうな顔だったけど・・・でも。
俺達いつ婚約したっけ?
とにかく・・・昨日はなんか凄かった。
この指でさんざ弄ばれて、自分がどんな醜態を晒した事か・・・
ギュッと目を瞑って拓海は涼介の指から目を逸らした。
いやいやいやいや、違う違う、指は違う。
着メロはやめよう。
変な事考えそうだし。
えーっと・・・
あ、そうだ。口だ。
いろんな言葉を紡ぎだす口。
どんなくだらない質問にも答えてくれる口。
たまには恥ずかしい事も言っちゃうこともあるけど。
それでも俺にとびっきりの言葉をくれるこの薄い唇。
冷たそうに見えるけど、本当はとても熱い事を俺は知ってる。
触れられた部分は全部その熱で溶けそうになって・・・
って!
はぁー・・・
俺って駄目駄目じゃん。
分かってた事だけどさ。
別にあら探しをしてたわけじゃない。
どこが一番好きなんだろうって考えてただけなのに。
嫌いな所なんて無い事に、今更気付くなんて。
全部。
全部好きなんだ。
全部、全部、全部一番。
「・・・好きなんだよなー・・・今更気付いてどうすんだよ、俺。」
もう一回寝よ・・・考えても無駄だった事に気付いた拓海が瞼を閉じたその瞬間。
「何に?」
少し掠れたテノールの声に拓海が目を見開いた。
「え、起きてるんですか?涼介さん・・・い、いつ、から?」
「さっき眩しかったから。そこで」
「・・・」
「人の顔じろじろ見て失礼だな、拓海」
そう言いながらも、上半身を起こして拓海に覆い被さる涼介。
「おはよう」
ニッコリと、何の邪気も無い綺麗な笑顔でそう囁かれたら。
降参だよ。
「おはようございます」
取り敢えず笑っとこう・・・
そう思った瞬間に熱を持った唇が額に降ってきた。
「で、何に気付いたんだ?」
真面目な顔・・・他人が見たらだけど。
でも、俺は騙されないぞ、この表情は・・・
「からかってるんですか?・・・聞いてたんでしょ?」
「声が小さくて、最初のほうが聞こえなかった・・・教えて?」
極悪非道な笑顔。
悔しいけど、こういう所も実は好きだったりする俺って一体・・・
くっそー!
「涼介さんの全部が大好きだって言ったんです」
ほんの少し身体を起こして耳元で囁いてやったら。
瞬間。
まじすか?
俺、面白いもの見た。吃驚した。
へへへっ
また一つ大好きな所発見した。
珍しいから目が離せない。
くすくす笑う俺の視線の先には。
頬を赤く染めて、固まっている涼介さんがいた。
オレの好きな人はいつも俺を翻弄して惑わせる。
でも、とっても可愛い人だ。
2008.5.22